外資系企業のプロジェクトに参加したことが、テストエンジニアとしての原点
佐々木は、品質保証部の技術フェローとしてベリサーブの技術力向上や人材育成などに取り組んでいます。そのキャリアは、1985年に新卒で入社した株式会社CSK(現SCSK株式会社)で始まりました。
「私はもともとコンピュータグラフィックスやゲームが好きだったのです。ちょうど、株式会社CSKがゲーム会社をグループ化したタイミングだったこともあり、そういった分野にも関われるのではないかと考えて入社しました」
配属されたのは、外資系テクノロジー企業のプロジェクト。テスト専門チームの一員として参加した経験が、佐々木のテストエンジニアとしての原点です。
「その頃は、ソフトウェア自体がまだ世の中に浸透しておらず、開発者が自分で作ったものを自分でテストすることが一般的だったのです。でも、その時代にあって、この企業ではすでにテストのプロセスやルールが確立されていました。『テストを完了させなければリリース(出荷)はできない』という考え方が徹底されていたのです。
当たり前のようにその文化でノウハウを身に付けたことが、今の土台になっています」
当時は、「テストでプロダクトを覚えた後に開発に異動する」というキャリアパスが王道だったと話す佐々木。その中で、ソフトウェアテストを軸にキャリアを歩むことになった背景には、大きく二つの転機があったと振り返ります。
「入社して5年ほど経った頃、ずっと携わっていた外資系企業からの仕事が激減する事態になりました。その時、テストチームは40名ほどいたのですが、皆テストしかできません。これでは食べていけないと、日本の大手企業に営業に回りましたが、全然仕事がもらえない。『製品のことを知らないのに、テストなんてできないだろう』という考えが主流だったのです。
でも、『どのようにテストしているのか教えてください』と聞いてみても、テストの証跡であるエビデンスがない。テストの考え方自体が浸透していませんでしたし、基準もありませんでした」
もう一つは、複数の外資系パッケージベンターが日本で製品を展開するに当たり、ソフトウェアテストを担当する人材を募集し始めたことだったと言います。
「『テストエンジニア』という職種で募集したものの、日本ではまだ認知されておらず、ほとんど応募がなかったそうです。そこで、私たちが仕事を請け負うことになりました。
会社としても、ソフトウェアテストの需要が高まるこの機にテストを専門にする事業部門を設立。後に、この事業部門が独立してベリサーブとなるのです」
テストの標準化やエンジニアのキャリア形成の基礎を作りながら、技術の普及にも尽力
ベリサーブが設立される少し前、1990年代後半からソフトウェアのニーズはさらに高まっていきます。
「家電製品にソフトウェアが組み込まれ、携帯電話やカーナビが普及し始めたことでソフトウェアの需要が爆発的に高まったのです。それに合わせて、ソフトウェアテストの市場も拡大していきました」
一方で、ソフトウェアテストのノウハウが体系化された教科書のようなものはまだなく、テストエンジニアという職種も認知されていない状況。そこで佐々木は、ソフトウェアテストの標準化やテストエンジニアのキャリア形成に向けた取り組みも行ってきました。
「まずは、1994年から品質管理の権威である大学の先生方と共に研究会を立ち上げました。さらに、2006年からはIPA(独立行政法人情報処理推進機構)のワーキンググループに参加。組込みソフトウェア開発に必要なスキルを体系的に整理した指標であるETSSの策定に携わりました。
当時、ETSSに先行して作られたITスキル標準には『QAスペシャリスト』や『テストエンジニア』の分野はありませんでしたが、ETSSではその言葉を定めてキャリア標準を作っていったのです」
2001年にベリサーブが設立されると、現在の課長に当たるマネージャーに。まだ人数も少なかったため、技術的なマネジメントからメディア活動まで幅広く担当。その後、テスト技術の開発・推進部門の責任者を務めた他、マーケティング部門の立ち上げなども担当してきました。
技術的な基礎を作り上げるだけではなく、プロモーションにも力を入れてきた背景には、佐々木のポリシーがあります。
「どんなに素晴らしい技術であっても、普及しなければ意味がありません。つまり、私たちがどんな技術を持っているのかを世の中に示していかなければいけない。
私には、『テストはブラックボックスにしてはいけない』というポリシーがあります。テストの方法を全て公開し、技術的な裏付けをした上で結果を説明する責任があるからです。
だから、どんどん情報を出しながら標準化していこうと考え、技術力向上とプロモーションの両方を進めてきました」
テストがビジネスのブレーキになってはいけない。品質を武器に、プラスの価値を生み出す
テストはブラックボックスにしてはいけない──そのポリシーが生まれた理由の一つに、「人を育てて業界を発展させていく」という想いがあります。
「もちろん、技術を開示して人材育成をしないことには仕事が成り立たないという現実もありました。しかし、企業の成長には競争原理が不可欠です。ソフトウェアテストが普及する段階において、一企業が独占してしまうと、私たちの仕事も広がりません。他の企業と切磋琢磨しながら、テストエンジニアの人口も増やしていかなければいけないのです」
日本におけるソフトウェアテスト技術者資格認定を運営するJSTQB(Japan Software Testing Qualifications Board)が立ち上がった当初から技術委員長を務めてきた他、さまざまな業界団体の要職に就くなど、ソフトウェアテスト業界の発展に尽力してきた佐々木。その目から見たベリサーブの強みを、こう語ります。
「“染まらないこと”だと思います。社員が、自分たちがやるべきことを自由に進められる風土があるのです。例えば、AIを活用したテスト手法など、新しい分野への挑戦も会社としてサポートします。品質の重要性を掲げて独自の方向性を打ち出せることが強みです」
その強みをさらに生かすため、そして業界のさらなる発展のため、ソフトウェアテストの本質的な価値を高めていきたいと話します。
「ソフトウェアテストは成果物としてモノが残りませんから、サービスとして提供すると共にお客様の満足度を上げることがとても重要です。お客様から依頼されたことだけに対応するのではなく、より高い技術で付加価値を提供し、お客様の利益につなげることが必要なのです。
ソフトウェアテストというと、欠陥をなくして『マイナスをゼロにすること』と思われがちですが、そうではありません。ゼロになった状態から、さらに『ユーザーにとっての使いやすさなどのメリット』を追求して、価値を向上させていくものです」
そのために大切なことは、品質のさまざまな側面を知ることだと言います。
「モバイルゲームの場合、バグが起こることよりも、ユーザーと共に育て上げてきた要素を覆すような仕様変更の方がビジネスとしてのデメリットは大きい。一方で、インフラなど安全性という信頼が求められる業界では、いつでも安心して利用できる品質が求められます。そういったビジネスモデルの違いを理解した上で品質を考えることが大切です。
つまり、ソフトウェアテストがビジネスのブレーキになってはいけないのです。品質を武器に、プラスの価値を生み出すアクセルとなることが必要です」
高い技術力を生かすプロジェクトマネジメント能力で、ベリサーブが変革を先導する
ソフトウェアテストがビジネスを加速させるアクセルになるため、佐々木はこれからテストエンジニアに求められる力も変わっていくと話します。
「技術力だけではなく、プロジェクトマネジメント能力を磨くことが重要です。これは、お客様からの信頼獲得や自社の収益力向上に直結するスキルです。
私は、日本のテストエンジニアの技術力は、海外と比べても引けを取らないと思っています。けれども、それを生かすための能力が足りていないと感じるのです。レイヤーの高いエンジニアであっても、マネジメントができなければ報酬は頭打ちです。
でも、ビジネス視点も含めたプロジェクトマネジメントができれば、コンサルタントのように上限のない報酬も可能かもしれません。そのために、ベリサーブではプロジェクトマネジメント研修も実施しています」
プロジェクトを動かす力は、AIなどによってテスト技術が進歩していく時代にこそ必要だと佐々木は続けます。
「技術は進歩していきますが、その技術を使うためのリテラシーは変わりません。テストエンジニアとしてのリテラシーをベースに、AIなどの技術で道具を磨きながら、ビジネス視点を持ったマネジメントをする。グローバルに戦っていくためには、その力が必要です。
例えば、テストの対価として報酬を頂くのではなく、お客様と共にビジネスを作り、その利益から報酬を頂くというビジネスモデルがあってもいいかもしれません。高いリテラシーを持って技術を体系化する力のあるベリサーブが、マーケットリーダーとして変革を先導していかなければいけないのです」
技術フェローとして、社内外で人を育てて業界を発展させることに取り組んできた佐々木。ベリサーブのエンジニア、そしてこれからソフトウェアテストに挑戦するエンジニアたちに、こんなメッセージを送ります。
「絶対に必要なことは、ビジョンを持つこと。大きなビジョンでなくてもいいのです。まずは、『なぜこの仕事を選んだのか』をしっかりと見つめ直して、『自分はどう変わりたいのか』『何がしたいのか』というビジョンを描く。それに向かって具体的な目標を設定して行動することが大切です。
新しい会社に入ることは、すでに変化に向けた第一歩です。そこからどう変わっていくかは自分次第。10年後も同じ自分のままというのは、寂しいじゃないですか。意志を持って変わることで、意味のある変化になるはずです」
※ 記載内容は2025年8月時点のものです

