物流の効率化をめざして──現場の声を取り入れながら自動化に挑む
テクノロジーの進化と共に大きな変革期を迎えている物流業界。鈴与のグループ会社として設立された鈴与総合研究所の物流研究所に所属する鷲見は、最先端の技術を駆使して課題解決に挑んでいる。
「私たち物流研究所の主なミッションは、物流企業である鈴与に先進技術を取り入れることです。さまざまな技術に対してアンテナを張り、検証して、現場の生産性向上に活かしています。実質的には鈴与株式会社の一部署と言えるような立ち位置にあり、現在は8名で構成されています。厳密なチーム分けはされておらず、研究テーマごとに柔軟に対応しています。
たとえば倉庫のピッキング業務を助けてくれるAMR(自律走行運送ロボット)を、他社と協業し、実際に導入しています」
鷲見自身は現在、トラックやトレーラーなどの配車業務の自動化に取り組んでいる。
「当社では独自の配送スタイルを採用しています。従来は営業所ごとに人が経験にもとづいて配車を組んでいたのですが、高い業務負荷の軽減と今後の規模拡大に備え、これをコンピュータで計算して自動化することを考えています。
研究を他社に委託する選択肢もありましたが、自分たちで開発した方が融通も利きますし、迅速に仕様変更ができるなどの理由から自社での研究開発を選択しました。私が入社してから本格的に研究開発が始まり、試行錯誤を重ねながら形になってきました」
配車自動化システムには、主に数理最適化技術を活用していると語る。
「技術ありきではなく、現実の課題解決に重点を置いています。貨物の積み合わせの制約やドライバーの労務管理上の制約など、考慮すべき制約条件は多岐にわたります。それらの条件を満たす解のうち、より効率的な配車になる解を安定して出力する計算方法を考えることが、現在の主なテーマです。
どういう条件を考慮すると嬉しいかなど、現場のニーズを聞きながら改良を続けているところです」
「数学一筋」から物流の現場へ──企業理念に惹かれて入社を決意
学生時代は数学の世界に没頭していた鷲見。
「数学の研究者になるべく、博士課程に進みました。主な研究分野はトロピカル幾何学です。中学3年生くらいから数学の研究者になる夢を持っていましたが、博士号取得後、あらためて自分のめざす経済的自立について考えるようになりました」
考える中で、社会人生活を経験してみたいという想いが生まれたと言う。
「ほぼ数学一辺倒だった私は30歳手前にして社会人経験はほぼゼロだったため、良質な社会勉強が見込める会社で社会人としての素地を固めたいと考えました。そのため就職活動の際には、企業理念を積極的に肯定できるか、良質な社会勉強ができそうか、自身の可能性を自然に広げられそうか、という点を重視しました。
数学が得意であるという部分を活かしつつ、より広い視野で社会と関わりたいと思っていたところ、鈴与の求人を見つけました。数学が活かせそうな業務だったことはもちろん、シンプルに仕事内容に好奇心がくすぐられました」
入社を決めた理由は主に3つあった。
「鈴与に惹かれた点の1つめは企業理念です。『共生(ともいき)』の精神を掲げているところに共感しました。自立した者同士が助け合うことで成長につながる、という考え方で、自分自身の人生観とマッチしていたので好印象を持ちました。
2つめは、物流を通して社会を知ることができると考えたからです。物流業界は実際の生活と距離が近い仕事ですし、世の中がよりリアルにわかるのではないか、という想いがありました。当時は、社会人として働く上でどのように社会貢献していきたいかということがまったく固まっていませんでした。鈴与であれば、今後それが見つかった時に備え、日々の業務を通して布石を打っておけるのではないかと考えました。
3つめは、物流研究所が社長直轄の部署であり、定期的に社長と直接対話できる機会があることです。140社ほどのグループ会社を持つ大きな会社の社長に直接報告ができてフィードバックをもらえる場があるということが、非常に刺激的で魅力を感じました。
企業理念や経営方針への共感はやりがいやモチベーションに大きく影響しそうだと考えていたため、これらの3点をふまえ、鈴与への入社を決断しました」
「共生」の精神で現場を支援。小さな一歩から始める働きやすい未来
プロジェクトを進める上で、鷲見は問題に対して「集中すること」と「距離を置くこと」のバランスを常に意識していると言う。
「集中している時に生まれるものもありますが、距離を置いている時に生まれてくるアイデアもあります。普段からアイデアに関連しそうなものに接する一方、展示会などでまったく関係のない先進技術に触れる機会を持つことで、できるだけ幅広い知識を入れるように努めています」
また、プロジェクトのアプローチ方法にも工夫をしている。
「当社は多数の車両を保有し、日本全国に配車をしていますが、最初から複雑な条件の問題に取り組むのは難しいです。まずは問題を単純化して考え、徐々に複雑な条件を取り込んでいき、実用化に近付けるというアプローチをしています」
鷲見には仕事をする上で大切にしていることがある。
「会社と自分の双方にとってプラスになる仕事をすることです。とくに今の仕事は現場の方々の業務負荷の軽減に関わることですので、その方々の働き方が少しでも楽になり、暮らしが豊かになるような改善ができればと思っています。
さきほどの『共生』の精神にもつながりますが、このように考えるようになったのは、社会にうまくなじめないという人が身近に多くいて、私自身もそういう部分に悩みながら生きてきた部分もあるからです。今はこうして働けていますが、それも『運が良かった』という感覚があります。自分が得た運を周囲に共有する義務がある、と言うと大げさですが、できるだけ貢献していきたいという想いがあります」
そんな鷲見がやりがいやおもしろさを感じるのは、次のような場面だと語る。
「まず、作りたいものが徐々に形になっていく過程です。次に自分たちの作ったものに良い評価が得られた時です。そして、難しそうな課題が与えられた時にも、ワクワクした気持ちになります。
最近も、数理最適化の技術を他の部門でも活用できないか模索する中で、人事部門から相談がありました。社内研修にて1日に複数回のグループワークを行うにあたり、そのグループ分けを自動化したいという要望でした。メンバーの重複を最小限に抑えることはもちろん、事業部や年次の被りを避けるなどの複数の条件があり、それらを満たすグループ分けを自動で行うという課題に取り組みました。自分で作成したソリューションが『これは使える』と言ってもらえてうれしかったですね」
充実した教育体制を活用して活躍──鈴与で得られるやりがいと社会貢献
鷲見の持つ数学の知識は、現在の仕事にさまざまな形で活かされている。しかし、特別に高度な専門知識が必須というわけではないと言う。
「物流研究所で働く上では、高校数学を一通り学び、理系学部に進学する程度の能力があれば問題ありません。専門が数学ではなく他の領域でも、問題に対して粘り強く取り組み、解決することが好きなタイプであれば大丈夫です」
入社後、鷲見はプログラミングスキルを伸ばし、今では実用的なレベルにまで向上した。
「プログラミングスキルはまだまだではありますが、入社後に多くのことを学び、さまざまな実用的なものを作れるようになりました。企業経営の土台部分がしっかりしていますし、教育体制が充実しているので、やる気さえあればそれらを活用してスキルアップできる環境です。今後も自分の好奇心を大切にして、より広範囲の知識習得に努めたいです」
鈴与で働く魅力について、鷲見は以下の点を挙げる。
「まず、社内の雰囲気がいいので、気持ちよく業務に取り組めます。次に、物流業は製造業と比べてまだまだDX化が進んでいない分野のため、改善の余地が多くあることです。自発的に課題を見つけて取り組むことを、社長も歓迎してくれます。
また、物流の現場との距離感が非常に近いため、現場の声を直接聞きながら開発を進められる環境です。改善後のフィードバックや感謝の声を直接受け取れることも、やりがいを感じる要因になっています。
最後に、現場の視点を持ちながら、10年、20年先を見据えた企業の在り方を考えている社長の長期的な視点を自分の中に取り入れられることも大きな魅力です」
今後、鷲見は社会人としての自立をめざしていると語る。
「会社に依存するのではなく、どんな環境でも通用する社会人としてのスキルを身につけたいです。その上で、獲得した技術を現場に還元し、社会貢献できればと思っています」
数学の知識と実務を融合させ、物流業界に新たな価値を生み出そうと取り組む鷲見。そのための経験を重ねるべく、今日も真摯に現場と向き合っている。
※ 出典
『ロジスティクスの数理』(久保 幹雄 著、共立出版)
『組合せ最適化』(柳浦 睦憲・茨木 俊秀 著、朝倉書店)
『しっかり学ぶ数理最適化』(梅谷俊治 著、講談社サイエンティフィック)
『あたらしい数理最適化』(久保 幹雄・J. P. ペドロソ・村松 正和・A. レイス 著、近代科学社)
※ 記載内容は2024年10月時点のものです
