主権を持ってプロダクトを育て切る。三井住友カードが「手の内化」を掲げる理由
キャッシュレス決済の急速な普及とデジタル技術の進化に伴い、金融サービスに求められる開発スピードと柔軟性はかつてない高まりを見せています。こうした背景のもと、三井住友カードのデジタルイノベーションオフィス(DIO)内に2026年4月に新設されたのが、「ソフトウェアディベロップメントオフィス(SDO)」です。同組織でプロダクトエンジニアリンググループ(PDE)に所属するH.HINOMORIとR.MORIYAMAに、SDOの成り立ちとそれぞれの役割について伺いました。
HINOMORI:SDOを一言で表すと、三井住友カードにおける内製化、当社では『手の内化』と呼んでいる取り組みを推進するための組織です。
従来は外部のパートナー企業さまに開発を頼る部分が大きかったのですが、AIの台頭などにより開発スピードの要求が大きく変化しました。そのため、自社で技術やプロセスをコントロールし、最速で価値を届ける体制を作る必要が生じ、SDOが発足しました。
MORIYAMA:SDOには4つのグループがあり、プロダクトの戦略策定・実行、運営管理を行うプロダクトマネジメントグループ、『手の内化』 を牽引し、AI駆動開発を担うエンジニア組織であるプロダクトエンジニアリンググループ(PDE)、データ活用やAI技術を推進するAI&データインテリジェンスグループ、そして開発環境を支えるプラットフォームエンジニアリンググループで構成されています。
それぞれのグループが一体となって『手の内化』を支えています。
PDEにおいて、HINOMORIはモバイルチームのDev LeadとしてiOS/Androidアプリ開発の基盤構築とチーム統括を担い、MORIYAMAは加盟店向けプロダクトのスクラムマスターとして開発チームのファシリテーションや組織課題の解決を推進しています。
ここで注目すべきは、彼らが掲げる「手の内化」 の定義です。
MORIYAMA:『手の内化』の本質は、私たちが『主権』を持つことです。何が自社のコアで何が外部化可能かを自ら判断し、制御・改善し続ける状態を指します。
HINOMORI:そのため、全員を自社社員で固める狭義の内製化とは異なります。私たちが定めた標準フローやセキュリティ基準の中で自走してもらう仕組みを作り、社員かパートナー企業さまかに関わらず、一つのチームとして成果に向かえる環境を作ることこそが『手の内化』の成功だと考えています。
MORIYAMA:たとえば、私の所属するチームには20代から50代まで幅広い年代のプロフェッショナルが集まっています。
ベテランも若手もフラットに意見を出し合えるバランスのよさがあり、日々高い熱量でプロダクトに向き合っています。
ビジョンへの共感から始まった挑戦。意思疎通と信頼を重視した組織の立ち上げ
大手Web企業やテック系企業で実績を重ねてきた2人が、三井住友カードへの入社を決意した背景には、DIOのトップを務めるY.NAKAGAWAの熱いビジョンと、金融機関という枠組みを超えた挑戦への期待がありました。それぞれの入社動機と、組織立ち上げ時に最初に取り組んだプロセスについて尋ねました。
MORIYAMA:前職でもNAKAGAWAと一緒に働いていた経験があり、当時からNAKAGAWAの思想や推進力に惹かれていました。新組織立ち上げの話を聞いた時に『ゼロから変化に強い組織を作りたい』と強い興味を持ち、迷わず挑戦を決意したのです。入社後はまず、福岡や大阪など複数拠点にまたがるチームメンバーと対話を重ね、プロダクト開発やアジャイルスクラムの基盤づくりから着手しました。
HINOMORI:私は面接でNAKAGAWAからビジョンを聞いたのがきっかけです。カード会社や金融機関に対して最初は堅いイメージを持っていましたが、AI駆動開発を主軸に置いたモダンな組織を作るという構想に強く惹かれました。これまでもモバイル組織をゼロから立ち上げる経験が多かったため、自分のスキルセットがもっともフィットするフェーズだと感じて入社を決めました。
金融業界特有の壁を感じるどころか、社内全体のスピード感と前向きな姿勢に驚いたと2人は口をそろえます。事業部側もテクノロジーに対する理解が深く、部署の垣根を超えて強力なバックアップが得られる環境が整っていました。そうした中で、2人がチームづくりにおいてもっとも大切にしたコンセプトは「ユーザー起点」と「コミュニケーション」でした。
MORIYAMA:プロダクト開発においては、常に『ユーザーの悩みをどう解決するか』というユーザー起点での対話を徹底しました。また、東京・大阪・福岡という拠点が離れた オンライン主体の環境だからこそ、時には現地に足を運ぶなど一人ひとりの『人』を大切にし、心理的安全性の高いコミュニケーションを意識しています。
HINOMORI:AI駆動開発(AIDD)では、極端に言えばエンジニアが直接コードを書かない場面も増えます。だからこそ『自分の存在意義は?』というメンバーの不安を和らげ、積極的に声を上げられる環境づくりが重要です。AIにできない『人と人との関係性構築』を何より大切にしてきました。
互いを尊重し合う誠実な風土のもとで、AI駆動開発というまったく新しい挑戦の土台が着々と作られていきました。
AI駆動開発のスピード感がもたらす変化。現場でつかんだ試行錯誤と組織の進化
SDOの発足から数カ月が経過し、実際のプロダクト開発現場では驚くべき変化と成果が生まれています。コード生成をAIが担う「フルAI駆動開発」を導入したことで、開発スピードは従来の想定を遥かに上回る領域へと突入しました。しかし、その圧倒的なスピードゆえの新たな課題や工夫も生まれたと言います。
HINOMORI:AIを使うと、これまで『5』や『8』のポイントで見積もっていたタスクが『1』や『2』で終わってしまいます。従来の2週間スプリントでは成果物が膨大になりすぎてレビューが追いつかなくなるため、1週間スプリントに変更するなど試行錯誤を重ねました。AI駆動開発の正解は誰も知らないからこそ、リーダーである私が指示を出すのではなく、メンバーやAIと全員で話し合って決定していく民主的なスタイルを取っています。
MORIYAMA:成果物が出てくるスピードが格段に上がった分、プロダクトオーナー(PO)側の準備や仕様定義のスピードも合わせていく必要がありました。またAIフレンドリーなドキュメント作成など、これまでにないプロセスを全員で模索したことは非常に貴重な経験です。最近ではチームが自走できるようになり、私のファシリテーションが減ったこと自体が大きな成長の証だと感じています。
さらに、取り組みは単一のチーム内にとどまらず、SDO全体、そして三井住友カード全体へと広がりを見せています。
MORIYAMA:プロダクトが増えていく中で、共通する課題を解消するためにDev Leadやスクラムマスターが集まる横のつながりを強化しています。組織のバックログとして課題を可視化し、上層部からも合意を得て改善を回す仕組みが動き始めました。チームだけでなく、組織全体をよくしていく手応えを感じています。
HINOMORI:入社して数カ月でモバイルチームが立ち上がり、メンバーがAIを使いこなして自走できている現状は大きな成果です。AIの活用によって言語の壁や専門分野の垣根が低くなり、モバイルエンジニアがバックエンド領域へ越境するなど、フレキシブルでスピード感のある開発が可能になりつつあります。
開発現場で得られた成功体験と学びは、エンジニア一人ひとりの視座を引き上げ、チームの絆をより強固なものへと変化させていきました。
成功体験を積み重ね「変化に強い会社」へ。SDOがめざすエンジニアリングの未来
プロジェクトを通じて得た手応えを胸に、2人は三井住友カードの未来、そしてこれから共に働く仲間たちに向けた展望を語ります。
金融イノベーションの最前線で「手の内化」を推し進めるSDOがめざすのは、圧倒的な開発スピードと安全性を高い次元で両立し、変化を楽しみ続ける組織の姿です。
HINOMORI:まずは今手がけているモバイルプロダクトを無事にリリースさせることが第一歩です。そして、AIを活用した爆速かつ安全な開発プロセスを社内外に示していきたいですね。開発スピードが上がれば上がるほど思わぬ事故を防ぐガードレールが重要になります。素早く改善を回しながら、高品質なサービスを届ける実績を積み上げていきます。
MORIYAMA:三井住友カード全体が『主権』を持って改善を続けられる、変化に強い会社にしていきたいです。そのために必要なのは、目の前の小さな成功体験を積み重ねること。『あのプロジェクト、おもしろそうだな』と周りから思ってもらえるような成功事例を作り、組織全体へよい波及効果を生み出していきたいと考えています。
最後に、SDOでの挑戦に興味を持つエンジニアやプロダクトマネージャー層に向けて、求める人物像とメッセージを伺いました。
HINOMORI:AIがコードを書く時代において、特定のプログラミング言語を10年極めたスキルよりも、どのようなアーキテクチャや設計にするか、そしてどう周囲とコミュニケーションを取れるかが重要になっています。実務経験の長さよりも、新しいトレンドを追いかける柔軟性や好奇心を持つ方に、ぜひ飛び込んできてほしいですね。
MORIYAMA:金融業界のイメージをよい意味で裏切る、変化と情熱に満ちた環境がここにはあります。AIを活用して上流のビジネス価値創造から開発までを一貫して高速化していく、未知のおもしろさを一緒に味わいましょう。
最先端のテクノロジーと人間味あふれるチームワークを融合させながら、三井住友カードの「手の内化」を加速させるSDO。一人ひとりの情熱と果敢な挑戦が、新しい金融サービスの未来を着実に手繰り寄せています。
※記載内容は2026年8月時点のものです
