やりたいことは、とりあえずやっておく。エネルギッシュな学生時代

幼少期は本を読むのが好きだった伊藤。父親の影響でアニメや漫画は身近な存在であったといいます。

伊藤 「父はドラゴンボールが好きで、週刊少年ジャンプを毎週買っているようなタイプでした。『三國志』や『ブラック・ジャック』の単行本が家に置いてあったり、ドラえもんの映画に連れて行ってくれたり。父の趣味が今の私に影響しているのかもしれません」

中学では演劇部に所属し、高校では英会話教室に通い、大学では空手に挑戦。意欲的に「やりたいことは、とりあえずやっておく」という、エネルギッシュな性格でした。

伊藤 「中学時代に男子と喧嘩をして負け、とても悔しい思いをしました。そのときから武術を習いたいと考え、大学では空手部に入部。空手が強い大学だったので、みっちりと鍛えられて、4年間で黒帯を取ることができました。
また、海外の人とコミュニケーションを取ることにも興味があり、高校のころから英会話教室に通い始めました。学校のテストとは違い、単語と動詞の位置が間違っていても通じるコミュニケーション力を手に入れたかったのです」

大学は国際コミュニケーション学部でドイツ語を専攻。就職まで、空手とドイツ語に没頭する日々でした。

伊藤 「大学卒業後は、英会話教室に就職が決まっていたのですが、入社時期を選ぶことができたため、4月ではなく9月入社を選択し、入社までの期間を利用してドイツへと留学しました。航空チケット、語学学校など、すべて自分で手続きを行って渡独。約2ヶ月間語学学校で勉強し、夏には日本に帰国しました」

ドイツでは思いがけないトラブルも。見知らぬ土地で事故にあってしまった伊藤ですが、「今では笑い話」と明るく話します。

伊藤 「ドイツに入国してまだ1週間も経っていない、ホストファミリーの家に行くその日に、猛スピードで走る自転車とぶつかってしまいました。結果として足首を捻挫し、立てなくなったのです。もう大パニックでしたね(笑)。
周りの人が救急車を呼んでくれたのですがパニックでドイツ語はなかなか出てこず、自分の状況を伝えられずとても心配でした。しかもそのとき、ホストファミリーの連絡先を語学学校に置いてきてしまったのです。
病院に到着し、冷静になって話をしていると、ホストファミリーのお母さんが元看護師だったため、病院で対応してくれた人と奇跡的に知り合いだということがわかりました。最終的にはお母さんが迎えに来てくれ、ほっと一安心したことを今でも覚えています」

やりたかった仕事を求めて東京へ。縁がつながり、今のアニメ事業部に異動

慣れない土地でのトラブルを経験しながらも、充実した留学期間を終えて帰国した伊藤。

そして、社会人としての新生活が始まります。

伊藤 「英会話教室のスクールマネージャーとして、教室を運営する日々が始まりました。ただ、教室を増やして拡大していこうという方針の中、私の営業成績が偶然良かったこともあり、入社して3ヶ月も経たない内に1人でスクールを任されるようになったんです。能力が認められ任せてもらっていたものの、放任主義な部分があり、もっと学ばせてもらえる会社へ転職したいと考えるようになりました」

そんなときに浮かんだのは、マスメディアの仕事がしたいという思いでした。就職活動のときから、伊藤は語学の道に進むか、マスメディアの道に進むか2つの軸を持っていたのです。しかし、愛知県に住んでいたことから、マスコミ関係の企業が集中する東京へ頻繁に足を運ぶことが難しく、地元の英会話スクールへの入社を決めたという経緯がありました。

「もうひとつやりたかった仕事にトライしてみよう」と考えた伊藤は、上京を決意します。

伊藤 「貯金を切り崩し、何も決まっていない状態でしたが東京へ行きました。そして美術スタッフの仕事を見つけて、いわゆる大道具さんとしてNHKや日テレのスタジオセットを担当し始めたんです。ある程度美術スタッフの仕事を理解したタイミングで、小学館集英社プロダクションの求人を見つけて、応募をしました」

そして、2011年に小学館集英社プロダクションに派遣社員として入社。最初は経理部のサポート業務をしていました。

伊藤 「当時、私の面談してくださった方がポケモン事業部の経理を担当していて、そこで働かないかと言ってくださいました。入社後は経理のサポートをしていましたが、ポケモンのアニメのサポートをしている映像系アシスタントが隣の席で、映像系のお手伝いもするようになったんですね。そうするうちに、映像に関する知識や編集ソフトのことも勉強するようになって、それが楽しくなって、いつの間にか正社員として働くまでになりました」

ポケモンの情報バラエティ番組『ポケモンスマッシュ!』のアシスタントプロデューサーや、キッズ向け情報生放送番組『おはスタ』の曜日プロデューサーなどの実写番組に携わるようになった伊藤。

その多忙な期間の中で、産休・育休も経験しました。

伊藤 「『おはスタ』に配属になったのは育休後だったので、大変でしたね。番組収録の立ち会いが必要なんですが、まだ娘が小さかったので、朝起きたときに私がいないと大泣きするんですよ。

当時の朝、旦那さんにはとても助けてもらいました。ただ、娘の大泣きに手がつけられなくなっていってしまって……。仕事も続けたいけど、子どもの側にもいたいのでどうしようかと社内で相談したところ、アニメ制作課の課長が声をかけてくれました。もともとアニメや漫画が好きだったことと、時間のコントロールがしやすかったことから、アニメ制作課に異動することにしました」

大切なのは「バランス感覚」。関係各所との間をとりもち、作ったものを世に送り出す

現在はアニメのプロデューサーをしながら、放送後アニメ作品の配信ライセンス業務も担当。進行中のプロデュースアニメ『古見さんは、コミュ症です。』では、幹事役として大枠すべての調整、プロデュースを担当しています。

伊藤 「テレビアニメーションには大きく、編成番組と製作委員会方式の番組があります。編成番組は放送局が主導で行うアニメ番組。『ポケットモンスター』や『デュエル・マスターズ』など、歴史が長いアニメは編成番組が多いです。
担当している『古見さんは、コミュ症です。』は、製作委員会方式の番組。放送局、電波料、配信先、制作会社、海外への販売など、あらゆる事柄をプロデューサーが組み立てます。どこの放送局と組むか、どこで制作をするか、どのタイミングでプロモーションをしていくか。各所と話し、進めていくのがアニメ事業部のプロデューサー業務です」

関係先が多く、高い調整能力が必要な業務。大切なのは「バランス感覚」だと話します。

伊藤 「元々のスケジュールが全く問題なく進行する、なんてことはありません。必ず、トラブルは起きます。それを常に調整しないといけないので大変ですね。さまざまな知識が必要で、さらに相手の立ち位置を理解して話す能力も必要。過去例のマニュアルがあるわけではなく、自分の経験を元にどう動くか、案件ごとにバランス感覚を持って判断しないといけません。バランスをひとつ間違えるだけで、大変なことになる。それを常に考えながら仕事をしています」

決して簡単とはいえない業務。しかし、自分がプロデュースしたアニメを見た人たちの声が伊藤の励みとなっています。

伊藤 「マスメディアの仕事がやりたい=自分が作ったものを世に出したい、という想いなので、それを見た人たちの声が届くととても嬉しいです。『古見さんは、コミュ症です。』は私の娘も見ていて、『楽しかった』『いつから次のお話やるの』といってくれます。
SNSや周りの人から、おもしろかったと反応をもらえることも嬉しいですね。自分の担当する作品にやはり思い入れがあります。みんなが知ってくれて、見終わった後にほっこりしてくれたらいいな、と思って制作しています」

お母さんはマルチタスクの天才。能力を活かした働き方を模索

さまざまなタスクを常に同時進行で進めなくてはいけないプロデュース業務。ふたりの子育てによって、その能力がさらに鍛えられています。

伊藤 「マルチタスクが必要な業務のため、プライベートでも仕事でもそれが常に続いているような状況です。仕事のメールを打ちながら、子どもと宿題の会話をする。イヤホンで仕事内容を把握しながら、子どもの九九を聞く。
あらためて思うことは『世の中のお母さんはマルチタスクの天才』だということ。お母さんという時点で家事と育児を同時に行い、自分と夫の仕事のスケジュールと並行して子どもの習い事のスケジュールも管理する。働ける時間制限はあるものの、マルチタスクをこなすお母さんたちが能力を発揮できる場所がもっとあるといいのに、と思いますね」

常に心の中心にある、「仕事が好き」という想い。しかし子どもの成長は、伊藤の考え方に変化をもたらしました。

伊藤 「以前は仕事に没頭し、生活時間が乱れていても問題なかったのですが、仕事が影響して子どもに寂しい思いをさせてはいけない、と思っています。ワークライフバランスを考えるようになりましたね。
アニメ事業部には女性は多いものの、子どもを持つ人は数人。ロールモデルはおらず、自分で道を決める必要があります。子育てとのバランスを取った上で私が会社でできることは何か、映像のキャリアを今後も活かせるのか、残念ながらまだ答えは見つかっていません。

私としては映像のキャリアを活かして好きな仕事を続けるという考え方では、自分の経験を若手に伝え、育てていけたらと思っています。何ひとつ同じ過去例がないアニメ制作という仕事を考えたときに、そのノウハウを伝授し、後輩が自分と同じようにアニメ制作のプロデューサーを務めるお手伝いがしたいです。

また、元々英会話教室に勤めていたこともあって、『教育』も私のやりたいことのひとつ。弊社にはポケモングローバルアカデミーというポケモンを通じた学童保育を運営している部署があり、興味があります。子どもをふたり育てながら、この先何ができるんだろう、と少し不安にもなりつつ、この歳ながら分岐点を考える時ではないか、と思います」

自分のやりたいことを、エネルギッシュな行動力で実現してきた伊藤。予想できない未来に葛藤しながらも様々な角度から可能性を模索し、自分らしい働き方を見つけていきます。