動いていない時間にも価値を──電池が生む新しいビジネスの芽
PPESは、「かけがえのない地球 クリーンで豊かな社会を未来へ」というビジョンの下、地球・社会課題の解決に幅広く貢献するため、モビリティ用電池の提供のみならず電池技術を核としたソリューション事業の開発を進めています。その中で私が取り組んでいるのが、電池と電動車の新たな価値を創出し、価値向上をめざす「Smile Eco Project」という新規事業です。この事業は、私自身が「やりたい」と手を挙げて始めました。
以前は高容量電池の開発を担当していましたが、常に頭の中にあったのは「どうすれば、もっと多くのお客さまに電動車を届けられるだろうか」という問いでした。その最大の壁は、やはり電池のコストです。もちろん材料や製造方法を工夫することでコスト削減は進んでいますが、より多くのお客さまに電動車を届けるためには、それ以外の新たなアプローチも必要だと感じていました。
そこであらためて着目したのが、「電動車は1日のうち、多くの時間が停止状態にある」という、ごく当たり前の事実でした。
この膨大な「遊休時間」に新たな価値を持たせ、社会に貢献できないか。たとえば、電動車の電池を社会のエネルギー網の一部として活用し、車の維持コストを補うような仕組みを作れば、実質的な電池のコスト負担を下げ、電動車の普及を加速できるはずだ。
当時の社内には、電池そのものの性能を追求する専門家は数多くいましたが、その電池を使った新しいビジネスモデルを考える人間は、まだ多くありませんでした。ならば、自らやるしかない。技術者としての視点だけでなく、ビジネスの視点からこの大きな課題に挑むことを決意したのです。
私たちがこのプロジェクトで見ているのは、単なる電池の有効活用だけではありません。この事業を通じて、環境(Eco)に優しく、経済的にも価値を生み出し、そして関わるすべての人を笑顔(Smile)にする循環を創りたい。そんな想いを込めて、この事業を「Smile Eco Project」と名付けました。エネルギーは、社会のあらゆる活動の根源です。電池という技術を軸に次世代により良い社会を残していくことこそ、私たちだからこそできる社会への貢献だと信じています。
電池のチカラを暮らしのそばに。Smile Eco Projectの3本柱
「Smile Eco Project」は、「①定置用電池」「②充電サービス」「③したい実現」という、3つの柱で構成されています。これらは個別の事業ではなく、互いに連携することで、エネルギー課題と地域課題の双方を解決することをめざす、一つの大きなプロジェクトです。
現在、私たちはその仕組みづくりを、兵庫県加西市と共に行っています。加西市は国の「脱炭素先行地域」に選定されており、私たちの関西本社があるというご縁から、未来を共に創るパートナーとして実証実験を重ねています。
まず私たちが着目したのが、加西市に数多く存在する「ため池」に設置された太陽光発電でした。太陽光発電(再生可能エネルギーの一種)は建物の屋根へ設置するには場所が限られ、山林を切り拓いて設置するのは自然環境への影響に細心の注意が必要です。その点、これまでデッドスペースだったため池の水上は、それらの課題を解決できる最適な場所でした。
この発電設備を公共施設に直接つなぎ、まずは公民館など施設運営のための電力として活用します。そして、そこで生まれた余剰電力を「定置用電池」に貯蔵。その電気を「充電サービス」を通じて市民の方々へ安価に供給する。このとき、電気自動車などの車載用電池を使うことで、電気を貯めて運ぶことができます。これが、私たちが描くエネルギー循環の基本設計です。
さらに、この再生可能エネルギーをより効率的に使っていただくための、専用アプリ開発も進めています。たとえば、余剰電力が生まれて安く充電できるタイミングで通知を送り、手軽に充電予約ができる。エネルギーの情報を可視化することで、環境をより自分ごととして意識できるサービスをめざしています。
この一連の仕組みは、まだ完成形ではありません。私たちは、まさに今、加西市の方々と対話を重ねながら、ゼロからイチを創り上げている最中です。
この前例のない挑戦に踏み出せるのは、私たちならではの技術とノウハウがあるからです。車載電池で培った大量生産のノウハウは、一般的にはコスト面で課題の多い定置用電池の製造にも、効率性をもたらしています。電池の隅から隅まで知り尽くしているからこそ実現できる、高い耐久性・信頼性・安全性。これらが、私たちの挑戦を支える揺るぎない土台です。
将来的には、使用済みの車載電池を定置用電池として再利用することも視野に入れています。電池のリユース・リサイクルを通じて、地域の脱炭素化と持続可能な社会の実現に、どこまでも貢献していきたいと考えています。
地域の方々との対話によって生まれた「したい実現サービス」
プロジェクトの3つめの柱、「したい実現サービス」。これは、地域の方々との対話なくしては、決して生まれなかったサービスです。
もともとは再生可能エネルギーを広めたいという一心で、市役所の環境課の方と対話を重ねていました。そんなある日、「環境や再エネよりも、このまちは人口減少の方が問題なんです」というひと言をいただいたのです。
その言葉の真意を知るため、私たちは地域に深く入っていくことにしました。子育て世代を中心に約60名もの市民の方々にお話を伺うと、そこには切実な悩みがありました。多くの方が感じていたのは、環境問題よりも、むしろ「子どもたちの教育環境」への課題だったのです。「習い事の種類が限られている」「交通手段がなく、通わせられない」「部活動も減っている」。
地域のリアルな声と、私たちの「環境への想い」。この両方を満たすことはできないか。そうして開発に着手したのが、アプリケーション「Smile Eco Link」です。
これは子どもたちに習い事や部活動を紹介する、いわゆる習い事のマッチングサービスとしての役割を果たしますが、それだけではありません。私たちの定置用電池がある公民館を、さまざまな講座が開かれる「学びの場」として機能させます。子どもたちが夢中で学ぶその場所が、実はクリーンなエネルギーで動いている。そんな体験を通じて、環境貢献を「自分ごと」として自然に感じてもらう仕組みです。
このアプローチの確信を深めてくれた、忘れられない言葉があります。ある親御さんからいただいた、「環境問題を普及させたいなら、まずは子どもに教育してください。子どもに言われたことなら、大人はきっと耳を傾けますから」というアドバイスです。
この「したい実現」は、子どもたちが地域や環境、そして自分の未来を考えるきっかけを創る事業です。そうして育った子どもたちが豊かな社会を創っていくことが、結果的に私たちのエネルギー事業にもつながっていく。私たちはそう信じて、このユニークな挑戦を続けています。
電池で“仕合わせる”未来──地域の幸せと脱炭素をつなぐ挑戦
加西市での実践を軸に、私たちは全国の地域へと足を運んでいます。そこで見えてくるのは、脱炭素という大きな目標と、人口減少や産業縮小といった切実な地域課題です。私たちの挑戦は、この二つを分断されたものとしてではなく、電池という技術を使ってつなぎ合わせ、地域の幸せへと昇華させていくことにあります。
それを実現する上で最も重要なのは、技術そのものよりも、「本当のニーズ」を見つけ出すことです。社会が本当に求めているものは何か、私たちの技術が最も輝く場所はどこか。それを探り当て、課題と技術を結びつけることこそが、最大の挑戦だと考えています。
私たちの事業の根幹にあるのは、地域の脱炭素化と、そこに暮らす人々の「幸せづくり」です。「幸せ」の語源は「仕合わせる」──つまり、誰かと何かをすること、人と人とのつながりから生まれると言います。私たちは、Smile Eco Projectを通じて、単に物理的なエネルギーを届けるだけではありません。人と人が出会い、新しい何かが生まれる交流の場を創り、心のエネルギーをも満たしていく。いわば、電池で、人々を、未来を“仕合わせる”。それこそが、私たちが本当にめざす社会の姿なのです。
大きな事業を持つ企業だからこそ、利益だけを追求せず、こうしたソーシャルビジネスにも本気で取り組む使命がある。幸い、当社には新しい挑戦への理解と風土があります。
電池には、まだ誰も気づいていない可能性が無限に眠っています。それは、未来の社会を豊かにするソリューションの道具です。私たちは、世の中のニーズに深く耳を澄ませながら、この“仕合わせる”未来を創る挑戦を、同じ志を持つ仲間と共に続けていきたいと考えています。
※ 記載内容は2025年6月時点のものです

