オンボードとオフボードの両輪で挑む技術開発。より高度な認識システムの実現に向けて
安全で環境に配慮したモビリティと、より高度な移動体験の実現をめざし、先端技術の研究開発をリードする総合研究所。
丸茂はそこで自動運転における「シーン理解」と呼ばれる領域を担い、オンボード予測技術とオフボード認識技術の両面から開発に取り組んでいます。
「オンボード予測技術とは、車両に搭載されたセンサーの情報をリアルタイムに処理し、周囲の状況を理解する技術です。走行中は処理時間に制約があるため、限られた計算資源でどこまで正確に状況を把握して素早く未来を予測できるかが重要になります。
一方、オフボード認識技術は、記録されたセンサーデータを再生しながら、オンボード用AIの学習・評価に使う教師データを生成する技術です。時間的な制約を受けない計算環境のもとで、歩行者や車両などを正確に識別する高精度な認識モデルを構築し、AIが自動でアノテーション(データへのラベル付け)を行う仕組みの開発を進めています。
リアルタイム性が求められるオンボードと、精度を追求できるオフボード。それぞれの強みを活かしながら、より正確に周囲環境を理解できる認識モデルを実現することが、私たちのミッションです」
AIを継続的に進化させるためには、自動運転ならではの実装知が欠かせません。丸茂が担っているのは、アカデミックな理論と、実際の走行環境とのギャップを埋める役割です。
「研究分野ではさまざまなデータセットが公開されていますが、実際の走行データには、そうしたデータセットには含まれないノイズやばらつきが数多く存在します。
理想的な条件下で設計されたモデルが、実際の環境ではどう振る舞うのか。その違いを理解し、現実に耐えうる形に落とし込めるかが非常に重要です」
そんな丸茂の原動力となっているのが、継続的に学び続ける姿勢と、周囲を積極的に巻き込むマインドです。自身とチームの力を掛け合わせながら、技術者としての成長を積み重ねてきました。
「新しい技術動向には常にアンテナを張るようにしています。論文を読む時間を意識的に確保するのはもちろん、研究情報を発信している国内外の研究者やエンジニアを専用のSNSアカウントでフォローし、隙間時間にチェックするのが習慣です。
行き詰まりを感じたときは、先輩や上司に早めに相談します。自分とは違う視点からのフィードバックが、次の一手につながることも少なくありません。ひとりで抱え込まず、周囲の知見を借りることが、結果的に近道になると感じています」
理論から、実走行の現場へ。多様な専門性の融合で切り拓く、自動運転への道
学生時代、クルマとAIへの関心から、自動運転に関する認識技術の研究に打ち込んだ丸茂。その情熱を存分に発揮できる場所が、日産自動車でした。
「子どもの頃からクルマが好きで、将来は自動車業界で働きたいと漠然と考えていました。しだいにAIにも興味を持つようになり、大学ではAI系の研究室へ。自ら希望して自動運転をテーマに選びました。
当時から強く惹かれていたのが、完全な自動運転です。日本の自動車メーカーの多くがドライバーを支援する運転支援技術に注力する中、日産は自動運転を見据えた研究にも本格的に取り組んでいます。自分の描いていたクルマの未来像と重なり、入社を決めました」
丸茂が入社したのは、日産がオフボード認識技術の強化に本腰を入れ始めたタイミング。入社後まもなく、自動運転車の学習・評価に用いるオフボード認識技術の開発を担当しますが、そこで直面したのが、理論と現実の大きな隔たりでした。
「大学では学んだことのない、自動運転関連の知識を一から身につける必要がありました。
とくに、オンボードの予測技術にも関わるようになり、実験車に乗って検証する機会が増えてからは、センサーのデータや挙動を体感する中で初めて見えてくる課題も多く、机上ではうまくいっていたモデルが現実の環境では思い通りに動きません。そうしたギャップを、実地で一つひとつ学びながらキャッチアップしていきました」
そんな丸茂を支えてきたのが、さまざまな専門性を持つ先輩社員の存在です。AIの知識を軸に、自動運転システム全体を俯瞰する視点を少しずつ身につけてきました。
「私が所属しているのは認識系のグループですが、制御系や車両工学など、メンバーのバックグラウンドは本当にさまざまです。
自動運転は、AIだけで完結する技術ではありません。物理法則や車両の特性など、あらかじめ決まっている部分は、人が設計したロジックで処理したほうがうまくいくケースも多くあります。
AIによって柔軟性を持たせる部分と、ルールベースで堅実につくり込む部分のバランスをどう設計するかが重要です。自動運転の実現には、さまざまな分野の知見が欠かせないと感じています」
自動運転の実現をめざし、実装力を現場で磨く
入社当初から、横浜市みなとみらいエリアでの自動運転モビリティサービスの実証実験に携わってきた丸茂。プロジェクトはいま、新たなフェーズへと進んでいます。
「みなとみらいでの実証実験の知識を踏まえて、2026年1月から神戸市灘地区で自動運転の実証運行を開始しました。まったく新しい地域で、みなとみらいでは取得できない多様なシーンのデータが集まってきました。
扱うデータ量とバリエーションの大幅な増加に対応するために、現在はオフボード認識技術を活用して取得データにラベル付けし、その結果を車両側のモデルに反映させていく作業を進めているところです」
実証実験のような大規模プロジェクトでは、専門的な技術力に加え、変化に即応する力や、正解のない状況下で仮説を立て、前に進める力が求められる場面も。難易度が高いからこそ、やりがいも大きいと丸茂は言います。
「神戸市灘地区の酒蔵周辺は道が狭く、トラックの往来も多いため、交通環境が非常に複雑です。学習データの分布外にあるような特殊な車両と遭遇すると、認識が不安定になることもあり、みなとみらいではうまくいっていた予測が、神戸では通用しないケースも少なくありません。
また、みなとみらいでは交通ルールに基づいて比較的素直に走行できますが、神戸のように道幅が限られていると、優先権はこちらにあっても、相手の動きを待たなければ前に進めない場面が出てきます。
柔軟性と適応力が必要ですが、これこそ自動運転に欠かせない“汎化性能”を鍛えるプロセスです。実証エリアの拡張にともなって、システムとしての完成度が一段ずつ上がっていく手ごたえを感じています。
一般的なAI研究とは違い、安全性を担保しながら性能を高めるのは簡単ではありませんが、そうした制約の中で最適解を探し続けることが、技術者としての醍醐味。
次世代のクルマと新しいモビリティ社会を形づくる技術の最前線に身を置けていることに、確かなやりがいを感じています」
技術を、社会へ。お客さま起点のものづくりが生み出す、新しい移動体験の価値
クルマ単体にとどまらず、暮らしや街づくりまでを視野に入れるそのスタンスは、丸茂にとっても大きなモチベーションとなっています。
「当社では、世界最先端の技術に取り組みながら、それを実機に搭載し、実験車を走らせて実証しています。研究が机上で終わることなく、実際に社会へと出ていくプロセスに携われることに、技術者として大きな喜びを感じます」
また、能動的に学び続けられる環境が整っている点も、日産で働く魅力のひとつだと話す丸茂。
「研修制度が充実しているのはもちろんですが、それ以上に大きいのが、周囲にさまざまな専門性を持つ先輩がいることです。こちらから働きかけると、想像以上の知見や視点が返ってきます。
この恵まれた環境をどう活用するかが重要です。指示を待つのではなく、主体性を持って周囲を巻き込み、知識を吸収できる人ほど成長できる職場だと思います」
そんな丸茂がめざしているのは、技術起点ではなく、お客さま起点のものづくり。その先に描くのは、日産にしか生み出せないモビリティの未来です。
「たとえば、荷物の多い帰り道に雨が降っていると、『こんなとき、自動運転のクルマがあったら助かるのに』と思うことがあります。
神戸では現在、自動運転でお酒を楽しみながら酒蔵を巡るというコンセプトの実証運行も行われていますが、そうやって移動そのものが新しい体験価値になるモビリティサービスを形にしていくことが目標です」
新しい移動体験の創出と、持続可能な未来の街づくりに向けて──日産のビジョンとパッションとともに、丸茂の挑戦は次のステージへと進み続けます。
※ 記載内容は2025年12月時点のものです
