ADASの品質と効率を向上。HILSの専門家として、「できない」を「できる」に
日産のR&D部門で、ADAS(先進運転支援システム)の開発に携わる鈴木。エンジニア業務に従事しながら、チームのマネジメントも担当しています。
「私は、ADASに用いられるECU(電子制御ユニット)を対象としたHILSテストを担当しています。ADASは、緊急自動ブレーキや追従走行支援、車線逸脱警報などを通じ、ドライバーの運転を支援するシステムです。その中核を担うのがECUであり、車両の各種センサーから得られる情報をもとに、状況に応じてブレーキや加速、ステアリングなどの制御を行います。
そしてHILS とは、Hardware In the Loop Simulationの略称であり、ECUと仮想シミュレーションを組み合わせ、実際の運転環境を再現してテストを行う手法です。
HILSテストでは、シミュレーション環境の構築からテストの設計・実行まで担当しています。所属している部署は量産前の最終段階である適合開発を担っており、実際の車両を使わずにECUの動作を確認することで、品質と開発効率の向上に貢献しています」
業務では、カメラとECUを組み合わせたシステムHILSテストを行う部署や、先行開発を担うグループとも密に連携。さらに外部ベンダーとの協業にも取り組んでいます。
「HILSのシミュレーションは主にMathWorks社のMATLABやSimulinkを使って構築しています。ADASの機能が高度化する中、HILSにはリアルタイム性などの制約もあり、従来の方法では対応が難しいケースが増えています。そうした課題を解決するため、MathWorks社と連携し、新たなテスト手法の開発にも取り組んでいます」
協業を通じてHILSテストにかかる時間を短縮し、品質の向上をめざしている鈴木。仕事と向き合う中で大切にしている価値観があります。
「私たちのチームは、HILSのプロフェッショナルでありたいと考えています。経験したことのない業務に直面しても『できない』とは言わず、どうすれば実現できるかを考え、解決策を提案し、必ずやり遂げる。それをポリシーとしています。
またチームをマネジメントする立場としては、メンバーが意見を出しやすい環境づくりを大切にしています。私たちのチームは若手が多く、現状の課題や改善点について積極的に考えて提案してくれることが特長です。リーダーとしてどのような提案もまず肯定的に受け止め、次につながるフィードバックを心がけています」
CASEの潮流がもたらしたキャリアの転換点。機械システムからソフトウェア領域へ
大学院で機械システムを専攻し、修士を取得した鈴木。卒業後は自動車業界を中心に就職活動を行いました。
「自動車は日本の基幹産業であり、開拓できる技術領域の広さに魅力を感じたこと。それが自動車業界を志望した理由でした。
中でも日産は『技術の日産』と言われるほど高度な技術力を持ち、それがスカイラインなどの商品で体現されているという印象があり、第一志望として就職活動を行いました」
2004年に入社後、鈴木はR&D部門に配属。16年にわたり、マニュアルトランスミッションのテスト業務とクラッチの開発に携わります。
「はじめは、マニュアルトランスミッションの台上テストを担当し、変速時の操作性能を評価していました。その後は、サプライヤーから提供されるテストレポートを確認し、日産の開発基準への適合性を検証していました。
それ以降はマニュアルトランスミッションの性能開発に携わり、操作性を向上するための設計に従事。具体的には、世界中にファンを持つスポーツカー『フェアレディZ』や、ヨーロッパ向けの『エクストレイル』を担当しました」
そうして経験を積む中、鈴木は2020年、オープンエントリー制度を利用して現在の部署へ異動を決意します。
「自動車業界では2016年頃から『CASE』の潮流があり、ソフトウェアによる機能追加や制御の重要性が増してきました。また、データサイエンスの活用も広がり、大量のデータを処理して製品開発に活かす機会が増えています。エンジニアとしての幅を広げるためにも、ソフトウェア開発のスキルが欠かせない。そう考え、異動を決意しました」
ソフトウェア開発への挑戦において、新たな知識を習得する苦労はあったものの、これまで培った経験が活かせる面が大きかったと話す鈴木。
「ADASはソフトウェア中心のシステムですが、車両の動きを制御するという点ではパワートレインも同じです。そのため車両の動きや特性に関する長年の知見は、現在のADAS開発においても大いに活かされています。
また、今までとは異なる分野に挑戦する楽しさも感じています。新しいアルゴリズムやシミュレーションを自分で考えて実装することで、短時間で結果を確認できる点が魅力的です。機械の場合は試作や実験に時間と費用がかかりますが、シミュレーションは素早く検証できることが醍醐味だと感じています」
「他のやらぬことを、やる」日産のDNAを体現。最先端技術でHILSの課題を解決
日産のADAS向けHILSテストにおいて、大きな進展があったのは約2年前。鈴木は従来のHILSシステムに、MathWorks社のシミュレーションソフトを連携させる開発に挑戦しました。
「これまでは複雑な交通環境のシミュレーション作成に時間がかかり、多様なテストケースを試すのが難しいという課題がありました。それをMathWorks社のソフトウェアと連携させることで、より短時間で高品質なテストの実現を可能にしたのです。
まだ世の中にない高度なシミュレーションをスピーディーに精度高く実現するためには、1社単独ではなく外部ベンダーとの協業も重要です。開発に対して柔軟な姿勢を持ち、『他のやらぬことを、やる』という日産のDNAを体現した大きな挑戦だったと思います」
鈴木はこの成果を、MathWorks社が主催する「MATLAB EXPO 2024 Japan」で発表。昨年も新たな機能を追加するなど、HILSとの連携を強化しています。
一方でMathWorks社のソフトウェアはHILSのために特別に開発されたものではないため、データの連携においては苦労もあると鈴木は話します。
「アプリケーションとHILSの間でデータを適切な形式に変換しなければならないのが難しい点です。また、Windowsや使用しているアプリケーションのバージョンが一致しないことで、システムがうまく動作しない『ビルドエラー』の発生にも苦労します。
この課題を解決するには、地道な作業の積み重ねしかありません。エラーが発生するたびにその詳細と失敗の原因を記録し、特定した要因を一つずつつぶしていきます。そして別のエラーが出れば同様に記録し、仮説を立てて検証を繰り返すことで解決しています」
こうした苦労を乗り越えた先に、やりがいを感じると語る鈴木。
「開発は決して1人では成し遂げられないため、チームで力を合わせて目的を達成できたときにやりがいを感じます。
また、プロジェクトメンバーの成長を実感するのもやりがいの1つです。エラー発生時に原因や解決策を共に検討する中で、やがて自分で解決できるようになる。そうやってメンバーが自立していく姿を見ると、チームをマネジメントする立場としてもうれしくなります」
ADASの進化をけん引するために。常に先を見据え、業界トレンドを先取りする挑戦を
20年以上にわたり日産で技術開発に携わってきた鈴木。長年働いてきた中で感じる会社の魅力をこう語ります。
「やりたいことを提案すると、それを肯定的に捉えて支援してくれる文化が日産にはあります。大企業だから個人の意見は尊重されないのではないかと思われるかもしれませんが、価値のある提案であれば、みんなでディスカッションして実現の可能性を追求する会社です。
また、各部署の募集に対して社員が応募できるオープンエントリー制度を活用することで、自分のキャリアを広げたり、より適性のある部署へ異動したりすることも可能です。チャレンジがしやすく、活躍できるフィールドが大きく広がっています」
さらに、鈴木が勤務する日産先進技術開発センター(NATC)は、神奈川県厚木市に位置し、働く環境としても魅力的だと話します。
「駅からは少し離れているのですが、とても自然が豊かで周りの騒音も少なく、落ち着いて仕事に取り組める環境です。都心へのアクセスも良好で、自動車関連のイベントなどにも積極的に参加できます。
また、シミュレーションや台上テストなどの開発設備も充実しているなど、エンジニアとして多様な経験が積めることも魅力です」
こうして充実した環境で仕事と向き合いながら、鈴木は今後の目標に向かって挑戦を続けていきます。
「HILSシミュレーションの開発から実行まで、プロフェッショナルとして自立したチームをつくることが目標です。ECUの制御ロジックは年々高度化し、シミュレーション環境も複雑さを増していきます。その中で現在の課題だけでなく、将来的な技術の進化も見据えた開発を推進できるチームをめざしたいと考えています。
そして個人としても、常に先を見据え、チームをけん引できる存在になりたいですね。そのためには、業界のトレンドを理解し、次の展開を予測する力を磨かなければならないと考えています。
世界中の自動車メーカーがどのような方法を用いて新たな機能を実現しているのか。そうしたトレンドを正確に把握しながら、ADASの進化を先取りする開発を実現していきたいと思います」
※ 記載内容は2025年7月時点のものです
