モビリティは新たな価値を生み出す存在へ。ソフトウェアの力で創るクルマの未来
100年に1度の大変革期を迎えている自動車業界。日産自動車では、電気自動車(EV)の先駆者として、早くから電動化に取り組む一方、顧客との関係性や価値提供のあり方の根本的な再定義に取り組んできました。
「電動化が進むことは、環境対応という観点から当然の流れですが、それ以上に重要なのは、クルマの存在そのものが、お客さまにとって大きく変化しつつある点です。ハードウェア中心だった価値提供がソフトウェア主体の体験へと移行し、『クルマのスマホ化』と言われるように、購入後も新たな価値を生み出し続ける存在へと進化しつつあります。
たとえば、これまで単なる移動手段でしかなかったクルマに対して、車内でどのような体験ができるのか、移動時間をいかに楽しく快適に過ごせるか、といった点が期待されるようになってきました。
さらに、EVの普及にともない、充電という新たな習慣が生活に加わっており、ガソリン補給と比較して時間がかかる充電時間をどう活用して新しい価値を提供するかも、自動車メーカーにとって重要な課題となっています」
そうした状況の中、当社が重要な戦略として位置づけているのが、SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)(※)です。この取り組みを通じて、技術革新や顧客価値の向上、そして新たなビジネスモデルの創出をめざしています。
※ SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)とは、クラウドとの通信により、自動車の機能を継続的にアップデートすることで、運転機能の高度化など従来車にない新たな価値が実現可能な次世代の自動車のこと
「クルマに乗ること自体が楽しいという価値は今後も変わることはありません。ハードウェアとしての提供価値が失われるわけではなく、そのハードウェアと連携して新たな価値を創出するのがソフトウェアの役割だと考えています。
これまでのクルマは購入時に最高の価値を提供していましたが、SDVにより、購入後も新機能の追加や性能向上が可能となり、価値を継続的に向上させていくことになります。たとえば将来的には、お客さまが気づく前に車両の故障を感知し、その情報を最寄りのディーラーに送信して、ディーラーからお客さまにすばやくコンタクトし修正を行うことで、事故を未然に防ぐ仕組みが実現されるでしょう。
また、ドライバーの習慣や好みを学習し、渋滞時には代替ルートを提案したり、ドライバーの嗜好に合わせて途中で立ち寄れるコーヒーショップを提案し、注文・決済を代行したりすることも可能です。
SDVは、人間工学に基づくドライバー中心のサービスを通じて、より安全で安心、そして快適な移動を提供します。この新たなモビリティの実現には、従来とは異なるエンジニアリングスキルが求められることになります」
先進技術がモビリティを進化させる。人に寄り添う未来のクルマづくりに向けて
モビリティの未来を大きく変革する可能性を秘めているSDV。その中でもとくに期待されるのが、安全性と快適性の機能向上です。
「まず、移動手段としての安全性を確保することが最優先です。そのためには、高度な運転支援システムなど、安全機能や安全装備をさらに進化させなくてはなりません。そしてこれらの取り組みは、最終的に自動運転の実現へとつながっていくでしょう。
たとえば、路面が滑りやすい状態になった場合、100メートル先の道路状況の異常をクラウド上の情報を通じて検知して即座にお客さまに通知し、自動的に速度を制御することで安全性を確保するという具合です。
安全性と同様に重要なのが快適性です。お客さまが気持ちよさや便利さを感じる要素を深く理解し、それに応える、つまり“おもてなし”を提供する技術を実現する必要があります。
たとえば、窓を開けて走行中に突然雨が降ってきた場合、自動的にワイパーが作動し、窓が閉じられる。日常のさまざまなシーンで心地よさを提供する機能を追求することが求められるでしょう」
こうした人に寄り添い、安全・安心で快適な移動を実現するために、日産自動車では電動化、センシング技術、AIシミュレーションなど、さまざまな先端技術に取り組んでいます。
「開発スピードを加速させるための鍵は、テクノロジーの活用にあります。人間が単独で行えることには限界があり、その壁を越えるためには、新しい技術の導入が欠かせません。
たとえば、近年注目を集めている生成AIは、プログラムの作成やデザインの生成を可能にし、ものづくりのプロセスそのものを根本から大きく変革しつつあります。こうした最新技術に対するリテラシーが、開発スピードの向上に直結すると考えています。
さらに、AIによるシミュレーション技術の活用も不可欠です。新たな価値を創出するには、最新のAI技術への理解を深め、それを製品に応用するスキルが今後ますます重要になるでしょう。
現時点で知識があるかどうかにかかわらず、AIをはじめとする先端技術の導入に積極的であるかが重要です。実際に技術を活用し、その可能性を探求する取り組みこそが、次なる進化への足がかりになると考えています」
挑戦そのものを楽しむ。失敗を恐れない若きエンジニアが新たな価値をつくり出す
現在、電子技術・システム技術開発本部、コネクティドカー&サービス技術開発本部を統括する吉澤。これまで電子技術を中心に、幅広い分野でキャリアを築いてきました。
「大学では工学部で電気系を専攻していました。当時、電気分野の花形といえば大手電機メーカー。そこで埋もれるよりも、より重要な仕事に携われると考えて自動車業界を選びました。
私が入社したのは、車両におけるエレクトロニクスの比率が今後増加していくことが期待されていた時代です。エンジニアとして大きな手ごたえを感じたのは、入社4年目に初めて海外出張を任されたときです。海外での経験を通じて自信を得るとともに、周囲から評価されているという実感を得ることができました。
当時は、見知らぬ土地で苦労したというより、挑戦そのものを楽しんでいた記憶が残っています。日産自動車には、若手エンジニアがさまざまなことに挑戦し、失敗を経験する環境が整っていますが、私もこうした風土に支えられ、育てられてきたと感じています」
業界が大きく変革し、新たな技術が急速に台頭する現在、モビリティの未来を切り拓く鍵を握るのは若手の力。自動車業界のエンジニアには、これまで以上に果敢な挑戦が求められていると吉澤は言います。
「電子やソフトウェアに関わる分野はエンジニアにとって、課題解決は日常そのもの。発生した問題への対応はもちろん、自ら設定した課題に対しても、難題から目を背けることなく、挑戦を続けることが理想的なエンジニアリングの姿だと考えています。
一方で、技術職には標準化が進み、誰が行っても一定の成果が得られる仕組みが整い、失敗を経験する機会が減っています。そのため若手が失敗を含めて新しいことに挑戦できる環境をつくっていかなくてはなりません。
また、新たな取り組みを進める際には収益性が問われますが、いま取り組んでいるプラットフォームやサービスの提供においては、綿密な収益計画を立てるのは困難です。試行錯誤を繰り返しながら、「お客さまに響く価値はなにか」それを手探りで見つけ出していく強靭な精神が求められると感じています。
さらに、従来にはない幅広い業界との連携も重要です。ソフトウェアを活用して新たな価値を生み出すためには、自動車のエンジニアリングに関する知識と、人間工学に基づくドライバー中心のサービスの知識、この両方が必要です。入り口はどちらでも構いません。そのどちらにも好奇心を持って深く探究できる姿勢が何よりも重要だと思っています」
好奇心を原動力に。ソフトウェアの力でより楽しい移動体験を
クルマの本質的な価値を追求し続けてきた日産自動車。めざすのは、最新のソフトウェア技術を活用しながら、より安全で快適な、そして“楽しい”移動体験を提供することです。
「何よりもまず、乗ることそのものが楽しいと感じられるかどうかが、私たちのクルマづくりの原点です。ハードウェアとしての価値があって、それをさらに魅力的なものに進化させるのがソフトウェア技術の役割だと考えています。
より豊かな移動体験を実現するには、ハードウェアとソフトウェアが一体となることが不可欠です。たとえば、目的地を設定してGOボタンを押すだけでクルマが自動的に動き出し、ユーザーのお腹が減っているようなら『そろそろお昼にしませんか?』と周辺のレストランを提案するなど、クラウド上のサービスプラットフォームと連携し、蓄積された個人データも活用しながら、快適で楽しい移動体験を実現する。それが、私たちが描く未来のクルマの姿です」
そんな次世代のクルマづくりを実現するために。日産自動車がいま求める人材像について、吉澤は次のように続けます。
「必要なのは、挑戦する意欲と、困難に直面しても逃げずに取り組む強い意思です。好奇心旺盛で、新しいことを積極的に吸収する姿勢こそが、将来的な成長の基盤になると考えています。
また、自分自身だけでなく、周囲の人々に関心を持ち、巻き込む力も重要です。人とのつながりを大切にし、チームで協力しながら成果を追求できる人が、持続可能なモビリティ社会の実現に貢献できると信じています。
自動車に関する専門知識は必須ではありません。異業種での経験を持つ方の参加も歓迎します。変わらなければ淘汰されるだけですが、それだけに、自動車業界ほど新しい挑戦ができる舞台はないはずです。
どう変わっていくべきか、そしてどう新しい価値を創り出していくべきかを、皆さんが中心となって切り拓いてほしい。自ら理想とする未来を描き、それを実現していく若い世代のエンジニアたちの力に大いに期待しています」
吉澤のもと、リーダーとして現場エンジニアを牽引する冨田・杉本のインタビューはこちら↓
※ 記載内容は2024年12月時点のものです
