コロナ禍などをきっかけに全社員が立ち上がる。鉄道業界の明るい未来をめざして
新型コロナウイルス感染症の流行などに伴い、大きな打撃を受けた鉄道業界。中でも九州旅客鉄道(以下、JR九州)は災害や人口減少などの影響もあり、全社員が企業としてのあり方を見つめ直すきっかけになったと言います。
徳永:新型コロナウイルス感染症の影響を受け、当社ではまずBPR(業務改善)プロジェクトを集中的に行いました。私はこのプロジェクトにも参加していたのですが、ここでは当時大きく減少してしまった利益を回復させ、鉄道サービスを安定的にお客さまへ供給できるよう、業務を見直し無駄なコストを省くなど、「守り」の対策が中心になっていたんです。
その後、中長期的に「守り」だけでなく、鉄道業界が明るくなるような「攻め」の施策にも力を入れていこうという思いを込めて誕生したのが「未来鉄道プロジェクト」です。
迫:「未来鉄道プロジェクト」は2030年度まで視野に入れて収支改善をめざす大きなプロジェクトです。これを達成するためには、会社そのものを守っていきながら、未来を見据えて収益が見込める施策を検討し、よりスリムで筋肉質な組織を作る必要があると感じています。
AIやドローンなどの最新技術も駆使しながら「最終的には『10年先の当たり前』を作りたい」と語る3人。現在は幅広いプロジェクトを取りまとめるために奔走しています。
迫:2022年7月からメンバーとして参加し、2022年度は目標達成に向けたアイデア出しに注力していました。今年は集まったアイデアを実現化するために何が必要なのか、どのように進めていくべきかなど、実施に向けた検討を中心に取り組んでいます。
二世:私も迫と同じように、今年はアイデアをいかに実現させていくかというところに注力しています。加えて、現場の社員からも「『未来鉄道プロジェクト』ってどうなっているの?」と興味を持ってもらえているので、どんなことに取り組んでいるか全社員に伝わるよう、広報活動にも力を入れているんです。
徳永:目標値がしっかり定まったプロジェクトなので、施策が予定通り進んでいくようしっかりグリップしていくのが私たちの大きな役割の1つです。プラスして、常に新しい技術や制度にもアンテナを張り巡らせ、より良くなる部分がないか考えることも大切にしています。
多様な部署のメンバーが集い、未来の鉄道について考える
全社員の危機感からスタートしたこのプロジェクト。メンバーのほとんどは公募制で、迫と二世は自ら応募してプロジェクトメンバーに参入したと語ります。
迫:当時、私は運転士として、鉄道を実際に運行する業務に携わっていました。コロナ禍をきっかけに「このままではいけない」と感じ、2021年度に「リーダー研修制度(各職場におけるリーダーや将来の管理者の育成を図る若手社員を対象とした公募制研修制度)」を受講し、グループ会社の業務の体験や、さまざまな部署の人と一緒に課題に取り組むなど、コミュニケーション力や行動力などを学びました。
翌年度の2022年度に「未来鉄道プロジェクト」の話を聞いて、「鉄道の未来を考えるっておもしろそうだな」、「自身の成長のためにもチャレンジしたい」と感じたのが、応募の決め手になりました。
二世:私は工務部で信号通信設備の保守に携わっています。「未来鉄道プロジェクト」に応募した大きな理由としては、私が担当する区間の設備の作りが国鉄時代から大きく変わっておらず、障害が起こりやすいなどのトラブルを肌で感じていたからです。「このままではいけない」という気持ちがずっとあったので、このプロジェクトは大きなチャンスだと感じました。
徳永:私も二世と同じ工務部で土木部門出身なのですが、将来施策や新技術の導入に携わる業務をしていたので、仕事の延長線上でプロジェクトに参加することになりました。プロジェクトにかける思いは公募で入ってきた人たちと変わりません。
このように、さまざまな部署のメンバーが集まって1つの目標に向かって取り組むことで、多様な学びがあると言います。
二世:今回は、1つのチームにさまざまな部署の人が集まる「クロスファンクショナルチーム」で動いているのが刺激的です。他部署の人とやりとりすることで、知らなかった知識を学べたり、社内でも新しい人に出会えたりするので、純粋におもしろいですし、やりがいを感じます。
迫:確かに人脈が広がっていくのは楽しいし、やりがいを感じますね。また自分自身が未来のために施策を考え、それが形になっていく光景を見るのも、すごく嬉しい気持ちになります。
徳永:鉄道業は毎日利用し続けることが前提のサービスですから、これまでも「持続可能性」というキーワードを各部署がそれぞれ大切にしてきました。クロスファンクショナルチームによって、「持続可能性」に全社一丸となって取り組めるようになり、随分と裾野が広がったのではないかと思っています。
またコロナ禍という苦境を経験した後で、会社も変化を受け入れやすい雰囲気になったと語ります。
二世:コロナ禍で会社が一時的に大きなダメージを負ったことにより、設備などのあり方そのものを会社全体があらためて考え直すようになったと思います。必要なもの、そうでないものをしっかり見極めて、必要なものだけ残すという精神が育まれたと感じています。
広がる新しいアイデア。お客さまにもスタッフにも利便性の高い鉄道であるために
企業の利益を追求しつつ、お客さまにとっても利便性の高い鉄道をめざす「未来鉄道プロジェクト」。取り組みの一例をそれぞれが語ります。
迫:私が所属する未来の輸送体系の取り組みとしては未来のダイヤ、効率的なオペレーション、環境にやさしい鉄道、未来の働き方について検討しています。やはりインパクトがあるのは、自動運転でしょうか。
今後加速する労働力不足の打ち手としてすでに香椎線では運転士資格を持たない乗務員による自動運転が実施されているのですが、われわれはこれを拡大し運転士以外で列車を動かせる社員を増やすことで効率的なオペレーションを実現できないかと考えています。
また将来的にシステム化・機械化が進むことで、お客さまの目に見える仕事が減少し社員がやりがいを失うことがないよう、効率化とやりがいのバランスを取っていきたいと考えています。
徳永:電車もそうですが線路や設備のメンテナンスに関する自動化にも注目していただきたいですね。これまでは雨の日も風の日も人力で点検・修理をしてきましたが、これからはドローンやAIなども活用して、安全性は確保しながらより生産性を高めたメンテナンスが行えるようになっていく予定です。
二世:私は統合旅客案内システムに期待をしています。駅のホームには発車標と呼ばれる電光掲示板がありますが、今はそれぞれの駅で管理されている状況なので、駅員のいない時間帯には稼働しないなど、お客さまにとって不便な側面がありました。発車標を中央集約化し、管理しやすくすることによって、24時間お客さまをご案内できるようになる予定です。
そのほか、来る人口減少に向けてスタッフのマルチスキル化にも力を入れていると語ります。
迫:輸送体系チームでは、未来の働き方に向け駅員・車掌・運転士の働き方を融合できないかと検討しています。会社としてもマルチスキル化を推奨する動きが活発化しています。
子育て世代の社員も多く、両立に悩む社員もいるので、そういった社員でも働きやすいよう、働き方のバリエーションは増やしていきたいですね。実際、他社では、本社業務と乗務員を兼任しているという例も耳にします。1人の人がさまざまな業務を行えるようになることで、社員全員の働きやすさにつながると嬉しいですね。
徳永:2023年に部署が統合し「工務部」が発足したこととも関係するのですが、専門性の高い仕事を機械化するなどして、複数の保守工事・メンテナンス工事を少数の人が一挙に担えるようにならないか検討しています。たとえば工事を行う際はだいたい停電作業が必要になることもあるので、停電させるのに必要なスキルをマルチスキル化や機械化するなど、できるだけ少人数で作業ができるようになるといいですね。
「未来鉄道プロジェクト」のその先へ。時代に合わせて変化し続ける鉄道をめざす
「未来鉄道プロジェクト」では2024年度までをファーストステージ、2030年度のゴールまでをセカンドステージと定め、それぞれの取り組みを実施。1つの区切りとなる2024年度に向けてそれぞれが意気込みを語ります。
徳永:2024〜2025年度は現在開発に力を入れている機器や端末などがようやく形になるころ。実際に皆さんに披露したり、現場で試したりすることができるようになっているはずです。当然、少しでも早く導入ができそうなものは早く取り入れたいと考えていますので、2024年度を1つの区切りとして頑張っていきたいです。
迫:私は、経済運転の取り組みを拡大させることで、動力費の削減に取り組んでいます。運転操縦のデータなどを活用し、現場の運転士と打合せを重ねながら動力費を少しでも削減できる運転方法を模索してきました。
未来鉄道の経済運転の取り組みとして、2030年度までに数億円の動力費削減を目標としているのですが、2024年度までに少しでも多く削減できるよう、運転職場と一丸となって、目標達成に向けた土台や仕組みを構築するとともに、少しでも早く最終目標を達成するために知恵を絞っていきたいですね。
二世:私の取り組みは鉄道の整備に関するものが多く、各種法令によって第三者の安全評価などクリアすべきテストが山積みなんです。2030年度までに実際に活用できるようにするため、現在大急ぎで業務を回しているのが現状。目線はすでに2024年度ではなく、2028〜2029年度あたりをめざし、今凄まじいスピードで準備をしているところです。
3人それぞれがJR九州の発展に向けて邁進している中、その先の未来についても思いを馳せます。
二世:今はまだ「未来鉄道プロジェクト」が開始して1年半ほどで、みんな高いモチベーションでそれぞれの課題に取り組んでいるのがわかります。ただ、このプロジェクトは数年続いていきますので、何年経過しても高いモチベーションが保てるよう、事務局側としていろいろな工夫をしていきたいですね。
迫:まずは定量的に定められた目標を達成し、1つの土台として成り立たせたいです。私自身は輸送体系の中で立てた目標を達成できるよう、一つひとつの施策に真摯に取り組み、2030年度には目標を達成したと言えるようにしていきたいです。そして次の取り組みにつながるようなプロジェクトにしていきたいですね。
徳永:私も2030年度の山頂は少しずつ見えてきているので、その先のことを考えていきたいです。時代の移り変わりに伴い、情勢の変化や技術の進歩など、これからもさまざまなことが起こってきます。ですから「2030年度で終わり」というのではなく、その先もより良い未来を描く取り組みが続いていくようにしていきたいと感じています。
※ 記載内容は2023年12月時点のものです

