責任者として土木工事の施工管理を担当。自分にも相手にも誠実に向き合う
現在、田中は前田建設工業の関西支店で、大谷トンネル工事の施工管理を務めています。
「トンネルや橋台などの構造物を築く土木工事において、工事全体の現場を監督する土木施工管理が課長である私の役割です。現在の現場は、岐阜県の大谷トンネル。2022年3月〜2025年2月末の36カ月をかけてトンネル延長 約2.8kmのうち約1.4km を延長する工事です。
作業は順調に進行しており、発破によりトンネルを掘り進める掘削工事が折り返しに差しかかり、先月から仕上げのコンクリートを打設する工事に入りました。施工する協力会社のメンバーは、掘削班が10人、コンクリート打設班が5人の15人体制。掘削班は7時~17時の昼勤と19時~翌5時の夜勤に分かれて作業しています」
田中が担うのは、現場の責任者というポジション。工程管理と安全管理が主なミッションです。
「現場に危険な箇所があれば、施工会社の方に改善をお願いします。また、夜勤当番の際は現場巡視や、トラブル対応をしたりもします。加えて、社外向けの対応も私の業務のひとつです。発注先への対応や、地元の方、関係各所、就職活動中の学生が見学に訪れた際は、私が現場を案内し説明しています」
2023年で入社して11年目を迎える田中。いまも変わらず大切にしている価値観があると言います。
「自分自身や相手と誠実に向き合い、筋を通したいという想いがあります。そのために、上司や部下、協力会社と対話することを大切にしてきました。そう考えるようになったのは、社会人1年目に出会った上司の影響です。いつも誠実な態度を貫く女性で、とても尊敬できる方。模範にしながら、同じような振る舞いを心がけています」
震災復興の現場で活躍するOGの存在が励み。この10年で女性が働きやすい環境に
田中が土木の道に進んだのは、土木関係の仕事をしていた父親の影響でした。
「子どものころ、父親に連れられてダムなどの構造物を見学する機会がとても多かったんです。その後も大きなものをつくることへの憧れを育み、気がつけば、土木学科に進学していました」
そんな田中と前田建設との出会いは、東日本大震災。当時をこう振り返ります。
「大学3年生のとき、研究室で東日本大震災の被災地を1週間訪問して現地の惨状を目の当たりにし、自分も復興の力になりたいと思うようになりました。そんな折、建設関係の新聞を読んでいて見つけたのが、復興工事の現場監督として活躍する前田建設工業の女性社員の記事。驚いたことに、その方は私の大学のOGでした。
それまで、土木の仕事に関心はあったものの、女性が現場で働くことや、結婚・出産といったライフイベントがキャリアに影響することに不安があり、一歩を踏み出せずにいたんです。先輩が現場で奮闘する姿を見たことで、そんなためらいが一気に吹き飛ばされました」
選考の過程で、新しいことに挑戦する同社の柔軟な社風に惹かれたと言う田中。
「就活中にお会いした社員が親切な方ばかりで、相性の良さを感じたことは当社を選んだ理由のひとつです。社員の人柄の良さは、入社後も実感しています。工事に携わる皆で現場を盛り上げていこうとする雰囲気はとても好感が持てます 」
一方、田中の入社時の女性社員数は、土木部門で17人であり、土木職員全体の2%に満たない状況でした。 当時の現場には、女性が働く上で改善の余地が多かったと振り返ります。
「10年前は現場に女性がいること自体が珍しく、女性用トイレはありませんでした。また、女性が男性と同じ仮設宿舎に宿泊するには制約が多く、 私だけ現場から離れたアパートからの通勤を余儀なくされたことも。
そこで、関西支店の女性社員で働きやすい職場を作るためのチームを結成したんです。その名も『乙女の会』(笑)。女性社員が各現場を回って、お互いに環境改善のためのアイデアを出し合う会です。
たとえば、仮設宿舎の建設時には、『体調不良時に更衣室で横になれるよう、更衣室にラグ等を敷いてほしい』『トイレの入口の前に目隠しをしてほしい』といった具合に、一つひとつ現場に提案。こうした取り組みが実り、結果的に男女問わず働きやすい環境が整っていきました。
いまの宿舎は、男女共に風呂・トイレがセパレートになったワンルームアパートのような部屋に。『サウナをつくってはどうか』という話も出たくらい、最近は男性も積極的に希望を出すようになりました。残念ながらサウナはまだ実現していませんが、性別に関係なく、職場は誰にとっても快適であるべきだと思っています」
そして現在、同社の女性土木技術者は100人弱に。女性の姿を現場で見かけるのは珍しくない時代になりました。
夢は、地図に名を刻む仕事をすること。そして、それを未来の子どもと分かち合うこと
入社後、田中はトンネル工事だけでなく、さまざまな現場を幅広く経験してきました。
「1年目は阪神高速道路の開削トンネル工事、次に新名神高速道路の山岳トンネル工事の施工管理に3年携わり、営業推進部では積算業務に2年従事しました。
その後、北陸新幹線の上部工工事(橋りょう工事)の施工管理を1年ほど担当した後、いまの現場へ。私の経歴の中では山岳トンネルが長く、大規模なトンネル工事は現在進行中のものがふたつめです。また、この10年で火薬やコンクリートに関する資格と、一級土木施工管理技士も取得しました」
これまでのキャリアの中で、田中には忘れられない出来事があると言います。
「入社2〜5年目まで担当した新名神高速道路のトンネル工事のことが印象に残っています。最初の坑口(トンネルの入り口)を付けるところからトンネルが貫通するところまで、一連のトンネル本体工事すべてに初めて携わった現場でした。まだ経験が浅かったので、測量や材料の管理、検査官への対応、機械の故障、夜間工事中のトラブル対応など、思うようにこなせず必死の毎日だったと記憶しています。
仕事がきつく感じられることもありましたが、遠隔操作でトラブル対応できるように工夫するなど、負担を少なくする体制を構築しながら、なんとか困難を乗り越えてきました。そんな苦労があったからか、トンネルが貫通した瞬間の感動は想像をはるかに超えていました」
そしていまも、工事が完成したときの達成感は格別だと語る田中。
「この仕事の醍醐味は、最後に完成した瞬間に尽きます。『やった、やってやった!』という、なんとも言えない気持ちが込み上げてくるんです。
ダムやトンネルは完成すると地図にその名が刻まれ長く残ります。そんな構造物を築くこの仕事を、とても誇りに思っています。将来、自分に子どもができたら、私が手がけた構造物を『ママがつくったんだよ!』と伝えることがいまの私の夢です」
技術の進化を楽しみながら、自分らしいリーダーをめざして
最近、「楽しそうに仕事しているね」と声をかけられることが増えたと言う田中。前田建設工業で土木工事に携わる醍醐味についてこう話します。
「見学者に現場を案内していると、『なんだか楽しそうだね』とよく言われます。そのたびに、自分がこの仕事に向いていると思えてうれしくなります。実際、楽しいのは事実ですから。
たとえば、2014~2017年の新名神高速道路のトンネル工事では、オペレーターが機械を手動操作することで、発破する火薬を入れるための孔を1カ所ずつ掘っていましたが、その孔をいまは機械が自動で掘ってくれています。
また、トンネルとひと口にいっても実にさまざまです。山が違えば地質も支保(崩落などを防ぐ仮構造物)の構造も異なるため、掘削に適した機械、工法など、採用する技術がまったく違ってきます。新しい現場に行くたびに、そうやって技術や工法を新たに学べるのはとても新鮮な経験です」
そんな田中の現在の目標は、自信を持ってマネジメントに取り組むこと。現場の責任者として、めざす姿があります。
「機械化や技術の進化にともなって、今後は現場に配置する人数も減っていくでしょう。現場の管理職はICTの知識など、求められるスキルが大きく変化してきていると感じます。
そんな中、着実にキャリアアップしていくためにも、技術士の資格を取得したいと考えています。技術士は、土木工事のエキスパートとして認められる最上位の国家資格。難関とされていますが、当社には資格取得をバックアップする制度があります。さらに成長するきっかけにしていきたいです」
また、課長に就任して1年。自分らしいリーダー像も模索中です。
「私はぐいぐい引っ張るタイプではないので、メンバーに寄り添いながら士気を高めていけたらと思っています。まだまだ未熟ですが、メンバーが困っていたり、うまく回らないところを率先してサポートしたりしながら、誰もがいきいきと働けるチームにしていけたらいいですね」
原動力は、工事が完成したときの、あの達成感。これからも田中は、自分らしい仕事を追求し続けます。手がけた仕事が、地図に名を刻むその日まで。
※ 記載内容は2023年11月時点のものです
