日本の技術を、世界へ。モノづくりへの想いに導かれ、製造現場の変革に挑む
幼少期から、のりものが好きだった美濃。やがて関心は機械工学へと広がり、大学では最先端の複合材料と向き合いました。
「祖父母の家の近くに短い単線の鉄道が走っています。私は幼少期その電車をみるのが大好きだったと聞いています。また設計エンジニアの父の影響も少なからずあるのかもしれません。
学生時代はCFRPという、炭素繊維と樹脂を組み合わせた複合材料の強度評価に取り組みました。強度を保ちつつ、金属より軽量化できる一方で、複合材料は破壊メカニズムが複雑という特徴があります。実試験ベースの疲労強度確認が中心のこの材料を、社会へさらに普及するため、数値シミュレーションと実試験疲労強度の一致というテーマで研究していました」
素材研究を通して企業や開発機関とかかわる中で芽生えたのは、「社会に役立つモノづくりに貢献したい」という想い。大きな舞台で挑戦したいという志向と重なった先にあったのが、株式会社日立製作所(以下、日立)でした。
「就職活動ではさまざまな会社に興味を持ち、積極的に行動していました。その中で鉄道業界に強く惹かれたのは、世界最高峰の技術に触れられると思ったからです。とくに車両メーカーであれば、国内だけでなく海外にもマーケットが広がっています。
当時、日立はイギリスの大型鉄道プロジェクト(IEP)が大きなニュースになっており、グローバルに事業を展開していました。ここでなら鉄道に携われるだけでなく、フィールドも可能性も広げられると考え、入社を決めました」
現在、美濃が在籍する笠戸事業所は日立の鉄道ビジネスユニットにおける鉄道車両製造の中核拠点です。一貫生産体制のもと、“次のモノづくり”を支えています。
「笠戸事業所には、設計・製造・品質保証の3部門があり、私は製造部門のDXを推進するMX推進グループに所属しています。MXは“マニファクチャリング・トランスフォーメーション”の略で、作業者の安全性向上や製品品質向上に取り組んでいます。
『すべての人に安心を届ける』というスローガンのもと、現場の課題を可視化し、デジタル技術を活用して改善につなげています」
現場起点の業務改革に確かな手ごたえ。挑戦の舞台は、グローバルへ
入社後、美濃は生産技術開発課を経て車両生産本部構体課へ。そこで最初に手がけたのが、車体の「側ビード処理」と呼ばれる仕上げ工程の改善。きっかけは、現場で抱いた素朴な疑問でした。
「電車には塗装を施さない車両があります。塗料を塗らないということは素材そのものが外観のできに直結するため、表面の仕上げ精度がとても重要で、人の手で何時間もかけて磨いていました。
その工程を見たときに、『なぜこんなに人手がかかっているのだろう』と疑問に感じ、上長に話したところ、『それをテーマに改善活動をしてみたら?』と言われたのが始まりです」
人の感覚に頼っていた作業を、データで置き換える改善プロジェクト。美濃は自らが主導する形で多くの関係者と協力してやり遂げました。
「表面の粗さを数値で測定し、設計部門とも議論しながら、『このレベルなら品質を満たせる』というラインを定義していきました。それまで2人で数時間かけていた手作業を、ベルト式の機械に置き換えることで、作業時間を約半分に。品質を落とさず、負担を大きく軽減できました。
製品の外観は、お客さまが最初に目にする部分です。高い品質基準をクリアするのは簡単ではありませんでした。それだけに、設計部門から正式にOKが出て製品に適用できた時はとてもうれしかったですね。現場の皆さんにも喜んでいただけました。効果が目に見える改善には、大きな手ごたえを感じます」
その後、組織の立ち上げとともに現在の部署に移った美濃。DXを担うチームで任された最初のテーマは、現場の進捗管理のデジタル化でした。
「以前は1日何千枚もの紙で管理していた作業記録を、タブレットを用いたデジタル記録に置き換えました。インターフェースや必要な端末台数の設計から現場へのタブレット配布までIT部門や総務、現場と連携して遂行しました。単なるツール導入ではなく、仕組みそのものの改善です」
デジタルは目的ではなく、手段。現場の課題に真正面から向き合う姿勢が、モチベーションにつながっていると話します。
「今の時代、かつては解決できなかった課題でもデジタル技術で解決できるものもあります。DXの視点でさまざまな現場課題に向き合えることが、やりがいになっています」
入社5年目。さらなる成長を求め、美濃は海外業務研修でイタリアのグループ企業へ。海外を舞台に、DX推進を体感する機会を得ました。
「現地チームは、イタリアの各拠点や北米の新工場を中心にグローバルにDXを統括しています。私が担当したのは、現場の要望を整理して仕様書に落とし込み、最適なパートナーを選定し、取り組みの方向性を定める業務でした。
ヨーロッパでは、まず大きなDXのビジョンを描き、現場の課題を徹底的に言語化した上で合意形成を図ってから動き始めます。大手競合が身近にいる環境も影響していると感じました。課題抽出の段階から社外と深く連携する日本のやり方とは異なる視点を学べたことは、非常に有意義でした」
入社当初からの目標のひとつだった海外での挑戦。こうした経験ができるのは、グローバルに事業を展開する日立ならではだと美濃は言います。
「笠戸と同じように鉄道車両をつくる工場と情報連携できる機会は多くありません。ここにOne Hitachiの強みを感じました。現地では、同じグループだからこそ戦略や意思決定プロセスから投資額までオープンに共有してもらえました。
当時、国内でDXのアプローチに悩みながら取り組んでいた時期だったので、単なる語学研修で終わらず、実践的な学びとして多くを吸収できたことは、キャリアの大きな糧になったと感じています」
1年間の業務研修を経て帰国した美濃。現在は、新しい建屋での効率的な生産体制の構築に取り組んでいます。
「笠戸の製造ラインは100年を越え、大きな転換点を迎えています。新しい建屋では資材を探す、という無駄を排除する仕組み作りに挑戦しています。日立グループ内の社会ビジネスユニットと連携したほか、アメリカで先行した新工場の仕様を参考にもらうなど、サポートしてもらえることも多いです。海外で学んだ、課題を定義し最適なソリューションを選定するプロセスが、笠戸事業所の現場で生きています」
挑戦を後押しする文化が、成長を育む。豊富な学びの機会が、視野を広げるきっかけに
入社前に思い描いていた通り、日本が誇るモノづくりに携わり、それが社会インフラとして世界で役立っている実感こそが日立で働く醍醐味だと語る美濃。その根底にあるのが、挑戦を歓迎するカルチャーです。
「課題意識を上長に伝えると、『一度考えてみたら?』『まずはやってみるといいんじゃない?』と背中を押してくれます。ボトムアップで挑戦できるのが、笠戸事業所、ひいては日立のよさだと思っています。 もちろん上長には、その先にあるリスクも見えているはずです。それでもまずは任せてくれる文化に支えられてきました」
変化を恐れないのは、人だけではありません。新しい技術や考え方を積極的に取り入れる風土も、日立らしさです。
「AIサービスの活用を進めたり、スマートファクトリーではイタリアやアメリカ他拠点の考え方を取り入れたりと、大きな変革プロジェクトがいくつも並行して動いています。
新しい仕組み作りに前向きに取り組めるのが日立の強み。現場のライン改善も日常的に行われていますし、古いやり方に固執せず、常にアップデートしようとする姿勢には強く共感しています」
日立の充実した教育制度も、美濃にとって成長の原動力のひとつ。体系的に学ぶ場が、キャリアの幅を広げる基盤になっています。
「IMDというヨーロッパのビジネススクールが実施するグローバルの短期講座に参加し、そこでDXの考え方を学びました。これまでビジネスの視点でDXを考えたことがなかったので内容も刺激的でした。また、グループ内のさまざまな分野で活躍する海外メンバーとのディスカッションも印象的でした。
異なるバックグラウンドの視点に触れながら、毎週の課題に取り組む中で自分の理解できていない部分を明確にすることができました。班のメンバーは拠点がバラバラなので時間調整も一苦労でしたけどね」
現場のリアルな課題に向き合い続け、“最強の工場”を形に
次世代のモノづくりを実現するために、美濃が何より重視しているのが現場。めざすのは、“今そこにある”リアルな課題に寄り添い、解決できる存在です。
「製造ラインの課題を一番よく分かっているのは、現場の方々です。彼らの役に立つことこそが、改善の正しい方向性だと考えています。『どうすれば現場の役に立てるか』を考え続けていきたいです。
チームメンバーの多くは設計や生産技術の経験者で製造ラインを熟知しています。一方で、私はこれまで生産ラインを担当したことがありません。人より時間はかかりますが現場をしっかりと理解し、自分の力で改善を回せるようになることが目標です」
DX推進のその先に描く未来──美濃には、笠戸事業所のビジョンがあります。
「日立は、IT(情報技術)・OT(制御/運用技術)・プロダクト(製品)を融合した社会イノベーション事業を推進していますが、笠戸事業所はそのうち、OTやプロダクトをリードする拠点です。
まだまだ進化の余地はあると思っていますが、それを考え、実装していくのが私たちの役割。ITを強みとする部門や他拠点としっかり連携して他社の手本となるような“最強の工場”をつくりたいですね」
そんな未来を実現するために、美濃が求めるのは、変化を味方につけ、ともに進化できる仲間です。
「大きい会社なのでいろんな人がいていいと思います。それが多様性という強みの1つにもなります。MXグループではとくにポジティブであることが重要だと思っています。DXの取り組みでは、作業フローを大きく変えるため、どうしても制約条件や『できない理由』が先に浮かびがちだからです。
現実的な視点ももちろん必要ですが、『どうすればできるか』を建設的に考えられる人と一緒に、これからの製造現場をつくっていきたいです」
現場と向き合い、変化を恐れず前へ──美濃のひたむきな挑戦が、これからのモノづくりの景色を変えていきます。
※ 記載内容は2026年2月時点のものです
