「伝えること」が、新たな挑戦を呼び込む。自分の考えを発信することで広げたキャリア
幼少期からプラモデルやミニ四駆などのものづくりに親しみ、高専の情報工学科に進学した福島。学生生活を送る中で、大きな転機となったのが生成AIの台頭でした。
「在学中にChatGPTの3.5がリリースされ、大規模言語モデルの進化に初めて触れました。今後のソフトウェア開発を根本から変える技術だと感じ、エンジニアとして乗り遅れてはならないという危機感と、AIが持つ可能性を追求したいという好奇心が芽生えたのを覚えています。
それをきっかけに、高専で学びながら、個人事業としてイベントやセミナーに登壇、またアプリ開発などにも取り組み、学生AIコミュニティの運営も始めました。並行して力を入れていたのがSNSでの情報発信です。自らの考えをわかりやすく伝え、誰かの学びに貢献できることに喜びを感じました。この経験は、現在のエバンジェリストとしての活動にもつながっていると感じます」
個人事業での実績を持ちながらも、福島は起業やフリーランスではなく就職する道を選択。自身のビジョンを実現できる舞台を求め、富士通に入社しました。
「富士通を選んだのは、大企業でありながら社員の挑戦を尊重する自由度の高い社風があったからです。自律的な個人の成長や経験、将来に向けての成長につながる活動に、業務時間の10%まで参加できる『FUJITRA10』(※1)や、社員が自らキャリアを選択できる社内公募制度など、自分のやりたいことを実現するための制度が充実しているほか、社内横断的なコミュニティが数多くあります。
技術のトレンドが凄まじいスピードで変化する現代において、自律的にキャリアを描きながら成長できる環境はとても魅力的でした。それが富士通への入社を決めた理由です」
入社後は、インフラギルドと呼ばれるデリバリー部署に配属。富士通の開発手法に沿ったテスト工程を担当する傍ら、社外での活動にも積極的に取り組みました。
「社会人1年目の中でも印象深いのは、国会議員会館に登壇し、AI時代の日本の教育をより良くしたいという想いを発信した経験です。教育関係者から多くの共感をいただき、若い世代の声を届ける意義を実感しました。
こうした活動や、社内でのAIイベントで優勝したことがきっかけで、現在、所属する部門のシニアディレクターから声をかけていただき、AI Innovation Centerへ異動しました。自らの考えを言語化して発信することは、新しい挑戦の機会を引き寄せることにもつながっていると感じます」
※1 FUJITRA10:業務時間の最大10%を、社員が自律的に学び、挑戦し、部門横断で活動するための社内支援制度
AIドリブンなシステム開発を実現する。人の知見と最新技術で生み出す新たな価値
社内異動を経て、現在福島が開発を進めている「AI-Driven Software Development Platform」。ソフトウェアの要件定義から設計、実装、結合テストに渡る全工程を、AIエージェントが協調し実行する新たな開発基盤として注目を集めています。
「『AI-Driven Software Development Platform』は、システム開発の常識を変える次世代のプラットフォームです。単にコードを生成するのではなく、要件を満たすまでAIが自律的に修正と検証を繰り返して完走してくれます。その仕組みを支えているのが、『AI-Ready Engineering』というアプローチです。現場の資産や知識暗黙知やノウハウを、AIが扱える形に再構築していきます。これによりAIが既存システムを正しく理解し高信頼な自動化を実現することが狙いです。
AIがコードを書くことにより、人間の役割は『設計』と『レビュー』の意思決定にシフトしていきます。AIが書くコードがスパゲッティコード(※2)にならないよう、要件要求をもとに最適な設計へ落とし込むことが重要です。一方、AIが夜間も休まずコーディングを進めるので、膨大なコードをレビューする人間の労力は増えることになります。この課題を解決するべく、レビューを支援するプラットフォーム『Review-Hub』(※3)をAI-Driven Software Development Platform のプロダクトの1つとして開発中です」
AIによる開発を自律的に進める上で、もう1つ課題となるのが生成AI特有のハルシネーションです。それを防止するための仕組みづくりにも取り組んでいます。
「とくに意識しているのが、機械的なテストによる強固なガードレールを設けることです。たとえば『要件を達成するためのテストケースを通過しなければ完了とみなさない』という厳格な制約を組み込みます。フォーマットの不備やエラーをシステム側からフィードバックし続けることで、AI自身がブレを修正し、期待する要件を満たせるよう工夫しています」
こうした『AI-Driven Software Development Platform』の高度な制御を担保する技術として活用されているのが、富士通がCohere Inc.と共同開発した業界特化型大規模言語モデル「Takane」です。これを中核とする独自のAIエージェント群が、法令文書や仕様、設計ルールを文脈まで含めて正確に理解し、協調しながら開発作業を実行しています。
「『Takane』は高い日本語能力を備え、セキュアなプライベート環境やオンプレミス環境で安全に利用できるセキュリティの高さが特長です。海外のLLMには難しい、日本ならではの業界知識や専門ドメインに特化することで、優位性を確立できると私は考えています。
一方で日々の開発業務では、ClaudeやChatGPTといった最新のグローバルモデルも積極的に活用しています。技術の進化が急速だからこそ、自社の技術や特定の手法に固執せず、目的に応じて最適なAIを柔軟に使い分ける姿勢を大切にしています」
※2 スパゲッティコード:プログラムの構造や処理の流れが複雑に入り組んでおり、全体像の把握や保守がきわめて困難になっている状態
※3 Review-Hub:AIドリブン開発のスピードを維持しながら、レビューと承認を支援するプラットフォーム
正解のないテーマに挑み続ける。実証を通じて示したAIによる変革のインパクト
システム開発の在り方を変革していく「AI-Driven Software Development Platform」のプロジェクト。まだ世の中にない新たな価値の創造をめざし、福島はチームで意見を出し合いながら複雑な課題を乗り越えています。
「私たちが挑むのは、AIによって開発工程を完全自動化するという非常にチャレンジングなミッションです。現場のエンジニアが持つ暗黙知をどう可視化し、どのような体験として届けるべきか。チームで議論を交わしながら試行錯誤を重ねています。AIを活用しながらつくっては検証し、方向性を修正しながらアジャイルにプロダクトを育てていく。その過程には、正解がないからこそのワクワク感があり、未来を自分たちで切り拓いていく楽しさがあります」
こうしてチーム一体となって進めてきたプロジェクトは、すでに大きな成果を創出。社内の実証実験では、従来3人月を要していた改修期間がわずか4時間に短縮され、生産性が飛躍的に向上しました。
「生産性が100倍になるという実証実験の数字を見たときは、本当に驚きました。これは富士通全体のビジネスモデルにも大きなインパクトを与える成果です。このように従来は人がやっていた作業の圧倒的な効率化が進んでいく中で、これからのエンジニアに求められるものが2つあると感じています。
1つは、最先端な『AI駆動開発』の手法をキャッチアップして学び続け、実務に落とし込んで生産性を高められるスキル。そしてもう1つは、人間が担うべき設計やレビューの工程において、成果物に責任を持ち、的確な意思決定ができる力です。この2つが次世代のエンジニアに必要になっていくと考えています」
要求される役割やスキルが大きく変わっていくAI時代。福島はエバンジェリストとして積極的な情報発信を行い、社内のエンジニアに「AI-Driven Software Development Platform」の利用を促すことで、最新技術の体験者を増やしています。
「実際に利用したエンジニアからは、『設計からテストまでの自動化という新しい開発感覚を体験できた』と、効果を実感する声が寄せられました。また、富士通のフラッグシップイベントでAI-Driven Software Development Platform の一部として開発中の『Review-Hub』を展示した際には、来場した多くのお客さまから『ぜひ自社で使ってみたい』という期待の声をいただきました。
私はこの新たな開発基盤を、現場のエンジニアのフィードバックを反映しながら全社を挙げて育てていきたいと考えています。熟練エンジニアが蓄積してきたノウハウと最新技術を掛け合わせることで、今までにない価値の創出をめざして挑戦を続けていきます」
日本から世界へ、大きなインパクトを。AI時代のシステム開発そのものを再定義したい
今後はお客さまやパートナー企業向けにもサービスの提供を開始していく「AI-Driven Software Development Platform」。世界市場を視野に入れ、日本発の技術でグローバルな競争に挑むための基盤づくりが着々と進んでいます。
「現在、いくつかのプロジェクトやお客さまにPoCとしてプロダクトをご利用いただき、業務を通じたフィードバックを得ている段階です。実際の現場から客観的な評価をいただくことで、市場で選ばれるための改善を重ねています。
その先にめざしているのは、日本から世界に大きなインパクトを与えられるプロダクトに育てることです。それを実現するには、プロダクトを通じて提供できる価値とは何なのかをしっかりと伝えていかなければなりません。世界に普及させていくためにも、技術が持つ可能性や具体的な使い方などを積極的に発信していきたいと考えています」
日本から世界をめざしていくためには、単に既存の開発をAIで効率化するだけではなく、AI時代のシステム開発そのものを再定義していく必要があると福島は考えています。
「私がその先に描いているのは、人間が一つひとつ作業をAIに指示する世界ですらありません。人間が『何を実現したいのか』という意図を伝えると、それを起点に大量のAIエージェントが要件を整理し、設計し、実装し、テストし、レビューする。成果物のエビデンスに限らず、途中で生まれた判断や根拠、失敗も記録され、次の開発ではその知識を使ってさらに良い判断ができる。人間は重要な意思決定に集中し、その意思決定さえ次のAIの行動につながっていく。そんな開発体験を実現したいと思っています。
今のAI市場は急速に進化しています。ただ、私たちがめざしているのは、“より賢くコードを書くAI”だけではありません。AIエージェント、人間、企業が持つ知識や意思決定をつなぎ、システム開発そのものが継続的に学習しながら進んでいく仕組みです。そのために、新しいエンジニアリングのあり方を実際のプロダクト開発を通じて検証しています。最終的には、人間が意図を伝え続けることでソフトウェアが育っていく。私はそこまでエンジニアリングを再定義したいと考えています」
AIが担える領域が広がるほど、エンジニアに求められる役割も変わっていきます。
「これからは、指示された通りに作業することだけがエンジニアの価値ではなくなっていくと思っています。AIが実装や検証を担えるようになればなるほど、人間には『何をつくるべきなのか』『なぜそれをつくるのか』を考え、責任を持って意思決定する力が求められます。
だからこそ、技術を使えるだけではなく、自分自身の意見を持ち、それを周囲に伝え、行動につなげることがこれまで以上に重要になります。
自らアクションを起こし、やりたいことを形にしていく方が仕事は圧倒的におもしろくなります。『AI-Driven Software Development Platform』を通じて、新たなエンジニアリングの醍醐味を1人でも多くの方に体感してもらえることを願っています」
※ 記載内容は2026年9月時点のものです
