保守コストと継続性の課題に生成AIを。予算と期間の制約に挑んだ基盤移行の全体像
2023年末、ある金融機関からのご相談を機に、このプロジェクトは動き出しました。従来のやり方にとらわれない解決策として、DXCのデータ & AI事業部は、生成AIを活用したデータベース基盤の移行を提案。これは当社にとっても前例のない挑戦でした。
検証を経て提案が採用され、2024年夏にプロジェクトが本格始動。データベースを扱うSQL言語には、システムごとに固有の記述の仕方があり、移行先でも同じ動きを再現できるように、その記述を変換することが移行の要でした。デリバリーマネージャーを務める大野のもと、移行のキーマンとなる3人(新卒5年目 ダンノ、新卒4年目 ジャミン、新卒3年目 佐藤)がそれぞれの持ち場に立ちました。
ジャミン:私は変換を担うツールの生成AIでの開発を任されました。2024年当時はまだ生成AIの入力トークン数に制限があり、長文のSQLを分割して処理する工夫が必要でした。また、生成AIは回答にブレが生じるため、同じ変換を繰り返し実行して結果を突き合わせ、安定したものを採用する仕組みも組み込んでいます。制約の中で知恵を絞り、しっかり成果を出せるツールに仕上げました。
ダンノ:私はこのプロジェクトで開発者として設計から開発、テストまでを担当しました。途中からはサブリーダーも務めています。「お客様の環境で確実に動作させるには何が必要か」を設計の起点にし、AIの変換結果の検証方法や、移行前後でどう処理が動くのかを徹底的に調べました。確かな設計をもとに、着実に精度を高めていきました。
佐藤:私は生成AIのプロンプトの作成から変換の実行、AIの対応範囲の見極めまでを受け持ちました。変換を実行すると短時間ですぐに結果がわかるので、AIの対応範囲を精査し、調整が必要な箇所はプロンプトを見直して再実行します。半日単位で改善サイクルを回せるスピード感が、このアプローチの強みでした。
こうした現場のスピード感ある開発の一方で、金融機関ならではの厳しい情報管理の徹底も求められました。その安全な前提を整えたのが、チームが定めた運用ルールです。
大野:AI変換はすべてDXCの環境で実施し、お預かりするのはプログラムのソースコードだけ。データは一切持ち出さない運用を徹底しました。資産をご提供いただく手順まで含めてルールを決めていたので、定期的に必要な監査書類の提出にも問題なく対応できました。
プロジェクトは2026年秋の完了に向けて終盤を迎え、一部は先行リリースされています。DXCの生成AI環境を有償サービスとして提供した、日本法人初の事例となりました。
挑戦を成長へ変える。若手に任せ、支える環境が3人を伸ばしたDXCの風土
プロジェクトの始動に先立ち、社内では生成AIによる変換の仕組みの検討が2カ月ほど前から進んでいました。大野はプロジェクトマネージャーと人選を重ね、2024年夏のプロジェクト始動と同時に3人をプロジェクトへ。ここから、それぞれの現場で挑戦が始まります。
ダンノ:それまではシステム運用保守に携わっていて、開発の実務は初めてでした。文系出身で開発経験もないスタートで「責任を持ってやり遂げられるだろうか」と不安でしたが、大野さんから「手を動かしながら学び、自信をつけてほしい」と声を掛けてもらえたので、自分なりのアウトプットで応えようと腹を括りました。
ジャミン:変換ツールの開発を任された私も、最初は手探りでした。当時は生成AIの出力が不安定でしたが、大野さんの「まずはやってみよう」という言葉に背中を押され、1~2カ月かけてプロトタイプを制作しました。お客様やメンバーの前でデモを披露した時、驚きと喜びの声をいただけたことは、今でも印象に残っています。実は、本当に自分に開発できるのだろうかと不安にも感じていたので、やればできるんだと驚きました。
佐藤:私は、新卒研修を終えて部に配属となり初めてアサインされたのが、このプロジェクトでした。精度を左右するプロンプト作成を任されたのは、参画してから3カ月目。当時は責任の重さに気づかないまま、わからない部分はその都度周りの先輩達に聞いて、技術的なサポートを受けながら形にしていきました。後から理解したのですが、プロンプトが誤っていて、それが単体テストや結合テストで発覚すると、プログラムの修正が必要になってしまう重要な業務です。
それを入社1年目の自分に任せてくれる、それがDXCの環境だと身をもって実感しています。難しい仕事を任せてもらえることと、なんでも相談しやすい環境の両方がそろっていることがDXCの特徴だと思います。
互いを思いやりながら伸び伸びと意見を交わし、高め合えるチーム環境と、現場での対話が3人の成長をさらに後押ししました。
ダンノ:プロジェクトメンバー一人ひとりが一生懸命に取り組んでいて、私が何か意見を出す時には、まず私の考えの道筋をしっかり聞いてもらえました。その上で「こうするともっと良くなる」という意見が返ってくるので、お互いのアウトプットの質を高め合える関係が築けていたと感じています。小さな疑問もその場で口に出せ、先輩や上司もあわせて確認すべき観点を教えてくれました。
大野:東京オフィスと大阪オフィスのメンバーが直接お客様の拠点へ足を運んだことも大きかったですね。メールやオンラインの画面越しでは伝わりにくいことも、直接お会いすることで解像度が上がります。打ち合わせでは若手それぞれが自分で作成した資料を用いて説明し、お客様の合意を得ていました。
お客様が何を考え、何に困っていて、どうしたいのか。その思いを直接聞いて対応してくれたのは大きかったと思います。プロジェクトに深く入り込んで理解し、伝え方も工夫していて、期待以上の活躍でした。
品質を担保する人とAIの役割分担。任せる範囲と決める範囲を見極めた現場判断
AIによる変換が問題ないか、単体テスト・結合テストと厳格な検証工程が続きます。どこまでをAIに任せ、どこから人が確認するのか──現場で試行錯誤しながらその境界線を定義していったのが、佐藤とジャミンです。
佐藤:AIも人もミスをする。その前提に立って体制をつくることが大切だと学びました。パターン化された変換はAIに任せ、判断が何度も重なる複雑なプロセスは人が確認する。どこか1つズレると後の結果がすべてズレてしまうので、最終的な判断は人が持ちます。役割を分けた上で、出力を必ず人の目で確かめる体制を敷けたことが、アウトプットの質とスピードの両立につながりました。
ジャミン:佐藤さんが言った通りですね。AIの価値は、単純な作業を同時並行で大量に引き受けられる点にあります。人が1つずつ行う変換作業を、AIなら100人分ほど同時に実行できます。今回もそのやり方で変換の下地を一気につくり、出てきた結果に対して人間が最終確認を行いました。AIに任せる範囲と、人がチェックする範囲。その境界点を見極められたのが今回のポイントだったと思います。
AIの出力を検証する工程では、チーム内のレビューが基準になりました。設計から開発、テストまでを担ったダンノは、そこで求められる水準を身をもって知ることになります。
ダンノ:検証で確認した内容はチーム内のレビューで共有されますが、「こういう時はどうなるのか」と設計意図から検証手順まで問われます。自分の口で根拠を持って説明できるところまで検証して初めて、お客様にお出しできる。開発の作業を実際にしてみて、その基準を体で覚えました。自分が理解して、自分の言葉で答えられる状態にしてから出す。そこまで想定を重ねます。
ジャミン:その感覚はツールをつくっていた時も同じでした。最初から答えがわかっているわけではないので、まず手を動かしてみる。自分の考えに周りの意見を取り入れてみると形になっていきますし、ツールをつくること自体がおもしろいと思えたので、確かめながら進めるプロセスも楽しめました。
ダンノ:未経験の領域に対しては、社内の生成AI環境を学びの入り口にしました。たとえば、初めて聞く概念が出てきた時は、まずAI環境で概要や用語の意味を調べ、自分なりにこう考えたと仮説を持ってチームのミーティングに臨み、有識者に確認するんです。そうして得た助言をもとに、もう一度AIでテストパターンを出して自分で検証を重ねる。言葉を知り、やり方を知って、点と点をつなげていきました。
AIが処理の量を引き受け、最終的な判断は人が持つ。その線引きは、現場での試行錯誤の末にたどり着いたものでした。
課題解決の最適解を追求し続ける。技術の変革期において金融DXを支援するパートナー
プロジェクトは完了までの最終盤へ。この現場で得た経験を、3人はそれぞれの次のステップに結びつけていきます。
ジャミン:変換ツールをつくった経験を携えて、現在は新しい現場に立っています。「迷ったらまず手を動かして検証する」というアプローチは今のプロジェクトでも続けていて、何かやりたいという相談を受けたら、まず自分で確かめるようにしています。新しい技術をビジネスで使う時に、「まずジャミンに頼めばいい」と思ってもらえる存在になりたいですね。IT業界は変化が速くて、そこがおもしろいところだと思っています。
佐藤:入社後初めての現場を経験して、作業に取りかかる前にどうアプローチするかを考える癖がつきました。これからもAIを使って仕事を進めていくので、どこをAIが担い、どこを人が担い、どこを一緒に進めるか。そこを決めてから動くように意識していきます。
基礎的な開発スキルに加えて新しい技術にも興味を持って学び続け、自分の技術力を上げることでお客様にご提案できる幅を広げ、お客様の競争力向上にも貢献したいです。
ダンノ:私はデータベースの移行を軸に経験を重ね、この2年で任される範囲が設計からサブリーダーまで広がりました。任された作業に対して自分の考えを出せた場面がいくつもあったので、「まずは引き受けてみよう」と自信が持てるようになりました。データの移行や周辺領域の専門性をさらに深めると同時に、次は自分の経験を新しいメンバーに共有できるようになりたいです。システムに対してもメンバーに対しても、俯瞰して考えられる人になりたいと考えています。
前例のない挑戦から始まった、約2年のプロジェクト。プロジェクト責任者として節目のお客様との打ち合わせに同席し、若手の活躍を見てきた大野は、これまでの歩みをこう振り返ります。
大野:今回は生成AIを活用したプロジェクトでしたが、私たちが大切にしているのは、お客様の課題に対して何が最適かを考えて提案する姿勢です。生成AIは1つの道具であり、課題の解決を実行に移す主役は人です。その中心となって若いメンバーが主体的に現場を引っ張ってくれました。実プロジェクトでしか得られない判断力やお客様との向き合い方を強みに、今度は自らリードし、次の世代にも伝えていってほしいと思っています。
※ 記載内容は2026年10月時点のものです
