日本発グローバルファンドを掲げるベンチャーキャピタル(VC)、DG Daiwa Ventures(以下、DGDV)からマネージングディレクター兼海外投資統括の金森 岳史とシニアプリンシパル兼国内投資統括の眞田 雄太の両名が、昨年開催の「Deep Tech で世界を目指せ」第2弾 JETRO・Hello tomorrow Japan共催イベントに登壇し、DGDVの提供する支援や投資先との関わり方、スタートアップのグローバル展開などについての考えをお話ししました。
※本記事は、イベントにおけるDGDV登壇内容の抜粋版です。

ディープテックスタートアップへの投資について
──ディープテックスタートアップでは開発に時間がかかることは一般的です。そのような企業に対してVCとしてどのように投資判断を下しているのでしょうか。
眞田 「DGDVは2016年の設立当初より、ディープテックを活用した革新的事業に取り組むスタートアップを中心に投資を続けてきましたが、正直なところ答えはないと思います。どこまでがプロダクトリスクでどこからがマーケティングリスクなのかの判断がきわめて難しいというのがディープテックの特徴です。逆にそれを見極めるためのヒントが欲しいというのが本音で、私自身常日頃いろいろな方にご意見を伺いたいと思っています。
ディープテックは最初マイナスで始まり、プラス域のJカーブがだんだん深くなっていくという感じで、その深くなっているところにマーケティングリスクなどが存在します。マイナスから始まり、当面マイナスでずっと進む期間や、どこまでくれば芽が出てくるのかを見積もり、そのマイルストーンの中でご支援いただける投資家や大企業が、どのくらい存在するのかを具体的にイメージすることがすごく大切だと思っています。
投資する際はこのように多角的な見方でマイルストーンを考えるのですが、往々にして半年くらい経つとその案はご破算になり、また考え直しということが続きます。もっと言えば半年だといいほうで、実際には3カ月ごとくらいに考え直している感じですね。これを何年間か続ける我慢力がディープテック投資家には必要だと考えています」
──それではディープテックに限らず、スタートアップ投資という観点ではどのような点を参考に、あるいは重視して投資判断をくだしていますか。
眞田 「スタートアップ投資で一番気をつけているポイントは、「これは嫌だ、不便だ」と思う課題が世の中にどのくらいの大きさで存在しているか、そのプロダクトが本質的にその課題をしっかりと解決しているかを見るということです。
これはディープテックにも同じことが言えて、それが成就した際に、どのくらいの社会的インパクトがもたらされるのかを最も重視しています」
金森 「私は海外投資を見ていますが、まったく同じです。世の中の不幸を少しでも減らし、幸せを少しでも増やし、世の中に対してインパクトを与えるようなテクノロジー、サービス、プロダクトかどうかが一番大事だと考えています。
とはいえ投資とはお金の世界でもありますので、事業計画や資本構成、会社の戦略について検証することは当然ですが、ベースには、この商品でいったい何がどう変わるのか、その熱意をこの起業家やチームがどれだけ持っているかも注目して確認していきますね。
逆にそういう熱量のある人たちとでないと働きたくない、とまで言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、人間同士のことですので、やはりわれわれのモチベーションにも影響があると思います。そして、われわれのモチベーションが湧くということは、その情熱的なエクイティストーリーは他の投資家にも刺さりますし、そのプロダクトを売っていく先のお客さんにもまた刺さっていくのではないかという仮説を持っています。理想論かもしれませんが、その根本の『想い』 を重視したいと思って、日々投資活動に勤しんでいます」
DGDVが提供する投資先への事業支援
──投資先支援と一口に言ってもいろいろとあるかと思いますが、DGDVでは具体的にどのような支援に取り組まれていますか?
金森 「DGDVは日本発のグローバルファンドとして、国内外を問わず投資先の事業支援についてかなり深く取り組んでおり、その内容は事業展開支援からカントリーマネージャーの採用支援などに至るまで、多岐にわたります。
たとえば、日本での事業展開支援として、投資先の1社である、カナダのブロックチェーンのディープテック企業の事例が挙げられます。このとき、われわれは規制の確認対応や金融庁に対するロビーイング活動から、日本での事業パートナーを見つけるというところまで一貫してお手伝いしました。
事業パートナーの1社は、DGDVの親会社でもあるデジタルガレージです。デジタルガレージは黎明期からインターネットの発展を支えてきたITの上場企業ですが、ブロックチェーンやヘルスケアなど、実はいろいろな新規事業を行っております。
もう1社はわれわれのファンドのLP投資家である東京短資です。東京短資は短期金融市場を中心に幅広く金融商品を取り扱う、金融市場インフラの担い手である企業です。投資先の有する基盤技術を活用し、事業パートナーであるデジタルガレージと東京短資の2社と共にCrypto Garageという合弁企業を日本で立ち上げました。
Crypto Garageはブロックチェーンを活用した金融サービスの研究開発および商用化を行う企業です。2021年6月には暗号資産交換業者登録も完了し、関連サービスの提供を開始しており、日本での事業展開、技術の社会実装を体現した形になります。
今後も同様の取り組みを増やし、海外のスタートアップが日本展開する際の事業支援や、逆に日本の企業が海外に展開するときの支援を広げていきたいと思っております」
日本のディープテックスタートアップについて
──海外と比べて日本のディープテックスタートアップにはどのような優位性がありますか。また、海外展開の容易性についてはどう考えますか?
金森 「われわれも日本のディープテックについてはすごくポジティブにとらえていますし、世界的に有名なファンドが日本企業に投資をすることも今後出てくるに違いないと思います。DGDVとしてもその動きを促進するために、リレーションのある海外のVCやアクセラレータ、CVCをわれわれの日本の投資先スタートアップにご紹介していくことを、かなり積極的に行っています。日本のスタートアップの広報担当になったつもりで、海外投資家にその魅力をお伝えすることを心がけています。
その中で思うのは、海外投資家は日本のスタートアップのエコシステムについて具体的なことについては知らないということです。しかし、日本がディープテックでずっと非常に強かった国だというイメージは持っています。
それもある特定の分野に限るだけではなく、すべての分野において知見が非常に蓄積されていて、人材も揃っています。大学の研究室から大企業に至るまで、そのテクノロジーを商品にして売っていくことを長い歴史の中で行ってきた国であるという、良いイメージを持っています。
他方で、なかなか日本の知り合いもおらず、個別にどういうスタートアップが存在しているのかわからないことが海外投資家の参入を阻んでいるような状況ですので、まさにそれを伝えていくことが、われわれのようなVCの役目だと考えています。
実際にこのような機能へのニーズの高まりや、これに対応できるVCも増えている実感はありますし、みな同様の考えを持って取り組まれているようです。5年、10年といった近い将来で見ていくと、この流れはどんどん加速していくと思います」
──海外展開を促進するという観点で、日本のスタートアップ側に求められるものはありますか?
眞田 「まず前提として、われわれは国内のスタートアップがグローバルに展開していく力は非常にあると思っています。日本の人材や、これまで蓄積してきたノウハウは非常に質の高いものであるからです。その中であえて視点として追加するとすれば、それは、日本は米中を除いて、ひとまとまりになっている市場として非常に潤沢な市場であることを意識していただきたいです。
非常に潤沢な市場であるからこそ、ここで最初のローンチにある程度成功すれば、そのトラクションや、生まれたレベニューを元にして、M&Aなどの手法も含めてグローバルで仕掛けていけるだけの資金が生まれるマーケットだと思っています。
たとえばエムスリーが非常にわかりやすい事例かと思います。まず国内で良質な医療情報をいち早く研究や臨床の現場に届け、しっかりと医師の目を引き付けるプロダクトを作り、そこから得た営業キャッシュフローをベースにグローバルにどんどんM&Aを仕掛けていきました。気がつけば世界中のほとんどの医師はエムスリーを参照しているという状況にまで成長しています。
このような戦略が取れるのは、土台となった日本のマーケット自体が非常に大きいからだと思っています。もちろん、この土台をうまく活かすためには、ファイナンスに関する知見や、英語力もやはり非常に重要だと思います。
しかしながら、実はこの部分はボトルネックではないと考えています。
むしろ、われわれが、『そんな些末なことは気にしなくていいので、どんどん海外に向かって行きましょう!』 と、背中を押して海外投資家などと引き合わせ、機会を増やすことにより、道が拓けるものと信じています。この一見ボトルネックに見える部分を解消することこそ、われわれVCの役割であり、DGDVの腕の見せ所だと考えています」
スタートアップにとって、海外展開はいつチャレンジすべきものなのか
──海外展開しているスタートアップを見ると、起業家自身のバックボーンに海外とのコネクションがある人も多いように見えます。海外にまったくコネクションがない場合はどのように取り組むべきかでしょうか。
金森 「海外展開を展望した、あるいは、海外からの日本展開を展望した問い合わせはすごく多いです。ただ、海外展開を志向する日本のスタートアップと、日本にこようとする海外スタートアップを比較すると、海外スタートアップの場合は、たいてい設立時などの早い時期から、海外進出するならこの国と見定めていて、そのためのリレーションを増やしていく作戦も始めているような印象があります。
海外とひと言で言ってもいろいろな国がありますが、たとえばイスラエルでもイギリスでも、日本以外の国は移民比率も高いので、社長やマネジメントチームもインターナショナルなことが多いです。海外に留学して戻ってくるということも多い世界なので、人の採用やローカル市場のリサーチに対する苦労については、日本のスタートアップが海外展開を行う際と比べると非常に少ないというのが基本かと思います。
ただ、その中でも展開先を日本とした場合は、言語の壁と商慣習や文化の壁があります。特に言語の壁はやはり大きいですよね。そこはまさにわれわれVCや、JETROなどその他のサポーターの出番だと思います。海外のスタートアップはそのようなサポーターを巧みに、また積極的に活用しながら、情報と人脈を広げてやっていっている印象を受けますね。DGDVもLinkedInなどを使って採用支援に近いことも行っています。
たとえばそのスタートアップの業種がヘルスケアであれば、今GoogleやAmazonに勤めている東京のヘルスケア担当の人を探して、『投資している会社が今度日本オフィスを開くのですが、カントリーマネージャーをやりませんか』とメッセージを送ってご紹介することもあります。
スタートアップの方々は、われわれのこうした行動力を結構ありがたがってくださるのですが、中でもしっかりとしている企業は、そのような情報をもらいつつもキャッチアップが非常に早くて、最終的には自分たちで優れた人材を見つけてくるものです。
従って、まずは熱意と戦略、そしてPDCAを回していくことが大事なのだろうと思って見ています。翻って日本のスタートアップが海外に出るときにも、決してこういう人でなければできないという条件があるわけではないと思いますね」
──それでは、海外展開のタイミングとしてはいかがでしょうか。創業当初からチャレンジすべきだという意見もありますし、少し国内を固めて実績を持ってから行くべきだという考え方もあります。
眞田 「投資家の立場として申し上げると、スタートアップには、やはり資金調達をし続けなければいけない宿命があると思います。ですから、そこから逆算し、資金調達に資するトラクションを出しやすい場所から順々にやっていく考え方ではないかと思っています。ディープテックスタートアップは、どんなプロダクト、サービス系のものであっても、最初はカッティングエッジ領域からやっていくことが多いと思います。
そうすると、国内市場がいくら大きいといっても、初期に顧客になってくれるのは一定層しか存在しないため、たとえニーズが大きく、プロダクトやサービスがニーズに適していたとしてもそこから広がっていくために時間を要するという世界です。
そして、時間が経つにつれ、今度は逆にそれが魅力的なプロダクト・サービスであればあるほどグローバルレベルでどんどん競合が入ってくることになるため、プロダクト・サービスが陳腐化してしまう前に、どんどん展開していくという選択肢を取らざるを得ないのです。金森さんからもあった通り、グローバルで成長している企業は、最初からその発想を持っていると思っています。
たとえば、インドなどの起業家は、自分たちのサービスが今はエッジが立っているけれども、次々に競合が出てくると認識していることが多い印象です。起業して1年後にはインド国内ではなく、アメリカ、日本への展開を見据えていますし、そもそも最初のアーリーアダプタを世界中にターゲティングして求めていくという攻め方をしています。
そして、その経営戦略に資本がついてくるため、早期にトラクションを出すという観点で、攻めやすいマーケットからどんどん取っていくというやり方に重きを置いているのだと思います」
海外投資家からの資金調達の難しさ
──先ほど、海外投資家が日本のスタートアップのエコシステムについて具体的なことについては知らないという話がありました。日本のスタートアップにとっての海外投資家からの資金調達の難しさはどこにあるでしょうか。
眞田 「先ほど金森さんが話した点の補足にもなりますが、日本のスタートアップ、特にアーリーステージの資金調達に海外投資家が入ってこない理由には、海外投資家の中に日本人がいないからという点も挙げられるかと思います。
現地のマーケットペインを一番理解できるのは、現地を母国としている方々です。これはグローバルで見ても、おそらくどこの国も一緒で、だからこそセコイアなどの著名VCも各国にそれぞれ拠点を作っています。現地の方をハイヤーしているということは、非常に大事な要素です。したがって、現状グローバルの有力ファンドに日本人が少ないということは、日本人コミュニティとして非常に不利なことだと思っています。
たとえばすぐ隣の韓国などを見ると日本よりもずっと進んでおり、それぞれの有力ファンドをドアノックしていくと、韓国人の方が普通に働いています。当然バイリンガルで、なんでもできるという感じの人がゲートウェイになり、そのまま投資にまで至るというケースをよく見ます。
また、もう一点ボトルネックを挙げるとすると、日本のスタートアップに、投資家からお金を調達するファイナンスに関する諸々の知識がまだ不足しているという点かと思います。私はいわゆる投資銀行に入社しましたが、そのときの志望理由は、日本企業自体がそれほどファイナンスがうまくないと思い、そこをサポートできる人生を歩みたいと思ったからでした。
もちろん当時と比べれば、業界全体として、日々改善成長してきているとは思いますが、いまだにこの課題はスタートアップを含め国内に根強く残っていると思っています。われわれDGDVとしては、スタートアップにまだCFOがいないのであれば、あるいは、いたとしても彼ら、彼女らの資金調達戦略の壁打ち相手として、100%全力で努め、そうしたボトルネックを一つずつ解消するお手伝いをしたいと考えています」
金森 「やはりまず考えた方がいいのは、まさに資金調達の戦略ですよね。海外からなんのために資金を得たいかという目的があるはずなので、それに沿って実際に資金を得たいファンドや事業会社を特定し、そこへのアプローチする戦略を逆算的に考えるほうが効率的かと思っています。
なぜこれを言うかというと、私も眞田さんと同じく、VCという仕事は世界全体で見るとわりとローカルに根差す仕事だと思っているからです。その中の一部として、われわれ自身もそうですが、グローバルに展開していく規模感の戦略や方針を持っているところが存在します。
しかし、海外のいろいろなトップVCとお話しすると、基本的には内に閉じてしまっています。ただ、イギリスやドイツは広くヨーロッパ全体を内、として捉えており、自国だけではなくヨーロッパ全体もやるという感じで、閉じつつ開いているという状況です。しかし、東南アジアはやらないですし、日本もやらないという方針を持つところが多いです。
その点が非常に微妙なところで、なかには、はっきりと日本はやらないと決めているわけでもないが、知らないのでやらない、という考えもあるようです。そういうところにわれわれは触媒として働きかけ、日本におもしろい投資案件がありますよ、と言ってつないでいく役割があると考えています。
その観点から、単純に日本のスタートアップに対してアクセスがなく、情報を持っていないという問題もありますね。資金調達戦略を個別具体に考える中でアプローチしたい投資家があれば、積極的にドアノックしていただきたいですし、われわれが関係を有している先であれば、いつでもご紹介します。
スタートアップエコシステムの発展に寄与したいという想いから、投資先に限らず、投資していない先のスタートアップに対してもこのような取り組みは積極的にやらせていただきたいと考えています。VCというのは単独で投資をしてお金儲けをするというだけではなく、エコシステムの一員であるという自覚がありますし、エコシステム全体で盛り上がっていかなければ駄目だと思っています。
日本はもちろんのこと、日本の外に目を向けると世界のエコシステムが広がっています。われわれはチーム一丸となって、その全体の底上げに貢献していきたいと考えています」

