サステナブルを意識した新しいイベントを企画し、成功に導く
2022年1月現在、大丸松坂屋百貨店の本社営業本部店づくり推進部で、催事の企画開発を担当しているH。主に店舗の魅力につながる新しいコンテンツの開発を行っています。店舗全体の改修や、新しいテナントの誘致などのチームがある中で、Hは催事場で行うイベントを企画開発するチームに所属しています。
H 「展覧会などの文化的なイベントがある一方で、私が担当しているのは物販系のイベントです。これまでの催事場では、なんらかのセールを行えばたくさんの人を集めることができました。ですが、お客様が百貨店に求めるものは時代とともに大きく変化しており、物販催事も単に物を安く売るだけという内容から変わる必要があります」
時代にマッチした新しい物販の企画開発が、Hに与えられたミッション。大丸松坂屋百貨店はサステナブルな取り組みとして、地方に目を向ける“Think LOCAL”を提唱しています。その流れをくんだ上で、Hはこれまでの物産展とは一味違った、作り手が出店する北海道を切り口にしたイベント「北海道に魅せられた人たち」を企画しました。
H 「北海道の歴史や自然・風土だから生まれたものや北海道で暮らす人々が誇れるブランドをストーリーと共に紹介したかったんです。暖かみが感じられて、北海道の作り手さんたちが輝けるような催事を目指しました」
Hは北海道で自らリサーチを行い、取引先と交渉を行ってきました。その中でHが大事にしていたのは、“自分が本当に良いと思うもの”を紹介したいという気持ちです。
H 「もちろん一般的なマーケットは見なければいけませんが、最終的な判断としては自分が一消費者として買うか、家族や友達に勧めたいと思えるかを基準にしています。自分の好きなものを紹介したいという気持ちが、やる気につながっています」
こうしてHは自身のフィルターを通して、一つひとつ取引先を厳選し、開催にいたります。通常の催事では、担当者がずっと売場にいる必要はありません。しかし、Hは特別に上長の許可を取り、開催期間中は開店から閉店まで会場に立ち続けていました。そうした理由を次のように話します。
H 「催事の企画開発に携わる前は、婦人靴や婦人服の売り場担当をしていました。そのため、売場経験を活かして、お客様が集まらない時はレイアウトを変えてみるなどのブラッシュアップを行っていました。私の企画に賛同して、北海道から泊りがけで来てくださっている取引先様もいましたので、なんとか成功させたいという想いが強かったんです」
その想いが伝わり、イベントは目標売上を超え盛況のうちに終了。イベント後には取引先から「Hさんがいたからこそ頑張れた」というねぎらいの言葉があり、それがHのモチベーション向上につながっているといいます。
想いを素直に伝えることで、自社カード顧客加入数アップにつながる
2015年4月に新卒入社したHは、珍しいの経歴の持ち主。大学では理系分野を専攻し、マグロ漁などの漁船の運用を学んでいました。
H 「実習として実際に航海をすることもありました。百貨店とは直接関係のない学問ですが、就職活動の面接では私の学歴に対しておもしろいと言っていただけたのが、とくに印象的でしたね。入社してみても、人と違う意見が尊重されるような社風に魅力を感じています」
就職先を小売業に絞ったのは、アルバイトでの経験が大きく影響しています。銀座にある衣料販売店の旗艦店で働いていたHは、銀座ならではの売り方の違いに驚き、興味を覚えました。
H 「全国で一様に販売されているシャツでも、銀座という土地柄に合わせたディスプレイをすれば値段が高く見えて、売れ行きも違ってきます。空間演出によって商品の価値が左右されることを実感しました。次第に自分も小売業界で勝負がしたいと思うようになり、その中でも多くのものを扱う百貨店を目指しました」
入社してから数年、Hは販売のスキルをみっちりとたたき込まれました。売り場では商品の販売に加えて、お客様に自社クレジットカードへの入会勧誘をしていたといいます。そこでHは、入会顧客数の上位者として優れた記録を打ち立てます。
H 「最初の頃は、お客様にクレジットカードをうまくお勧めすることができませんでした。ですが、同期に相談した時に、『あのカードは絶対にお得だし、お客様にとってプラスしかない』と話してくれたんです。
そこから、お客様目線でカードの良さを考えた時に、たくさんのメリットが見えてきて、入らない方が損だと気づきました。それを素直にお客様に伝えていたら、いつの間にか入会していただけるようになり、多い時は入会数が月20件ということもありました」
お客様目線で想いを素直に伝えたことで、自社クレジットカードの入会数アップにつながり、Hへの周りからの期待も大きくなりました。
H 「1日に複数のお客様にご入会いただくこともあり、売場の先輩方は『すごい、すごい』とエールを送ってくれました。お客様も同僚もハッピーで、私はさらにやる気が出る、という良い循環が生まれていました」
たくさんの従業員がいる中で、カード入会顧客数上位者として表彰を受けるなど、短期間で輝かしい功績を残したH。入会したお客様からは、「カードを勧めてくれてありがとう」というお礼の手紙をわたされたこともあったといいます。この経験が、自分が良いと思ったものはお客様にも共有され、売上にもつながるという確信に変わっていったのです。
周囲の支えがあるからこそ自由に仕事ができる。その感謝をパワーに変えて
Hは婦人靴、婦人服売り場担当を経て、その後、現在の店づくり推進部に異動します。北海道物産展を担当するメインバイヤーは、もともと一名が札幌に駐在していましたが、業務量の増加に伴って、部内異動としてHも札幌に駐在することになったのです。
H 「2019年の秋に異動して、しばらくは自分らしい仕事がまったくできていませんでした。それを察してくれた上長が、『何か新しいものを立ち上げてみたらどうだ』と声を掛けてくれたことがきっかけで、『北海道に魅せられた人たち』の開催にいたります」
かなりの重圧の中で、新しい催事を企画から運営まで行ったH。そんな中でも、Hの強みであるポジティブなマインドによって、楽しむことも忘れなかったと話します。
H 「もともと北海道は異動する前から好きだった場所ですし、そこで自分の好きなように仕事をさせていただいているので、とても楽しいです。頑張っているという気持ちは微塵もないですね。よく、与えられたミッションの範囲内で、自分の好きな方向性に持っていくのが得意だといわれるのですが、エネルギーを注げる方へ環境を整えるように意識しています」
好きなこと、やりたいことができたのは、周囲からの理解とサポートがあったおかげだといいます。トラブルの際にはすぐに動いてくれる上司がいたり、企画書をまとめる際にも親身になってくれる先輩がいたりと、周りの人には恵まれていると語るH。
H 「仕事で辛かったことや、つまずきを感じたことはほとんどありません。いつもその前の段階で、誰かが手を差し伸べてくれているからだと思います。そんな周囲の人たちに対しては、とても恩義を感じているので、その期待に応えたいという想いを、良い意味でのプレッシャーにしています」
新たな催事のファンづくりに向けて、オウンドメディアの構築を模索
お客様とのコミュニケーションを大切にしたいと思うHは、催事のファンづくりにも意欲的に取り組んでいます。オウンドメディアを通して、自分の言葉で“好きなもの” や“良いと思ったもの”を紹介し、お客様にファンになってもらうことが必要だと感じています。
H 「お客様と24時間365日つながれるようなコミュニティをつくるのが、目標の一つですね。ファンづくりにはオウンドメディアが鍵となりますが、百貨店にはこれまでにノウハウの蓄積が少ないので、今は手探りで行っている状態です。情報発信できるバイヤーとして、また北海道をフィールドとしたバイヤーとして、世に知れ渡る存在になっていきたいです」
「北海道に魅せられた人たち」ではトライアルとして、会期前からブログを立ち上げ、定期的に情報発信を行っていきました。会期前から種まきをしてお客様との接点をつくり、会期までに期待を盛り上げていくのが目的です。
H 「作り手の想いがたくさん詰まったものを取り扱いたいと思っています。単に物を売るだけではなくて、作り手の想いや背景までをお客様に届けられるような取り組みにしたいですね」
売り場時代からHは、“自分が良いと思ったものだけ”をお客様へ提案することを心掛けてきました。これは今の仕事にも活かされているといいます。また、現代の消費の特徴として、物がほしいから買うというよりも、購買体験そのものを楽しみたいというお客様が多いのではないかとHは考えます。そういった楽しみを催事場という場でつくり出していくため、これまでの百貨店になかった新しい催事に向けて、Hはこれからも挑戦し続けます。
※部署名、担当名などは取材時のものです。

