二つの問題意識から考案した、多様な人材が活躍する「農福連携モデル」
私が代表を務める、C&Rグループの「株式会社コネクトアラウンド」は、農業・食品製造・飲食・障がい者雇用を組み合わせた「6次化農業」(農産物の生産から加工・販売まで一貫して手がけるビジネスモデル)を展開しています。「FUN EAT MAKERS」という生産拠点を開発し、食を通じた持続可能な地域産業モデルを構築し、全国展開を目指しています。
「FUN EAT MAKERS」は、現在2カ所で展開しています。一つは、神奈川県川崎市中原区の商店街にある約30坪のテナントで、リーフ野菜の水耕栽培(土を使わず水と栄養液で植物を育てる農業手法)での生産と弁当の製造を行っています。もう一つは、福島県大熊町にある敷地面積14,000㎡の複合生産施設で、ミニトマトのハウス栽培やリーフ野菜の水耕栽培、食品加工セントラルキッチン(複数の店舗や施設向けに食品をまとめて製造・加工する厨房)、レストラン、物販を運営しています。生鮮品や加工品を全国へ届けながら、地域の活性化と農業復興にも取り組んでいます。
このプロジェクトに参画するメンバーは、正社員7名、契約社員3名、パート・アルバイト18名に加え、就労継続支援施設(障がいのある方が働くためのサポートを受けながら就労する福祉サービス施設)の施設外就労メンバーも一緒に働いています。農業や食品製造の専門人材と、異業種から転身してきたメンバーが協力し合いながら、それぞれの強みを活かして専門性を高め、事業を進めています。
私自身は、事業の方向性の策定、新規事業開発、販路開拓、資金調達、人材育成などを担っています。また、地域や企業との連携を推進し、多様なバックグラウンドを持つメンバーが一人ひとり活躍できる仕組みを作るのも、私の役割です。
このプロジェクトを立ち上げた背景には、二つの強い問題意識がありました。一つは、食料生産の根幹を支える農業が、担い手不足や高齢化で衰退しているという現実です。農業をもっと魅力的な仕事に変えたい、家族を養える職業にしたいという思いがあったのです。もう一つは、障がいのある方が持つ「できること」を活かせる場を作りたいという思いです。この二つの課題を組み合わせることで、多様な人材がプロとして活躍できる持続可能な農福連携モデルを実現できると考えました。
異なる背景を持つメンバーが一堂に集まり、農業・製造・飲食という複数の事業を同時に動かしていく。簡単なことではありませんが、だからこそやりがいがあります。食を軸に、地域と人と社会を「つなぐ」仕組みを作っていく、その挑戦の真っただ中に私はいます。
「福島を何とかしたい」という熱意に動かされ、震災復興の地へ踏み出す
このプロジェクトに関わり始めたきっかけは、当時私が所属していた新規事業開発部門での業務でした。知財活用や自治体の産業政策に携わる中で、自主事業の立ち上げを模索していた私は、大学で学んだ施設園芸(温室やハウスなどの施設を活用した農業)の知識と先端技術を掛け合わせることで、新たな農業ビジネスを創出できるのではないかと考えるようになったのです。
まずは首都圏での農業事業を構想しましたが、相談した自治体からは「農地がない」「まずは農業を学んでは」と言われ、計画はすぐに行き詰まりました。そんな中、知財事業で縁のあった福島県浜通り地域を紹介していただき、2020年秋に初めて現地を訪れました。
そこで目にした光景は、想像をはるかに超えるものでした。バリケードが残り、除染土が積み上げられ、立ち入り制限が続くエリアが広がっていました。東日本大震災と原発事故から年月が経っていたにもかかわらず、その傷跡はまだ深く残っていたのです。衝撃を受けながらも、それ以上に私の心を動かしたのは、現地で出会った自治体職員の方々の姿でした。「福島を何とかしたい」という熱意が、言葉の一つひとつからにじみ出ていて、その思いに強く心を動かされました。この地で挑戦しようと、決意した瞬間でした。
ただ、福島での事業は補助金の活用が前提となるため、構想から実現まで長い時間を要します。社内からは、原発事故の影響を受けた地域での事業という点で「本当に安全なのか」「販路は確保できるのか」といった懸念の声が上がりました。そこで私は、熱意だけで進めるのではなく、市場調査や事業性の検証、リスク対策の検討を重ね、客観的なデータと具体的な計画を示しながら役員への説明を繰り返しました。多くの議論を重ねた結果、事業の意義や将来性への理解を得ることができました。
並行して取り組んだのが、農業を通じた障がい者雇用の促進でした。単に作業を手伝ってもらうのではなく、一人ひとりがプロフェッショナルとして活躍し、適正な対価を得られる仕組みを作りたいという思いがありました。
その実現に向け、首都圏で農園を探し続けた末にたどり着いたのが、商店街の空き店舗を活用した植物工場でのリーフ(レタスや水菜などの葉物野菜)栽培です。多様な人材が戦力として働けるモデルの創出を目標に、事業をスタートさせました。
物件探しは埼玉、八王子、多摩、川崎と各地を回り続け、決して順調ではありませんでした。障がいのある方が安心して働ける環境であること、水耕栽培ができる設備が整えられること、この両方を満たす物件を見つけるのは容易ではありませんでした。そんな中、川崎で事業を始めるにあたって市にご挨拶をと思い川崎市を訪問したところ、障がい者を戦力として活躍させるノウハウを持つダンウェイ株式会社(以下、ダンウェイ社)をご紹介いただきました。さらに、そのすぐ隣に空き物件があるという縁にも恵まれ、ようやく事業をスタートさせることができたのです。
事業が動き始めてからも、苦労は続きました。当初はリーフの飲食店向け卸売や生鮮品販売、スムージー・サラダの提供を軸に販路を広げようとしていましたが、想定したほどには拡大できませんでした。そこへ、ダンウェイ社から「就労支援施設の利用者に栄養バランスの取れた食事を提供したい」という相談が届いたのです。健康的に働き続けるためには食事が欠かせないという視点は、他の施設にも共通する課題だと感じ、事業の中心を食事提供へと転換することを決断しました。ちょうどそのタイミングで福島での補助金採択も決まり、建設計画中だった施設についても、食事提供を支える加工機能を強化する方向へ大きく舵を切ることになりました。
「障がいは強みになる」発芽率80%が証明した、常識を疑うことの大切さ
現在のプロジェクトは、川崎と福島の2拠点で農業生産から食品加工、弁当・惣菜製造、飲食運営までを一貫して手がける体制を構築しています。弁当は全国の福祉施設や首都圏の大型オフィステナント向けに1日約900食を販売、ミニトマトは福島県内や首都圏のスーパーにお届けしています。農業と障がい者雇用、そして地域復興支援という複数の課題に同時に取り組む、まだ発展途上の事業です。
現時点での成果として特に実感しているのは、障がい者雇用の分野です。福島の施設では近隣の福祉施設から施設外就労(福祉施設の利用者が施設の外に出て企業などの職場で働く仕組み)を受け入れており、今後は障がいのある方の直接雇用や特別支援学校との連携も進めていく予定です。雇用規模も20名程度まで拡大しており、着実に成果が積み重なってきていると感じています。
このプロジェクトを通じて、私が最も大きく学んだのは「常識だと思っていたことを疑い、自分で確かめることの大切さ」です。
障がい者雇用に取り組む前は、言葉でのコミュニケーションが難しい方も多いと聞き、正直なところ不安を感じていました。どこかで「支援される側」という先入観を持っていたと思います。しかし実際に一緒に働き始めると、支援員の方々が想像以上に厳しく指導し、本人たちも真剣に仕事に向き合っていました。そして日を追うごとにできることが増え、休憩時間に話をする中で、みんな素直で魅力的な人たちで、リーフ栽培の仕事に誇りを持って取り組んでいることを知りました。
特に印象的だったのが、リーフ(葉物野菜)栽培の種まき作業でのエピソードです。一般的に種苗会社が保証する発芽率は60%程度ですが、ある障がいのあるメンバーが担当すると、発芽率が80%近くになることがありました。細かな作業を丁寧に繰り返し、決められた手順を忠実に守るという特性が、大きな強みとして発揮された結果です。
また、私たちのリーフは農薬を使用せず、洗わずにそのまま食べられる衛生的な商品が特長であるため、HACCP(食品の安全管理の国際的な基準・考え方)に基づいた厳格な衛生管理を行っています。これまで細菌検査では、大腸菌や一般生菌などが検出されず、高い衛生水準を維持できています。決められた手順を確実に守る力は、むしろ大きな強みなのだと実感しました。
リーフ栽培の技術習得には、通常1カ月程度かかりますし、障がいのある方の場合は3〜6カ月ほどがかかることもあります。しかし、一度習得してしまえば作業品質にほとんど差はなくなり、障がいの有無は関係なくなります。本人が「自分は会社に必要とされている」「戦力として認められている」と感じ、自信を持って働く姿を見るたびに、一人ひとりの可能性の大きさを感じています。
自分自身の思い込みによって、彼らを必要以上に「弱い存在」と見ていたことに、実際に働く中で気づかされました。障がいは、能力を制限するものではなく、見方を変えれば仕事上の強みにもなり得る。その確信は、今のプロジェクトの根幹にある考え方になっています。
「社会課題の解決と事業成長は両立できる」を証明するために
今後プロジェクトを通じて取り組んでいきたいのは、これまで積み上げてきた農業・食・健康・障がい者雇用の知見をさらに発展させ、誰もが能力を発揮しながら活躍できる「ユニバーサルな社会」の実現に向けた事業作りです。地域課題の解決と持続可能な産業の創出を両立しながら、新たな価値を生み出していきたいと考えています。
そのために今もっとも重要なのは、第1目標として掲げている農業事業で確かな成果を出すことです。「農業は儲からない」と言われる現状を変え、農業だけでしっかり利益を生み出せるモデルを確立すること。そして、そこで働く人たちが安定した収入を得て、家族を養いながら将来に希望を持って働き続けられる状態を作ること。それが私の考える「成果」の姿です。大きな目標だけを見るのではなく、日々設定した具体的な行動目標を一つひとつ着実に達成していく。その積み重ねが、持続可能な事業の実現につながると信じています。
また、私自身だけでなく、社員一人ひとりが困難に直面した際に一人で抱え込まず、仲間と協力しながら乗り越えられる組織作りにも力を入れていきます。個人と組織の成長を地道に積み重ねていくことが、長期的な事業の基盤になると思っています。
私たちが目指す会社の姿は、農業や食品事業を通じて利益を生み出しながら、多様な人がそれぞれの強みを発揮して活躍できる組織です。障がいの有無などに関係なく、一人ひとりがプロフェッショナルとして認められ、自立し、成長できる環境を作りたい。そして福島の復興や地域活性化にも貢献しながら、「社会課題の解決と事業の成長は両立できる」という事実を証明し、次の世代に希望を与えられる会社を目指しています。
このメッセージを特に届けたいのは、「社会課題の解決はボランティアでなければできない」「利益を追求すると社会貢献はできない」と考えている方たちです。社会課題に正面から向き合いながらも、事業としてしっかり利益を生み出し、そこで働く人たちの生活を支えることこそが、本当の意味で持続可能な社会貢献だと私は考えています。また、障がいのある方や農業に携わる方、地方で新しい挑戦をしようとしている方にも、「条件が厳しいと言われる分野でも、工夫と挑戦によって未来を切り拓ける」ということを伝えたいです。
私が思い描く「ユニバーサルな社会」とは、障がいの有無だけでなく、年齢や性別、国籍、学歴、経験、得意・不得意に関わらず、誰もが強みを活かして活躍できる社会です。現在の社会は多くの場合「平均的な人」に合わせて設計されていますが、一人ひとりの違いを弱みではなく強みとして活かせれば、もっと多くの人が能力を発揮できるはずです。農業や食品事業を入口に、その仕組みを全国へ広げていきたいと思っています。
そして、このプロジェクトを通じて私自身が目指したいのは、「何でも一人でできるリーダー」ではなく、「多くの人の力を引き出し、支えてもらえるリーダー」です。これまで事業を進めてこられたのも、多くの方との出会いや支えがあったからこそです。人とのつながりやご縁に感謝しながら、仲間の力を借りて困難を乗り越え、一人ひとりの強みを活かしながらみんなで大きな成果を生み出せる——そんなリーダーに成長していきたいと考えています。
