ものづくりとはチームで成し遂げること──高専時代のロボコンでの学び
「ロボコン(※1)がなかったら、今の自分はいなかったと思います」
そう語る田中にとって、高専時代に取り組んだロボコンは、ものづくりの原点となる経験でした。メカニックとして参加し、仲間と共にロボットの設計・製作を手がけた日々が、田中の現在のキャリアを形づくる礎となっています。
「その年の競技では、エレベーター式で花を持ち上げて、滑り台で落とす“スーパースライダー”というマシンを自分たちで組み立てました。全国大会まで進出することができ、みんなで設計から製作まで取り組んだ良い経験となりました」
また、田中にとってロボコンは、単なる技術開発の場ではなく、仲間との協力の大切さを学ぶ場でもありました。
「ロボットは、1人で作れるものじゃない。機械設計、制御プログラム、素材加工、それぞれの担当者が自分の得意分野を活かしながら、連携して作り上げる。それが本当におもしろかったし、今の仕事にも活きています」
この経験を通じて田中は、ものづくりはチームで成し遂げるものという意識を強く持つようになりました。現在のマネジメントスタイルにも、その考え方が反映されています。
※1 全国の高専生がロボットを製作し、競技でその成果を競う教育イベントのこと
中国への赴任。文化を超えた経験が広げた視野と成長
入社後、田中は国内外のさまざまな製造現場を経験することで、キャリアを形成していきました。その中でも、中国での生産設備の立ち上げはとくに大きな転機となったと言います。
「中国に赴任した当時は、文化も環境もまったく異なる中での仕事でした。最初はコミュニケーションの壁もありましたし、現場での考え方も日本とは違う部分が多かった。でも、それを受け入れて、お互いのやり方をすり合わせていくことで、最適な方法を見つけていきました」
そんな中国滞在中に、田中は人生の大きな決断をしました。それが、国際結婚です。
「妻とは中国で出会いました。最初は言葉の壁もありましたが、共通の趣味があったこともあり、すぐに打ち解けました。文化が違うからこそ、学び合うことが多かったですね」
結婚後、日本と中国の両方で結婚式を挙げました。
「日本の結婚式は格式張った雰囲気でしたが、中国の式はとにかくにぎやかで、みんなで何度も『ガンベイ(ganbei)!(干杯)』と声を上げながら、グラスを空け合いました(笑)。勢いよく飲み干すのが中国式の乾杯で、その盛り上がりに圧倒されつつも楽しめました。
どちらも素晴らしい思い出です。異なる文化の中で生きることは、仕事にも大きく影響しています。相手の価値観や習慣を尊重することが、円滑なコミュニケーションの鍵だと実感しました」
また、日本に戻った後も、これらの経験は大いに役立っています。
「どんな現場でも、相手の価値観や文化を理解することが大切だと学びました。技術だけでなく、人との関わり方を変えることで、より良い仕事ができると感じています」
趣味で磨かれた、チームを動かす巻き込み力と統率力
田中には意外な一面があります。それは、地下アイドルの熱心なファン(以下、オタク)だということです。
「じつは、これが意外にも仕事に役立っているんですよね。一時期、アイドルイベントの実行委員として活動していたんです。規模はだいたい数十人ぐらいかな。その中で、アイドルの生誕祭などを企画して、仲間たちを巻き込んで準備を進めていました」
生誕祭イベントでは、ライブ会場のセッティングや誕生日ケーキの手配、会場の飾り付けなどを仲間たちと協力して行っていました。田中は、その準備段階でリーダーシップを発揮していたと言います。
「オタクたちはコミュニケーションが得意なわけじゃないんですけど、みんなで集まってアイドルを見ながらワイワイするうちに、だんだん意見を交換したり協力し合ったりするんです。
その結果、実行委員会の運営ができるようになったんですね。運営の委員長は別にいましたが、僕が運営の実務を担当し、イベントの進行をまとめたり、みんなが動けるようにサポートしたりしていました。こういった経験が、今の仕事にも活きているんです」
田中の地下アイドルオタクとしての経験は、チームワークを引き出すためのコミュニケーション能力や、イベントを円滑に進めるためのリーダーシップに大きな影響を与えているようです。
国際結婚とオタ活から学んだ、強いチームを作るためのリスペクトとデザインレビュー
設備設計の仕事は、製品を効率よく安定して作ったり、検査したりするための設備を構想し、設計することです。具体的には、製品の加工・組立・検査・搬送を組み合わせて、生産に必要な自動機や治具を設計・製作して現場導入する業務です。その中で田中は、製品の仕様を理解した上で、最適な設備やレイアウトを構築し、製造現場へのスムーズな導入を実現する役割を担っています。
現在、製造技術課長としてチームを率いる田中が、マネジメントにおいて最も大切にしているのが、「リスペクト」と「デザインレビュー」です。製造現場では常に「人を大切にする姿勢」が重要だと田中は語ります。
「私は、技術者が最大限に能力を発揮できる環境を整えることが、マネージャーの役割だと考えています。そのためには、互いをリスペクトし合える文化が不可欠です。私自身、若い頃は失敗もしました。その経験の中で、意見を言いやすい環境がいかに大切かを学びました。
だからこそ、部下が気軽に話しかけてくれるように、私は意識的に“忙しそうにしない”ことを心がけています。どんなに仕事が立て込んでいても、話しかけてくれたら手を止めて、しっかり向き合うようにしています」
また、田中がとくに重視するのが「デザインレビュー」と呼ばれる会議です。これは設備の構想・設計段階で良し悪しを議論して問題点を洗い出し、実際の設備製作に進むべきかどうかを判断する場です。この会議を行うことで、設計内容を複数の視点から確認し、課題を事前に洗い出すことで、大きなミスを防ぐことができます。
「私自身、過去に600枚のトレーを作り直すという大失敗をしました。部品の搬送に使うトレーの寸法設計を誤り、自動機に適用できず、生産ラインを一時止めざるを得ない状況になったんです。結果として、600枚のトレーすべてを作り直す羽目になり、約300万円の損失を出してしまいました。
その時、『なぜもっと早い段階で気づけなかったのか』と反省し、それ以来、設計を1人で抱え込むのではなく、チームで検討するデザインレビューを徹底するようにしました」
田中は、デザインレビューは単なるチェックの場ではなく、若手が成長する機会でもあると考えています。
「若手エンジニアには、ただ上司の指示を受けるのではなく、自分の考えを持って設計に臨んでほしい。だからこそ、デザインレビューでは、上司が一方的にダメ出しをするのではなく、『なぜこの設計にしたのか?』『どう改善すればもっと良くなるか?』と問いかけ、対話を重ねながら進めるようにしています」
このような環境を整えることで、田中はものづくりの本質は、個人の技術力だけでなく、チーム全体の知恵と経験の結集によって成り立つものだと実感しています。
「最終的に、ものづくりは人が支えるもの。技術だけでなく、人を大切にし、共に成長する文化を作ることが、強いチームを作る鍵だと思います」
田中は、ロボコンやオタ活で培った「チームで何かを成し遂げる楽しさ」、中国でのコミュニケーションや国際結婚の経験から得た「多様性へのリスペクト」、そしてエンジニアとしての現場経験を通じて、「人と技術の両方を大切にすること」の重要性に気づきました。それらすべてが現在のマネジメントに結びついています。
若手に挑戦する機会を与え、対話を重ね、失敗すら糧に変えるチームづくり。その姿勢は、技術の進化に左右されることのない、普遍的なものづくりの在り方を体現しています。
「人と共につくるものづくり」を信じる田中の流儀は、これからの製造現場で働くエンジニアたちにとって、確かな道しるべとなっていくでしょう。
※ 社員の所属組織および記載内容は2025年4月時点のものです
