自分が携わる商品で、人の心を動かしたい

「こだわりのあるモノづくりに携わりたい」──そんな想いを胸に、2004年にアルパイン(当時)へ入社しました。当初、企業名すら知りませんでしたが、大学の教授が何げなく発した「あの会社はおもしろいらしいよ」という一言をきっかけに興味を持ちました。
販売店で話を聞いた際、「アルパインはアメリカで超有名なブランドで、著名な映画監督や音楽アーティストにも愛用されている」と熱く語られました。また、1枚の古い企業ポスターのセンスにも心を惹かれました。10代の頃から熱中していたHipHopやスケートボードなどのUSストリートカルチャーにおいて、「音楽」と「車」は欠かせない要素です。それらを結びつけるカーオーディオに携わり、同じカルチャーを愛する人々をワクワクさせることができれば、これ以上の喜びはないと感じていました。
大学では電子・情報工学を専攻していたため、ソフトウェアエンジニアとしてのキャリアを想定していましたが、配属面接で役員から商品企画部を勧められ、以来十数年にわたり、アルパインブランドの海外向けカーオーディオ製品のほか、OEM向け車載ビジネスにおける商品企画やマーケティング業務に携わってきました。
いくつかの転機を経て、今がある

これまでのキャリアを振り返ると、いくつもの転機が自分を形作ってきたと実感します。
2014年、カーオーディオを一時離れ、スマホアプリと連携するヘッドフォンの開発プロジェクトに参画しました。チームの努力の結果、目標としていた全米Apple Storeへの導入を実現。自社製品がApple Storeに並ぶ光景は感慨深いものでしたが、実際の販売は振るわず、大量の在庫を抱える結果となりました。「Apple Storeで取り扱われれば売れる」という幻想にとらわれ、「売れる必然をつくる」というマーケティング活動の基本が欠如していたことを痛感した出来事でした。
また、このプロジェクトで数カ月間シリコンバレーに滞在した際、現地のスタートアップの成功者や挑戦者との貴重な交流を通じ、自分にはない価値観やマインドに強烈な刺激を受けました。「とにかくやってみる」ことの重要性を再認識するとともに、その根底には揺るぎない信念や覚悟が不可欠であることを実感しました。
また、2016年、中国の大手ソフトウェア企業との合弁会社設立に伴い、中国・瀋陽に赴任しました。電動モビリティ革命の震源地となっていた中国で、野心あふれる同僚たちと共に、電気自動車のバッテリーパックの受注活動、カーシェアリングサービス事業、IoT医療の実証実験など、多岐にわたる業務を推進しました。日々の予期せぬ課題や珍事件に翻弄されつつも、それらを乗り越える中で、精神的な強さと柔軟性が培われました。
一方、現地の生活では、電子決済、シェア自転車、フードデリバリーなど、多様なIoTサービスが次々と登場し、日常生活の利便性が飛躍的に向上する様子を目の当たりにしました。これらの驚異的な技術革新──いわゆる“チャイナスピード”の背景には、政府の積極的な政策支援や巨大な市場規模などのさまざまな要因が相互に作用していましたが、とくに大きな要因となっていたのは、経営陣の迅速かつ果敢な意思決定力だと感じました。
現在は、先行開発部門にて「自動車の新たな空間価値の創造」に取り組む一方で、福島県いわき市役所にDX推進員として「兼務出向」しています。自社が持つ技術やノウハウを活かし、地域社会の課題解決やスマートなまちづくりへの貢献をミッションに掲げています。
取り組むテーマは、「移動困難者支援」「地域振興と関係人口拡大」「地域インフラのライフサイクル最適化」など、地方における切実な課題への対応です。現場に足を運び、地域のリアルな声に耳を傾けながら、課題をデータで可視化・分析し、エビデンスにもとづいた効果的な施策立案を推進しています。
民間企業の枠を越えて行政の現場に立ち、地域社会と真に向き合うこの経験は、自分自身にとって大きな学びとなっています。自治体との協働で得た視座は、企業の社会的価値を再考する契機となり、自社技術の本質的な価値を見つめ直す機会にもつながっています。
「情けは人のためならず、己がため」

「企業は人なり」「人の一生は学びの連続」──アルプスアルパイン創業者・片岡勝太郎氏のこの言葉は、私の仕事観の礎です。仕事とは、本来「誰かの役に立つこと」「誰かを喜ばせること」であり、報酬はその結果として受け取るもので、目的ではありません。だからこそ、「情けは人のためならず」ということわざの通り、他者への想いや行動が、巡り巡って自分自身の成長や豊かさにつながると信じています。
仕事を通じて得られる学びや気づき、そして誰かに喜んでもらえたときの充足感が、私の大きな原動力です。会社や仕事は、多様な経験や学びの機会を提供してくれる場であり、その環境を活かせるかどうかは、自分の姿勢次第だと考えています。
プライベートでは、家族や愛犬と共に自然を味わい、自然を愉しむ日々に価値を見出しています。田舎暮らしの醍醐味として、山・海で獲れた食材を子どもたちと一緒に料理し、味わうことに最高の幸福を感じています。そして時には、自分専用の山に入り、森林浴で心を整え、「英氣」を養っています。
AIにできない領域を突き詰めていく
長年、企画・マーケティングの仕事に携わる中で、私は一貫して「人間の心理」や「本質的な欲求」に強い関心を抱いてきました。まだ言語化されていない“人間の隠れた欲望”、すなわちインサイトを掘り起こすことは、深い思考力を要する難度の高い営みです。それだけに奥深く、挑戦しがいのある分野でもあります。
AIの革新によって、私たちの働き方やビジネスのあり方は急速に変化し、今後もさらなる進化が予想されます。しかし一方で、人間の感情の揺れや文脈の解釈、文化的背景を含めた“感性の理解”といった領域では、今後も人間の力が不可欠だと信じています。だからこそ私は、これからの時代においても「人間らしさ」や「感性」にこそ軸足を置きたいと考えています。
AIと協働しながら、人にしか生み出せない“意味ある価値”を社会に届けていく──そんな存在をめざしています。
※ 記載内容は2025年4月時点のものです