違いを認め、理解し合う文化づくりを現場主導で推進
愛知トヨタでは、増加する外国籍社員へのサポート体制を強化する目的で、2025年4月にATグループサービス部業務課を新設しました。田中とミンチは、そこで外国籍人材の育成に特化した業務を担当しています。
田中:業務課のミッションは、車検整備や検査員の育成と、外国籍社員のスキルアップとスムーズな職場適応のための支援です。ミンチさん、私、そしてネパール国籍のメンバー2名の計4名で、特定技能者向けの日本語研修や、店舗訪問を通じたヒアリングなどのサポートを行っています。
業務課が発足した背景には、外国籍のエンジニアが急増する中で、言語や文化の違いから各部署で業務上の摩擦が生じていたことがありました。現在、支援対象の外国籍社員は262名に上ります。店舗を定期的に訪問し、現場の課題をヒアリングしながら、言語のサポートや研修の実施を通じて、業務のスムーズな運用を後押しすることが、私たちの役割です。
ミンチ:日本人社員向けの異文化理解の促進も、私たちの重要なタスクのひとつです。海外の文化トピックスをまとめたニュースコンテンツを社内ポータルに発信するなど、互いの文化を学び、共に成長する職場づくりも進めています。
チームが最も重視しているのは、「違いを認め、お互いのバックグラウンドを理解する」ことです。メンバーがそれぞれの視点を持ち寄りながら、組織全体のカルチャーギャップを埋める活動を続けています。
ミンチ:私自身も海外から来た人材のひとりで、価値観のズレが原因で、これまでに大変なことがたくさんありました。その経験があるからこそ、後輩が同じところでつまずかないようにしたいんです。困りごとの最初の相談窓口でありたいと思っています。
田中:チームのメンバーは、私を除く全員が外国籍です。日々のコミュニケーションの中でも、文化的な背景の違いから、意図した通りに伝わらないことや、別の意味で受け取られることが少なくありません。
常に意識しているのは、「自分の価値観が正解とは限らない」ということ。ひとりでも多くの外国籍社員に「愛知トヨタで働けてよかった」と思ってもらえるよう、一人ひとりに寄り添い、継続的に支援していきたいと考えています。
受け入れる側と受け入れられる側、双方の経験を力に挑むゼロからの組織づくり
1998年に入社し、エリアスタッフとしてショールームで販売を担当した後、車両総合センターで板金見積りアドバイザーを15年以上務めてきた田中。
かつて日本語教師を志し、私生活では留学生との交流を長年続けてきた彼女にとって、外国籍社員の育成を推進する業務課は、まさに理想のポジションでした。
田中:若い頃から海外に興味があり、国際化が進む中で、子どもたちにも視野を広げてもらいたいという思いから、毎年ホストファミリーとして留学生を受け入れていました。
交流を重ねる中で、留学生たちから日本語を教えてほしいと頼まれることがよくあります。しかし、正確な日本語の知識を十分に伝えられないもどかしさがあり、子育てが落ち着いた頃に専門学校と大学に通い直したんです。
その後、2024年に日本語教師の資格を取得したタイミングで、海外国人材に関わる仕事がしたいと上長に相談したところ、運よく今の部署にアサインしていただけました。
一方、ミンチは日本語学校を経て短大で自動車整備を学び、サービスエンジニアとして入社しています。
ミンチ:入社当時は、言葉や文化の壁に直面して悩むこともありました。先輩や同僚とコミュニケーションを取る中で日本語を学びながら、整備士として技術も磨いていきました。
だんだんと大きな案件を任せてもらえるようになり、お客さまからも「あなたの話には説得力があるね」と信頼していただけるようになったときは、本当に嬉しかったですね。
そんなミンチに、業務課への異動の声がかかります。
ミンチ:業務課の仕事は知らないことばかりだったので、異動の話を聞いたときは驚きましたね。パソコンの操作など、基礎から教えてもらいながら覚える日々でした。ただ「自分と同じような後輩のためになれば」というモチベーションがありました。
業務の立ち上げメンバーとなったふたり。マネージャーやメンバーとディスカッションを重ねながら、ゼロベースで体制づくりを進めてきました。
田中:最初に取り組んだのが、日本語研修の設計・運用です。月1回、特定技能者向けに整備用語と発音のパートに分けて研修を実施してきました。整備用語については、技術研修をスムーズに受けられるよう、点検関連の基礎用語を体系的に学べるカリキュラムにしています。
発音に関しては、ベトナム語に存在しない発音が日本語に多く、コミュニケーションロスの原因になっていたため、50音を順番にチェックしながら発音指導を行ってきました。
日本人の視点では、何につまずいているのかが見えないことがよくあります。ミンチさんたち外国籍メンバーに助けられる場面が多く、本当に心強いですね。
ミンチ:私は整備用語パートの担当です。技術研修では、日本語力が追いつかず理解が難しい部分が出てきます。そこは僕自身が通ってきた道なので、重点的に説明すべきポイントや、専門用語の説明の仕方などを提案しています。
田中:もうひとつ、店舗訪問にも力を入れてきました。入社1年目の方や特定技能者、その先輩社員を対象に、困りごとや要望、キャリアの見通しについてヒアリングを行っています。現場で見えた課題があれば持ち帰り、議論した上で関係者にフィードバックしています。
ミンチ:外国籍のエンジニアが職場に溶け込めているかどうかは、表情や雰囲気を見ればすぐにわかります。笑顔が少ないメンバーを見つけたときは、必ず声をかけてフォローするようにしています。
大規模プロジェクトの企画をリード。周囲を巻き込む姿勢で学んだチームワークの本質
業務課が推進する大きなプロジェクトのひとつが、年に一度開催される「日本語弁論会」です。企画設計からコンテンツのディレクションまで、ミンチが中心となって準備を進めています。
ミンチ:特定技能者向けイベントとしては最大規模で、2025年で3回目です。今回のテーマはまだ最終決定していませんが、日本に来て感じた変化や、よかったと実感したこと、母国とのカルチャーギャップなどを自由に語ってもらいたいと考えています。
発表準備をしていると、おのずと周囲とのコミュニケーションが増えるものです。それこそが弁論大会を企画する意図でもあり、対話を通じて視野を広げる機会になればと思っています。
大規模イベントの企画を任されるのは今回が初めて。ミンチはこれまで以上にチームで動く価値を実感していると言います。
ミンチ:わからないことがあればすぐ相談し、ひとりで抱え込まずにチーム全体で決定することを大切にしています。メンバーや周囲の方にサポートしてもらいながらプロジェクトを進めるプロセスが、自分の成長につながっていると感じます。
そんなミンチの奮闘を、田中も間近で見守ってきました。
田中:書簡ひとつを取っても、日本ならではの言い回しや、避けるべき表現、誰に宛てるかで文面をどう調整するかなど、かなりの経験知が必要です。文化の違いによる難しさから、大変な部分もあると思います。
一方で、ミンチさんの強みは、わからないことをわからないまま進めないこと。困ったときは迷わず周囲に頼れるので、私たちも手が空き次第作業を手伝うなど、準備が滞りなく進むよう全力でサポートしています。
若い特定技能者たちの多くはベトナム出身で、第一線で活躍する母国出身のミンチはロールモデルそのもの。大会に挑む後輩たちに向けてこんなメッセージを送ります。
ミンチ:来日して間もないうちは、日本語力が十分ではない部分もありますが、そこにはこだわりすぎず、自分の言葉で伝えることを大切にしてほしいと思っています。
発表を通じて、社内の方々に「この子たちはこんなふうに努力しているんだ」と感じてもらえたらうれしいですね。
新たな舞台でつかんだ確かなやりがい。全社で支え合う環境づくりに向けて
ともに新しいフィールドで約8カ月。外国籍人材の支援と職場のインクルージョン強化という共通のミッションに向き合う中で、田中とミンチはそれぞれの立場で確かな手ごたえを感じています。
田中:海外国人材の支援に関わり、念願だった日本語教育にも携われているので、業務課の仕事は本当にやりがいがあります。毎日忙しくて大変ですが、この場所で働けてよかったと日々実感しています。
ミンチ:学ぶことが好きなので、毎日新しい知識を吸収しながら働けることは大きな喜びです。外国籍社員のサポートをしていると、数年前の自分の姿と重なることがよくあります。壁にぶつかりながらも少しずつ成長していく彼らの姿を見届けられることに、大きなやりがいを感じています。
業務課でのふたりの挑戦はまだ始まったばかり。田中とミンチは、すでに次のステップを見据えています。
ミンチ:もっと日本語力を高めて、教える側として信頼される存在になりたいと思っています。同時に、サービスエンジニア出身として、自動車に関する技術知識も磨き続けたいですね。日本語と技術の両面でレベルアップし、より多くの外国籍社員を支えられる人材をめざしています。
田中:私の目標は、実践で使える日本語にフォーカスした研修の体系化です。文法や読み書きだけではなく、現場でのコミュニケーションがスムーズになる“リアルな表現”を扱うことで、困っている外国籍社員が「こう言えば伝わるんだ」と安心を持ち帰れる研修にしたいと思っています。誰もが現場で成果を出せる日本語教育のモデルを確立していきたいです。
ふたりの夢の実現には、全社の協力が欠かせません。社内に向けて、次のように呼びかけます。
田中:ひとりで抱え込まずに、「いま大変です」とシグナルを送ってください。外国籍社員だけでなく、日本人の方でも、コミュニケーションに課題を感じたときは、遠慮なく声をかけていただければうれしいです。
ミンチ:私たちは、悩みや不安を気軽に相談できる社内の“ハブ”のような存在でありたいと思っています。できる限りの力で支えるつもりです。誰もが働きやすい職場を一緒に育てていきましょう。
※ 記載内容は2025年11月時点のものです
