「攻め」と「守り」のバランスを極める。トヨタのセキュリティエンジニアの使命
私が所属するソフトウェアプラットフォーム開発部内のチームでは、車のコックピットと呼ばれる部分、いわゆるカーナビやメーターのソフトウェア開発を担当しています。協力会社を含めると数千人規模のプロジェクトで、内製開発ではナビ機能、音声認識機能など機能ごとに数十人程度のグループになって業務を進めており、その中で私はセキュリティを専門とするグループに所属しています。
近年、カーナビやメーターはスマートフォンのように外部とつながる仕組みになっており、その利便性の裏側でセキュリティの重要性が増しています。極端な例を挙げると不正侵入によるドア解錠や車両操作などが可能となる脆弱性も実際に報告されているんです。そうした脅威からクルマを守り、お客さまの安全を確保することが私たちの使命。トヨタでは自動車業界全体の標準に必ず準拠しながら、セキュリティ分野においても業界をリードしていくという強い意識を持っています。
セキュリティグループはキャリア採用でトヨタに入社したメンバーが多く、前職での経験を活かしながら業務に取り組んでいる人が多いことが特徴です。年齢層は30歳代がもっとも多く、同世代の技術に対して貪欲な姿勢を持ったメンバーに囲まれて切磋琢磨しています。
セキュリティグループではコックピットのセキュリティを担保するため、開発プロセスの上流から下流までさまざまな対策を実施しています。現在私は主に2つの役割を担当しており、1つはコックピット内の不正侵入を検知する機能(侵入検知システム)のテックリードとして開発を行うことです。もう1つは、全機能を対象としたセキュアコーディングの推進。各機能チームがコーディングする際に、脆弱性を生まないようなルールやプロセスを策定し、適切な実装方法をチーム全体に周知しています。
私が仕事をする上でとくに大切にしていることは、よりよいクルマを作るために、全体最適を常に意識することです。セキュリティグループの立場からすると「できる限りセキュリティを強固にしたい」という気持ちが強くあります。
しかし、各機能の開発グループからすれば「セキュリティも大事だけれど、開発リソースは削りたくない」という思いがあります。開発の攻めと守り、両方のバランスをとりながら、セキュリティを落とすことなく、かつ開発リソースも削らない効率のよい方法を常に模索しています。
実務経験ゼロから挑んだ「セキュリティ」の世界。トヨタで実現した新たなキャリア
学生時代コンピューターサイエンスを学んだことから、ソフトウェアに携わりたい、できれば自分の手を動かして開発できる仕事がしたいと思い、新卒では大手複合機メーカーに就職しました。
入社後はC言語やC++を用いた複合機UIのソフトウェア開発に従事。アーキテクチャ設計から実装などソフトウェア開発の一連の流れを学びました。とくに複合機のソフトウェアは長年使用されているものが多く、ソースコードの解読にも苦労しました。そのため、ソフトウェアを長年保守していくためにはどんな設計や実装がよいかを常に考える力が身につきました。
4年ほど経験を積んだ後、「より多くのユーザに届くプロダクトを作りたい」という思いから転職を決意。引き続き自社でソフトウェア開発を行っている会社を探していたところ、トヨタに出会いました。クルマはより多くのユーザを抱えるプロダクトだと思いましたし、当時から「コネクテッド」というキーワードが注目されていたことからクルマのソフトウェアは今後どんどん盛り上がっていくだろうと思いました。加えて、ちょうどその頃からトヨタで内製開発に力を入れようというプロジェクトが立ち上がっており、ここでなら自分のやりたいことが実現できると確信しました。
初めはコックピットの開発を担当する予定でしたが、入社してみるとセキュリティグループの人材が足りていないということがわかり、前職時代に独学で情報処理安全確保支援士の資格を取得していたことから「セキュリティグループに入らないか?」と打診されました。確かにセキュリティに関する資格は持っていましたが、実務経験はなかったため、不安な気持ちはありましたが、入社と同時に新たな分野に挑戦することになりました。
入社当初はメンバーの優秀さに圧倒されました。前職時代も技術的に尊敬できる人はたくさんいたのですが、トヨタのメンバーは技術だけでなく、人に物事を伝える力やチームで物事を進めていく力が強い人が多く、高いチームワークを発揮していると感じました。
新しい分野への挑戦をスタートさせた私は、業務のキャッチアップに奮闘しました。もともとセキュリティグループにいたメンバーから「こんな本を読むといいよ」「この記事参考になったよ」と教えてもらったものはとにかく吸収していましたね。
また、もともと技術書を読むことが好きなので、自身でもできるだけ早く戦力になれるように努力しました。初めは少なかったメンバーも私が入社した以降徐々に増えてきて、心強かったですね。
「開発者の気持ち」を忘れないセキュリティエンジニア。歩み寄りで実現した全体最適
トヨタ入社と同時にこれまでと違う分野を経験したことで、自身の成長を強く感じられることが多々ありました。前職では開発に特化し、実装を主務としていましたが、セキュリティグループに配属されたことにより、コックピットの機能全体を理解し、他の機能の開発チームとコミュニケーションを取りながら最適化していくという新しいミッションが与えられ、できることが増えたと実感しています。
とくに印象的だったのは、コーディング時にセキュリティを担保してコーディングしてもらうためのプロセスを自身で設定し、各機能の開発チーム全体に準拠してもらうようにしたことです。コックピット開発全体に関わるプロセスを自分で作り上げ、グループメンバーにレビューしてもらい、最終的にプロジェクト全体で活用してもらえることになった際は、自分の仕事で数千人規模のチームメンバーに影響を与えることができ、感動しました。
このプロセスを作る際にもっとも意識したことは、開発者の視点に立って考えることです。私自身、前職では開発者だったので、開発者の気持ちはある程度理解しているつもりです。
たとえば、セキュリティを守ることを意識しすぎると、開発者が自由にコーディングできなくなってしまう懸念があります。そこで、適切なツールを使用しながら、できるだけ開発者の負担を増やさずにセキュリティを担保できるよう工夫しました。セキュリティを守ることは大切ですが、それによって開発者の発想が制限されすぎることもよくありません。開発者の気持ちを考え、歩み寄りながらもセキュリティを担保することを強く意識しました。
セキュリティの仕事の魅力は、プロダクト全体を把握できることです。開発者は1つの機能について突き詰めて理解することが多いのですが、セキュリティグループは全体を見て最適化していかなければならないため、プロダクト全体への理解が深まるところに魅力を感じています。またハッキング技術など、高度な専門家が扱うような技術に触れられるところも大きな魅力です。
一方で、各機能の開発チームとの意見のすり合わせが必要なため、コミュニケーション能力も欠かせません。私は自分の意見を押し付けるのではなく、相手の話をよく聞いて受け止め、お互いにとってもっともよい解を見つけることを意識しています。いろいろな考え方のメンバーと会話を重ねることで、自身のコミュニケーション能力も高まったと感じます。
挑戦を受け入れ、成長を支える文化。トヨタで広がり続けるエンジニアの可能性
トヨタならではの働く魅力として、私が一番に感じているのは人柄のよさです。前述の通り、セキュリティグループは各機能の開発グループに対して、要望を伝えることも少なくありません。そんな時、どのメンバーも意見にしっかり耳を傾けてくれて、「セキュリティグループの意見をしっかり受け入れて開発しよう」という姿勢で業務を行ってくれるので、要望を伝えやすく、非常にありがたいと感じます。みんなが相手の立場に立つ「Youの視点」をもって、相手の想いを汲み取りながらものづくりをしているので、よいプロダクトが作れるのだと感じます。
また、「カイゼン」の文化が強く根付いていることも特徴です。以前私が作成したセキュリティ担保のためのプロセスも、完成後に「カイゼン」を繰り返してきました。マネジメント層からも、目の前の仕事をこなすだけでなく「カイゼン」する時間を作るよう指示があるほか、メンバーみんなが常によりよくできることはないかとアンテナを張り巡らしており、それがソフトウェア開発の現場と融合しよりよいプロダクトを作れる環境になっていると感じます。
たとえば、コードを直すリファクタリングを行う際、機能的には変化がないので他社では受け入れられにくいこともありますが、トヨタでは「より綺麗なコードにしたほうが生産性が上がる」など理由をしっかり説明すれば、「それは『カイゼン』したほうがいいね」とスムーズに受け入れてもらえます。
私自身は今後もセキュリティに限らず、自分の幅をどんどん広げていき、できることを増やしていきたいと思っています。最近、昇格を果たしてリーダーシップを取る機会も増えてきたので、技術面だけでなくマネジメント面にも力を入れていき、必要な時に必要な能力が発揮できる存在になっていきたいです。
トヨタには、幅広い領域にチャレンジできる環境があります。私は前職で開発者として働いていましたが、トヨタに転職してすぐにセキュリティ分野に移りました。このようなチャレンジにも寛容で、挑戦をサポートしてくれる環境があることがトヨタの強みの1つです。
社内ではソフトウェアエンジニアの実践研修である「トヨタソフトウェアブートキャンプ」などさまざまな取り組みが行われており、新しいことを学べる機会がたくさんあります。これまでのスキルと新しく得た知識を組み合わせて、自分だけの新たなスキルを活かして会社に貢献していきたいです。
※ 記載内容は2025年12月時点のものです
