お客さまの“かゆいところ”に手が届く存在に。潜在的なニーズを捉えた提案を心がける
韓国豊田通商のメタルプラス部は、圧倒的な存在感がある呉部長のもと、主に自動車用鋼板やステンレス鋼板を扱うグループと、棒鋼や線材、パイプなど特殊鋼を扱うグループの2つのグループで構成されており、咸は特殊鋼のグループを率いています。
「日本の鉄鋼材料を韓国のメーカーに供給したり、韓国の鉄鋼メーカーの材料を世界中に届けたりする事業を行っています。グループは4名で構成されており、私以外は全員女性です。
細やかな気づかいや仕事の進め方、得意分野がそれぞれにあって、皆で協力してきちっと仕事を収めてくれています。グループ全員の特長や長所を活かせるような業務配分ができるよう、明確な指示を心がけていますね」
グループの取引先は世界中に広がっており、時差の関係で1日を通してさまざまな国の顧客とやり取りしています。
「朝早くはアメリカやメキシコ、夕方はヨーロッパやアフリカ、夜遅くはブラジルなどとコミュニケーションを取ります。韓国豊田通商のメンバーは全員日本語と英語が堪能で、中国語を話せる人もいます。基本的に3カ国語以上が話せる人ばかりで、海外拠点の中でも全社員が日本語を話せるめずらしい拠点です。
また、私たちのグループでは、生産された製品をジャストインタイムでお客さまに届けることに注力しています。そのためには、船便の調整や現地在庫の管理が重要です。現地のスタッフとオンタイムで情報交換を行い、お客さまの生産状況を把握しながら欠品を防ぐよう努めています。また、プサンがアジアの物流拠点となっているため、さまざまな国の航路を活用して効率的な輸送を調整しています」
グローバルな環境で仕事をする上で、咸は顧客とのコミュニケーションにとくに気を配っています。
「お客さまと接する際は、相手の“かゆいところ”をうまく察知するように心がけています。『お客さまの背中にあるものを見つけ出す』とでもいいましょうか。自分の背中は見ることができないので、私たちが鏡の役割を果たし、お客さまが気づいていない潜在的なニーズを捉えた提案をするよう心がけています。
また、相手によって適切な表現や欲しい情報が異なるので、それぞれに合わせた対応を意識してこまめにコミュニケーションを取るようにしています。それらがうまくはまって結果に結びついた時には大きな喜びを感じますね」
韓国と日本、2つの国で育んだ視点とスキルをビジネスの強みに
韓国出身の咸は、幼少期から青年期にかけての多感な時期を日本で過ごしてきました。
「父の仕事の関係で小、中、高校の12年間を名古屋で過ごしました。小学校ではサッカー部に所属し、名古屋市代表に選ばれたことも。ずっと剣道も習っていて初段を持っていたり、スノーボードのインストラクター3級を持っていたり、いろいろなスポーツを経験させてもらいました。その中で上下関係もそうですし、日本的な武道の考え方も身につきました。
しかし、韓国には兵役義務があることと、将来韓国で生活する際に友人関係や環境になじむことが難しくなること、さらに父親からの勧めがあり、大学から韓国に戻ることを決めました。
当初は戸惑いもありましたが、結果的に大学時代を韓国で過ごした経験が現在の仕事において大きな強みとなっています。日韓両国の文化や考え方を理解できることが、今の仕事にとても役立っているからです。
たとえば、韓国人は物事をストレートに伝える傾向がありますが、日本人は相手を傷つけないよう遠回しな表現を使うことが美徳であったりします。私はこの違いを理解し、両文化の橋渡し役として相手に応じた適切なコミュニケーションがとれると自負しています」
大学卒業後、就職活動では自分の働きが直接結果につながるような仕事を希望します。
「働いた分だけ結果が返ってくるような仕事を漠然と希望していました。韓国の大手企業にいくつか応募しましたが、大学のホームページで韓国豊田通商を見つけました。
当時はよく知りませんでしたが、父親から良い会社だとアドバイスを受けて関心を持ち、面接と入社試験を経て運良く合格しました。最初は合わなかったら他の企業に行けばいいくらいの気持ちで臨みましたが、入社後すぐに豊田通商という会社に魅力を感じました」
その結果、他の韓国企業の内定をすべて辞退し、韓国豊田通商に入社した咸。入社後も、豊田通商という社風に惹かれていきます。
「入社当初、皆さんの優しさに惹かれました。とくに、私の1年先輩の時から新入社員を採用し始めたことで、新入社員を大切に育てる文化がありました。会社としては、次の柱となるリーダーを育てようという意図があったと理解しています。
また、入社時期が韓国製の鉄鋼材料のブームと重なり、日本からの出張者と共に韓国の鉄鋼メーカーを訪問する機会や、両国の資料の翻訳や通訳業務を通じて多くの経験を積むチャンスがありました」
キャリアの転機となったのは、東京本社への出向。5年間にわたり、さまざまな業務を経験しました。
「最初の2年間は主に国内ビジネスに携わり、デリバリー管理や国内のOEMメーカー、サプライヤー向けに日本の材料を納品する業務を担当しました。後半の3年間は海外の事業体の管理や新規事業、投資案件に関わる機会が多くありました。
東京本社にいると、情報の量や仕事の規模感が圧倒的に大きく、社会への貢献を実感する機会がたくさんありましたね。とくに、後半3年間で経験した国や社会に貢献できるような仕事はたいへん楽しく、価値のあるものでした。社員も皆さん真面目で素直、頑張り屋が多いイメージで自身のモチベーションにもなりました」
2024年から咸は韓国に戻り、グループリーダーとして新たな役割を担っています。
「韓国に戻ってからは、日本で得た経験や視点、考え方を韓国豊田通商の仲間たちと共有し、韓国でも同様の事業展開ができるよう頑張ろうという気持ちになりました。今は自分なりに新しい挑戦に取り組んでいます。
その上で、本社で築いたコネクションが今でも役立っています。海外で仕事をしていると同じ部署の人としか知り合えない、他の方と知り合う機会が少ないのですが、本社にいるとさまざまな部署の方々と知り合いになれます。そのため、何か新しいことをやりたい時に、適切な人を紹介してもらうことができるのです」
何もないところからの市場開拓。アフリカの電力効率化に貢献するプロジェクトを推進
日本本社での経験を通じて大きな成長を遂げた咸。とくに印象に残っているのは、日本滞在の最後の1年間で携わったプロジェクトです。
「もっとも印象深いのは、アモルファス金属を電磁鋼板の代替材料として使用するプロジェクトです。メーカーと協力しながら課題を克服し、市場ニーズを発掘していきました。その結果、経済産業省の事業実証補助金を獲得し、さらにアフリカ本部と協力してケニアでの高効率変圧器導入プロジェクトにも発展したのです」
このプロジェクトは、ケニアのルト大統領が豊田通商の名古屋本社を訪問した際にも紹介されるほどの大きな成果となりました。咸は韓国に戻る前にプロジェクトの完了まで見届けられなかったことを少し心残りに感じつつも、大きなプロジェクトの基礎を作れたことに喜びを感じています。
「このプロジェクトを通じて、アフリカを重要なマーケットとして位置づけて電力の高効率化と省エネを推進できたことは、私にとって貴重な経験であり誇りです」
このプロジェクトが成功した理由としては、人との関係性や環境がうまくマッチしたことを挙げます。
「最初は何もないところから始まりましたが、アモルファス材料を提供するメーカーの担当者と良好な関係を築けたことで一緒に市場開拓を進めました。
翌年に金属製品事業部からケニアに駐在員が派遣されたことで、プロジェクトの進行が加速しました。これまでは出張ベースだったため、帰国後に話が停滞しがちでしたが、常駐することで継続的な進展が可能になったのです」
咸は、現在進めている仕事の魅力について、こう語ります。
「海外や各地域の人々と仕事をする機会があり、ある国でうまくいったビジネスを他の国や地域に展開できる可能性があります。たとえば、アジアで成功したビジネスモデルをメキシコで試してみるなど、地理的な制限なく仕事が展開できます。つまり、世界中と24時間仕事ができる、これは魅力的ですよね。
このような環境で仕事ができるのが、商社ならではのおもしろさ。もちろん、ストレスが溜まることもありますが、やりたいことや好きなことが明確なので今のところ楽しく仕事ができていて、それはとても幸せなことだと感じています」
グループリーダーに昇進し、立場が変わったことで心境の変化もあったと語ります。
「グループリーダーになって一番気をつけたのは、勘違いをしないことでした。肩書きがついたからといって、偉くなった気になって指示だけ出すような人にはなりたくないです。組織上は上下関係があっても、自分より優秀な人、尊敬できる人がたくさんいることを知っているからです。
『こういうふうにやりたい』という理想のリーダー像も持ちながら、いろいろな人から学んで良いところを取り入れ、真似るようにしています」
グローバル視点で未来を描く──韓国豊田通商が挑む新たな価値創造のカタチ
咸は、広範囲な視野を持って今後の自身の在り方を考えています。
「みんなに認めてもらいたいという思いがあります。特定の人だけでなく、多くの人から『あの人となら仕事したい』『あの人に聞いたら仕事しやすい』と思われるような万能な人になりたいですね。
なので、海外拠点だからという限定的な考え方を持たないよう心がけています。韓国豊田通商が主体となって引っ張っていけるような事業も作れるといいですよね。みんなにとって刺激になるような存在になりたいです」
共に働きたい仲間については、成功を最終目標ではなく過程と捉え、自己を見つめ直せる人材を求めています。
「この仕事は欲張りな人に向いており、ある程度のプライドと強さを持った人の方が活躍できると思っています。ただし、欲張りであると同時に相手の言うことを理解し、反省できる人が理想です。
われわれは最終的に物を作る立場でも買う立場でもなく、さまざまな商売や商材をつなげる立場にあります。そのため、自分たちから何かを発信するのは難しい面がありますが、一緒に悩み抜ける仲間がいれば新しいアイデアや可能性も見出せると思います」
咸は、商社の特性を活かし、新たな価値創造やビジネスモデルの構築にも挑戦したいと考えています。
「韓国はIT分野で世界的に進んでおり、とくにバッテリー関連では世界トップクラスのメーカーが多いです。今後、電気自動車市場が拡大する中で、韓国のメーカーと共に海外展開できる機会を探っています。
その上で、見積もり業務のプラットフォーム化を考えています。現在、多くの見積もりを出していますが、実際に商談につながる割合は低いです。そこで、顧客のニーズに応じて、温室効果ガス削減を最大限に考慮した材料提案やコスト重視の提案など複数の選択肢を提供できるようにしたい。このようなプラットフォームを開発できる韓国のスタートアップ企業を探しているところです」
グローバルな視点と社会貢献への強い意志を持ち、楽しみながらキャリアを積んでいく咸。豊田通商グループの一員として、また韓国と日本をつなぐ架け橋として、新たな価値創造に挑戦し続けていきます。
※ 記載内容は2024年10月時点のものです

