軽量・安全・自由な形状。「樹脂ウインドウ」が切り拓く新しいモビリティの未来
私が参画しているのは、PG(Plastic Glazing=プラスチック製の透明窓)プロジェクトです。このプロジェクトでは、自動車や建材などの分野における軽量化をさらに加速させる新素材として、「樹脂ウインドウ」の開発・生産に取り組んでいます。
樹脂ウインドウとは、従来の無機ガラスの代わりに樹脂(プラスチック)を使用した透明部材のことです。その大きな特長は「軽量性」「形状自由度」「耐衝撃性」「断熱性」の4つにあります。まず、無機ガラスに比べて大幅に軽量であるため、車両全体の軽量化につながり、燃費の向上やCO₂排出量の低減に貢献できます。次に、樹脂は成形の自由度が高いため、従来のガラスでは実現が難しかった複雑な形状やデザインにも柔軟に対応できます。また、衝撃を受けても割れにくいという特性があり、安全性の向上にも寄与します。さらに、樹脂はガラスに比べて熱を伝えにくいため、優れた断熱性能を発揮し、車内の快適性向上や空調負荷の低減にもつながります。
一方で、樹脂ウインドウには課題もありました。それが「劣化しやすさ」と「傷つきやすさ」です。屋外での使用を前提とする自動車や建材においては、紫外線や風雨による劣化、日常的な接触による傷が大きな問題となります。その弱点を克服するために、このプロジェクトでは長年にわたってコーティング技術の開発を続けてきました。そして今、新たなコーティングの開発がついに完了し、製品化に向けた取り組みを加速しているフェーズにあります。
このプロジェクトには、事業・原価企画、営業、製品開発(設計)、材料開発、工法開発、生産技術、品質保証など、実に多様な専門性を持ったメンバーが参画しています。樹脂ウインドウを単なる技術開発の成果にとどめず、実際のビジネスとして成長させるためには、技術的な完成度だけでなく、コスト、量産性、品質、お客様への提案力といった多面的な視点が不可欠です。そのため、部門を越えた連携を大切にしながらプロジェクトを進めています。
私自身は、先行開発・製品開発の立場でこのプロジェクトに参画しています。市場やお客様のニーズを踏まえながら、新しい技術や材料をどのように製品として実現するかを検討し、開発を推進することが主な役割です。具体的には、他社製品のベンチマーク調査や新機能の企画、材料・構造の性能評価、製品仕様の検討などを担当しています。性能評価や課題解決にとどまらず、量産化や実用化を常に見据えながら、関係部署と連携してプロジェクト全体を前に進めていくことが私のミッションです。
「不安より期待が大きかった」自ら手を挙げた樹脂ウインドウへの挑戦
このプロジェクトに参画するきっかけは、樹脂ウインドウという新しい素材を通じてこれまでにない価値を生み出せる可能性があると聞いたことでした。前例の少ない挑戦ではありましたが、新しい技術や市場に携われることへの魅力を強く感じ、自ら手を挙げて参画することを決めました。当時を振り返ると、不安がなかったわけではありません。でも、それよりも期待の方がはるかに大きかったことをよく覚えています。
プロジェクトに加わってまず取り組んだのは、他社のベンチマーク調査と、市場で求められている価値の分析です。樹脂ウインドウとは、従来のガラスに比べて軽量である点が大きな特長を持つ素材ですが、ただ、軽いというだけではお客様に選んでいただくことはできません。競合製品の特徴やユーザーニーズを丁寧に調査しながら、樹脂ウインドウならではの付加価値や将来の製品コンセプトはどうあるべきかを徹底的に考え抜きました。この調査と分析のプロセスが、その後のプロジェクトの方向性を定める重要な土台になったと感じています。
プロジェクトを進めていく中で、もっとも難しいと感じたのは、技術的な理想を追い求めながらも、コストや量産性という現実的な制約と向き合わなければならないことでした。量産性とは、製品を安定して大量に製造できるかどうかという観点のことです。技術的には実現できても、製品として成立しないケースも実際に出てきました。「これはできる」と思っていたことが、コストや製造の壁にぶつかってしまう。そのたびに悔しい思いをしながらも、諦めずに向き合い続けました。
そうした壁を乗り越えるために頼りにしたのは、さまざまな専門性を持つメンバーとの連携です。設計、生産技術、評価、営業と、異なる視点を持つ各部署のメンバーと何度も議論を重ねました。それぞれの知見を持ち寄り、実現したい価値と製品として成立させるための条件を一つずつ丁寧にすり合わせることで、最適な方向性を少しずつ見出していきました。一人では気づけなかった視点に何度も助けられ、チームで取り組むことの意味を改めて実感した時間でもありました。
「技術」と「市場」の両眼で見る。ハードコート採用が生んだ新しい視点と成果
プロジェクトは今、大きな転換点を迎えています。新たに開発したハードコート(樹脂表面を保護するための硬質コーティング技術)をトヨタ自動車のe-Paletteのサイドウィンドウに採用していただいたことをきっかけに、さまざまな方面からの引合いをいただけるようになりました。生産量の増加に伴う1段階目の能力増強を終え、今まさに次のフェーズへと進もうとしています。
現在は、さらなる生産量拡大に向けた生産準備や新ラインの構想に加え、樹脂ウインドウの付加価値をいっそう高めるための開発にも並行して取り組んでいます。一つの成果で立ち止まるのではなく、次の価値をどうつくるかを常に考え続けているところです。
この取り組みによって期待できる効果は、モビリティの軽量化や燃費の向上といった環境面での貢献だけにとどまりません。例えば、フォークリフトなどの産業車両では、樹脂ウインドウの形状自由度を活かしてオペレーターの視界を改善できるため、視認性の向上による作業効率のアップにつながります。また、耐衝撃性を活かした安全性の向上など、使う方にとっての実感しやすいメリットも多岐にわたります。実際にお客様からも、「耐久性や扱いやすさが向上し、商品としての魅力が高まった」「従来のポリカーボネート材より長持ちで傷が付きにくいから扱いやすい」「魅力的な商品なのでさらに普及してほしい」といった声をいただいています。こうした言葉は、開発に携わる者として本当に励みになります。
このプロジェクトを通じて、自分自身の大きな変化も感じています。以前は「技術的に実現できるかどうか」を軸に物事を考えることが多かったのですが、今は「お客様にどのようなメリットを提供できるか」「市場で競争力のある製品になるか」という視点もあわせて持てるようになりました。新しい機能や材料を検討するときも、技術の実現性と市場での価値を同時に問いかけながら考えられるようになったのは、自分にとって大きな成長だと感じています。
そして、この変化は自分一人にとどまらず、チームや組織全体にも広がっていると実感しています。前例のない技術や市場に挑戦するプロジェクトだからこそ、「前例がないから難しい」という発想ではなく、「どうすれば実現できるか」を前向きに問い続ける文化が以前より根付いてきました。新しい事業や製品は、一つの技術だけで成立するものではありません。開発、生産技術、営業など、さまざまな視点を組み合わせて初めてお客様に価値を届けることができる——このプロジェクトを通じて、そのことを体感として理解できたことが、何よりも大切な学びだと思っています。
技術と事業の両輪で、持続可能な社会と新たな産業の柱を築く
今後の取り組みとして、私がまず力を入れたいと考えているのは、樹脂ウインドウの商品性をさらに高めるための付加価値向上アイテムの開発です。お客様のニーズを捉え、樹脂ウインドウの可能性をさらに拡げるために既存の製品の枠にとらわれない新たな製品の開発に積極的に取り組んでいきたいと思っています。
あわせて、生産量の拡大を見据えた新ラインの構想・設計も重要な課題です。高品質と高効率を両立した生産体制を整えることで、樹脂ウインドウをより多くのお客様に安定してお届けできる基盤を作っていきたいと考えています。さらに、環境負荷を抑えるためのリサイクル技術の確立も、これからの取り組みの中で欠かせないテーマです。
こうした技術開発を進めながら、私自身が今後さらに磨いていきたいのは、事業として成長させる視点です。樹脂ウインドウの性能向上はもちろん大切ですが、お客様が本当に求めている価値は何かを常に意識しながら開発を進めることが重要だと感じています。そのために、市場や業界動向への理解を深め、技術と事業の両面から提案できるエンジニアになりたいと思っています。
私はこのプロジェクトを通じて、豊田自動織機がこれまで培ってきたものづくりの強みを活かしながら、新しい価値を生み続ける組織をめざしていきたいと考えています。樹脂ウインドウのような新しい技術を事業として育てることで、既存事業に加えた新たな柱を築き、変化する社会やお客様のニーズに柔軟に応えられ続ける組織でありたいと考えています。
そして、この事業が社会に対して果たすことができる役割も、私にとって大きなモチベーションの源になっています。樹脂ウインドウの普及を通じて、環境負荷の低いモビリティや建材の実現、軽量化による省エネルギー化やCO₂排出量の削減、そしてリサイクル技術の確立によって資源を循環させる仕組みづくりにも挑んでいきたいです。
人々が快適に暮らしながら環境への負荷を抑えられる、持続可能な社会の実現に貢献できる事業へと成長させていくこと——それが、私がこのプロジェクトにかける思いです。技術者として日々の開発に向き合いながら、その先に広がる未来を描き続けていきたいと思っています。

