電動化の波に乗り、トヨタ品質のモータ・コントローラを世界へ届ける外販事業
私が所属する部署では、電動フォークリフト用に内製しているモータとコントローラ(モータを駆動・制御するための装置)を、フォークリフト以外の用途に販売する「外販活動」を行っています。具体的には、電動ゴルフカートや小型電動車両、あるいは新興国で広く利用されている三輪タクシー(通称トゥクトゥク)など、さまざまな業界のお客様にこれらのコンポーネント(主要部品)を提供することが私たちのミッションです。
この外販専門の部署が立ち上がった背景には、社会全体の大きな変化があります。自動車業界ではエンジン車から電気自動車への電動化が急速に進んでいますが、それはフォークリフト業界にとどまる話ではありません。ゴルフカートや小型輸送車両など、自動車以外のあらゆる移動体においても電動化のニーズが急速に高まっています。そうした市場の変化に応えるために、2013年から外販の量産販売を開始し、私たちの部署はここまで歩んできました。
私たちの部署は、営業メンバー、企画・技術営業メンバーで構成されています。ただし、販売する製品はあくまでも社内の設計部署が開発・製造するものですから、設計部署をはじめ、生産管理、製造、品証(品質保証)、物流といった既存の部署とも密に連携しながら活動しています。社内外を横断するかたちで、一つひとつの案件を前に進めていくのが私たちの仕事の実態です。
そのなかで私が担当しているのは、技術営業という役割です。まず市場調査を行い、私たちの製品が役立てる可能性があるターゲット顧客を見つけ出すところから始まります。その後、実際にお客さまのもとを訪問して製品の提案を行い、採用が決まれば車両への適合に関する技術サポートまで担います。営業活動と技術支援の両方を一人でカバーする、幅広い役割です。
私たちが提案している製品の強みは、やはり「トヨタブランドとして長年にわたり電動フォークリフトを提供してきた実績と技術」に裏打ちされた、高性能・高品質・高信頼性にあります。長い歴史のなかで培われた技術をベースに開発・製造されたモータとコントローラは、厳しい産業現場でも耐えうる品質水準を持っています。この強みを武器に、私たちはフォークリフト以外の市場にも積極的に打って出ています。
不安と期待が入り混じる中、フィリピン電動化プロジェクトへ飛び込んだ日
このプロジェクトに参画するきっかけは、フィリピンで行われた国際入札でした。フィリピン政府の国家プロジェクトとして、街を走る三輪タクシーを電動化するという取り組みが進められており、その入札に際して日本のコンサルタント会社が国内企業に参画要請を行ったのです。そのコンサルタント会社の関係者に、私の前職時代の先輩が携わっていたことから、お声掛けをいただいたことがはじまりでした。
当時の私は、新興国のビジネス事情や三輪タクシーについてほとんど知識がありませんでした。「自社のフォークリフト向け製品が、まったく異なる用途で通用するのだろうか」「どんなビジネスに発展していくのか」――そんな不安と期待が入り混じる心境だったことを、今でも鮮明に覚えています。
まず最初に取り組んだのは、フォークリフト用の自社製品をベースに、最小限の設計変更で電動三輪タクシーに対応できないかを検討することでした。まったくゼロから製品を開発するのではなく、既存の資産を活かしながら展開できるかどうかを探るところからスタートしたのです。それと並行して、顧客との信頼関係の構築にも力を入れました。メールのやり取りだけに頼らず、電話や対面での会話を積極的に重ねることを意識しました。また、前職での電気自動車開発の経験を活かして、自社製品の範囲を超えた電動車両全般のお困りごとに対しても、情報提供やアドバイスを行いました。「担当製品を売り込む営業」ではなく、「課題解決のパートナー」として関わることで、顧客との関係を深めていきました。
しかし、プロジェクトを進めるうちに、いくつかの壁に直面しました。最も大きな課題は、フォークリフト用と電動三輪タクシー用とでは、モーター(電動機)やコントローラー(動作を制御する装置)に求められる仕様が微妙に異なるという点でした。かといって、専用品として一から開発してしまうと、コストが合わなくなってしまいます。
この問題を乗り越えるために選んだのは、開発コストの大きいハードウェアの変更は行わず、ソフトウェアの小変更で対応し、残りは車両システム側でも対応していただくという方法でした。また、フォークリフト以外の用途・外販製品として展開しようとすると、製品自体の機能が不足していたり、製品を設定するための周辺ツールが整っていなかったりという問題にも直面しました。既存の製品ラインナップがフォークリフトを前提に設計されていたため、外の世界に出ると思わぬ部分が抜け落ちていることに気づかされました。それぞれの課題に対して、社内の関連部署や社外の協力会社と連携・調整を重ねながら、一つひとつ解決の糸口を探っていきました。
苦労が吹き飛ぶほどの喜び——街中で動く、自分たちの製品
現在、このプロジェクトは着実に成果を積み上げてきています。国内トップシェアを誇るゴルフカートメーカーの全車種向けにコントローラ(モーターの動作を制御する装置)を提供しているほか、フィリピンの複数の電動三輪タクシーメーカーにはモーターとコントローラをセットで納入しています。さらにその他のさまざまな国のお客さまに対しても電動化用途として製品を提供しており、今では年間数万個という外販実績を実現するところまで来ました。
成果として特に自負しているのは、「工数ミニマムでの販売拡大」を実現できたという点です。もともと自社のフォークリフト用途のために内製していたコンポーネント(部品・ユニット)を、最小限の設計変更で他の用途向けに展開する。これによって、開発にかかる手間や時間をできる限り抑えながら、販路を大きく広げることができています。その根底にあるのは、ベースとなる技術と製品がしっかり存在していることです。そしてもう一つ、「市場が求めるニーズに何としても応えていく」という、諦めないバイタリティがあってこそだと思っています。
お客さまからも、嬉しい声を多くいただいています。「高性能・高品質なトヨタブランドのコンポーネントを外販してもらえることが心強い」「製品自体の故障がほとんどない」——そうした感謝の言葉は、やはり大きな励みになります。また、実際にタクシーを運転されているドライバーの方々や、タクシーをご利用される方々からも、「電動化によって運転がしやすくなった」「騒音が少なくて快適だ」「環境にやさしい」といった高い評価をいただいており、製品が社会の中で確かに役立っているという手応えを感じています。
そして、このプロジェクトに取り組んで得た気づきの中で、私がもっとも印象深く感じているのは、自ら開拓した顧客に製品を届け、その製品が実際に街中で活躍している光景を目にした瞬間のことです。今まで積み重ねてきた努力が、目に見える形で結実したことを実感すると同時に、それまでの苦労が一気に吹き飛ぶほどの喜びを感じました。どれほど言葉で表現しても、あの感慨はなかなか伝えきれないものがあります。
既存部署との連携においては、やはり調整の難しさも伴います。各部署の方々はそれぞれの日常業務で多忙な中、こちらからさらに追加の協力をお願いしなければならない場面が何度もありました。そのたびに心がけたのは、自分が手がけているこの業務の意義や方向性を丁寧に説明し、同じ目標と志を持ってもらえるよう真摯に向き合うことです。共感を得ることができれば、人は動いてくれる——そのことをこのプロジェクトを通じて改めて実感しました。
走行系電装システムの「丸ごと提供」で、カーボンニュートラルな社会を切り拓く
今後のプロジェクトでは、モータとコントローラというキーコンポーネントを中心に据えながら、それ以外の周辺コンポーネントも含めたシステム全体での提供を実現していきたいと考えています。
少し補足させていただくと、モータとコントローラだけでは、実際にはモータは回りません。つまり、車両は走行しないのです。バッテリ、メータ、アクセルセンサ、ケーブル、充電器といったさまざまな部品が一体となって、初めて車両は動きます。だからこそ私がイメージしているのは、走行系に関する電装システムを車両メーカーに「丸っと」提供できるような形です。お客さまがモータやコントローラを単体で購入して自分たちで組み合わせるのではなく、走行に必要な電装システムをまるごとお届けできる——そういう価値提供を目指しています。
これを実現するためには、自社だけの力では限界があります。協業企業との連携をさらに強化していくことが不可欠です。具体的には、自社では提供できない製品の調達はもちろん、通信を活用した車両管理システムや、乗車時の料金収受システム、さらには自動運転システムといった、より高度な機能への対応も視野に入れた体制を構築していきたいと考えています。私たちだけが強くなるのではなく、パートナー企業と共に成長し、より広い価値をお客さまに届けられる生態系をつくっていきたいのです。
こうした取り組みを通じて、目指したい組織の姿があります。それは、エコフレンドリーなモビリティの提供を支える部品およびシステムを提供できる企業・組織です。私たちが手がける電動モビリティ向けのコンポーネントやシステムは、単なる製品にとどまらず、社会の変革を支えるインフラの一部だと捉えています。その自覚を持ちながら、日々の業務に取り組んでいきたいと思っています。
そして最終的に目指す社会の姿は、カーボンニュートラルで、エコフレンドリーな世界です。私たちのプロジェクトが果たせる役割は明確で、石油の消費量を削減すること、そしてゼロエミッション(排気ガスをゼロにすること)によって市街地の空気をクリーンにしていくことだと考えています。電動化という選択が当たり前になった社会では、都市の空気が変わり、人々の暮らしの質も変わっていくはずです。その変化の一端を、私たちのプロジェクトが担えると信じています。
地道な取り組みではあるかもしれませんが、部品やシステムという形で社会課題の解決に貢献できることは、この仕事の大きなやりがいです。これからも仲間と力を合わせながら、エコフレンドリーな社会の実現に向けて着実に前進していきます。

