フォーカスすべきは、結果ではなく「どうあるべきか」
大学を卒業後、向は旅行会社に就職しました。入社後の集合研修を優秀な成績で終えたものの、配属された支店では何もかもがうまくいかなかったと話します。
「研修ではドラフト1位だったと思います。
でも、新しくできた支店に配属されると、周りのレベルが高く『期待に応えなくては』と結果ばかりを追い求めるも、ついていけませんでした。誰からも必要とされないことに、悲しさを感じていました」
日々、目の前のタスクをこなすことで精一杯な状態となり、心身とも疲弊していった向。苦しみながらも6年間もがき続けましたが、最終的にはできる仕事がなくなり、退職を余儀なくされます。
再就職するにあたって、向は「自分を必要としてくれる会社で働きたい」という想いから、一番に内定をもらったキャレオ(ランスタッドの前身企業)に就職を決めました。
「当時はランスタッドになる前で、今よりずっと規模の小さなビジネスでした。今のエンジニア事業部のベースとなる部署があったのですが、アットホームな環境だったのであまりプレッシャーがなくて。
前職では『すごく稼がないと生きていけない』と自分の中でかなりハードルを上げてたので、良い意味での驚きがありました」
それまでは「これだけ頑張っているのだから評価してほしい」と、会社に対する期待や依存があった向。だからこそ、退職する際には片想いの相手に失恋したような感覚を覚えました。
しかし、キャレオに身を置くことで自分を見つめ直し、内省する精神的な余裕が生まれます。結果ではなく「営業職としてどうあるべきか」にフォーカスすることで、結果が出るサイクルのコツを少しずつつかんでいきました。
「結果を出すには、会社に評価されることではなく、自分にベクトルを向けないといけないと気づきました。結果を出せる自分になるために自分が成長するしかないんだと思うようになったら、成果は後からついてくるようになったんです。
だから、努力していればいつかできるようになるし、誰にでもチャンスはあると思えるようになりました」
30代で与えられた機会と成長実感
キャリアを再スタートさせた向は、とんとん拍子にマネージャーに昇格。今では、エンジニア人材を専門とするrandstad technologiesのエンジニア事業部事業部長を務めます。
「マネージャーになるまでは、自分の範囲の中で自分がやればなんとかなっていたんです。でも、初めてマネージャーになった時、自分だったら絶対そんなことしないということが多発しました。
自分の影響が及ばないところでトラブルが起きることに難しさを感じました」
それまでは、自身が営業担当として取り組んでいたことが“正”。しかし、マネージャーとなってからは、同じことを部下にやってもらおうとしてもうまくいきません。
そのうち、相手を変えようとするのではなく、自分が変わることで相手が変わることに気づきました。プレイヤーとしての動きと、マネージャーとしての動きは違う世界観の中にあり、意識の世界が自分以外の相手にも広げなくてはならないことの難しさに直面したのです。
「うまくいかない時や成果が出ない時に本屋に行きます。自分で課題を特定できないことも結構あるので、本屋に行ってビジネス本のコーナーをウロウロすると、目線が止まる時があって。
そこで、『自分が今関心があるのはこの辺のテーマだ』というのをピックアップして読んでいます」
事業部長になった今でも常に悩み、迷いながらいかに部下たちの成長を支え、チャンスをつかんでもらえるかを考えています。
「キャレオ(ランスタッドの前身企業)は、僕にチャンスを与えてくれました。すぐにマネージャーになれて、いろんなことに向き合える良い機会がありました。
今のメンバーたちにもそういう機会を提供していけば、やれるだろうと強く信じています。ビジネスが成長していけば新しいポジションも生まれるので、今はそこに注力しています」
仲間を増やしていくために、やる気がある人材には積極的に機会と環境を作っていく。それが、結果としてエンジニア事業部の拡大につながっていくと向は考えています。
「20代のころは結果が出せず、自分では頑張っているつもりでしたが、他責思考になっていて具体的に努力をする行動が伴っていなかった。スポーツでたとえるなら、試合(=仕事中)は頑張っていたけど、練習(=努力)を一切していなかったという感じです。
それが、新しい環境では30代の自分が言ってること、やってることがだんだんと広がっていった感覚がすごくありました。誰も自分の話を聞いてくれなかったところから、1人から2人、10人と増えていった。
自分の成長を実感できる機会がたくさんあったから続けてこられたんだと思います」
良い人間関係を継続していくための3つの貢献
かつての自分が、やりがいを見つけポジティブに成長していけたように、同じ志を持つ仲間を1人ずつでも着実に増やしていくことを向はめざしています。そのために一番重視しているのは、人間関係。
「良い人間関係」とはどういうものなのかを問い続けます。
「まずは、どうやって成果を出していくか。そして、僕らが掲げているビジョンに対してどう取り組み、どう成長していけるか。『直接の成果』、『価値への取り組み』、『人材の育成』の3つの貢献にフォーカスしながらコミュニケーションを取っていくと、チームとして一体感が出てくると思っています」
共感したビジネス書の内容はノートにまとめ、マネージャー陣との月次会議で共有。自分の価値観や経験を教え込むべきか、うまくいかないと目に見えていても各々のメンバーの意向を尊重すべきかは、事業部長になった今でも模索が続いています。
「会議の時に精神論を言ったりするんですけど、だいたい直近で読んだ本からの引用なんです。それをみんなわかっているので、『向は最近何の本にはまっているか?』とクイズになっています(笑)」
変化が早い市場の動きの中で、自身も変化しながら成長を求めていく向。これから、さらなる拡大が見込まれるエンジニア事業部であっても、もうかつてのように結果だけを求めることはありません。
新しいポジションを作り、インセンティブとして表彰制度を設ける。事業の組み立てや予算を、メンバーの成長機会を起点に考える一方で、当然ながら高い意識をメンバーに求めています。
「エンジニア事業部は、直近の5年で売上規模が2.5倍ほどになっています。僕がここに至るまでの10年の経験がスタートポイントになれば、今後はより大きなスケールになっていることでしょう。
それを叶えられる人材を期待するとともに、現時点でできないことがあっても、自分が成長することで必ずできるようになっていけるという自分への期待値が高い人、自分で自分を動機付けしていける人がフィットすると思います」
「事業部は誰のもの?」── 個人の価値観を実現できるように
「2030年までに500億円の売上達成」という目標を掲げるエンジニア事業部。社員の成長やエンジニアの活躍、クライアントの発展を応援する「Hunting for potential」をビジョンとして打ち出しています。
「一応ビジョンを作ったんですが、それがあんまり前に出るとちょっと何かズレる感じがするんですよね。『事業部って誰のものなんだ?』っていう感覚があるんです。
僕自身は、勝手に高い目標を掲げてチャレンジしていくことが好きだから、取り組んでいるだけなんですよね」
事業部という単位になると、その中にはさまざまな人が身を置いています。個々人に対して「こうあるべきだ」とか「自分の方針に合う人で固めたい」などと、向はまったく思っていないと話します。
「たくさんの人がいますが、個人の価値観なり考え方を表現できる、実現できる環境が良いんじゃないかなと。事業部のメンバーから見た時に、何か同じ気持ちになれないっていうのはあると思うんですね。
たとえば、自分と違う価値観や考え方に触れることは、組織にとって良い意味で緊張をもたらしてくれるし、そういう違いを乗り越えて同じ風景を見ることができれば、一段上のレベルにいけると考えています」
ランスタッドが力を入れるエクイティ、ダイバーシティ&インクルージョン(ED&I)の活動に対しても、向は同じ感覚を抱いています。人材ビジネスの現場では、より年齢が若いスタッフの方がクライアントに喜ばれるという現実。綺麗な言葉で理想を語っているだけでは、実際にはうまくいかないことがたくさんあるのもまた事実なのです。
「現実的に、今のビジネスでは簡単に実現できることではないことだからこそ、自分の中で前向きなチャレンジになっている。現状はどうあれ、自分に何ができるかを考えなきゃいけない。
ビジョンもED&Iも、そのギャップを埋めていくポジションに僕は一番やりがいを感じているんですよ。そこが僕の中でチャレンジになっています」
目標を設定して、チャレンジし続ける。今の向にとって、それは会社のためではなく、あくまでも自身の成長のためです。
「仕事は、自分の成長への原動力。会社は、僕に成長のきっかけをくれる良き存在だと思っています。基本的には自分次第です」
※ 記載内容は2024年1月時点のものです
