複雑な課題の解決に向けた注目の取り組み──戦略デザイン
村田が戦略デザインと出会ったのは2023年7月のこと。2015年にNTTデータに入社してから、新しい価値を世の中に生み出すためにはサービスデザインやデザイン思考というものが必要だと感じるようになりました。
2019年にミラノ工科大学で1カ月間サービスデザインの基礎を学ぶ研修を受けた後、新規事業開発でサービスデザイナーやビジネスデベロッパーとして携わりました。さらに実践的で最先端の学びを深めたいという思いから、戦略デザインを学ぶためにパーソンズ美術大学に進学することを決意します。
戦略デザインとは気候変動のような世の中の複雑な問題に対処するための考え方だと村田は解釈しています。課題解決型やデザイン思考のように方法論として定義はされておらず、戦略デザインは状況によって変わり続けています。
戦略デザインの専門家であるDan Hilは“ダークマター”(※)という言葉を使って戦略デザインを例えました。「直接観察することができない未知の物質“ダークマター”のようなものに目を向けて、組織・文化・法的な枠組みなどの裏にある構造を理解し、対処するべきポイントを見極め、デザインすること」だと説明しています。
「見えている問題だけではなく、その裏にある目に見えないものも含めて問題解決に取り組んでいこうよというマインドセットなのかなと理解しています」
※ 参考文献:Dark Matter and Trojan Horses: A Strategic Design Vocabulary
「1.5℃ライフスタイル」をめざす
村田は大学の授業で1.5℃ライフスタイルについて学びました。1.5℃ライフスタイルは個人の脱炭素化のくらしのこと。住居、食、交通、レジャー、消費財やサービスなどの領域に分けて、これらの領域に伴うカーボンフットプリント(※1)を減らすことが目標です。
「従来の気候変動対策はほとんど供給側や生産システム側の努力に集中してきました。しかし、供給側の取り組みだけでは目標達成が難しいとわかり、需要側にも行動変容が求められています。そのために1.5℃ライフスタイルのような取り組みを個人個人が行えると良いと考えます」
行動変容のために重要なのはまずサステナビリティについて知る努力をすること。村田は留学生たちのサステナビリティへの関心度の高さに驚きました。実際に環境汚染を目の当たりにする機会が多いインドの留学生は日本に比べて当事者意識が強く、サステナビリティについて当然考えるべきものとしてオープンに議論していたと言います。
「日本は汚染エリートと呼ばれる国の一つです。2021年には世界で5番目に二酸化炭素を排出している結果が出たんです。日本でもサステナビリティを当たり前のものとして考え、改善努力をしていく必要があります」
※1 商品のライフサイクルに伴って発生する温室効果ガスをCO2に換算した排出量の総量
長ネギの再生栽培に挑戦
1.5℃ライフスタイルのアプローチとして、IPCC(※2)が提唱しているA-S-Iフレームワーク(※外部サイト)というものがあります。A-S-IはAvoid(回避)、Shift(移行)、Improve(改善)の頭文字で61個の具体例が提示されています。
A-S-Iフレームワークに関する授業の課題でImproveカテゴリーにある“Produce own food”(自分自身で食材をつくる)に関心を持ち、長ネギの再生栽培に村田は取り組みました。
農業の持つ牧歌的でスローライフなイメージに反して、現代農業は農機や温室など大量の燃料消費で成り立っています。“Produce own food”は一人ひとりが自身で食材をつくれば、その過程でかかるエネルギー消費をゼロにできるという考え方です。
長ネギの再生栽培に取り組む中で実践するまで見えなかった二つの障壁にぶつかったと村田は話します。
「再生栽培方法の情報にほとんどアクセスできなかったこと、栽培のモチベーションが続かなかったことが原因でした。このように表出していない阻害要因に目を向けて解決方法を探るのが戦略デザインの考え方です。
その対策として“negi club”というアプリを開発しました。“negi club”では最初に動画で再生栽培の方法を紹介し、クラブのメンバーと成長記録をシェアすることで栽培のモチベーションを維持することができます」
このアプリは反響があり、プロジェクト終了後も栽培を継続している人も多くいます。
「長ネギの再生栽培を課題に選んだのは楽しそうだなと思ったことと、アメリカでは長ネギがあまり手に入らないので自分にとって得になると思ったからです。
サステナビリティと聞くと、無私の精神で奉仕しなければならないと考えている人が多いと感じますが、自分が楽しい、興味がある、得になるなどの利己的な動機があってもいいと思っています。それが継続性につながり、結果としてサステナビリティへの貢献になるならば、それで良いと考えます」
※2 気候変動に関する政府間パネル
ITとの親和性がサステナビリティの貢献につながる道
「正直サステナビリティについてはニューヨークに来るまではあまり興味がありませんでした」
そんな村田もサステナビリティを当たり前に重要と考える留学生や大学の姿勢に触れる中で、意識が変わりました。
NTTデータの事業が直接サステナビリティへの貢献につながっていると村田は話します。
「ITの本質は作業効率化・物理的距離の制約解消、つまり省エネであり、ITベンダーとして、持続可能性を目標にしている企業のサポートも可能だからです。事業の利益を考えるだけでサステナビリティに結びつくんです」
NTTデータが行っている二酸化炭素排出量可視化ソリューション(※3)では、大企業には有償、中小企業には無償(条件付き)で運用しています。利益を追求することが第一目的の事業会社においてここまで思い切った施策を打つことは難しく、世界でも先進的な取り組みだと驚きを持って受け入れられています。
「この取り組みは社会の公器としてのナラティブがあるからこそできることで、私の認識ではNTTデータは世間の期待の先を行っています。皆さんにはサステナビリティをどこか遠くのこととして捉えるのではなく、私たちのアドバンテージであり、他社との差別化要因として考えてもらえたら、と思っています」
※ 記載内容は2024年10月時点のものです
