開放感と遮熱性能を両立。新型「リーフ」に日産初搭載された、先進的で美しいルーフ
世界初の量産型EVとして、初代「リーフ」が誕生してから約15年。第3世代となる新型リーフに、電子調光機能によって室内の開放感と遮熱性能を両立する調光パノラミックガラスルーフが搭載されました。
日産初の調光パノラミックガラスルーフは、天井部のガラスに液晶フィルムを内蔵し、電圧をかけることで透過する光の量をコントロールできる先進技術です。従来のサンルーフのようにサンシェードの収納スペースが不要なため、開放的なヘッドルームを実現します。
さらに、2種類の特殊コーティングによって高い遮熱性能を発揮。ボタン1つで遮光パターンの切り替えが可能で、状況に応じて最適な車内空間を楽しむことができます。この画期的な技術が開発された経緯について、ルーフの構造設計を担当した川島はこう話します。
川島:調光ガラスの技術は、2019年頃から基礎検討が開始されました。その後、ルノーとの共同開発を通じ、技術の実現可能性は確認できていた状況です。そうした中、新型「リーフ」の開発では、空力性能の追求とデザイン性の向上をめざし、車両フォルムをハッチバックタイプから、ルーフがなだらかに傾斜するファストバックタイプへと刷新することになりました。
その結果、従来型のサンルーフではシェードを収納するためのスペースを確保することが難しくなったのです。そこでシェード機構そのものを不要にし、調光機能と高度な遮熱性能を併せ持つ調光パノラミックガラスルーフの開発に挑むことになりました。
開放感と遮熱性能の両立──この相反するコンセプトを実現するため、主に3つの組織によって開発体制が構築されました。
川島:プロジェクトの統括は車両開発を主導するチームが担い、私のチームは、調光ガラスの設計検証を担当しました。設計検証とは、調光ガラスが持つ複雑な構造上の課題や、長期間の使用に耐える耐久性、そしてデザインとの整合性を車両構造のプロとして保証する重要なプロセスです。
その厳格なチェックをクリアできるよう、ECU(電子制御ユニット)を担当する松本さんのチームと連携して開発を進めていきました。
松本:私が担当したのは、車両システム全体の要求仕様や性能要件、安全基準を具体的な設計仕様へと落とし込み、実際に量産可能な部品として成立させる役割です。その上で、試作した部品に対して設計検証を重ね、当初設定した仕様を満たしているかを確認しながら、製品として完成させていきました。
日産にキャリア入社し、約20年にわたりサンルーフの先行開発を主に担当してきた川島と、新卒入社8年目でECUの設計経験は2年目の松本。まったく異なる経歴を持つ2人ですが、プロジェクト参画時には同じ気持ちを抱いていたと振り返ります。
川島:調光ガラス技術の基礎検討には、サンルーフの先行開発を担う技術者として私も相談に応じていたんです。その中で技術的な難易度の高さを実感していたため、自分が担当する事になった時は正直に言うと「まさか自分が」という想いでした。
従来のサンルーフとはシステム制御の考え方が異なるため不安もありましたが、それ以上に未知の領域に挑戦できるワクワク感がありました。
松本:私は以前、車両開発品質を担当するグループで「リーフ」の品質管理業務に携わっていた経験があります。その際に、日産で初搭載するために乗り越えないといけない課題が多いとわかっていたため、川島さんと同様に最初は不安もありました。
ただ、難しいほど挑戦する意義があります。だからこそ技術者として全力で取り組もうと決意しました。
機械と電子、2つの領域が複雑に交錯。互いの専門知識を活かして挑んだ技術課題
日産では初搭載となる調光パノラミックガラスルーフ。新たな領域に挑む中で川島が最初に直面したのは、技術の根幹となる情報がきわめて限られているという、物理設計とは異なる壁でした。
川島:最大の課題は、調光ガラスの動作原理がブラックボックスだったことです。コア技術は機密情報で開示されず、社内にも液晶デバイスの専門家がいない状況でした。
そこで私は、インターネットや外部へのヒアリングを通じて自ら情報を集め、仮説を構築して開発を進めました。従来の物理現象をベースとした機構設計とはまったく異なるアプローチが必要だったのです。
液晶を使った調光技術は、サンルーフのメカトロニクス設計を長年手がけてきた川島にとっても未知の領域です。それを自ら開拓していく過程は難しくも、発見に満ちていたと振り返ります。
川島:サプライヤーの技術者と議論をする中で、私が構築した技術的な仮説が実際の原理と一致していることがありました。その瞬間は、ブラックボックスの仕組みを論理的に解き明かすことができたと感じてうれしかったですね。検証を一つひとつ積み重ねていくことで、開発が前進しているという喜びがありました。
一方、松本が担当するECUの開発にも、技術的な壁が立ちはだかりました。
松本:日産初採用の技術であるため、過去の開発実績や確立されたノウハウはほとんど存在しませんでした。設計や評価の一部のコアアセットは既存技術から援用できましたが、調光ガラス特有の制御要件や性能評価については、すべてゼロベースで設計基準を確立していく必要があったのです。
試行錯誤を重ね、失敗から学びながら、新たな設計手法を構築していく。そのプロセスを経験したことで、技術者として成長できたと感じます。
中でも松本にとって大きな挑戦となったのが、電子機器が互いに干渉しないようにするEMC(電磁両立性)の対策でした。
松本:開発初期から車両試作段階の直前まで、ラジオの受信にノイズが混入するという課題がなかなか解決できずにいました。調光ガラスは、機械系部品と電子系部品が一体化した機電一体部品のため、機械側の設計制約も考慮しながら、EMC対策を実装しなければならなかったのです。川島さんをはじめ社内の専門家の知見を結集し、チームで連携しながら最適解を追求していきました。
さらにプロジェクトの途中では、ECUとルーフを接続するハーネスが断線するという問題にも直面しました。
川島:通常の断線とは異なり、ハーネスは外装材で完全に保護された状態で、内部の導線のみが断線するという現象でした。しかも分解検査を行うと、断線箇所が破壊されて特定できないという特性を持つ部品だったのです。この課題の解決には、私と松本さんのチーム、さらに信頼性評価部門、製造工場と、複数の専門組織が協力して多角的な検証を行いました。
そして分解手法の改良や高倍率顕微鏡による微細構造解析、最終的にX線非破壊検査を行うことで、原因を特定できたのです。実は今回のプロジェクトで初めて、社内にX線検査の専門部署があることを知りました。あらためて、日産の技術リソースの広さを実感しましたね。
松本:これまでのサンルーフ開発では、車体設計とECUの領域は明確に分かれていました。しかし今回の開発は、2つの領域が複雑に混ざり合い、それぞれの担当領域の知見だけでは乗り越えられない課題が数多くありました。
だからこそ、高い技術力を持つメンバーが共通の目標に向かい、互いの知見をかけ合わせることで困難を乗り越えられたのだと思います。専門性を越えた協働を通じてシナジーを発揮し、新たな価値を創造すること。それは「他のやらぬことを、やる」という日産のDNAの体現につながっていると感じます。
世代も専門性も越えて、緊密に連携。完成したルーフに込めた、エンジニアとしての想い
専門領域はもちろん、世代もキャリアも異なる川島と松本。互いにプロフェッショナルとして連携し、1つの製品を完成させていきました。
松本:担当領域が異なれば、使用する用語や設計上の常識も違ってきます。そのため開発を進める上では相手を理解しようとする姿勢が大切です。しかしECUの変更が機構にどう影響するのか、その逆に機構の変更がECUにどう影響するのかをイメージするのは、容易ではありませんでした。
そこで私が意識したのは、ECUを変更する技術的背景と理由を必ず明確に伝えることです。また、機構側で仕様の変更が発生した際には、能動的に情報を収集し、ECUへの影響を事前に評価するよう心がけました。
川島:松本さんのチームとは、従来のサンルーフ開発以上に緊密なコミュニケーションを取っていました 。毎日のように情報を共有していたので、専門性や世代の違いをとくに意識することなく、お互いにエンジニアとして円滑に連携を図ることができたと感じます。
それぞれの専門性を尊重し、同じ目的に向かって前進し続けた2人。プロジェクトが進むにつれ、川島から見た松本の印象は変わっていったと振り返ります。
川島:プロジェクトが始まった当初、松本さんは部署を異動してECUの担当になったばかりでした。そこからの成長スピードには驚かされています。今では技術的な相談をするときは直接松本さんを頼るほど、チームで欠かせない存在になっています。
一方の松本は、エンジニアとして30年以上の経験を持つ川島から多くを学んだと言います。
松本:とくに印象的だったのは、川島さんの意思決定の速さと的確さです。さまざまな選択肢がある中でも、迅速に判断を下して即座に行動に移す。その決断力は、長年の経験に裏打ちされたものだと感じました 。
川島:素早く決断できるのは、専門知識だけでなく、周辺の技術動向についても調査して情報収集しているからかもしれませんね 。開発スケジュールを厳守するには、とにかく意思決定して前に進む覚悟が大切です。
判断が難しい状況で数々の決断を下しながら、開発を推進した2人。ハーネスの断線やノイズの発生といったさまざまな課題を乗り越えながら、新型「リーフ」の進化を印象づける調光パノラミックガラスルーフを完成させました。
松本:日産では初採用の技術であり、設計担当としても初めて市場に投入する製品のため、完成までの道のりは想像以上に険しかったです。しかしそれを乗り越えられたことで、技術者として大きな自信になりました。
新型「リーフ」を楽しみにしてくださっているお客さまには、ぜひ調光パノラミックガラスルーフの「アニメーション」を体験していただきたいですね。ボタンを押すと、遮光パターンが9分割で段階的に切り替わっていき、空を流れる雲のような印象をもたらします。これを実現するために制御を正しく組み込む際にも苦労したので、注目していただけるとうれしいです。
川島:日光が降り注ぐと、「LEAF」のロゴが影として座席に映るのも楽しんでいただきたいポイントです。ガラスが段階的に切り替わるカットラインも、アシンメトリーを採用していて個性が感じられます。機能性だけでなく、デザインの美しさにも徹底的にこだわっているところが、新型「リーフ」の魅力だと言えます。
技術の結集により、製品が形になる感動を胸に。「他のやらぬことを、やる」挑戦は続く
日産初採用となる、調光パノラミックガラスルーフの開発に挑戦した川島と松本。その経験を通じ、2人はエンジニアとしての成長を実感しています。
川島:サンルーフ開発に関しては長年の知見が活かせるため、他部署の協力が必要な機会が限定的でした。しかし今回は未知の技術領域でわからないことばかり。
さまざまな専門部署との連携が欠かせませんでした。技術的なアドバイスを求める中で課題解決の糸口が見えることが多く、社内にいる専門家が持つ知見の高さを再認識しました。
松本:サンルーフの専門家である川島さんのチームとの連携を通じ、意識的に周辺技術にも視野を広げたことで新たな知識が得られました。プロジェクトを通じ、自分が設計した仕様が製品として形になり、想定通りに動作した瞬間の感動は、エンジニアとしてこの先も記憶に深く刻まれると思います。
今回の経験を活かし、2人はさらなる成長をめざして挑戦を続けていきます。
川島:これまで培ったサンルーフやサンシェードの知見と組み合わせることで、調光パノラミックガラスルーフの技術はまだまだ進化させられると考えています。現状の成果に満足せず、車内空間のさらなる快適性を追求し、お客さまに感動を与える次世代のクルマを開発していきたいです。
松本:ECUの設計経験はまだ2年のため、自他ともに認めるプロフェッショナルとして活躍できるよう、知識やスキルを磨いていきたいと思います。
今回は川島さんをはじめさまざまな部署の専門家に助けてもらいましたが、今後は誰かが課題に直面した際に手を差し伸べることができる、頼れるエンジニアをめざしていきたいですね。
2人と同じように、先進技術を通じてクルマの新たな価値を創造したいと考えている未来のエンジニアへ向けて、松本と川島がエールを送ります。
松本:技術的に困難だと感じても、まずは挑戦してみることを大切にしてほしいと思います。今回の開発を通じて実感したのは、1人でできることには限界があり、周囲の協力があって初めて大きな成果を出せるということです。支援を求めれば、必ず社内の専門家が手を差し伸べてくれます。失敗を恐れず、やりたいことに積極的に挑戦してほしいです。
川島:自動車産業は日本の基幹産業と思っています。それをエンジニアとして支えられていることに、私は誇りを感じています。開発した製品が市場に投入され、お客さまからの反応を直接感じられることも、大きなやりがいです。
自分が設計した1つの部品が、他の専門家たちが設計した何万点もの部品と組み合わされ、1台のクルマとして完成していく。その過程に携わることができるのは、自動車開発を担うエンジニアならではの喜びです。
そして日産には、「他のやらぬことを、やる」ために、新しいことに果敢に挑戦する風土があります。エンジニアとして自分たちの手で徹底的に技術にこだわり、今までにない価値を創造したい。そうした方が、仲間に加わってくださるのを楽しみにしています。
※ 記載内容は2025年9月時点のものです
