デザイナーが求める色を実車ボディの色へと再現。定量化アプローチで最適解を導き出す
車両生産技術開発本部の塗装樹脂技術部 塗装技術課に在籍する平川。現在は新車の上塗塗装試作の業務を担当しています。
「塗装生産技術開発のプロセスは、デザイン部門から要望を受けることから始まります。将来製品として実現したい色のサンプルを受け取った後、それを量産できるように、種々の条件を確立し、実車の車体色へ再現することが私たちの任務です。
サンプルは100×200mm²程の小さな板で、その面積では均一な色味でも、大きなボディに施すと、中央部と端部で色味が若干変わってくることも。工場の要求とデザイン部門の要求の間に大きなギャップが生まれるケースが多々あって。両者を媒介し、最適な答えを導き出すことも私たちの大切な役目です」
平川が所属しているのは、「先進技術で試作車両をつくる工場」として先進的な試みで知られるグローバル車両生産技術センター「GPEC」(Global Production Engineering Center)」チーム。グローバルレベルでの品質の均一化を実現する日産の標準生産システムの中核的な役割を担っています。
「チームのミッションは、新車の塗装に関する『良品条件』の策定です。良品条件とは、すべての車両において一貫した高品質を保証し、最適な生産を可能にする基準のこと。国内外の全生産拠点に展開されるグローバルスタンダードをつくる重要なポジションを務めています」
デザイナーが意図する色の完全な再現は容易ではありません。この複雑な課題に対処するため、平川が徹底してきたのが定量化のアプローチです。
「色彩は主観的な要素が強いため、まず問題を数値化することを重視しています。感覚的な側面に頼りすぎると、明確な方向性や解決策が見えにくくなりがちです。数値化によって初めて可視化される問題もあるため、そこから原理原則に基づいてメカニズムを理解し、適切な解決策を導き出すよう心がけています。
具体的には、測定アプリケーションを活用しています。塗膜の厚さ、色の明度、彩度、色相を示す数値、さらには塗膜表面の平滑性を表す指標など、多岐にわたるデータを収集しています。
とくに自動車の塗装では、表面の滑らかさが美観に直結するため、これらの指標は非常に重要です。アプリケーションを駆使し、問題を定量的に把握することが、より効果的な解決策への近道だと考えています。
自動車の塗装技術は、100ミクロンという厚みの中で4層構造を形成し、各層が色彩管理に重要な役割を果たしています。たとえばメタリックグレーの塗装では、塗膜厚がわずか5ミクロン増加するだけで予想以上に暗く見えることがあり、膜厚の厳密な管理が不可欠です。こうした塗装技術の難しさに、技術者としておもしろさも感じています」
近年、自動車業界では車体の軽量化・樹脂化が進み、鋼材と樹脂部品を同時に塗装する一体塗装技術へのニーズが高まっています。平川はこの新しい技術開発にも携わってきました。
「金属と樹脂では塗装後の焼き付け温度が異なるため、従来は別々の塗装工程で処理する必要がありました。この課題を克服するために開発されたのが、樹脂部品と同等の温度で鋼板などの金属部品への焼き付けを可能にする一体塗装技術です。
この技術の導入により、塗装工程は大幅に効率化されましたが、硬化プロセスの変更にともない、これまでにない課題も出てきて、現在、これらの解決に向けた取り組みも進めています」
情熱が導いたキャリアパス。色彩が持つ魅力を感じて、車両塗装技術の世界へ
塗装技術の専門家としての平川の原点は、幼少期にさかのぼります。
「小学生のころに習っていたクラシックバレエの衣装がとても素敵で。それをきっかけに、色彩や素材に興味を持つようになりました」
その後、発光する材料に魅了され、大学で化学合成・物性評価を専攻し、ディスプレイ用発光材料の研究に従事した平川。自動車業界、中でも日産を志望した理由を次のように振り返ります。
「B2C企業で働きたいと考えていました。とくに自動車産業は日本の基幹産業です。国家経済に多大な影響力を持つ点はとても魅力的でした。色彩への関心から、自分が開発に関わった車両を街中で目にする喜びを想像したことも、自動車メーカーを志望した理由です。
日産を選んだ決め手は、企業文化です。就職活動中の面談で、日産のリクルーターが私の話を丁寧に聞いてくれる様子を見て、人を尊重する風土があり、社員が能力と探究心を発揮しながら働ける企業だと確信しました」
入社後、平川は希望通りの配属先へ。周囲に支えられながら専門知識と技術を身につけてきました。
「日産には新入社員向けに3年間のメンター制度があり、フレッシャーズリーダーと呼ばれる先輩社員から多くを学びました。学びの機会はそれだけではありません。製造現場や他部門のメンバー、塗料メーカーの方々など、さまざまな方を通じて幅広い知識を吸収してきました」
現在も成長の過程にあると話す平川。とくに苦労した経験がありました。
「生産技術の仕事は、数多くの関係者との協働が欠かせません。現場のメンバー、塗料メーカー、海外の技術担当、新色を開発するグループなど、多様な立場の人々と業務を進める必要があります。グループごとに目標や優先事項が大きく異なるため、調整作業にはとても苦心しました。
異なる文化背景や業務目的を持つ人々とは、分かり合えなくて当然です。だからといって、コミュニケーションを諦めてしまえば、いつまでたってもギャップは埋まりません。繰り返し対話を重ねることで、理解を深めるよう努めています。
一方で、多様な価値観を持つ人々との交流は、新たな視点や考え方を学ぶ絶好の機会でもあります。これを自己成長の糧と捉え、くじけることなく丁寧な説明と対話を心がけています」
失敗と成功の狭間で見つけた塗装技術の醍醐味
入社3年目を迎える平川。これまで数々の経験を経て成長を遂げてきました。
「私のミスが原因で、試作段階の塗装作業が中断する事態を招いたことがありました。塗装ブースの空調設備故障による異常な高温状態が発生した際、時間的な制約を理由に適切な塗料調整を怠り、不適格製品を生み出してしまったことが原因です。
事前に十分な時間を確保して、周囲と協議しながら対策を講じるべきだったと反省しています。また、塗料や設計図面の知識だけでなく、生産技術に求められる設備メンテナンスに関する機械工学的な知識の不足も痛感しました。
この危機的な状況をなんとか克服できたのは、他部門のメンバーを含む多く方々の支援をもらったからです。失敗が学びの機会であること、同僚が困難に直面した際は自分もサポートする必要があることを強く実感しました。
この経験を踏まえ、現在は温度管理を徹底し、予期せぬ事態に備えて想定されるあらゆる塗装条件に備えるよう心がけています」
一方で、技術的な壁を克服したこんな経験もありました。
「従来、ロボットでの塗装が不可能とされていた特定の形状の部位に対して、試行錯誤を重ねたときのことが印象に残っています。
塗料を噴射する角度によって、奥行きのある形状に対して塗料が到達しない問題がありました。そこでまず、車体の角度を詳細に分析し、塗装パターンの幅を調整したり、塗着効率を向上させるために塗料に印加する電気条件を変更したりと、ロボットの塗装パラメーターを最適化しました。
さらに、塗料の到達性を高めるため、車体の角度を微調整できる専用治具を開発。最終的に美しく均一な塗装を実現し、大きな手ごたえを感じました」
このほかにも、検証業務での成果が認められ、平川は2022年に「本部長賞」を受賞。その翌年には新色開発の功績が評価され、「日産 銅賞」も獲得しています。
「日産 銅賞の受賞の対象となった新色開発は、従来と異なる塗膜構成を持つ挑戦的なプロジェクトでした。安定した色彩を実現する条件設定が非常に困難だった点が評価されたと考えています。
具体的には、色彩を決めるベースコート層は通常15ミクロン前後の厚さで管理されますが、この新色では約5ミクロンという極薄膜で管理する必要がありました。薄膜化と同時に高品質の維持を実現できたのは、チーム全体の協働の結晶です」
日々、新たな挑戦を続ける平川。生産技術に取り組むやりがいを次のように話します。
「生産技術の仕事は、R&Dや先行開発と異なり、努力が製品に直結するのが特徴です。成果が実際の製品となって、世界中のお客さまの手に届けられることは大きな喜びです。また、自分が美しいと感じる色彩にお客さまが共感し、購入してくださることも大きな励みになっています」
美しさへの飽くなきこだわり。塗装技術に磨きをかけ、世界を魅了する色を
平川の技術者としてのキャリアはまだ始まったばかり。将来の展望を次のように語ります。
「『日産車は塗装が美しい』と言われるように、塗装技術を高めることが目標です。個人的には、周囲から信頼され、若手をサポートできる存在になり、かつて自分が受けた支援を、次世代に還元していくことをめざしています」
そんな平川が新しい仲間に求める資質は、メンタルの強さ。さらにこう続けます。
「日産では、プレッシャーを受け止め、物事に冷静に対処できる人材が活躍しています。そのためには、仕事を楽しむことが重要です。検証作業や自動車、色彩に興味を持つ人と共に働きたいですね。
私自身、色彩への情熱からこの仕事を選びました。困難も多いですが、納得のいく車両を完成させたときの喜びや達成感が原動力になっています。この感覚を共有できる仲間を歓迎します」
挑戦を奨励する環境があることが日産の魅力だと話す平川。その夢が尽きることはありません。
「日産には、誰の意見にも真摯に耳を傾ける文化があり、それが働きやすさにつながっています。また、新しいアイデアや挑戦を積極的に支援してくれるのも魅力的な点です。
たとえば以前、カラーマッチのシミュレーション業務に興味を示した際、その仕事を任せてもらいましたし、海外勤務の希望を伝えたところ、ブラジルへの出張の機会を得ることができました」
かつてバレエ衣装の美しい色に惹かれた少女は、色彩への飽くなき探求心を持ち続け、現在では車両塗装技術の最前線で開発に挑んでいます。
「夢は日産を代表する色を生み出すこと」と平川は目を輝かせます。将来、世界を魅了するアイコニックな色をまとったクルマが走り出す瞬間を夢みて、平川の挑戦は続きます。
※ 記載内容は2024年8月時点のものです
