品質保証の仕事は、いわば“未知への挑戦”。原因を追求するおもしろさ
2021年9月から、メキシコ日産自動車でトータルカスタマーサティスファクションのダイレクター(責任者)を務める大前 勝俊。車の品質を担保し、安心・安全と信頼を守っています。
大前 「主な仕事は、製造される車が、きちんと品質基準を満たしているのかを監査すること。同時に、お客さまに販売した車が故障してしまったとき、修理の支援をしたり、故障原因を突き止めたりするのも大事な仕事です。万一、安全に関わるような製造上の事案が疑われた場合には、いわゆる『リコール』をかけなくてはなりません。
私は入社以来、キャリアの大部分を品質保証の領域で過ごしてきました。仕事の舞台は国内だけではありません。日産自動車の車は、2022年12月現在160カ国以上で販売されていますので、直すべき車があればどの国の車でもアプローチします」
品質保証の仕事には、開発とはまた違ったワクワク感があると言います。
大前 「品質保証の仕事は、いわば“未知への挑戦”のようなものなんです。車はそもそも、大勢の開発や生産のプロが『完璧』と判断した上で完成するもの。なのに、なぜか問題が発生してしまう。そこには、簡単には予想できない理由があるはずで、その真の原因を探し、あらゆる不測の事態に対処するのが品質保証の任務です」
現在いる部署は、100名の組織。私ともう一人の日本人を除いて、現地の人たちで構成されているチームです。
大前は、その中でトップにあたるダイレクターを務めています。
大前 「当社は、車づくりのプロセスをグローバルで共通化していますので、メキシコに来ても、仕事内容が大幅に変わったということはありません。
ただ、日本とは雰囲気が違いますね。メキシコの方たちは、勢いに乗って気持ち良く仕事をしたがる傾向があります。とくに、日本と比べて、仕事環境や昇格への査定に不満があったら、すぐに転職してしまう文化もあるんです。文化の違いを考慮しながら、人への接し方に気を配っています」
実はメキシコは、世界の中で唯一の「日産自動車が国内シェアNo.1」の国(※1)。会社にとって、とても重要な拠点です。
大前 「シェアNo.1という国だからこそ、営業部門のパワーが強く『どんな条件であってもとにかく売るんだ!』と前向きです。ただ、私たちは品質保証の視点で、本当にその製品がお客さまへ渡っていいのか、時間をかけて確認します。場合によっては『ちょっと待ってください。このままでは出荷できません。さらなる確認が必要です』と止めることもありますね。
だから営業部門から見れば、私たちはある意味で彼らの業務の妨げになる“ブロッカー”なんです。でも、短期的に1台2台売れることよりも、長期的に日産自動車が価値あるブランドであり続けることのほうが大切だという信念が、私たちにはあります。
品質保証とは、いわば安心・安全確認の最終ゲートの門番。メキシコの営業部門はかなりパワフルですが、そのプレッシャーに負けず、なんとしてでも品質を守り抜くんだという矜持を持ってやっています。また、NOを言うべきときであっても、どうすればOKとなるのかアドバイスも同時にするなど、単なる厄介なブロッカーにならないよう常に留意しています」
※1:AMIA (Asociación Mexicana de La Industria Automotriz)2022年11月レポートより
「品質に関わる仕事がしたい」という関心を一番に日産へと入社
大前が日産自動車に入社したのは、2003年のこと。入社当時の大前は、車にはあまり興味を持っていなかったと振り返ります。
大前 「今でこそ車のことが大好きになりましたが、当時なんて“タイヤ4つと、エンジンがついている工業製品”くらいの知識しかありませんでした(笑)。同期の多くは入社時から車が大好きだったので、私は異質だったかもしれないです。
こんな私がなぜ日産自動車にたどり着いたかというと、品質や対顧客サービスに関わる仕事がしたかったから。製品づくりだけでなく、人との関わりを大事にして働きたかった。その製品が人からどんなふうに思われているのか、どうしたらもっと満足してもらえるのか、追求していきたいという想いがありました。その軸で探した結果、日産自動車の品質保証の求人にたどり着いたのです」
初任配属では、日本事業の国内サービス部に所属。お客さま、販売会社と社内のエンジニアの間に立ち、曖昧で抽象的な情報・表現をより具体的に事実とデータを元に具現化し社内へ発信する、いわゆる専門用語へと“通訳”する仕事をします。大前はこの部署で、車に関する基礎知識を身につけました。
大前 「車って、何万点もの部品からできているんです。さすがにそのすべてを詳しく把握し尽くすのは難しいのですが、品質保証という立場では、部品の名前や構造を広く知っておく必要があります。というのも、ディーラーやお客さまからすれば、 日産自動車の従業員は、『なんでも知っていて当然』と思われるからです。
信頼を損なわないように、期待に応えられるように、初任配属では車のあらゆることを勉強しました。いろいろな知識が得られるというのも、トータルカスタマーサティスファクションの長所かもしれません」
しばらくすると、大前は活躍を海外へと広げていきます。海外出張も多数経験。今日に至るまで、14カ国での仕事を経験してきました。そして2009年には、初めての海外赴任を経験しています。
大前 「4年間、オーストラリアにいました。オーストラリアには工場がないので、国外の工場から送られてきた車をお客さまに販売後、問題が起きたらそれを直すというのが私の仕事。自分でディーラーに出向いたり、部品の取り付けをしたり、いわゆる現場の仕事をしていました。楽しかったですね」
そしてオーストラリアから帰国後、日本で勤務したのち、メキシコへ。ワールドワイドに活躍を広げています。
大前 「車の品質は、命に関わるものです。それに車って、かなり高価。だからお客さまは『故障しないことが当たり前』という前提で車を購入されます。その当たり前を満たさなくてはと、緊張感を持って取り組んでいます」
一般的に、車の購入は一生に数回の大きな買い物。一度、日産車を買ってくださったお客さまがまた車を買うときに、再び日産自動車の車を選んでくれたらいいなと、そんな想いを胸に、目の前の仕事に取り組みます。
命を乗せるものだから。小さな気の緩みも排除。妥協せず、安全を徹底追求
オーストラリアに滞在中、印象的な出来事がありました。あるとき、販売されてすぐの新しい車に不具合があると、報告があったのです。
大前 「エンジンが故障して、止まってしまうとの報告でした。そこで該当のお客さまの車をお借りしてチェックすることに。事象を実際に再現して、データや証拠をとらないと、原因究明や改善ができないからです。
しかし自分で再現のためにどれだけ乗ってみても、お客さまの指摘どおりの事象が起こらない。原因がわからず、対策もできない。時間だけが過ぎる中、同様の不具合報告が複数件入ってきてしまいました」
大前は、お客さまの車をお借りして、テストを重ねます。お客さまの情報をもとに、不具合が発生した同じ道路、同じ時間、同じスピード、運転の仕方も同じにして、何度もトライします。
大前 「それでも結果が変わらず、本当に焦りました。そのとき、先輩からこんなことを言われたんです。『お客さまに起こったことなのに、われわれが再現できないわけないだろう。絶対に再現できるからあきらめず頑張れ』と。そこから寝る間も惜しんで運転した結果、数日後、お客さまが言われていた通りの事象が再現できました。データをもとに、原因究明・対策まで進めることができて、安心しました。
結局リコールというかたちをとる結果となり、購入されたお客さまには大変申し訳ないことをしたのですが、幸い命に関わる事故が起きる前に対応できました。当時の開発の代表者からは『市場の最前線で対応いただいたことに感謝します』というメールをもらいましたね。このメールは今も大切に保存しています。リコールという、メーカーとしては悪いかたちになってしまいましたが、あのときは、粘り強く追求できて良かったなと思えました」
もうひとつ、印象的な出来事があります。2017年に当社が起こした日本の完成検査問題のことです。
大前 「あの事件では、すべての日産車を所有しているお客さまに、大変なご迷惑をおかけしてしまいました。私は当時、品質担当である副社長のアシスタントを努めており、記者会見に同席するなど、会社としての危機を経営の中枢で体験しています。
あのときほど、品質というものの大切さを痛感したことはありません。お客さまから、心配や疑念の声、たくさんの厳しいお言葉をいただく中で、自動車会社として、安心・安全は絶対に裏切ってはいけないということをあらためて感じました。
ただ一方で、たくさんのお客さまやステークホルダーから、『なんとか立ち直って』と温かいメッセージもいただいて。失った信頼を取り戻さなくてはと気が引き締まりました」
現在の当社の行動指針の第一に「Always Think of The Customer」という言葉があります。事件の後、この言葉を従業員の行動指針のひとつとして掲げ、あらゆるトップマネジメントが、品質の重要性を社内外に発信しています。
大前 「あの事件による信頼は、まだ取り戻せていないと私は思っています。だからあの事件から今まで続くこの危機感を、後輩たちにも伝えたい。どこかで妥協したら、最終的にお客さまの安全に影響が出る。そのことを従業員全体が意識できるように、今も働きかけています」
描いてきたキャリアは入社時の予想以上に豊か。「後輩たちの道標になればうれしい」
ダイレクターとして99人の部下を持つ今の立場は、大前にとって「まさか」のポジションだそう。
大前 「実は、海外拠点でのダイレクターというポジションが、自分のキャリアのゴールだと思って走ってきたんです。まさかこんなに早くなれるとは思ってもみなかったことでして。ダイレクターになってからは、言動一つひとつに気を配っています。部下たちに、自分の働き方を見てもらいたいと思うからです。
もちろん言葉で伝えなくてはならない指示もありますが、ダイレクターである私が楽しんで働いていれば、働き方や姿勢を感じてもらえると思います。それを、部下たちがまた自分の部下に同じように見せていく。そんな組織になっていきたいです」
グローバル規模で奔走してきた20年間。世界中にできたたくさんの仲間を自身のアドバンテージに、これからのキャリアを描きます。
大前 「今や、何かあれば、世界中の現地にいる同僚にパッと聞いて解決できる、そんな状態ができています。これからも、そんな良好なネットワークを増やしていきたいですね。最終的には『品質のことなら大前に聞けばいいんだよ』と言われるのが理想です」
その理想に向け、活躍の舞台を広げていきます。
大前 「思えば、入社当時は、海外で働くなんて想像すらしていませんでした。英語もほとんど話せなかったですしね。でも、会社から機会を与えられて、今があります。海外を知るというのは、本当におもしろい。新しい言葉を知り、文化を知り、人を知る。根本から価値観を揺るがす、貴重な経験の連続です。44歳になっても、まだワクワクできています。
こんな自分のキャリアが、これから活躍する後輩たちの道標になればいいですね。たとえば若い社員が何かに挑戦しようとして、『君にはまだ経験ないから、そんなことできないでしょう』と道が塞がれてしまいそうなとき、『いや、そういえば大前もあんなことやってたし、君にもできるのではないか』と言ってもらえるように。ちょっとでも後輩のキャリアの幅を広げられたら嬉しいです」
日産自動車の未来を支える若い人たちに、こうして強く想いを寄せている大前。
大前 「品質保証って、あまりイノベーティブなイメージがないかもしれませんが、まったくそんなことはなくて、開発や生産といった部門とはまた違ったおもしろさがあると私は感じています。無限の可能性があります。
広く知識を得られて、こんなにたくさんの人と関われる部署は、社内でもそうありません。製品に関わりつつ、人やサービスにも関わりたい。いろんなことをしてみたいという人に、品質保証はぴったりのポジションだと思います」
大勢とコミュニケーションを取りながら、日産自動車の安心・安全を守る大前。
挑戦し続ける姿勢で、日産自動車のこれからを作り上げていきます。

