JICAを経て、三井物産へ。ビジネスで途上国を変えていきたい
幼少期にタイで暮らし、貧富の差を目の当たりにした経験から途上国開発に関心を持つようになった森川。大学ではアフリカ地域研究を専攻しイギリスへの交換留学も経験するかたわら、ボランティアにも参加。ガーナのNGOを介して小学校兼孤児院で活動する中で行政主導の支援の重要性を痛感し、大学卒業後は公的セクターに就職します。
「小学校でのボランティア活動の中で、教員の質の底上げやカリキュラムの良質化など、行政が主体となってやるべきことが多いと感じていたんです。公的セクターの一員として途上国に関わりたいとの考えから選んだ進路がJICAでした。
最初の2年ほど東京でモンゴルを担当し、開発協力方針の策定や、教育・保健セクターの新規案件組成に携わった後、セネガルへ。現地の事務所に駐在し、セネガル保健省とのあいだで実施していた技術協力プロジェクトの履行管理、新規案件組成に関わりました」
やりたい仕事ができている実感があったものの、援助機関に対する依存が避けられない点に違和感を覚えるようになっていったと言う森川。途上国をサステナブルに発展させていくための手段として、ビジネスに関心を持つようになっていきます。
「私が担当していた保健のような社会サービスは国を支えていくために必要不可欠ですが、直接的に収益が生み出されるようなセクターではなく、さらにセネガルでは多くの援助機関がこぞって支援をする体制ができあがっていたので、カウンターパートである省庁の人たちに、『自分たちの力で状況を良くしていこう』という気概があまり感じられませんでした。
一方、同じセネガルでも、農業やインフラの領域では、取り組みがうまくいけば収益につながることから、同セクターの省庁の人たちの事業への向き合い方は違いました。ビジネスマインドがあるかどうかでここまで違いがあるものかと衝撃を受けたのを覚えています。
当時のセネガルはインフラ整備が不十分なこともあり、国の経済成長に大きなインパクトのあるビジネスはまだまだ少ない状態。あらゆる可能性に開かれていたことから、ますますビジネスに関心を持つようになっていきました」
新天地としてまっさきに森川の脳裏に浮かんだのが総合商社。折よくキャリア採用の募集をしていた三井物産に導かれるように入社しました。
「途上国を含む世界のあらゆる国々で果敢にビジネス開拓に挑んでいる印象を総合商社に対して持っていました。私は特定のセクターに強みがあったわけではなかったので、商材にとらわれず自由に事業構想ができそうだと感じていたんです。
中でも三井物産を選んだのは、面接で感じた社風に惹かれたから。『アフリカでビジネスなんて無理でしょ』と頭ごなしに否定することなく私の話に耳を傾けてくれたり、『セネガルを題材に映画を撮るんだったら何をテーマにする?』といった自由な質問を投げかけられたり。選考の中でも有意義な時間を過ごせたことで、この環境ならやりたいことが見つけられそうだと入社を決めました」
ザンビアの農家とビジョンを共有できた喜び。あらためて実感したビジネスの無限の可能性
入社後、森川が配属されたのは、アフリカやインドでのプロジェクト開発を手がけるプロジェクト開発第二部 第二営業室。アフリカ担当として、既存の大規模インフラ事業に従事しながら新規プロジェクトの企画にも携わりますが、公的セクターと民間の事業の進め方の違いに当初は苦労したと言います。
「現場のニーズを掘り起こしていくプロセスは前職でも経験していましたが、ペインポイントさえ見出せれば採算度外視でプログラムを組めるJICAとは違い、民間企業の場合は具体的なマネタイズモデルがなければ動き出すことができません。新事業の種を見つけたとしても、それをどうビジネスに仕立てていくかに苦労しました」
当時、森川が担当した綿花を栽培するザンビアの小規模農家は、アフリカの中でも所得水準が低い層。彼ら、彼女らと自社の双方にとってメリットのある関係を構築する道筋を模索しようと、社内の各部署はもちろん、高い専門性を持つ子会社、日ごろから取引のあるビジネスパートナーなど、さまざまな人へのヒアリングを重ねる中で生まれたのが、農家に関するあらゆる情報を集めてデジタルプラットフォーム化するアイデアでした。
「ザンビアの農家の生産性は決して高くなく、肥料や農機など、生産性を高めるのに必要な投資をする資金力がありません。検討当初は生産者へのアプローチばかりを考えており、農家へのマイクロファイナンスなどを考えましたが、単に綿花を売って得る収益だけでは、ビジネスとしての持続可能性が乏しいと感じていました。
そんなとき、ザンビアの農家の方が環境に配慮した農法で一つひとつ手摘みし、丁寧に綿花を作っていることがわかりました。そこで、農法や使用する種子などの生産情報、その後の加工経路など、さまざまな情報をトレースできるようにすることで、農家の皆さんが真心を込めて栽培した綿花を使った商品であることを伝えられれば、高い付加価値を提供できるのではないかと考えたんです」
その後、デジタル総合戦略部をはじめとする関連部署の力を借りて、2022年に「farmers 360° link」としてサービス実装に至ります。
「各情報をブロックチェーン上で管理し、商品に付けられたQRコードをアプリで読み込むことで、生産者の顔まで見える透明度の高いトレーサビリティを実現しています。また、ファッションや繊維を扱う事業本部やブランド展開をしている企業などの協力も得て、生産者のストーリーを可視化できるシステムとして国内外のさまざまなアパレル企業で展開中です」
このプロジェクトを進めるに当たって、現地農家へのプレゼンテーションを担当した森川。当事者である農家と接する中で、ビジネスの可能性を肌で感じたと振り返ります。
「電気もないようなところだったので、パソコンで作成したスライドを印刷した資料を紙芝居のようにめくりながら、プロジェクトの内容について説明しました。
思いのほか反響が大きく、自分が丹精込めて作ったことを認めてくれる人がいることがとてもうれしい様子で、目を輝かせて喜ぶ農家の方の表情がとても印象に残っています。
現地の方と同じ目標、ビジョンを共有できた感触があり、前職時代に感じていたような『援助する側/される側』の構図からは決して生まれることのない、皆さんの期待感や高揚感が手に取るように伝わってきました。
学生のころは、『企業はお金にならないことはやらない』と偏った見方をしていましたが、持続的な関係がつくれるのはビジネス的な発想があるからこそ。いまはビジネスには無限の可能性があると考えています」
活躍の舞台はアフリカからアメリカへ。ワークもライフも大事にする自律的なキャリア
その後、森川は経験の幅を広げようとアメリカへ。現在は、液化天然ガスのプロジェクトに携わっています。
「ヒューストンにある子会社に出向して、ルイジアナ州にある天然ガス液化プラントCameron LNG社のアセットマネジメント全般を担当しています。エネルギー業界のビッグプレーヤーらと協業する中で、とても貴重な経験ができています」
森川がヒューストン駐在を決めたのは、同地で暮らす家族との時間を大切にしたいと考えたからでもありました。三井物産には社員のキャリアプラン・ライフプランに合わせて自由度の高い働き方ができる環境があると言います。
「私にとって最大の関心事は途上国開発ですが、一番やりたいことだけをずっとやり続けるのではなく、そのときに関心が向くこと、大事にしたいと思えることを一つずつ積み重ねていけばいいと最近は考えるようになってきました。
当社にはそんな社員一人ひとりの考えや想いを尊重する風土があり、プライベートな状況への理解もあるおかげで、思うようなキャリアを歩むことができています」
パートナーがザンビアの提携農家から資源メジャーに変わるなど、ビジネスを取り巻く環境が一変したことで、森川にはこんな気づきも。
「世界を股にかける大企業が相手なので緊張感はそれなりにありますし、以前に増して三井物産としてのバリューが期待されているのを感じます。でもその一方、仕事を進める上で必要なコンピテンシーみたいなものはあまり変わらないこともわかってきました。
新しいプロジェクトに参加するたびに懸命にキャッチアップしていくわけですが、アフリカでもアメリカでも、自分が同じような行動様式を取っていることに気づいたんです。
世界のどこで誰とどんな事業に携わっていたとしても、本質的な部分は同じ。大事なのは、必死で食らいついていこうとするバイタリティで、キーパーソンたちから『一緒に仕事をしたい』と思ってもらえるかどうか。
大切なものが普遍的であると理解できたのは、いまのプロジェクトに関われたからこそ。いずれまた途上国開発に関わりたいと考えていますが、今後もさまざまなプロジェクトを担当して経験の幅や視野を広げ、新しいビジネスにつなげられたらと思っています」
志を同じくする仲間と共に働く醍醐味。根付いているのは個人の想いを応援する文化
個性的で魅力的な人材が多く、他本部との社内協業がしやすいところに三井物産の強みがあると話す森川。同社の魅力についてこう話します。
「手がける事業の幅が広く、ありとあらゆる領域でビジネスを展開しているので、何か新しいことをやろうとすると、それに精通する方が社内のどこかに必ずいます。しかも三井物産は事業本部間の垣根が低く、まったく知らない人にでも嫌な顔をひとつせず話を聞かせてくれたり、逆にアフリカのようなまったく縁のない地域のことにも興味を持ってくれたりとオープンマインドな方が多いんです。
さらに、それぞれの事業本部で付き合っている社外のパートナーを含めると相当のネットワークになり、これらを駆使してプロジェクトに挑めるのが会社の最大の強みであり、仕事のおもしろさにつながっていると感じます。
また、上司が社員一人ひとりのキャリア形成に関心を持ち、それぞれがやりたいことを実現するための機会を提供しようとする文化が根づいているのも三井物産らしいところ。これだけ大きい組織で、個人が自身のキャリアと向き合い、主体的にキャリア開発していける会社はそうないと思います」
また、プロジェクト本部の理念にも強く共感する部分があると言います。
「プロジェクト本部では、『No Limits No Boundaries』というビジョンを掲げています。インフラを生業としながらも、商材ありきではなく、地域の課題解決に向けてあらゆる角度から取り組もうとするマインドセットを持つのが特徴です。
当本部のMission、Vision、Valuesは各部から案を出し合い、コンペティション形式で決めたものですが、その策定に関わる中でメンバーの熱い想いを聞く機会に恵まれ、『世界中の人々の未来を良くしたい』という目標を共有する人が部内に多くいることを実感しました。同じ志や考えを持った人と共に働けることも、醍醐味のひとつだと思っています」
途上国開発にはライフワークとして携わりたいと話す森川。一方、今後はさらに経験の幅を広げたいと話します。
「さまざまなセクターの案件を担当するたびに新しい発見がありました。関わったことのない地域やセクターがまだまだたくさんあるので、いろいろなプロジェクトを通して経験値を上げていきたいです。
また、いずれはコーポレート部門でダイバーシティ経営の推進にも取り組んでみたいとも考えています。三井物産では、世界各国の現地法人でたくさんのスタッフが働いていますが、これから新たな価値を創出していくためには、現地で採用される方々が持てる力を最大化していくことが欠かせません。
それぞれが三井物産のひとりとしての自覚を高めれば、国の枠を超えてグローバルに活躍する人材も出てくるはず。従来のような日本人中心・日本語ベースの仕事の進め方ではグローバルな競争を生き抜いていくことができません。多様化するニーズを捉えてイノベーションを生み出していく土台となるような、一歩先の競争戦略に貢献していきたいですね」
※ 記載内容は2023年7月時点のものです
