「DAILY ADVENTURE #2」のコンセプトを具現化
小池 新型『デリカミニ』は、“日常のなかで冒険を楽しむ”お客様を想定して開発しました。特に運転席周りは初代よりも広くなり、開放感が上がっています。その広い室内空間にギア感溢れる高機能なデザインを表現してきました。
初期段階で『デリカ』を分析して見えてきたのは、「ホリゾンタル(水平基調)なデザインの中にキャッチーなアイコンがある」という特徴でした。これは三菱自動車「ホリゾンタル・アクシス」という考え方を継承したものです。インパネを水平基調にすることで、たとえ山道などで車体が傾いても姿勢を把握しやすく、安心感にもつながります。新型『デリカミニ』でも、水平基調の造形に丸型メーターや横一線に並ぶエアベント(空調吹き出し口)といったアイコニックなモチーフを組み合わせ、機能性と親しみやすさを両立させています。
崔 「DAILY ADVENTURE #2」はシンプルながらも力強いコンセプトです。街中の公園に出かけるときも、グランピングを楽しむときも、安全で楽しく過ごせることを最優先にデザインしました。ギア感と先進感を大切にしつつ機能性も確保し、インテリアスタイリングのコンセプトである「センス・オブ・ギア」を体現しています。
中田 『デリカミニ』には、まるでペットのような可愛らしさがあります。だからこそUX/UI(ユーザーエクスペリエンス/ユーザーインターフェース)でも、単に使いやすさを追求するだけでなく、クルマと過ごす時間そのものを楽しく感じてもらえるように工夫しました。画面の動きやアニメーション、色の使い方を通して、クルマと心が通い合うような温かみと遊び心を表現しています。
中村 インテリアカラーでは、“日常における冒険”とは何かをあらためて見つめ直しました。標準グレードは「ポップ・イン・ギア」をテーマに「街中のにぎやかな公園」をイメージし、上級グレードは「非日常を感じられる身近なアウトドア」をテーマに「気軽に行けるグランピング」をイメージしてデザインしました。日常と非日常のバランスを意識しながら、色のトーンや素材感を丁寧につくり込みました。
加藤 私は途中から加わりましたが、まさに「開け、冒険の扉。」を体現するインテリアデザインが提案されており、ワクワクしたのを覚えています。これを形にできればお客様にも満足してもらえるという確信はありましたが、デザイナーのこだわりが詰まっているだけに、それを量産へつなげるのは本当に大変でした。
自由に表現できるからこそ、さまざまな困難にも楽しく 取り組めた
中田 苦労したのは丸型メーターです。先進的で洗練されたイメージのある白背景に黒文字のメーターを提案しましたが、視認性を数値で証明する必要があり、ハードルは高かったですね。三菱車では初挑戦でした。特に「高速道路でメーターが眩しいのは嫌だ」という声をどう克服するかが最大の課題でした。昼夜それぞれの環境で見やすさを確認するため、数十パターンの白色を用意。フォトショップでメーター画像を作成し、実際のディスプレイに表示して、他部門の方にも見てもらいながら検証を重ねました。最適な明るさを導き出し、その検証結果を上司に提示すると「本気でやりたいんだな」と言われ、最終的に承認を得ることができました。
崔 スライドドアの内側デザインは、特にチャレンジした部分でした。通常、フロントドアとリヤドアは同じモチーフを使うことが多いのですが、新型では後席に座る人にとって“最も快適な形状”を考え、あえて異なる造形にしました。ただ、スライド式のため、立体的なデザインにしすぎるとパネル同士が干渉してドアが閉まらなくなるおそれがあります。クレイモデルも使いながら、ミリ単位の修正を何度も繰り返してようやく完成しました。
小池 軽自動車は平面的で“商用車っぽい”デザインになりがちなところを、柔らかさを感じさせるソフトな断面と立体感で仕上げました。スライドドアでありながら質感の高い造形にできたのは、設計や生産部門との緻密な連携と、粘り強い調整の積み重ねがあったからこそです。
中村 上級グレードに採用した内装色のアクセントカラーについては、グリーン系も検討しましたが、グランピングのような上質でリラックスできる空間に合うベージュ系にこだわりました。ただ、ベージュは繊細で、ほんの少しトーンがずれるだけで「ファンデーションみたい」と言われることもありました。
加藤 少し彩度を上げると安っぽく見えてしまい、逆に下げると人形の肌のように生々しく見えてしまう。ガラス越しでも質感や雰囲気が損なわれない色合いを目指し、さまざまな環境下で確認を重ねました。また、トリム(室内の内装に使われる部品や装飾品の総称)のプラスチック部分やインパネのアクセントにも同じ色を使っていますが、異なる素材で同じ色味を再現するのは時間を要しました。
随所に散りばめたこだわりから三菱自動車らしさを感じてほしい
中田 注目してほしいのは、目が“パチパチッ”と目覚めるオープニングムービーです。エンジンをかける瞬間に“生き物が起きるような感じ”を演出することで、クルマとの相棒感を強く感じてもらえると思います。また、センターディスプレイでは、デリ丸。が「右良し!左良し!」と目線を動かしながら、まるで車内全体を確認しているかのような仕草を見せます。この演出によって、運転前の安心感を自然に伝えられるよう工夫しました。“あくび”や“ウィンク”など、いくつかの案を出しながら最終的にこの動きに絞り込みました。また、ドライブモードを表示する際のイラストもぜひ見てください。
小池 助手席前のグリップ形状をモチーフとしたトレー周りにも、機能的なアイデアを取り入れました。間口を広くして使い勝手を上げるだけでなく、底面にビード(突起)をデザインする事で、カードやコイン等が取り出しやすい、またそのビードをガイドにお子さんがミニカーで遊んでいただける。そんな遊び心を取り入れながら、デザインと機能性を両立させました。また質感にもこだわり、今回、表皮巻きとリアルステッチを採用しています。グリップの表皮張りは機械ではできないため、職人による手張り作業です。質感を高めるために加藤さんと相談しながら何度も工場へ足を運び、サプライヤーの技術力を引き出して実現しました。まさにクラフトマンシップの結晶です。
加藤 合成皮革は伸びにくいため、三次元的な形状ではどうしても継ぎ目ができてしまいます。今回は特別な縫製技術を用い、ステッチラインを最小限に抑えることで、すっきりとした仕上がりにしました。
中村 上級グレードのシートには、グランピングコテージのソファに多いブロック調エンボスを採用しました。ピッチ幅を何ミリにするか、実際にシートにテープを貼って検証を重ね、機能性と見た目のバランスを探りました。“ギア感”を前面に出しながらも、リラックス感のある方向に進化できたと思います。
加藤 格子柄は、柄の曲がりや左右のズレが起きやすく、量産では敬遠されがちなデザインですが、スタイリングと一緒に縫製線との関係を何度も調整しました。また、オットマンのようにクッション前までエンボス素材を延長しています。軽自動車とは思えない上質な質感を感じていただけたら嬉しいです。
中田 信号待ちなどの停車中にもお客様に心地よく過ごしてもらえるよう、アイドリングストップ時に表示されるスピードメーターのアニメーションも新たに開発しました。アイドリングストップ中に、スピードメーターの丸い枠が「ふわっ」と動きます。まるでペットを抱いたときに伝わる“鼓動”のように、クルマの心臓であるエンジンの鼓動を感じることで、待ち時間のストレスを和らげ、安全運転にもつながるよう工夫しています。
『デリカミニ』というブランドを感じてほしい―共通の世界観が生んだチームの一体感
加藤 それぞれのデザイナーにこだわりがある中でも、全体を同じテイストで仕上げることができました。変えるべきところと変えないところの見極めには悩みましたが、同じ世界観を共有できていたからこそ解決できたのだと思います。
中田 チームの垣根を越えてさまざまな意見を聞き、お互いのインスピレーションを共有しながら相乗効果で良いものが生み出されたと思います。レビューの場にプロジェクトに関係ない人も参加していたのは異例でした。また今回は、女性にも寄り添ったデザインを志向していたので、女性社員にもたくさん意見をいただきました。
中村 当初は、よりアウトドア感を押し出した案から、もっとカジュアルな案まで検討の幅はとても広かったのですが、世界観とコンセプトを軸に、今回の『デリカミニ』の立ち位置を常に考えながら答えを出してきました。
崔 初期段階から量産に向けた最終調整まで、多くの困難がありました。関係者やパートナーと密に協力しながら、三菱自動車ならではの独自性をしっかり織り込むことができたと思います。
小池 通常のプロジェクトではあまりないことですが、毎朝みんなで集まって、とことん良いデザインにするためのディスカッションや、課題の共有を行い、状況をクリアにしていました。そんな毎日の積み重ねもインテリアとカラー、UX/UIの強い一体感に繋がったのだと思います。
『デリカミニ』は“『デリカ』の子ども”と言われがちですが、私たちは『デリカミニ』というブランドを創りたい――そのくらい個性の強い世界観をつくりたいと思って取り組んできました。ぜひ皆さんも直接触れて、そのブランド力を感じていただけたらと思います。
中村 カラー全般の担当は初めてだったので正直不安でしたが、「上級グレードいいよね」といった声をいただいて、「良いものがつくれたのかな」と安心しました。標準グレードにも上級グレードにも、今できる最良のアイデアを詰め込みました。
中田 想定以上に多くの良い反響をいただいています。冒険に誘ってくれるようなアイデアをたくさん詰め込んだので、まずは試乗してほしいですね。それだけで楽しさを感じていただけると思いますし、僕らの情熱を受け取ってもらえるはずです。
崔 私は子どもが3人いるので、「家族や友人が車内でどう楽しめるか」をいつも考えてデザインしました。車内の広さや開放感は、安心感と遊び心を与えるものだと思っています。その点についてはとてもポジティブな反響をいただいています。私たちが細部にまで注ぎ込んだ情熱を感じ取ってください。
加藤 心が折れそうな時もありましたが、一人で抱え込まず、チームを超えて議論できたことで困難も乗り越えられました。進化を遂げた『デリカミニ』の魅力を強く感じていただけると思います。ぜひ実車で、『デリカミニ』の世界観を体感してください。
★おまけ:おすすめポイントについて聞きました!
宇梶(インテリアデザイン) おすすめポイントは、やはり新型『デリカミニ』専用の内装デザインである助手席インパネトレーの形状です。このトレーは、ユーザーの声を反映し、特に子育て世代がよく使うウエットティッシュや紙パックがすっきり収まるよう、スクエア形状を採用しました。日常での使いやすさを具体的にイメージしてデザインしています。さらに、底面には凸ビード形状を配置しており、カードのように底面に張り付いて取りにくい物がスムーズに取り出せるだけでなく、置き方に工夫ができるため、使い方の自由度が広がります。これにより、車中泊やちょっとした休憩など、幅広いシーンで快適に使えるよう配慮しました。また、このビード形状の凸凹パターンを反転させて、ドアのプルカップ(ドアの内側にある収納スペース)や運転席と助手席の間に位置するセンタートレーの底面にもデザインしました。平板になりがちな軽自動車の樹脂パーツに、使い勝手を高める機能性と、道具としての質感をプラスしています。普段の日常から非日常の特別な時間まで、さまざまな「ちょっと置きたい」に応える、気の利いたトレーです。

