イクボスとして大切にしているのは、“配慮しすぎないよう配慮する”こと
2022年11月現在、私はデジタル推進本部のデジタル戦略部の部長を務めています。主な業務内容は、DXの推進、ネットワークやデータセンター等のITインフラの企画、情報セキュリティ対策、DX人財を計画的に育成することなどです。
私自身、このインタビューの話をいただくまで、イクボスという言葉を知りませんでした。このインタビューも、部下のひとりが「水口部長はイクボスとしての取り組みをしていますよ」と人事部に推薦してくれて実現しました。
あらためてイクボスを調べてみると、イクボスとは、職場で共に働く部下のワークライフバランスを考え、キャリアと人生の両方を応援しながら組織の業績もあげるよう努める管理職のことと知りました。また当社は今年から、特定非営利活動法人ファザーリング・ジャパンが設立する「イクボス企業同盟」にも加盟しています。普段、特に意識していませんが、部下から推薦してもらったことは大変嬉しく思いました。
社員のキャリアを考える上で大事にしていることは、“配慮しすぎないよう配慮する”こと。たとえば、育児をしている女性社員。彼女たちは本当に忙しくて大変だと思いながらも、その社員が間違いなく活躍できる仕事が舞い込んできたとき、「育児で大変そうだからアサインするのはやめておこう」と勝手に判断してしまうのはよくないと考えています。強制にならないよう、言い方に気をつけながら、「こういう仕事があるんだけど、ちょっとやってみない?」と提案するようにしています。
子どもが小さい時期は特に大変ですから、興味を持ちつつも迷われる人もいます。私自身も二人の子どもを育てる中で、子どもが大きくなってもいろいろ悩みが多いことを経験していますので、チャレンジを望む女性社員には、一歩踏み出せるように後押しをしています。
周りに負担をかけてしまうのではないかと心配される方もいるのですが、本人は実力を持っていますし、当部の場合、周囲の社員がバックアップしていることもあって、その仕事をきっかけに大きく成長していきます。
人財育成の重要性を実感した、グループ会社への出向経験
私は1990年に入社して、情報システム部に配属になりました。社内の業務システムの開発、ITインフラの運用などを担当していました。その後、情報システムを軸に、本社の営業部門とグループ会社に出向しつつ、IT化のサポートをしてきました。
2004年には、グループ会社の販売会社に新しい物流システムを導入するミッションを背負って出向しました。新しいシステムをスムーズに稼働させるため、人財育成の重要性を感じて自ら研修を立ち上げたのがこのときです。
その後、2011年に情報システム部に戻り、ITの仕事の他にコミュニケーション教育やコーチング教育を行うなど、人財育成の取り組みも行い、2020年1月に部長に昇進して今に至ります。
自分のキャリアを振り返って人財育成に関して最も印象に残っているのは、グループ会社の出向時代に、リーダー育成研修を行ったときのことです。もともとは、先述した新システムを導入する目的で出向したのですが、親会社がお金をかけてどんなに良い仕組みを作ったとしても、それを動かす“人”がモチベーションを高く持って取り組まないと機能しないことに気づきました。
当時、出向先の業績は芳しくなかったものの、30歳前後の社員は「会社の課題を解決したい」という高い意識を持っていました。そこで私は「リーダー育成研修を実施させてください!」と会社に提案しました。なんとかその想いが通り研修を実施したところ、受講生からとても良い評価をもらい、また、売上増、コスト削減などの成果も出すことができました。
その研修は、時代に合わせてかたちを少しずつ変えながら、今でも続いていると聞いています。組織の中での人財育成の重要性を学んだ出来事でしたね。
立場に関係なく、自分が思ったことを言える職場環境を目指して
私は、部下のワークライフバランスやキャリア、人生を応援する上で、 心理的安全性のある組織づくりを目指しています。組織内で心理的安全性が保たれてさえいれば、立場に関係なく、自分が思ったことを言える職場環境が作れるからです。
そうした環境を作るための具体的な方法のひとつが、1on1ミーティングです。部下が主体となって話したいことを話してもらうために、1対1で話す時間を月に1回実施しています。
かつては、部下が望んでもいないのに自分の経験を話してしまうことがありました。良かれと思ってやったことでしたが、部下の中には聞きたくもない話を聞かされて大変迷惑だっただろうと反省しています。自分たちはそうやって育てられてきたのですが、部下にとって本当にやりたいことがほかにあるとしたら、上司の経験談なんて関係ありませんから。
そんな私にキャリア観を変えるきっかけをくれたのは、他でもない私の娘でした。
娘は当時、私立大学の付属高校に通っていました。そのまま大学に進学するものだと思っていたのですが、3年生になったとき、「私はバレエの道に進む」と突然言い出して。娘と言い争いになり、半年くらい口をきかない時期もありました。
結果的に娘は自分の夢を追ってバレエの道に進み、今はバレエ教室の先生をしています。バレエを教える中で、子どもたちや親御さんたちから「先生、ありがとう」と感謝の言葉をかけられているのを見ると、娘の選択は間違いではなかったなと思っています。当たり前のことですが、キャリアは自分で決めるべきだと娘に教えてもらったんです。
こうした経験をもとに、2019年にキャリアコンサルタントの資格も取得しました。バレエの道に進むと言った娘に対して、「自分のやりたいことをやっていけばいいじゃないか」と言えなかった自分をアップデートするために、イチからキャリア形成について学んでいったんです。
資格を取ってからは考え方を変え、部下の話にきちんと耳を傾けるように心がけてきました。キャリアについて悩んでいる部下には「それを目指すためには、別の道もあるかもしれないね」と提案したり、男性部下に育休取得を勧めたりなど、人対人としてコミュニケーションを取るようにしています。
会社と個人が同じ方向を向いて進んでいける人財育成を
イクボスを目指す管理職の方には、これからのミレニアル世代やZ世代が何を重視しているかを知り、彼らが納得できるような説明をしてあげることが大切だと伝えたいです。彼らはスマホで情報を調べる世代ですから、事実やエビデンスを重視しているような気がします。たとえば、「仕事は明るく楽しく元気よくやろう!」といったぼんやりした声掛けをしても、おそらく誰もついてきてくれないでしょう。事実やエビデンスに基づいた話をした方が良いと思っています。
また、1on1ミーティングが心理的安全性を築くために必要とはいえ、中にはコミュニケーションが苦手な部下もいます。そうした場合は無理強いせず、部下に合わせて対応を変えることも大切です。私の場合は、対面だけにこだわらず「最近どう?」とチャットしたり、何かの用件で連絡してきた流れで、「お子さんどう?」「中学受験どう?」とちょっとしたメッセージを送るなどして、日々の業務の中でコミュニケーションを取るようにしています。
よく「何か困ったことがあったら言って」と部下に対して声を掛ける上司がいると思いますが、そうやってボールを渡されても、部下としてはなかなか相談しづらいのではないかと思います。部下からの相談を待たず、こちらから働きかけることが大切なのではないかと考えています。
エンゲージメントが高い組織は生産性が高まり、イノベーションが起こる可能性も高くなると言われています。私自身、自分の接し方を変え、組織の風土が変わっていく中で、デジタル推進本部のパフォーマンスが上がってきている気がします。だからこそ今後も、ますます心理的安全性が担保されるように、上下関係なく言いたいことを言える組織を作っていきたいです。
また、会社のミッションと個人のやりたいことを合わせていく活動をやっていきたいと思っています。会社が目指す方向と個人が目指す方向を一致させながら、部下がワークライフバランスを保ち、気持ちよく働ける環境作りに努めたいですね。

