「女性だから」という壁を乗り越えて、悔しさを力にホワイトカカオにたどり着くまで
私は現在、人財開発部 DE&I推進グループに所属し、誰もが自分らしく、イキイキと働ける環境づくりに奔走しています。担当しているテーマは、グローバル推進、LGBTQ+領域の環境整備やアライ風土醸成、女性活躍推進などさまざまです。
具体的な業務は、社内の重点領域に基づいた施策の企画から、制度の改革、さらには社外への発信まで多角的に行っています。毎年、全社員を対象に実施するアンケートから「働きづらさ」や「キャリアの悩み」を抽出し、本質的な解決策を模索しています。
とくに注力しているのは、マイノリティとしての悩みを抱える社員が、その力をもっと発揮できるような土壌を耕すこと。たとえば「周りにはいないから関係ない」「仕事には関係ない」という誤解をどう解いていくか。一人ひとりの背景にある異なる事情を丁寧にヒアリングし、相手側の譲れないこだわりを尊重しつつも、DE&Iの視点から「こういう考え方もある」と一石を投じる。異なる価値観を否定せず、対話を通じて新しい着地点を見つけ出すプロセスに、今の仕事の醍醐味を感じています。
そもそも、私が2013年に明治に入社した決め手は、「チョコレートの原料であるカカオの品質向上のために、自ら産地へ赴く」という会社の姿勢に、強く心を動かされたからです。入社後は工場技術部での研修を経て、念願だった菓子開発研究所カカオセンター(当時)に配属となりました。「夢みていた仕事に従事することができたから、必ず成果を出そう」と、胸を高鳴らせながら社会人としての一歩目を踏み出しました。
けれど、現実は決してうまくいくことばかりではありませんでした。カカオの産地は治安が不安定な地域も多く、当時は「海外の危険な地域に女性は行かせられない」という配慮が、壁として立ちはだかったのです。私はカカオ豆のローストやチョコレートの製造方法の研究開発を行いながらも、常に「産地でカカオそのものを研究したい」と心の炎を燃やし続けていました。そんな折、男性の後輩社員が自分よりも先にカカオ産地へ赴くプロジェクトに参加することになりました。「悔しい」とはもちろん思いました。
しかし、安全面を考慮した配慮も理解しうるものでした。それでも、やはりあきらめることは選びたくなかった。そこから、「女性だからできない」を「女性だけどできる」にするにはどうしたらいいかと、むしろ気持ちに火が付いたのを覚えています。
まずは面談のたびに上司へ「産地に行きたい」と熱意を伝え続けました。そして比較的安全なヨーロッパや東南アジアでの出張機会を確実につかんだ際には「どんな環境でも体調を崩さず、大きなトラブルも起こさず、しっかりと成果を出せる」という事実を、一つひとつ積み上げて証明していきました。
こうした執念とも言える日々が実を結び、ついにドミニカ共和国への出張が実現することになりました。複数回のカカオ産地への出張を経て、当時明治にとって未開の地であったマダガスカルでの新プロジェクトに自ら手を挙げた際は、情熱とこれまでの実績を認められてメンバー入り。
世界でも生産量のきわめて少ない「ホワイトカカオ(クリオロ種)」の探索にも貢献しました。自ら声を上げ、行動し続けたからこそ実現した経験は、かけがえのない私の宝物となっています。
研究の最前線からDE&I推進へ。提言を現実に変えるため選んだ新たな道
10年以上にわたってカカオの研究に没頭してきた私が、なぜDE&Iというまったく異なるフィールドを選んだのか。そのきっかけは、2024年に参加した「L1ステップアップ研修(現在は廃止)」にありました。社長へ直接、会社の変革を提言することができる手挙げ制の研修です。
私はそこで「社内のグローバル意識の変革」をテーマに掲げました。明治が成長し続けるためにグローバル化は避けて通れません。しかし国内市場に強みを持つ明治の社内には、まだどこか「自分には関係ないこと」という距離感や心理的な壁があるように感じていました。
研修を終えた時、私の心には「提言だけで終わらせたくない。この手で実現したい」という想いが湧き上がってきました。ちょうどその頃、今の部署の公募を目にしたのです。カカオの研究においてキャリアを積み上げ、念願だった生産工場への異動を果たして間もない頃だったので、大きな迷いはありました。
しかし、これからも長く明治で活躍していきたいという思いが強いからこそ、このタイミングで公募にチャレンジして「会社を変えたい」という気持ちが膨らんでいきました。
こうした「現状を変えたい」という気持ちの源泉は、幼少期からの経験にあります。私は生まれは日本ですが、3歳から9歳までアメリカにいて、一度日本に帰国し、15歳から19歳までドイツで高校時代を過ごしました。 海外では、その場で意見を言わなければ「存在しない」のと同じだとみなされます。「察する」が通用しない世界だからこそ、たとえ反対されても、まずは自分の考えを表明することが誠実だと学んできました。そして何より、「海外」は特別ではない、「日本もグローバルの一員」という考え方を子ども時代から社会人生活にかけてずっと感じてきていたのです。
日本の文化を大切にしながらも、より良い方向へ一歩踏み出すために発信し続けていきたい。そんな私の想いを、「いつも前向きに努力し続けてきた宮部さんならできるよ」と後押ししてくれた仲間の存在が、新しい挑戦への大きな原動力となっています。
この挑戦を通じて少しずつ変わりはじめた会社の中で、そこで培ったマインドを広めながら、再びカカオに携わる仕事で活躍する──それが今の私のキャリアにおける夢です。
「特別な人」だけにしない、属性を超えた強みが明治の未来を切り拓く
現在の部署に異動して、研修にて提言した施策の一つである「全社員を対象とした『グローバル人財認定制度』」の立ち上げに貢献しました。これは単に語学力を競うためのものではありません。英語が得意かどうかにかかわらず、まずは「明治で働く自分たちが、どこで世界とつながっているのか」を再発見するための仕組みです。その小さな「気づき」から認定が始まるような、誰もが参加しやすい設計をめざしました。
私がグローバル推進に力を入れる理由は、研究員として海外のカカオ産地を歩いてきたからこそ、世界との接点を意識することが個人の成長、ひいては事業の可能性を大きく広げると肌で感じているからです。一部の「特別な人」だけの話にするのではなく、全社員がほんの少し視野を広げるだけで、景色は必ず変わっていきます。かつての私が直面したように、「女性だから」「研究職だから」といった属性で可能性を狭めることなく、意欲のある人が等しくチャンスをつかめる土壌を整えることは、大切な一歩だと言えるでしょう。
女性活躍推進についても、実は以前の私は「男女平等といいながら女性限定の研修なんて……」と、少し冷ややかな視線を持っていた時期がありました。けれど、あえてその研修に飛び込んでみると、そこには驚くべき発見があったのです。男性中心の場では一歩引いてサポートに回りがちだった女性たちが、解き放たれたように熱く議論し、論理的かつ情熱的な提言をまとめ上げていく姿に大きな刺激を受けました。
とくに印象的だったのは、そこで作成されたプレゼン資料です。デザインが洗練されていて見やすいだけでなく、ビジネスの場であっても「人の感情や想い」に真っ直ぐ訴えかけるような、温かくも力強い表現が散りばめられていました。それまで、ビジネスに感情を盛り込むことはどこか「弱さ」のように捉える風潮に無意識に従ってきましたが、実はそれこそが人を動かし、組織を活性化させる不可欠な「強み」になるのだと気づかされたのです。
現在、明治の女性管理職比率は10%以下と、まだ決して高い数字ではありません。だからこそ、この「女性ならではの視点や感性」が埋もれることなく、その力を存分に発揮できる場を丁寧につくりあげていくこと。潜在的な力を掘り起こし、組織の新しい強みへとつないでいくことが、使命だと感じています。
マイノリティとして揺れた日々。居場所を探し続け、見つけた違いを受け入れる強さ
私は時折「帰国子女で羨ましい」と言われることがあるのですが、そう言われるたびに、心のどこかで小さな違和感を覚えました。 これまでの道のりは、決して光の当たる場所ばかりではなかったからです。幼少期のアメリカ生活では、時にはアジア人として悲しい差別を受けたこともあります。
一方、「日本に帰れば、本当の自分でいられるはず」という期待が、帰国後の私を苦しめました。小学校3年生で日本の学校に通い始めると、アメリカで身につけた自分の意見をはっきり伝える姿勢が、周囲からは「和を乱すわがまま」と捉えられてしまったのです。
海外にいても、日本にいても、常にどこかで「マイノリティ」であるという意識。それは、私の心の奥底に残り続けている消えない記憶であり、今もどこかで持ち続けている感覚です。けれど、その感覚を持っているからこそ、今の私は「当たり前は人によって違う」ということを、誰よりも理解できるのだと思っています。
多様性を大切にするために必要なのは、自分の常識を一度手放し、目の前の人が歩んできた背景に想像力を働かせること。自分と違う意見を持つ人を遠ざけるのではなく、「どうしてそう考えるのかな?」と耳を傾けてみる。その小さな対話の繰り返しが、本当の意味で手を取り合える場所を作るのだと信じています。さまざまなマイノリティの方々が抱える「見えない生きづらさ」にも、私がかつて感じたつらさを重ね合わすことで、より深く寄り添えるのかなと思います。
明治には優しくて真面目な人が多く、誇るべき温かな文化があります。だからこそ将来は、その温かな文化が多様な価値観を受け入れ、誰もが自分らしく力を発揮できる、もっと強くてしなやかな会社であってほしいと願っています。
もし今、新しいことに挑戦したいけれどあと一歩が踏み出せないでいる方がいたら、「まずは小さな成功体験を大切にしてほしい」と伝えたいです。小さな挑戦の積み重ねが大きな変化につながったり、成功体験から得られた自信が大きな挑戦の原動力になったりする。世界を変えるきっかけは、そんな自分だけの小さな挑戦から始まると私は思います。
壁にぶつかっても「つらい」で終わらせず、新しい自分に出会う扉だと捉えて、これからも私は皆さんと共に歩んでいきたいと思っています。
※ 記載内容は2026年4月時点のものです

