創薬・製剤分野で数々の実績を重ね、マルホのデジタル研究を牽引
現在、マルホのトランスレーショナルリサーチ推進部でグループマネージャーとして組織を率いる馬場 廣海。その業務は多岐にわたります。医療分野におけるトランスレーショナルリサーチとは基礎研究から臨床現場への橋渡し研究を指し、創薬・創剤・臨床の各ステージにおいて、データサイエンスや各種シミュレーションなどのデジタル技術を積極的に活用し、プロセスの効率化と新規アイデアの創出に取り組んでいるところに馬場の組織の大きな特色があります。
「私たちのグループでは、自分たちで作ったオリジナルの人工知能やシミュレーションツールなどのデジタル技術を活用した創薬・製剤の研究のほか、その環境構築、いわゆる研究分野のDXのあり方を考えるのも業務のひとつ。
また、バイオマーカー探索や臨床試験データの機械学習解析も大きな業務の柱です。あわせて、国内外のアカデミアや企業とのさまざまな協働・共同研究の企画・推進も行っています」
マルホのデジタル研究を牽引する馬場が研究の道に進むことになったきっかけは、興味の先にあった気づきでした。
「幼いころから図鑑を読むことが大好きで、中学生のころには理科や哲学に興味を持つようになりました。そこから世界の捉え方やものの分類の仕方、ある現象の背景にある理論などへの興味が強まっていきました。そのうち、『世界は最小の理で説明でき、後は関連するパラメータの値によって多様性が生じているのではないか』と考えるようになったんです。
この観点から、大学は理学、その中でも学問としておもしろみを感じていた化学を専攻しました」
そんな馬場がマルホへと入社したのは2009年のこと。
「修士課程の修了を控え、博士課程への進学か就職かで迷っていたのですが、社会ではどのような人材を求めているのか知りたかったのもあり、大学の近くにあったマルホの採用試験を受けることにしました。面接では、多分野が混じり合い新しい研究領域を開拓していけること、温かな人間関係を築いている社風であることを知ることができました。きっとこの会社に入社したら視野が広がり、とてもおもしろい研究に挑戦できるのではないかとイメージでき、入社を決めたんです」
入社から半年後、馬場は、現在へと続くデジタル研究に出会います。
「有機化学を大学で学んだことと、在学中に独学で進めてきたコンピュータプログラミングのスキルを評価され、上司よりあるテーマをもらいました。それが“機械学習(AI)を利用した薬物の経皮吸収性の予測法の開発”です」
この研究開発はやがて実を結び、日本薬剤学会をはじめ複数の関係団体から受賞するなど高い評価を受けることとなりました。
「このデジタル研究をきっかけに、以後は社内で異動のたびに興味深い業務や共同研究案件の機会を得られるなど、さまざまなサポートをその時々の上司から受けることができました。また、デジタル技術をどのように落とし込んでいけばいいのか一緒にディスカッションするなど、とても充実した研究生活を送ってきました」
当時は、AI学習の創薬応用への黎明期。社内にデジタル研究専業の組織もなく、まさに一からの立ち上げでした。
「計算機、ソフトウェアなどデジタル研究基盤の構築を行うとともに、デジタル研究の有用性を社内に浸透させることにも努めました。研究では、実験データの自動解析ツールの作成やデジタル予測などを開発、創薬・製剤研究へのデジタル技術の応用を進めました」
こうして、デジタル技術がうまく機能するようになると、社内での協業も促進されていき、2018年にデジタル研究の専業チームが組織されるまでになりました。
「今では社内のいろいろな部署の方とも連携ができるようになっています。技術的に難しいことでも、他部署の方に相談したり支援を受けたりすればスピーディに解決できることも多々あります。私も、他の部署の方があらゆる課題とデータを抱え、その解釈に悩んでいるときは、解析のお手伝いを積極的にしています」
アカデミアや同業他社、IT企業などとの連携でオープンイノベーションを実践
着々と実績を重ねる一方で、社内での協業体制を構築するなど、デジタル研究に邁進する馬場。その活動の場は社内にとどまりません。
「社内にもあらゆる分野のスペシャリストが在籍しているので、とても勉強になります。さらに社外のアカデミアや他の企業の方たちと一緒に研究することで、ものの見方が非常に広がると実感し続けています。
その第一歩として、社業のかたわら、2014年から2017年にかけて、大学の博士後期課程に通い、博士(薬科学)の学位を取得しました。大学では基礎研究を行い、マルホでその成果を産業化し、結果をまた大学の研究で役立てる。そんな循環する環境ができ、社内にも好影響を与えることができました」
自社だけでなく、社外のアイデアや技術をも取り込み革新的な価値を創り出す“オープンイノベーション”を実践する馬場。その活動の場は、近年、さらに広がっています。
「2017年から、製薬企業やアカデミア、IT企業などが参画する日本最大級のライフサイエンス系の人工知能に関する共同事業体である一般社団法人ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINC)にマルホも参画しています。私自身は2021年より理事として、DX研究のあり方やDX推進・運用事例の共有・議論の場を通じ、技術変化の潮目をいち早く察知できるよう努力しています」
さらに、デジタル技術の最新の知見の共有と集約、研究推進と実用上の課題に関するディスカッションの場を提供し、技術者の底上げすることを目的に、日本の製剤研究の代表的な学会である日本薬剤学会において、馬場を中心に「デジタル製剤学フォーカスグループ」を発足、その執行部のリーダーとして、2023年4月から運営にもあたっています。
スパコン「富岳」の研究利用の実績などを社内に周知することで各分野と連携をはかる
社外の活動で得られた評価は、社内におけるデジタル研究への信頼の醸成にも役立ちます。
中でも、2021年9月のスーパーコンピュータ「富岳」産業課題における利用承認は社内でも大きな話題となりました。
「富岳の産業課題においては、科学的に重要な課題の解決ならびに産業利用の開拓に向けた波及効果(社会への貢献)が期待できる研究であることなどが求められます。そこで、富岳の使用により、コンピュータ上で研究者が製剤設計・特性評価を自在にできるプラットフォームの確立をめざす研究を提案しました。
これが実現できれば、製薬産業界において、これまで多大なコストがかかっていた製剤設計プロセスにおける一連の業務をデジタル技術により、大幅に高速化・効率化できるようになります」
この研究が承認され、産業課題として「富岳」の利用が認められることに。マルホが製剤研究用のデジタル技術を開発する先端的な企業であることをアピールするとともに、製薬産業においても大きな意義を有した結果となりました。
「国を代表する計算資源を活用して、製薬産業上の課題解決のための研究を実施できたことは大変な誇りです。産業への貢献を通じて、社内外のさまざまな関係者との連携を生み、私たち自身の成長へもつながっています。製薬産業内には、デジタル技術を活用して解決すべきたくさんの課題がまだ残っていますので、その解決に向けて、各専門家とのコラボレーションをしていきたいと思っています」
このようなトピックスがあるたびに、社外だけでなく、社内においても成果の報告とともに、デジタルを業務に生かしたい人、デジタルを活用したアイデアを持っている人に、気軽に相談をしてほしいとアピールをしてきた馬場。さまざまな手応えを感じています。
「もともと当社には社内連携がとても取りやすい土壌があり、それぞれの研究領域から課題を早期に共有してもらえていました。おかげで、そういうことをしているなら、たとえばその研究の中でこういうことができないか、あるいはデジタルの解析でこういった課題があるのだが一緒に解決できないか、といったうれしいお話をもらっています」
失敗を恐れていては、未来は創れない。チャレンジする若手を全社的にサポート
自ら率いるチームにとどまらず、全社的なデジタル技術の利用促進を手掛ける馬場。マルホでの14年に及ぶ研究者生活をこう振り返ります。
「入社当時は数年したらアカデミアに戻るかもしれないとも考えていました。ところが、入社半年後には今に続く非常に興味深いテーマの研究にのめり込み、まさにあっという間の14年間でした。
また、徐々にチームの陣容も整ってきたことで、今はメンバーおのおのが同じような高い熱量をもって研究に取り組んでいます。議論を通じて自分一人では思いつかなかった結論に行き着き、たとえそれがうまくいかなくとも、原因を探って別のアイデアを発展させていく。そんな環境が実現できてきています」
今までの会社の支援に対して、どうすれば恩返しができるだろうかと常に考えているという馬場。今後、マルホで実現したいことをこのように語ります。
「研究・開発・生産などを含め、人材・技術・データ資産を一元的に管理し、R&Dと生産のDXを実現したいですね。マルホは外用剤の研究・生産に関しては競争力のある重要な知見を多く有しています。新しい発想支援や大幅なコスト低減に資するデジタルプラットフォームを開発できれば、当社ならびに患者さんへの貢献になると思います」
このような想いを共有でき、ともに開発に邁進できる化学系デジタル人材に対して、マルホは広く門戸を開いています。
そして何よりもチャレンジ精神が研究には必要だという馬場。
「デジタル分野を含め、探索研究はうまくいかないことも多いです。でも、失敗を恐れていては未来を創るような結果を生み出すことはできません。また、難しいことに挑戦するからこそ自身のスキルアップもできますし、そこから得られる喜びも大きくなります。“失敗してもいい、チャレンジしよう!”という気持ちを共有できる方とぜひ研究をともにしたいと思います。
私自身も競争力を高め、夢を追えるようなチャレンジを常に意識していますし、チームのみんなの挑戦もサポートしていきたいと思っています!」
デジタル研究分野で自ら先頭を切って夢にチャレンジしながら、一方でチームスタッフの成長をサポートし、さらに全社的な研究DX利用の舵取りをする馬場。夢の実現はまだまだ緒についたばかり。挑戦はこれからも続きます。
※ 記載内容は2023年11月時点のものです
