皮膚科学領域への集中──見過ごされ、軽視されているニーズに取り組む
「薬で社会に貢献したい」という志のもと、マルホが創業されたのは1915年のこと。海外の優れた医薬品を日本に輸入するという当時としては革新的なビジネスモデルを取り入れ、目覚ましい発展を遂げてきました。
その後、生産や研究開発の体制を整備し、たゆまぬ歩みを進めてきたマルホにとって、最大の転機となったのは2002年。皮膚科学領域に軸を絞った時のことでした。
「特定の疾患領域にフォーカスしてより深く患者さんに寄り添いたいという想いから、皮膚疾患領域に的を絞ることを決めました。世の中に製薬企業が数多くある中、マルホが取り組むべきことは『世の中で見過ごされ、軽視されている声、“アンメットニーズ”に対して粘り強く取り組み、ソリューションを提供していくこと』だと考えたからです」
マルホのアンメットニーズへの取り組みについて杉田は続けます。
「たとえば、現在マルホが販売している皮脂欠乏症の治療薬は、最初は別の疾患の治療薬として用いられていました。その後、医療関係者や患者さんからのニーズに応え、新たに適応を追加し現在に至ります」
ニキビのケースでは、マルホ独自の調査や患者さんへのインタビューを通して、皮膚疾患に罹患している方の悩みや苦しみを知ったことも背景にあったと言います。
「ニキビは、10年ほど前まで『青春のシンボル』と表現されることもあるなど『あって当たり前のものだし、気にすることはない』とみなされていました。
しかし、患者さんの中には『ニキビが原因で学校へ行けない』といった深刻な悩みを抱える方も多くいます。こうした状況のギャップを埋めるべく、有効な治療薬の開発と並行して2017年ごろからざ瘡の啓発活動に励んだ結果、患者さん自身が適切な治療法に気づき、希望通りの対処法を選択できるようになったと考えています」
こうして、マルホはアンメットニーズを見いだし、解決に向けて社会に働きかける役割を担ってきました。
杉田がキャリア採用でマルホに入社したのは2012年のこと。もともと商社勤務だった杉田が製薬業界に興味を持ったきっかけは、その後のMBA留学時代に製薬企業でサマーインターンを経験したことでした。
「全社集会で患者さんが登壇し、その製薬企業の医薬品を服用して人生が変わったとお話をされているのを耳にしました。それまでBtoB領域のビジネスに携わってきていたので、切実なニーズを持った方から直接感謝のメッセージを聞くのは初めての体験。心が揺さぶられるような気持ちがしたのを覚えています。
その後、外資系製薬企業を経て、患者さんの声を経営の意思決定により活かしやすい環境で仕事をしたいという想いが募り、マルホへの入社を決めました」
4年がかりで策定した、新たなミッションと5つのバリュー
2020年12月に代表取締役社長に就任し、会社を進化させるためのさまざまな施策を実行してきた杉田。そのひとつが、2022年10月に実施した経営理念の刷新です。
「従業員数が1600名を超える規模にまで成長したマルホですが、さらに質の高い貢献をしていくためにはよりいっそうの一体感が必要です。『私たちは何のために仕事をしているのか』をあらためて明文化すべきと考えました」
この活動は2018年にスタート。経営層はもちろん、各部門から選抜された従業員で構成されるプロジェクトメンバーを中心に議論を重ねてきました。
「100年以上の歴史があるマルホのDNAを再確認して言語化するために、まずマルホの会社としての礎を築いた高木 二郎(元代表取締役社長)の想いが記された過去数十年分の社内報を読み込みました。その内容をもとに、現在のマルホの従業員の姿勢に通じる部分について話し合っていきました」
他にも、全従業員を対象としたアンケートを実施するなど、4年の歳月をかけて検討。そうして策定されたのが、「あなたといういのちに、もっと笑顔を。」というミッションと、5つのバリューから成る新しい経営理念です。
「ミッションは、私たちの使命であり存在意義です。マルホの歴史の中で培われた、これからも大切にしたい考え方と、ありたい未来の姿の両方を示しています。
5つのバリューでは、ミッションを達成するために従業員が大切にすべき価値観や行動基準を定めています」
「Well-being」という概念が浸透してくるなど、「病気を治したい」 「長生きしたい」のみならず、「病気と向き合いながら自分らしい人生を送りたい」「苦痛を軽減し、平穏に過ごしたい」といった具合に、患者さんのニーズも多様化しています。
ミッションに「あなた」という文言が用いられたのは、そうした価値観の多様化を反映したかったからでした。
「いまのような時代の中で本当のアンメットニーズを拾い上げるためには、患者さん一人ひとりの悩みや苦しみを想像し、丁寧に寄り添うことが大切です。一人ひとりの『よりよく生きたい』という想いを大切にしたいという考えから、『人々』『人類』といった複数形の言葉ではなく、『あなた』という言葉をミッションに盛り込みました」
こうして生まれた新しいミッションを浸透させるため、マルホでは毎月「CEO Monthly Message」と題したメッセージ動画の配信も開始。杉田自ら「ミッションを具体的な意思決定にどう反映しているか」の実例を紹介しています。
医師らとも一丸となれる、確かな信頼関係を育んできた
マルホの魅力の中には、製薬以外の業界や同業他社も経験してきた杉田だからこそ実感できるものも多いと言います。
「入社して間もないころに驚いたのは、従業員の皆さんがとても優しくて誠実なこと。わからないことだらけの私が何か質問すれば、ささいな内容でも仕事の手を止め、笑顔でひとつずつ丁寧に答えてくれました。備品の置き場所を尋ねると、そこまで連れて行ってくれたことも」
また、杉田がとくに印象的だと言うのが、マルホの「ワンチーム」になれる力。それを顕著に感じたのが、杉田が入社する前、2002年にマルホが皮膚科学領域への集中を決めたときのエピソードでした。
「それまでは他の疾患領域を強みに活動する従業員もいましたし、当然、社内には反対の声も多く挙がっていたと思います。
しかし、『皮膚科学領域にフォーカスする』と一度決断すれば、全従業員が一致団結してひとつの目標に向けて動き出せるところに、マルホの大きな強みがあると感じます」
そしてもうひとつ、杉田が誇らしく話すのが、長期的な視点で患者さんの目線に立って物事を考えられるマルホの従業員の姿勢です。
「営業の最前線にいるMR(医薬情報担当者)のメンバーは、医師など医療関係者とのコミュニケーションを通じ、必要があれば自社製品にとどまらず、最適な情報を提供するというスタンスを貫いています。こうした姿勢が、会社への信頼やわれわれの製品を選んでいただくことにつながっていると感じます。
また、新しく開発する医薬品について医師に意見を求めた際、単に良いねではなく、本音で厳しく踏み込んだ意見やアドバイスをいただくことが多くあります。これは、マルホが大切にする日頃の医療関係者とのコミュニケーションが信頼関係を育み、皮膚疾患領域に貢献する医療に携わる一員と捉えてくださっているからこそいただけるものと感じています」
そして、世界のアンメットニーズに挑む
ミッションやバリューを体現するには、人材育成や企業文化の醸成も重要です。そのために、マルホでは新しい制度も開始しています。
「バリューのひとつである『ワクワクで世界を変えよう』には、『内発的動機で動く社員が増えてほしい』という意味を込めています。こうした風土を醸成するために、社内公募制度を開始したり、MBA留学制度を挙手制に変更したりと、従業員が主体的に自身のキャリアを構築できる環境づくりに励んできました。
また、従業員が所属部署の業務と並行して他部署の業務も経験できる社内インターン制度(通称・ジョブチャレ)のトライアルも実施しています。MRのメンバーがR&D部門でのインターンを申し出るなど、これまでにない動きが出てきていて、少しずつ変化を実感しているところです」
時代に合わせて変化しつつ、皮膚科学を専門とする製薬企業として発展を遂げていくマルホ。新たなステップとして見据えるのが、グローバル展開です。
「昨年、アトピー性皮膚炎のかゆみを抑える抗体医薬品を国内で上市しました。これまでの治療は、炎症を抑えることやバリア機能障害に着目されてきましたが、患者さんの一番の困り事はかゆみでした。
この医薬品は患者さんのアンメットニーズである『かゆみ』を標的とした初めての注射剤であり、目下のところ日本でしか手にできません。先述の皮脂欠乏症の治療薬とともに、日本のアトピーの患者さんに向け、3つの主要病態(炎症、バリア機能障害、かゆみ)に対する解決策を提供することが可能になりました。
海外に目を向ければ、皮膚疾患にお悩みの患者さんが多くいますし、その中には社会から見過ごされたり軽視されたりしてしまっているニーズがあります。世界のアンメットニーズを満たすためにも、マルホはグローバル展開に踏み出さなければなりません」
2023年9月には、マルホが展開している多汗症の治療剤について、韓国と台湾、香港、マカオ、ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国での開発・製造・販売に関するライセンス契約を締結するなど、グローバル市場に進出するための足場を着実に固めているマルホ。
これからも前に歩み続け発展を遂げていきます。医薬品を心待ちにしている患者さんが世界中にいる限り。
※ 記載内容は2023年10月時点のものです
