従来の医薬品研究からの脱却をめざし、オープンイノベーションを求めて新拠点を開設
研究企画推進部に所属し、薬理研究を担当する大藪。MSiLのメンバーのひとりとしてその立ち上げ時期から携わってきました。
「『オープンイノベーション』と『インキュベーション』をミッションに掲げ、MSiLではシーズ探索と呼ばれる、医薬品のタネとなるものを見つける活動を行っています。
MSiLが入居する『湘南ヘルスイノベーション(通称・湘南アイパーク)』という施設は、医薬品の研究開発やヘルスイノベーションを目的につくられた新しい場所です。オープンイノベーションを通して、マルホが強みを持つ皮膚領域に活かせるものを見つけたり、まだ誰も気づいていない疾患領域にチャレンジしたりすることをめざしています」
湘南アイパークは、かつて武田薬品工業が所有していた巨大な研究所を開放して生まれた、日本で初めての製薬企業発サイエンスパークです。オープンイノベーションの場となるべく、現在は100社以上の企業や行政、アカデミアが入居。各社がフロアを共有しているため、日常的にコミュニケーションが生まれやすい環境があり、凝縮版シリコンバレーのような環境だと大藪は言います。
「出会いや交流を促すイベントも随時企画されていますし、他社やアカデミアと一緒に実験を行えるほか、さまざまな研究をしている方と出会って気軽に意見交換することも可能です。『社外の組織と共に新しいことに挑戦したい』という気持ちを持っている方が集まった、とてもユニークな場所だと思います」
もともと薬理研究を担当する部署が拠点を置いているのは京都R&Dセンター。新たな拠点としてMSiLを立ち上げた背景には、こうしたオープンな空間で斬新な発想が生まれることへの期待がありました。
「『従来の手順だけで医薬品の研究開発をしていては、新しいものをつくることは難しいだろう』と常々考えていた上司が、湘南アイパークの存在を知り、そこに拠点を立ち上げたいと考えたのが発端です。国内外のベンチャーやアカデミアと一緒に研究ができると聞いたとき、社内に還元できることは少なくないはずだと私も思ったのを覚えています。
メンバー全員が研究室にこもっていては、組織としての視野が狭くなってしまう。社外ネットワークを構築して自分の知見を広げたり、スキルアップにつなげたりしたいとの想いから立候補し、立ち上げメンバーに参画しました」
自分ひとりの知識や考えには限界がある。だからこそ、意見交換を大切にしたい
大藪が薬学に携わる仕事を志したのは、小学6年生のとき。最愛の祖父が肺がんで他界したことがきっかけでした。
「闘病生活の苦しさや残された家族の悲しみを少しでも和らげるような仕事がしたいと考え、がん治療に貢献する医薬品をつくる研究者になりたいと思うようになりました」
医薬品研究の中でもメカニズムベースでの医薬品創出に憧れを抱いた大藪が選んだのが薬理の道。大学・大学院時代は生命科学部で病態生理学を学び、生物学の範疇でがんを治すためのメカニズム探索に没頭しました。
そんな大藪がマルホと出会ったのは、とある就活関連のイベントでのこと。大学OBの先輩社員を通じて同社の研究環境について知ったことが入社の決め手になりました。
「その先輩の専門はCMC(医薬品をつくるために必要な原薬研究や製剤研究などのプロセスのこと)でしたが、自身の将来の目標をいきいきと語られていたんです。それまでは企業の研究者に対して、『言われたことをやる人たち』という偏見を持っていたのですが、社員がキャリア目標を見据えてしっかり研究できる環境があること知って関心を持ちました」
また、マルホが皮膚科学に特化した製薬会社であることも魅力的に映ったと言います。
「皮膚の領域では、病態のメカニズムについて解明されていないことがたくさんあります。皮膚疾患に強みのあるマルホで専門的な知識を蓄積できる点にも惹かれました」
2016年の入社後、探索研究部に配属された大藪。探索評価グループの研究員として、京都R&Dセンターでアーリーフェイズの薬理研究を担当してきました。
現在は湘南アイパークでさまざまな研究者と交流を深めている大藪ですが、もともと外交的な性格の持ち主。人とコミュニケーションすることにはほとんど抵抗を感じないと言います。
「京都R&Dセンターも、京都リサーチパークという複数社が入居する場所に拠点を構えているので、共同研究の機会こそありませんでしたが、他社の方とよく食事に出かけていました。学生時代も、よその研究室を訪ねては教授と仲良くなったり、さまざまな人に実験の相談をしたり。飛行機でたまたま隣り合わせた人に話しかけたこともありました」
そうやって大藪がオープンマインドに振る舞う背景にあるのが、「人とのつながりの大切さ」への強い想い。さらにこう続けます。
「どれだけ勉強したとしても、ひとりの人間が蓄えられる知識は限定的です。別の研究をしている人しか持ち合わせていない視点もあるでしょう。だからこそ、意見交換やコミュニケーションを行うことを大切にしています。
入社後はがんのメカニズムに関わる研究に直接携わってきたわけではありませんが、最終的にはどんな知識も相互につながります。イボにがんの知識が応用できるように、これまでの自分の研究が皮膚領域に貢献できることも少なくありません。さまざまな分野の研究ができることはとても刺激的でした」
斬新なアイデアを歓迎する、寛容で柔軟な文化があるのがマルホの魅力
MSiLでも周囲と壁をつくることなく、ネットワークと知見を積極的に広げてきた大藪。ライセンス導入に至る協業が実現したこともありました。
「株式会社アークメディスンが保有する『ALDH2(アルデヒドデヒドロゲナーゼ2)活性化剤』に関するライセンスを導入しました。ALDH2はミトコンドリアに多く存在し、飲酒によって発生するアセトアルデヒドという毒性物質を解毒することでも知られている酵素です。
このALDH2はアセトアルデヒド以外の物質にも作用することから、ALDH2の活性化剤がさまざまな疾患の治療薬となるのではないかと思ったんです」
この活性化剤のポテンシャルを測るために選んだ病態モデル動物は激しい症状を引き起こすため、難易度の高い挑戦でした。しかし、「より良いものを追究したい」という想いを会社が後押ししてくれたおかげで、研究が実現しました。
「詳しい内容まではお伝えできないのですが、最適な病態モデルを選定できたことで、 良い結果が出たんです。早速社内にこの活性化剤のライセンス導入を提案しました。その後多くの部署が協力し合った結果、契約に至りました。
一般的に、ライセンス導入においては事業性が重視されがちです。でも当社には、それと同じくらい研究者としての知的好奇心や純粋なひらめきを大切にしてくれる風土があります。社内の研究や関心領域からはかけ離れた疾患についてもまずは耳を傾けてもらえる環境があるので、アイデアを提案しやすいと感じています」
また大藪は、毎週実施される論文抄読会やサークル活動にも積極的に取り組んできました。
「私は湘南アイパーク内の卓球部に入っていますが、神輿の会に入っているメンバーや、湘南の海に繰り出して友達を増やしているメンバーもいます。誰かが主催してくれた会合にもよく顔を出しています。そうやってネットワークを構築することも私たちのミッションのひとつです」
さまざまな人と交流し情報交換し続けてきたことで、大藪にはこんな変化も。
「以前は課題に直面するたびに、お決まりの方法を用いて解決していましたが、最近は社外の方との距離が近くすぐに相談できる環境があることから、課題解決へのアプローチ方法が広がりました。自分で考える力も養われてきているように思います」
社内と社外をつなぐハブとなって研究開発を加速する力に
MSiLでの3年間を通じて大藪がとくに痛感しているというのが、人とのつながりの大切さです。
「自分ひとりの力で生み出せるものには、限界があります。しかし、社外にある技術や知恵と、マルホの研究開発とを結びつけることができれば、いまは想像さえできないような有益な医薬品開発が可能になるはず。人とのつながりこそが、素晴らしい価値を世に出すための最後のピースだと信じています」
今後はますますつながりを強化していきたいと話す大藪。MSiLの将来像をこう展望します。
「社内と社外とをつなぐハブのような役割を果たしていけたらと思っています。ずっと社内にいては社外とのつながりがつくれませんし、だからといって、ずっと社外とやりとりばかりしていては社内のつながりが希薄になってしまいます。
そのちょうど中間地点で情報や人を中継するような場所として存在感を発揮していきたいです」
一方、ひとりの研究者として、まだ誰も気づいていない疾患領域の探求にも意欲を見せます。
「満足のいく治療法に出会えていない患者さんの助けになる薬を世に出したいと考えています。また、現在は国内市場をターゲットにした医薬品がほとんどですが、将来的には世界に通用するようなブロックバスターを発掘したいという気持ちもあります。いずれはそういった薬剤を継続的に生み出せる仕組みの構築にも取り組んでみたいですね」
「わがままを言えば、がんも含め、ゆくゆくは自分や大切な人が罹患しそうな疾患の治療薬開発ができたら」とはにかむ大藪。小学生のときに芽生えた創薬への想いは、それから約20年が経過したいまも当時のままです。これからもひとりでも多くの人を救うために、幼い日に描いた夢に向かって前進を続けていきます。
※ 記載内容は2023年10月時点のものです
