現場のニーズを把握し、車両完成までを担う。数年がかりで挑む車両開発の仕事
──まずは、所属されている「車両部 開発グループ」の組織としての役割について教えてください。
ひと言で言えば、ニーズを踏まえた車両仕様の決定から量産、そして初期メンテナンスまで、車両が生まれる「全プロセス」を一貫して担うのが私たちの役割です。1つの開発案件につき期間は最短でも3年、ゼロベースの新規設計であれば初期構想から5〜8年かかることも珍しくない、長期的なプロジェクトを扱っています。
──具体的に、車両開発はどのような流れで進んでいくのでしょうか。
新しい車両を設計するにあたっては、まずその車両に求められる「ニーズ」を明確にすることから始まります。たとえば、維持更新や性能向上、輸送効率化だけでなく、「大型のコンテナを貨車に積載できないか」といった物流トレンドに合わせた要望もあります。これらを営業や輸送部門とすり合わせてコンセプトを固め、最初に車両の仕様を決定します。
仕様が決まった後は、メーカーと設計会議を重ね、その仕様を実現するための具体的な性能を詰める詳細設計に入っていきます。
その後、実際に試作車を作りさまざまな性能評価試験を実施します。実際の線路でコンテナ車を26両連結してけん引する試験や、軌道設備・電気設備・信号設備との適合性の確認などを行い、そのままでいいのか、量産に向けて改良が必要なのかといったフィードバックを行って、実際に車両が完成していきます。
──その中で、中村さんは具体的にどのような業務を担当されているのですか。
私は現在、新形式車両の設計・開発や、性能向上に向けた車両の改造設計、そして車両完成後の性能評価試験に従事しています。
開発グループとしては、1つの開発案件につきおおよそ2~3名のコアメンバーで対応しています。ただ、走行試験となると1回の試験現場には試験担当者が5~10人、その他に、現場や旅客会社などの多くの関係者の協力のもと実施します。少人数のチームで動きつつも、多くの関係者を巻き込みながらプロジェクトを推進していくスタイルです。
こうしたプロジェクトと並行して、日々の安全運行を守るルーティンも欠かせません。たとえば毎朝の出社後、最初に行うのは「車両故障の発生状況とその内容の確認」です。もし設計に起因する故障であれば、品質管理担当と連携して即座に対策を打たなければなりません。「作って終わり」ではなく、毎日の安全運行を守り続けることも、私たちの重要な役割です。
──「車両の設計」というとメーカーのイメージもありますが、鉄道事業者であるJR貨物の設計者は、メーカーの設計職と何が違うのでしょうか。
メーカーの設計は、たとえば「モーターの設計」「ブレーキの設計」といったように、特定の装置や部品単位で非常に高い専門性を持ち、1分野を深く掘り下げていく職人技のようなイメージです。
対して、私たちJR貨物の設計は、各部品1つに対しての設計はもちろんのこと、「車両全体」として組み上がった時の性能や品質に対する設計も行う必要があり、設計している車両に対して責任を持つプロジェクトマネージャーの役割もあります。
また、JR貨物が運用する機関車や貨車は、旅客車両とは用途や仕様が大きく異なるため、設計時に重要視する項目も変わってきます。そうした背景から、JR貨物がプロジェクトの発起人であるとともに設計の中核を担い、メーカーの各専門性を理解した上で最大限活かしながら車両へ具現化し、ニーズを実現しています。
メーカーが持つ専門技術を、どうJR貨物の車両に最適化させるか。その全体を俯瞰してコントロールする役割も私たちには求められており、そこが仕事の醍醐味だと感じています。
車両メンテナンス現場と出向経験を経て。車両開発設計者としてのスタート
──そもそも、なぜJR貨物に入社されたのでしょうか。
就職活動の軸は「人々の生活に身近なインフラの仕事」でした。その中で鉄道業界を志望したのですが、JR貨物に決めたのは、鉄道事業を日本全国規模で行っている唯一無二の会社だったからです。
──2018年に新卒入社後はどのようなキャリアを歩んでこられたのですか。
最初は、大宮車両所という車両メンテナンスの現場に配属されました。そこで約2年間、機関車の「全般検査」というオーバーホール検査に従事しました。自動車でいう車検のようなものですが、車両を部品一つ単位までバラバラに解体し、部品ごとにメンテナンスして再び組み上げる大掛かりなものです。
私が担当したのは、その最終工程である「出場検査」でした。バラバラだった部品が組み合わさり、再び一つの車両となった際の動作確認や品質管理を担当しました。
──その後、2020年から公益財団法人鉄道総合技術研究所(以下、鉄道総研)へ出向されていますね。これはご自身の希望だったのですか。
はい、希望しました。現場で現物に触れることはとても重要ですが、将来的に車両設計の仕事に就くためには、より深い理論や最新技術を学ぶ必要があると感じていました。当時の現場の上司も鉄道総研への出向経験者で、「技術を学ぶには良い場所だ」と背中を押してくれました。
鉄道総研では3年間、鉄道車両の強度に関する研究や事故調査を主に担当しました。鉄道車両の技術を学ぶ上で出向はとても貴重な経験でした。また、最大の財産は「横のつながり」です。他のJR各社からの出向者や専門分野の研究員と知り合えたことで、今でも業務で困った時に「この分野ならあの人に聞こう」と気軽に相談できるネットワークが築けました。
──そして2023年から現在の開発グループにいるわけですね。
「自分の設計した車両がフィールドで動く姿を見たい」という夢があり、入社時から希望していた部署だったので、出向を終えて異動が決まった時は本当に嬉しかったです。
走る車両を見た時の感動。地道な試行錯誤の日々が報われる瞬間
──現在、仕事を進める上で、とくに大切にしている価値観はありますか。
社内との連携では、「チームプレイ」と「コミュニケーション」を大切にしています。学生時代に取り組んでいた野球での経験から大事だとは思っていましたが、現場時代に、多くの担当者がバトンをつないで一つの車両をメンテナンスしていくプロセスを経験したことで、仕事を進める上でも大切だなとより強く実感しています。
今の開発業務でも、些細なことであろうとメールで済ませず対面で相談に行きます。そうして対話を重ねることで、自分の知識が足りない部分を誰かが補ってくれたり、フォローしてくれたりと、自分自身が助けられることも多いです。
社外のメーカーと接する際は、こちらの意図や設計思想が上手に伝わるように、細かく説明・確認して進めることを大切にしています。
──開発業務の中で、苦労する部分はどんなところでしょうか。
設計段階では「重量」や「寸法」といった物理的な制約との戦いがありますが、最も大変なのは、やはり「トラブル発生時のリカバリー」です。設計や性能評価試験において予見できるトラブルにはあらかじめ対策を用意してプロジェクトを進めていきますが、予見していないトラブルが発生した際に、限られた時間と方法でどうリカバリーしていくかが最も大変です。スピード感と思考力がより求められます。
──反対に、開発業務で感じる「やりがい」は何ですか。
まず、走行試験では全国各地で実際に車両を使う場所に赴いて、現地・現物を確認できることです。その土地ならではの地形や気候条件が、車両の設計にどう反映されているかを現地で学べるのはおもしろいですね。たとえば、山岳地帯には山を登るための仕様があり、降雪地帯には雪害対策が施されているといった仕様のリアルを肌で感じられます。
そして何よりのやりがいは、自分が開発した車両が実際にフィールドで貨物を引いて走っている姿を見た時です。「これ、自分がやったんだ」「無事に動いてよかった」という、感動と達成感が込み上げてきます。
めざすのは「プロジェクトの要となる存在」。幅広い知識で信頼される人材へ
──今後、中村さんがめざす姿を教えてください。
会社としては、全国を舞台とした貨物鉄道事業者は私たちだけですから、その技術力を向上させ続けることは永遠の課題だと思っています。
個人としては、私の上司や先輩方のように、幅広い知識を持ちながらプロジェクトを推進できる存在になりたいですね。「中村に任せておけば大丈夫だ」と周囲から信頼される、プロジェクトの要となる人材をめざしています。
──組織の風土やチームの特徴について教えてください。
組織の風土としては、風通しが良いです。仕事で直接関わらないメンバーとも、クラブ活動などで交流しています。私は学生時代、野球に取り組んでいたので野球部に所属しています。野球部での出会いが最初で、その後仕事を一緒にすることになった方もいます。
今のチームの特徴は、担当者が「この技術はいいな」と自分で考え、上司に相談して採用するかどうかを決めていくスタイルで、現場の熱意と判断も尊重されます。そのボトムアップな風土を支えているのが、チームメンバーの「多様性」です。元運転士もいれば、メンテナンス現場一筋のベテラン、メーカーへの出向経験者や私のように鉄道総研に出向した者など、バックグラウンドが見事にバラバラなんです。
だからこそ、多角的な意見が飛び交います。20代から40代まで混在していますが、年齢に関係なく知恵を出し合える、チームワークもある環境です。
──そんな中村さんから見て、どんな方がJR貨物に合うと感じられていますか。
何事にも前向きな気持ちで取り組める方ですね。仕事には当然、つらい壁や高いハードルがあります。それを「これを乗り越えれば自分の力になる」と前向きに捉え、困難さえも楽しみながら成長できる人と一緒に働きたいですね。
──最後に、これから入社をめざす学生へのメッセージをお願いします。
ぜひ、学生時代は「広い視野」を持ってください。鉄道業界をめざすとなると、どうしても鉄道の情報ばかりに目が行きがちです。
だからこそ、鉄道業界の外にも目を向け、広い世界を知ってほしいのです。「自動車業界のこの技術、鉄道にも使えないか?」といった、外の世界を知る皆さんならではの自由な発想に、私たちは期待しています。
※ 記載内容は2026年1月時点のものです
