研修生に近い目線でサポートしながら、免許取得に向けた学科講習課程を担当
──現在所属している中央研修センター 運転士養成グループについて教えてください。
貨物列車の運転士になるためには、国家資格である動力車操縦者運転免許が必要です。運転士養成グループは、その免許取得のための養成所として講習を担っている部署です。
車の運転免許と同様に学科と技能それぞれの課程があり、私たちは学科講習を担当しています。講師は自身の経験を交えて講習することも多いため、全国各地でキャリアを積んできたメンバーが集まっている点が特徴です。
学科講習課程は4カ月のカリキュラムが組まれていて、鉄道に関する法規や運転理論、車両構造などを学び、学科修了試験に合格することで、技能講習課程へと進みます。技能講習修了後、技能試験に合格すると免許が交付され、習熟訓練を経てやっと単独乗務がスタートします。
──稲村さんは、どのような業務を担当していますか?
講師として、鉄道車両におけるブレーキ装置や台車についての科目、労働災害を発生させないための作業安全や健康管理、救急法に関する科目を担当しています。また、学校と同じように担任業務も持ち回りで担当するので、学科講習課程中の研修生のサポートも行います。
講習は基本的に対面で行いますが、私は現在、育児のために時短勤務をしていたり、在宅勤務をする日があったりするので、在宅でも取り組みやすい建物管理や精算業務といった別部署の仕事も担当しています。
──運転士養成を担当するにあたり、大切にしていることはありますか?
同じ社員同士ではあるものの、「先生と生徒」という力関係が出やすい環境ですから、適切な距離感を保ちつつも、できるだけ近い目線でコミュニケーションをとることを大切にしています。
研修生は20代前半の社員が多いのですが、運転士養成グループの講師はベテランのメンバーが多いため、私が一番彼ら彼女らに近い立場です。指導するべきところは指導しますが、先輩・後輩の空気感も残しながら、相談しやすい関係を作るように心がけています。
自分が前例となり、女性も働きやすい環境を作る。その想いから運転士に挑戦
──学生時代は教育学科で学び、幼稚園教諭の免許を取得したそうですが、JR貨物に入社を決めたのは、どのような理由だったのでしょうか。
教育について学んだことで、教育は誰もが平等に受けられるサービスであるべきだと感じる一方、環境などによって選択肢が大きく変わってしまうサービスであることも知りました。また、もっと広い世界を見てみたいと思ったのです。
そこで、普遍的なサービスを提供する会社に進みたいと考えて物流業界を中心に就職活動していたところ、ご縁があってこの会社に入りました。じつは、もともとは鉄道にはあまり興味がなかったんです。
──そんな中、運転士に挑戦することになった経緯を教えてください。
入社後は営業フロントとして荷物調整やコンテナ検査を担当していました。当時は女性の運転士がいなかった時期なので、自分の中で運転士になるという選択肢はなかったのです。
きっかけは、会社として女性の運転士育成に力をいれることになり、「やってみないか」と声をかけてもらったことです。
以前に女性の運転士はいたものの、男性と同じ条件で勤務し続けることが難しかったということは知っていました。しかし、当時の私は結婚する前で、背負うものはありません。「挑戦、そして変革」という会社の姿勢に共感していたこともあり、チャレンジすることを決めました。「運転士になること」ではなく、「運転士を続けて、後輩が働きやすい環境を整えること」が私のするべきことだと感じたのです。
会社も私たちもお互いに手探りの部分はありましたが、「同じ目標に向かって頑張りましょう」という雰囲気でした。
──実際に運転士として働く中で、どのようなことを心がけていましたか?
たとえば、生理休暇など女性ならではの制度について理解してもらう必要がありました。安全第一で運行するためにも、心身状態が万全でない時に運転することは避けた方がいいと考え、なぜ休暇が必要なのかなどを説明し、連絡体制などを整えていきました。
──運転士としてのおもしろさややりがいは、どんなところに感じていましたか?
エコな運転、安全な運転、荷物に優しい運転ができるかどうかを自分の中でのミッションとしていました。毎日同じ行路を運転していると、どうしても飽きが出てくる部分があります。そこで、「今日はこれに挑戦しよう」と自分なりの目標を立てていたのです。それを達成することを自分の楽しみにしながら運転していました。
周りを頼り、できることを100%やる。温かいサポートを受けながら育休から復帰
──2022年秋に現在の部署に異動して産休・育休を経験しましたが、周囲はどのような反応でしたか?
この部署で産休・育休を取得するのは私が初めてだったのですが、上司はもともと想定していたようで、妊娠を報告した時には「よかったね。休みに入るまでにできることをやっていこう」と、計画的に進むように仕事の提案をしてくれたのです。そのおかげで、ゆとりを持って準備することができました。
──復帰する際に不安だったことや、職場のフォローで印象に残っていることはありますか?
上司からは「もう少し長く休んでいい」と言ってもらったのですが、保育園の入園タイミングの関係もあり、6カ月で復帰しました。皆も「できることをやっていけばいい」という雰囲気で、それほど不安に感じることもなく、戻りやすかったです。
心配だったのは、時短勤務で復帰する中で、通勤時間が比較的長いことでした。学科講習は対面で行うので、毎日出社する必要があります。そこで、講師の仕事を減らす代わりに、在宅でもできる精算業務や建物管理など別グループの業務を兼任できるように上司が掛け合ってくれたのです。そういった配慮がとてもうれしかったですね。
部署の先輩たちは子育てが一段落した方が多く、急きょ休みを取らなければいけないことがあっても、「そういう時期があったよね」と温かく見守ってくれています。
──育児と仕事を両立するために、工夫していることを教えてください。
在宅勤務をしていると得られる情報が少なくなってしまいがちなので、なるべく細やかにコミュニケーションをとるようにしています。
また、できないことは早めに「できない」と伝えるようにしています。以前は、やりたいことがあれば全部手を挙げていましたが、時間が限られている中でできることには限界があります。申し訳ない気持ちはありますが、「できる範囲でやれることをやる」「やると言ったことは100%やる」と自分の中で決めて、周りを頼ることも大切にしています。
挑戦したい人の可能性を広げるために──自分の経験を会社に還元していきたい
──育休から復帰後、働き方や価値観にどのような変化がありましたか?
育休前はワークライフバランスを重視していましたが、今は時短勤務で残業することが難しいため、「ライフ」の比重が大きくなりました。
以前だったら「まだ時間がある」と締め切りを先延ばしにすることもありました。でも、今はできることからどんどん進めないと仕事が回りません。毎日頭の中に、運動会でよく聴く「天国と地獄」の音楽が流れているような状態です(笑)。
けれど、仕事が始まる前に今日のタスクを頭に思い浮かべて、時間の制約がある中でそのタスクを効率よく終わらせていくおもしろさを感じています。
──現在の運転士養成の仕事は、どんなところにやりがいを感じていますか?
教育はもともと挑戦したかった仕事です。知識がほとんどないところからプロフェッショナルに成長していく過程を見られることはもちろん、教え子が数年経って会いに来てくれた時などは、本当にうれしいです。
また、私にしかできないことがあると感じています。研修生と年齢が近いことはもちろん、女性の研修生のフォローは、やはり女性が担当した方がいいと思うのです。
研修生も女性が少ないため、どうしてもクラスメイトとの距離感がつかみにくかったり、相談しにくいことがあったりします。そこをサポートしつつ、女性の運転士をもっと増やしていくことが私に課せられたミッションだと思っています。
──今後の目標を教えてください。
私自身、新入社員の時に仕事を教えてくれた先輩や運転士養成課程で教わった先生など、お世話になった方がたくさんいるので、今度は自分がそういった存在になりたい、ゆくゆくは、運転士にかかわらず、いろいろな人が活躍できる環境を、教育を通して作っていきたいと考えています。運転士の免許を持っていて、かつ女性であるという自分の状況を、会社のために還元していきたいのです。
そして、女性の運転士を増やしていくためには、私自身が一つのモデルケースとしてキャリアを示していくことも大切だと考えています。今回のインタビュー記事のように、私の事例をきっかけに、挑戦したいと思っている人の可能性が広がるかもしれません。そういった広報的な面も含めて、私がここで働いている意味があるのかなと思っています。
※ 記載内容は2025年11月時点のものです
