品質と環境のマネジメントシステムの複合審査を担当。チームのナレッジ共有もリード
ISO中部支部の審査部に所属する今井。現在は、品質と環境のマネジメントシステムの単独審査と、それらを同時に審査する「統合審査」業務に従事しています。現在の業務内容について今井はこう説明します。
「単独と複合の審査を半分ずつくらいのボリュームで担当しています。また現在、ISO14001 環境マネジメントシステムの主任審査員資格の取得をめざしており、机上のガイダンスを終えて、2024年1〜4月には指導審査員から指導を受ける実地訓練が計画されています」
審査業務は、一般財団法人日本品質保証機構(以下、JQA)認定審査員らと数人規模のチームで行うことや、ときには1人で審査に赴くこともあります。業務のほとんどが出張を伴うもので、全国の事務所や製造所に出向いて行われます。審査にかかる日数は、1日で完了するときもあれば2週間以上を要することも。
「最近は出張に慣れてきて、4泊5日分の荷物が、2泊3日用のスーツケースに入るくらいコンパクトにまとめられるようになってきました。もちろん毎日着替えられるだけの服がすべて入っていますよ(笑)」
具体的な審査の内容については、次のように語ります。
「マネジメントシステムの要求事項から、部署の業務内容に合わせて要求事項の適合性・有効性を確認します。担当者へのインタビュー、書面や電子媒体への記録の確認、製造・作業現場の現場審査等を組み合わせて実施します。
審査では、要求事項への適合性と、マネジメントシステムの有効性を確認します。要求事項へ適合していない客観的事実が発見されると『改善指摘事項』として是正してもらいます。
また、適合しているがより効果的な運用への期待やシステムの信頼性・有効性の視点から『改善の機会』を提示します。最後に、審査のまとめとして『審査報告書』を作成し、企業に提出します」
お客様がマネジメントシステムを通じて得る成果を、JQAでは“組織のチカラ”と捉えています。この“組織のチカラ”を高めることがJQAの使命。それを審査では重視しています。
「『改善の機会』を提示する際、決められたルールと発見された課題から、どのような改善に導くことができるかを重点的に考えます。記録がなかったから記録してください。ルール通りでなかったので、ルール通り実施してください、の提示では、価値ある審査ではないと考えます。なぜ、記録がなかったのか、なぜ、ルール通りできなかったのかを考えてもらったり、考える時間を共有したりします」
価値ある審査になるために、今井は心がけていることがあります。
「逸脱した事象への深堀や視野を広げた確認など、多方面からアプローチすることを心がけています。私1人では限界がありますので、審査員同志の意見交換はもちろん、毎月開催される勉強会で、提示した改善の機会から、他の視点や深堀の方法などを先輩審査員からたくさんのことを教えてもらっています」
一方、今井は、新人育成期間の経験を通じ、新人育成プログラムのナレッジ共有にも努めてきました。
「まだまだ発展途上の身ですが、育成期間中に悩んだ『価値ある改善の機会となるためのアプローチ』について先輩審査員が提示した改善の機会から、どのような視点で改善の機会を提示しているのかなどを分析し、新人教育に活用。現在もその活動はバージョンアップが続けられ、新人育成に活かされています」
そうやって切磋琢磨しながら審査員がおたがいに知識や技術を高め合う審査部ですが、部内には和気あいあいとした雰囲気があると言います。
「事務所では出張先周辺のおいしいお店やお土産を教え合うなど、仕事以外のコミュニケーションも活発です。審査業務を担当している方々なので、皆さんとても紳士的で話すのも聞くのも上手な方ばかり。最近は審査が多く入るようになり事務所への出勤が月に数回となりましたが、事務所に出勤するときはとてもうれしい気持ちになります」
審査を受ける側から審査する側へ。理念に惚れこみ、あこがれのJQAへ
前職ではアルミニウムの押出形材や、アルミニウムの表面処理(アルマイト)の工場のコスト改善や品質改善を担い、課長としてのマネジメントも経験した今井。マネジメントの経験をさらに広げたいと考え、40代後半で転職を決意しました。
「審査員への転職を志したのは、マネジメントの経験を活かせる上、定年後も長く活躍できることに魅力を感じたからです。審査機関数十社に応募しましたが、中でもJQAは自分にとってはあこがれの存在。記念受験のような気持ちで応募しました。選考が進むにつれてJQAの基本理念やサービス方針に惚れ込むようになり、入構への意欲がだんだんと高まっていきました。
だから、採用が決まったときはとてもうれしかったですね。工場のマネジメント業務の特徴から長時間労働となった時期もあり、身体を心配してくれていた妻の安心した表情や息子の『今までおつかれさまでした』、娘の『良かったね』という言葉が印象に残っています」
前職では、ISO9001やISO14001の認証取得に携わるなど、「審査される側」だった今井。審査員は未経験でしたが、審査の雰囲気は経験しており、やる気が先行し審査員業務への戸惑いはなかったと振り返ります。
「審査業務を行う上で、工場で勤務した経験や、品質および環境に関する知識が大いに役立っています。審査ではコンサルタント業務は禁止されているので、具体的に伝えることはできませんが、自分の経験からプラス要素の『改善の機会』に発展することがありますね」
ただ、約200以上に及ぶ要求事項など、審査員として備えるべき知識は膨大です。入構後は、学習にも励んできました。
「入構1年目は、『こんなに勉強したのは久しぶりだ』と思えるほど、とにかくたくさん知識を吸収しました。しかし、インプットは自分1人でできますが、アウトプットできなければ意味がありません。中部支部で行われているロールプレイング訓練や勉強会に積極的に参加し、スキルアップをめざしました。
ロールプレイング訓練や勉強会では、改善すべき点が具体的に指摘されます。その都度反省しながら、着実に技術を磨き上げることができました」
そんな今井にとって、とくに苦手意識があったのが審査前の雑談(アイスブレイク)です。審査前の空気づくりは、円滑に審査を進める上で大切なプロセス。先輩からのアドバイスを受けつつ、自分に合った方法で審査前の空気を和らげる術を見出していきました。
「審査の冒頭で、企業の担当者に会社や部署の紹介や、自慢できる活動や成果について話していただくようにしました。そうすることで相手の緊張を和らげることができるだけでなく、担当者の特徴や雰囲気を理解することができるようになったと感じています」
帰りの電車の中、審査を振り返ると、いつも企業の成長に気づき、新たな発見がある
審査というと、決められた項目を粛々と確認する無機質な作業を想像するかもしれません。しかし、審査の現場で重要なのは、人対人のコミュニケーションです。今井には、いまも忘れられないこんな出来事がありました。
「入構から約1年後、あるメーカーの工場を審査した際に、担当の方が、『また来てください』と言ってくださったことや、審査後のアンケートのコメント欄に私の名前を記入し、『紳士的な対応をしてくれました』と好評価をいただいたことが記憶に残っています。審査員デビューした企業に再び審査に行ったとき、皆さんが私のことを覚えていてくださったことも印象的でした」
ひとつとして同じ企業はありません。審査ごとに学びが得られることがこの仕事の醍醐味だと今井は言います。
「前回と同じ企業に審査に行くことがあります。昨年の課題(改善の機会など)を改善されていたり、工夫が加えられたりすると、参考にしていただけたことを嬉しく思います。改善によって企業が成長している一方、審査員としての私自身も成長していかなければならないと感じます。帰りの電車の中で、企業から学んだこと、学習しておきたいことなどを思い返しています。
次回の審査に向けて行動し、アウトプットができると、ひとつの審査が違った思い出になることがおもしろいですね」
また、数多くの審査に携わる中で気づいたことがあると話す今井。次のように続けます。
「審査で訪問するたびに、企業がどんどん成長しているのを感じます。中には、マネジメントレベルの高い企業も。そうした先進的な取り組みを知ると、新しい考えを取り入れたり、発見や学びを糧にしながら自分自身も成長していくことが重要だと考えるようになりました」
ISOのために作業するのは審査員だけで十分。企業の成長に寄り添っていきたい
審査先となる企業の業種や会社規模はもちろんのこと、ISOの導入状況や取り組み状況、考え方に至るまで実にさまざまです。
「ISOのマネジメントシステムが企業の業務に沿って運用されることが、あるべき姿と私は考えていますが、ISOをひとつの業務として実施することで、本来無駄を省くべきマネジメントシステムが二重の負担となってしまっているケースも少なくありません。
ISOのために作業するのは、私たち審査員だけで十分。JQAが日本の産業の成長に寄り添いながら、審査を通じて、企業にとって価値のあるマネジメントシステムを実現するお手伝いができたらと思っています」
あこがれのJQAで仕事のやりがいを感じるようになった今井。将来をこう展望します。
「伝統的な認証機関であるJQAの看板を背負って審査員の仕事ができるのはとても光栄なこと。日々学びがあり成長し続けられる現在の仕事に、大きなやりがいと幸せを感じています。審査を通じて日本の製造業のマネジメントシステムの向上に少しでも寄与することが私の願い。多くの企業や担当の方に、『新たな気づきを感じてもらえる審査』ができるような審査員をめざしていきたいです」
一方、前職時代と比べてワークライフバランスが整い、プライベートの時間が充実していると話す今井。
「趣味のスキーや釣りを楽しむ機会が増えました。最近はウクレレを始めるなど、生活の幸福度が上がっています」
JQAのマネジメントシステム審査員は、50歳前後のキャリア採用者が多く、中には70歳や80歳になっても審査員を続けられる方がいます。やりがいを持って長く働き続けられるこの職場で共に働く新たな仲間に向けて、今井は次のように呼びかけます。
「貢献意欲が高い人や向上心が高い人は、審査員はとても向いている職業だと思います。2000年ごろにブームとなったISO認証で、当時から審査員として活躍してきた先輩方から世代交代するタイミングがいま訪れているのではと考えています。ぜひ一緒にバトンを受け取って、これからの時代の認証業務に向けて、新たなJQAの時代を築いていきましょう」
審査員という厳格なイメージとは異なり、人間味あふれる言葉がつぎつぎと出てくる今井。一つひとつの審査に誠実に向き合い、企業の成長を見守ってきました。「また、来てくださいね」という言葉がもらえるように、信頼される審査員をめざして、仲間と切磋琢磨しながら成長を続けます。
※ 記載内容は2023年12月時点のものです
