EMC試験で守る、機器の安全性と信頼のクオリティ
岩田が所属する北関西試験センターのEMC試験課では、製品から発生する電波が周囲に影響を及ぼさないか、また外部からの電波によって製品が誤動作しないかを検証しています。これらは「EMC(電磁環境)試験」と呼ばれ、製品を国内へ出荷するために必要な、安全の要となるプロセスです。
日本におけるEMC試験は、1960年、日本から輸出されたFMラジオ受信機が、アメリカにおいて不要輻射取締規則に抵触して問題を起こしたことに始まりました。現在の日本では、電気用品安全法、いわゆるPSEマークや医療機器などで法律による規制がありますが、今後はさまざまな産業製品についても規格化が進み、この試験の必要性がさらに高まっていくと考えられています。
「私たちの仕事は、お客さまが持ち込まれた装置が他の装置を誤動作させる原因にならないか、また、逆に誤動作しないか評価することです。
具体的には外部の電波を遮断した『電波暗室』や『シールドルーム』で定められた規格に適合しているか厳密な評価を行います。実際の測定では、イコニカルアンテナでキャッチした電波をEMIテストレシーバーで可視化して測定を進めます。
試験期間は数日で終了するものから、大型の装置であれば1週間以上に及ぶことも。公正・中立な第三者機関として、製品が適切に市場に出せるよう尽力することが、私たちのミッションです」
主査としてチームの技術的リードを担う岩田ですが、JQAでは一人が案件を抱え込むのではなく、組織として連携して試験を進める体制を重視しています。
「複数の担当者が関与することで、個人の主観に偏らず、客観的かつ正確な測定を実現できるというメリットがあります。そのため情報の共有はきわめて重要であり、次の担当者が円滑に業務を継続できるよう、記録と申し送りの徹底は欠かせません」
また、岩田は「出張試験(オンサイトテスト)」の推進役も務めています。電波暗室への搬入が困難な巨大設備などを対象に、専用の測定器を携えてお客さまの現場へ赴きます。
「現場ごとに異なるノイズ環境下で、規格に準じた測定を再現するには高度な技術が求められますが、誠実に、かつ組織として最適なパフォーマンスを発揮できるよう、日々努めています」
経営企画を経験して気づいた、やはりEMC試験の現場で働きたいという想い
岩田のキャリアは、2006年の電子部品メーカーへの入社から始まります。そこから長きにわたりEMC試験の最前線に立ち、技術者としての基盤を築きました。しかし、キャリアの途中で大きな転機が訪れます。経営企画への異動です。
「経営企画では、各事業部の分析や予算管理、株主総会対応など、組織全体を俯瞰する業務に従事しました。非常に有益な経験でしたが、しだいに『一人の技術者として、専門性を追求し続けたい』という想いが強くなりました。ジェネラリストとして歩む道もありましたが、やはり私は目に見えない現象を論理的に解明する試験の現場に目が向いたのです」
再びEMC試験の道へ戻ることを決意した岩田。転職先として選んだのはJQAでした。
「国内有数の認証機関であるJQAであれば、より深い技術に触れられると考えました。そして2024年にJQAに入構し、数年のブランクを経て再び試験機に触れた際、『ここが自身の能力を最大限に発揮できる場所だ』と再認識しましたね」
入構後は、実務経験を理論で裏付けるため、EMCエンジニアの国際資格である「iNARTE」の取得に注力しました。
「この資格試験は非常に難解ですが、JQAには専門性を高めることを推奨する文化があります。学習を通じて習得した理論は、現在の測定業務において、単に数値を記録するだけでなく、その根拠を論理的に説明するための基盤となっています」
前職では一人の担当者が全工程を完結させるスタイルで試験を行っていましたが、JQAでは分業制で試験を行います。これは岩田にとって新たな挑戦でした。
「当初は複数人での共同作業に戸惑うこともありましたが、次の担当者がどのような情報があればスムーズに仕事を進めることができるか、自身の経験から逆算することで適応していきました。
分業制の大きなメリットは、自分一人のやり方に固執せず、他者の手法や知見を吸収できる点にあります。規格の解釈や技術的な知見など、客観的な視点を得ることで『もっと工夫できる』という新しい気づきが生まれます。多様なプロが刺激し合うこの環境は、技術者として成長し続けるために最適だと感じています」
大規模設備のノイズを測定する、1年がかりで向き合った難易度の高い取り組みと達成感
岩田が歩んできた20年の中で、印象深い出来事が二つあります。一つは、入社3カ月目で挑んだ初めての出張試験。機材が不十分な環境下で、所長と協力しながら必要なものをリストアップし、一から準備を整えて完遂した経験は、現場対応力の礎になったと言います。
そして、もう一つが最も難易度の高かった鉄道を対象としたEMC試験です。
「走行中に出るノイズを一瞬で捉える、きわめて難易度の高い試験でした。正確な測定を実現するために、数カ月をかけて打ち合わせと仮説構築を繰り返しました。機材の配置や電源確保、天候への対策など、大規模な対象を測定するには、緻密な事前準備が成否を分けます」
不適合な箇所が判明した場合、その原因特定には多大な時間を要します。岩田はお客さまの設計情報に基づき、蓄積された経験を総動員して、ノイズの発生源を論理的に切り分けていきました。
「認証機関の立場として、直接的な改善案を提示する事はありません。しかし、公正・中立な範囲内で、測定結果に基づいた説明をする事は可能です。事実に基づいた情報の提供を通じてお客さまと対話を重ね、最終的に1年越しで合格という結果となった時は、喜びを分かち合いましたね」
この経験を通じて、岩田は「不確かさを排除し、再現性を追求する」という仕事の本質を再認識しました。目に見えない現象を扱うからこそ、理論に基づいて仮説を立て、検証を重ねる。その地道な取り組みの積み重ねが、「安全」という価値へと直結します。
「JQAには、こうした難易度の高い案件も寄せられます。それは、これまでのJQAが構築してきた信頼の証。いかなる困難な案件に対しても着実な成果を出していく姿勢を、今後も維持していきたいと考えています」
長年の経験があっても、尽きることのない探究心を持って取り組めるのがEMC試験
技術の進化に伴い、EMC試験の領域も常に変化し続け、規格が新しくなるたびに測定手法も刷新されていきます。
「新しい規格が登場すれば、既存の知識のみでは対応できない事象が必ず発生します。昨日までの常識が通用しない場面で、常に最新の動向を調査し、仮説と検証を繰り返していく。この試行錯誤のプロセスにこそ、技術者としての醍醐味があります。
長年の経験があっても、尽きることのない探究心を持って取り組めるのがEMC試験。製品ごとに異なる課題に対峙し、目に見えない現象をロジックで解き明かしていくことは、有意義な仕事です」
現在、岩田が個人的な目標として掲げているのは、出張試験における知見の共有と体制のさらなる充実です。持ち込みが困難な大型設備などの試験ニーズに対し、自身の経験を活かした確かなサービスを提供したいという願いがあります。
「出張試験は、現場での臨機応変かつ高度な判断能力が求められます。個々の技術者の経験値に頼るだけでなく、組織として常に高い水準を維持できるよう、教育のあり方や機材のシステム化を自分なりに模索していきたい。
誰が担当してもJQAとして一貫した、公正・中立な見解を出せる状態を作ることが、お客さまからの信頼を守ることにつながるからです」
岩田が共に働きたいと願うのは、自ら問い続ける好奇心を持った人物です。
「基礎知識も重要ですが、それ以上に不明点を放置せずに調査し、周囲に確認する姿勢を重視しています。私自身、試行錯誤しながら経験値を積み上げてきた自負があるからこそ、学ぶ意欲がある方なら、着実に成長できる環境だと自信を持って言えます」
「目に見えない電波を捉え、安全を確信に変える」。岩田が描く理想の先には、技術者たちが切磋琢磨し、人々の暮らしを陰から支え続ける安全な未来につながっています。
※ 記載内容は2026年3月時点のものです

