SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)を強化するため、Hondaは全国に開発拠点を置き、各地でエンジニアを採用しています。そのなかから今回は、東京におけるSDV開発の中核拠点「Honda Software Studio Tokyo」を紹介。
拠点長の森田、オフィス立ち上げプロジェクトに初期から携わった安齊と望月、そしてスタジオのデザインをリードした阿野が、お気に入りスポットを紹介しながら「Honda Software Studio Tokyo」に込めた想いを語ります。
複数拠点からメンバーが集結。HondaのSDV開発を象徴する拠点をめざす
▲執務スペースは、緩やかに仕切られながら全体がつながっている。このテーブルは栃木の拠点で伐採された桜の木で作ったもの
Hondaが本社を構える東京都港区虎ノ門(2026年8月時点)。その同じビル内に、2026年1月に開設されたのが、「Honda Software Studio Tokyo(以下、スタジオ)」です。
このスタジオには、六本木、赤坂、天王洲など都内に点在していたSDV開発拠点からメンバーが集結。ソフトウェア開発の中核拠点となるべく、スタートを切りました。
安齊:Hondaの自動車開発におけるメイン拠点は栃木です。しかし、ソフトウェアをクルマ開発の中心に据えていくために、栃木と対をなす開発拠点を作りたかったのです。ただ、ソフトウェアエンジニアにとってHondaは、「エンジン」「レース」「クルマ」といったイメージがまだ強いはず。Hondaに興味があったとしても、そのイメージが入社へのハードルになってしまってはもったいない。
そこで、立地や名称も含めて親近感を持ちやすい拠点にしようと、Honda Software Studio Tokyo立ち上げプロジェクトが始まりました。
望月:私も安齊さんも森田さんも、ソフトウェア領域で仕事をしてきました。その経験を持ち寄りながら、各拠点の機能をどうやってスムーズに移行するか、足りない部分はどう補うのか。ITや設備などを担当するメンバーと共に検討を繰り返してスタジオを作り上げました。
森田:栃木での開発は、実車を用いたテストなどを行っています。一方で、このスタジオではパソコンに向かいながらの開発が大半です。パワフルなコンピューターや強力な通信環境など、ストレスなく開発できる環境づくりにも注力しました。
ソフトウェア主導のクルマづくりへ──新たなHondaを象徴する場所をめざしますが、オフィスをデザインする上で意識したのは、「これまでHondaが大切にしてきた文化を感じられること」だと話します。
安齊:Hondaのアイコンである白い作業着。その白をオフィスのメインカラーにしたことにも意味があります。普段このスタジオに勤務するメンバーは作業着を着ていませんが、白いオフィスで仕事をすることで、「Hondaの一員であること」を常に意識できるようにしたかったのです。
阿野:アール(曲線)を多用したデザインも特徴のひとつです。日本やドイツの道路工学で採用されている、ハンドルを一定の角速度で回し、自然に曲がることができる「クロソイド曲線」を取り入れていたり、角を丸めた旧青山ビルを意識した白い壁があったり。これも、「なぜこの壁は丸いのだろう」という疑問から、その由来をたどってほしいという想いを込めています。
さまざまな用途で使える空間で、垣根を越えたコミュニケーションが生まれる
▲「Work Lounge」は、休憩、食事、ワークショップなどさまざまな用途で利用できる
4フロアにまたがるスタジオには内階段が設けられており、各フロアを行き来できたり、ちょっとしたコミュニケーションがとれる空間がいたるところにあったりと、個性を融合させながらイノベーションを起こせる工夫が散りばめられています。
森田がお気に入りスポットとして挙げる「Work Lounge」も、コミュニケーションにつながる空間のひとつ。休憩や食事のスペースとして活用できることはもちろん、ひな壇と音響設備を備えているため、ワークショップや発表会なども行えます。
森田:ここは半分オープンなスペースになっているので、開催中のイベントが自然と目に入ります。そこから新たな会話や交流が生まれる点が、お気に入りポイントです。
このスタジオには複数の拠点からさまざまな部門が集結したこともあり、「同じフロアで働く人を知るために、Work Loungeでイベントを企画したい」という声もメンバーから上がっています。もちろん、ここだけではなく、オフィスのいろいろなところで部門を超えた融合が生まれている。その様子を見るのが楽しいですね。
▲動かせる什器で構成されたカフェ空間「Toranomon Cafe」。イベントスペースとしても使える
食事やイベントなど、さまざまな使い方ができるスペースは他にもあります。それが、安齊がお気に入りスポットに挙げる「Toranomon Cafe」。
安齊:このカフェに置いてある什器は移動式なので、レイアウトを変えてイベント会場にすることもできます。スタジオの発足会もこの場所で開催しました。カメラもあるのでオンラインでイベントの様子を配信することも可能です。
私は長年、栃木に勤務していますが、食堂で打ち合わせしている風景を目にすることがよくあります。このスタジオでも、そんな古き良きHondaの文化を大切にしたいと考えていて、執務スペースだけではなくカフェ空間にもその想いを込めています。
思考を深めたり、重ねあったり。得意なことを掛け合わせながらタネを育てる
▲特殊電源や工作室を備え、検証や実験で使用できる「GARAGE Toranomon」
ソフトウェア開発の拠点ではあるものの、ものづくりの手応えを感じることができる場所も。それが、望月がお気に入りスポットだと話す「GARAGE Toranomon」。
望月:以前私が勤務していた拠点では、デスクの上に半ば無理やり機材を置いて開発をしていました。新たなスタジオでは、遠慮なく機材を使える場所を作りたかったのです。
このGARAGEはもちろん、スタジオのいろいろな場所で若手社員が「どんな商品や機能があったらいいか」を議論しているのを見かけます。若手社員でも積極的にアイデアを出したり、意見したりするボトムアップ文化にHondaらしさを感じますし、そこがHondaの好きなところですね。
▲ひとりで集中したい時や、数人でワイガヤをする際に使える「SEED」エリア
「発明には自分と向き合いながら深く考える時間も必要」と話す阿野のお気に入りスペースは、集中思考ブース。ひとりで思考したい時に使える「SEED Solo」、ふたりでアイデアを練り上げるための「SEED Duo」、客観性や視野を広げられるよう3人で使える「SEED Trio」と、フロアごとに使用人数が異なります。
阿野:仕切りになっているガラスには、五線譜と楽器を演奏している人を描きました。ひとりで練習するだけではなく、人数が増えていくことで自分の得意・不得意が見えてきたり、演奏できる曲が増えていったりする。そんな風に、それぞれの特技を伸ばしながらいろいろな曲を奏でてほしいという想いを込めました。
イスにも強いこだわりがあり、ゆりかごのように浮遊感のある座り心地が特徴です。ソフトウェアエンジニアは座っている時間が長いので、身体への負担が少ないものを選びました。
▲さまざまなところに置かれたアートは、知的好奇心へ導く違和感。写真は、「dream」の文字を情熱で調理したオブジェ
そして、オフィス内に点在するアート作品も阿野のこだわり。合理的生産性を求められる執務スペースに、真逆とも言える「非合理的」なアートのアクセントを付与しています。
阿野:AIを使えばすぐに答えにたどりつける時代に、人間の存在価値は好奇心や違和感を覚えることだと考えています。「これはなんだろう」と好奇心を抱かせるアートを執務エリアに設けています。
これまでのHondaを大切にしながら、新たなアイデアを生み出していく
▲エントランスは、真っ白な空間。ロゴも笑顔も映える
最後に紹介するのは、来訪者がエレベーターを上がってはじめに目にするエントランス。白い壁と床にHondaの赤いロゴだけ、というシンプルなデザインにもこだわりが。
阿野:このスタジオを立ち上げるプロジェクトが始動したのは、Hondaが「第二の創業期」を掲げたタイミングで、SDVは「これからのHonda」を象徴する柱のひとつ。だからこそ、まっさらな紙に新しいビジョンを描くような空間が必要だと考えました。
清く白いキャンバスに、コーポレートの赤いロゴ。多くを語らずとも、新たなスタートを感じられる場所ができました。
そして、白いキャンバスの上にさまざまな個性が集まり、混ざり合い、新たなHondaを築くアイデアを創出する──未来への期待がふくらみます。
安齊:このスタジオには、変化に富んだスペースがたくさんあります。そこで誰かと話をしながら、新しい芽をどんどん出してほしい。
クルマ開発がソフトウェア主導に変化しても、Hondaがめざすものは同じ。自由で楽しい移動の喜びを提供すること。たとえば、自分の趣味を登録しておくと、すれ違ったクルマ同士でやりとりができるとか、渋滞の状況がわかる写真を撮ってくれるとか。クルマに情報を付加することで、移動の可能性は広がります。
そして、自分がほしいアプリケーションを実現しやすいのがソフトウェアのいいところ。自分がいいと思うものを、こっそり作り始める人がいたっていい。ここを、新たなアイデアが次々と生まれる場所にしたいですね。
森田:それを実現するためにめざしていたスタジオの姿は、かなえられたと思っています。すでに1,000人以上が集結して、新しい交流が生まれている。そのコミュニケーションをさらに活発にしていくことも私の役割です。
クルマの作り方が変わってきたように、私たちもさまざまな変化をしながら今日に至ります。ソフトウェア領域の人材が増えてきたことで、今までの制約が解かれたり、新しい方法が浸透してきたり、自然な変化も起きています。
未来がどうなるかはわからないからこそ、これまでの考えや言葉を大切に、後ろも見ながら前に進んでいくことが大事。芯がありながらも柔軟で、学ぶことの労を惜しまない人、これまでのHondaが何に取り組んできたのかを理解しながら新しい風を吹かせてくれる人と一緒に挑戦していきたいですね。
※ 記載内容は2026年6月時点のものです
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