神戸須磨シーワールドで、生きものの魅力を伝えていく
神戸須磨シーワールドは、2024年6月1日に「神戸市立須磨海浜水族園」の跡地にグランドオープンした水族館です。
「当館の一番の目玉は、シャチのパフォーマンスです。日本の水族館でシャチを飼育しているのは、鴨川シーワールド、名古屋港水族館、そして当館の3カ所のみです。さらに、シャチのパフォーマンスを行っているのは当館と鴨川シーワールドだけですので、それが最大の特徴になっています」
施設内には3つの棟があり、シャチ以外にもイルカやアシカ、ペンギン、海や川に生息している生きものの飼育展示を行っています。飼育部門の魚類展示課に所属する猶は、クラゲをメインに、魚類やウミガメ、ニホンイシガメの飼育を担当しています。
「飼育する上で大切にしていることは、生きものをよく観察すること。少しでも変化があれば早期に気づけるよう日々の観察を欠かさないようにしています」
1日の業務は早番と遅番の2交代制。早番の場合、午前中は開館前に水槽管理のための見回りや掃除を行い、午後からは給餌や残餌の回収。お客様参加型のイベント「ウミガメコミュニケーション」も担当しています。
また給餌の際には水槽の前に出て作業を行うため、お客様から質問を受けることも多いと話します。
「お客様と会話をすることが好きなので、どのような説明をすれば興味を持っていただけるか日々考えながら対応しています。とくに、給餌の時は『何をしているんですか』とよく聞かれますので、できるだけわかりやすく説明するように心がけています」
幼少期の夢を叶えた水族館の仕事。情熱がつないだキャリア
神戸市出身の猶は、幼少期から水族館や動物園に親しんできました。
「水族館や動物園などの施設を訪れるだけでなく、小さい頃からセミを捕りに行ったり、川で魚を捕まえて、家で飼育したりしていました」
小学校から高校までの10年間野球部で活動する傍ら、生きものへの関心は尽きることがありませんでした。高校生の時には、部活引退後に神戸市立須磨海浜水族園で半年間アルバイトを経験しています。
「当時は飲食店での勤務でしたが、前身である神戸市立須磨海浜水族園で働けたことが、とても楽しかったです。幼稚園の頃から水族館で働きたいという夢を持っており、この時にその道に進もうと確信をしました」
高校卒業後は、和歌山県白浜町のアワーズ動物学院に進学。2年間、生きものについて学びました。卒業間近に鴨川シーワールドの募集が学校宛てに届き、すぐに応募を決意します。
「採用試験は3段階ありました。とくに印象に残っているのは第2次試験の水泳試験です。ウェットスーツを着て泳ぐのは初めてで、全然泳げませんでした。落ち込んでいたところ、面接官の方から『水泳だけじゃないから大丈夫、頑張れ!』と励ましてもらったんです」
その後も試験を続け、入社が決まった猶。最初は魚類の飼育を担当し、1年後にはアシカやペンギンの飼育担当部署へ異動。パフォーマンスや解説も任されるようになります。
「私は人前に出るのが好きで、お客様が喜んでくれることが一番嬉しかったです。アシカのパフォーマンスでは、アシカとの信頼関係をしっかりと築きつつ、ユーモアを積極的に交えながら対応していきました」
パフォーマンスのステージに立つための姿勢は、周囲の先輩から学んでいったと話します。
「鴨川シーワールドでは、とくに大ベテランの上司からお客様との接し方を学ばせていただきました。生きもののことはもちろんですが、お客様をどのように喜ばせるか、どうやってコミュニケーションを取るかといったプロフェッショナルならではのノウハウを教えていただいたことは、今でも大切な財産になっています」
地元の魚の魅力を伝えたい。自然と向き合い、発見する日々
念願であった水族館で働く夢を叶えた猶。そして、思いがけない形で地元との縁ができます。
「神戸市立須磨海浜水族園の指定管理をグランビスタ ホテル&リゾートが担うことになったんです。小さい頃から慣れ親しんだ施設で働けるチャンスだと思い、異動希望を出しました」
異動にあたって、猶は「地元の魅力を伝えたい」という新たな目標を持ちました。
「最近のスーパーでは、魚が切り身の状態で売られていることが多いと思います。子どもたちが魚本来の形を知る機会が少ない中、神戸須磨シーワールドを通して、地元の魚の魅力を伝えたいと考えました」
熱い思いを持って、神戸へとUターンをした猶。魚類展示課でクラゲの担当となります。
「これまで飼育をしたことがない生きものだったので、すべてが手探り状態でした。飼育員として6年の経験がありましたが、新人同様の気持ちで一から学び直していきました」
新たに担当するようになったクラゲの魅力について、猶は以下のように語ります。
「神戸須磨シーワールドでは、クラゲライフと呼ばれるエリアで、常に7種類のクラゲを展示しています。裏方にも飼育エリアがあり、季節によって違う種類のクラゲを展示しているので、次から次へと学びがありますね。
私が特に驚いたのは、ミズクラゲの体のこと。90%以上がゼラチン質でできていて、残りの組織で餌を判断することができるんです。餌を区別する様子を見たときは、その意思を感じて、本当に感動しました。
普通では経験できないような生きものと直接的なふれあいができるのは、水族館ならではの醍醐味ですね。最近はSNSやテレビでクラゲが取り上げられることが増えてきて、個人的にもとても嬉しく感じています」
創意工夫で生きものたちの魅力を伝える。水族館の未来を支える新しい挑戦へ
神戸須磨シーワールドでは関西出身の同僚が多く、和気あいあいとした雰囲気の中で仕事が進められています。
「周りのキャストの方々が本当に優しくて、わかりやすく説明してくださいます。気軽に相談できる環境があるので、毎日が楽しくて仕方ありません。
自由な環境で創意工夫ができる点も魅力的です。水槽作りなども自分のアイデアを活かせるので、工作が好きな人にも向いていると思います」
この仕事を続けるには、生きものへの愛情が不可欠だと猶は語ります。
「生きものが好きという気持ちが、やはり欠かせません。その上で、もっといい環境を整えるにはどうすればいいのか、もっと知ってもらうにはどうすればいいのかと、自分で課題を見つけながら、解決していくことが大切です」
そんな猶が向き合っている課題は、保全活動です。神戸須磨シーワールドでは、前身である神戸市立須磨海浜水族園の時代からホトケドジョウやニホンイシガメといった生きものの保全活動に力を注いでいます。
「最近注目しているのは、マダコです。兵庫県の瀬戸内海にはタコがたくさん暮らしているのですが、近年では数が減少傾向にあるんです。タコの養殖はまだ完全に確立がされていないのですが、将来的には成功させていきたいですね。養殖で生まれた小さいタコを放流するようなイベントができたら、理想的だと考えています」
また、部署を越えた取り組みにも意欲を見せます。
「当館はシャチやイルカが目玉になっていますが、アクアライブの魚たちの魅力をもっと伝えていきたいです。魚類以外の飼育部署との勉強会を開いて知識を共有したり、鴨川シーワールドで行っている『夜の水族館探検ツアー』のようにシャチの飼育員が魚の解説をしたりするなど、部門を超えた、新しい取り組みにも挑戦してみたいですね」
生きものへの深い愛情を持ちながら、地元の水族館へと貢献をする猶。その熱意ある背中が、次なる世代にも影響を与えていくことでしょう。
※ 記載内容は2024年11月時点のものです

