生きものの健康と安全を守り、PRする難しさ。華やかな広報の裏でのさまざまな苦労
藤田は現在、神戸須磨シーワールドのセールス&マーケティング部マーケティング課に所属しています。部門はセールスとマーケティングの2課で構成され、マーケティング課は藤田を含めた5名、セールス課は5名が在籍しています。
「マーケティング課では、主にホームページの運営、SNSの運用、イベントの企画などを担当しています。その中で私は広報として、神戸須磨シーワールドを広く認知していただくための情報発信を担っています。
具体的な業務としてはプレスリリースの作成、メディア取材の対応、雑誌などの記事の校正、さらに館内掲示物であるポスターやポップの制作など多岐にわたる業務を行っています」
広報活動における主なターゲットは関西圏の来場者を基本としつつ、イベントに応じてターゲット層を調整しています。
「たとえば、『パイレーツ・ハーバーフェスティバル(※2025年11月~2026年1月に実施)』のような、館内に海賊たちが登場するイベントでは、20代や10代後半など比較的若い方々にご来場いただけるようアプローチをかけるなど、戦略的な広報活動を展開しています」
広報担当者としての課題は、継続的なメディア露出の確保です。
「昨年度のオープン時には多くのメディアに取り上げていただきましたが、今年度以降は、新しい変化を創らないと取り上げていただけません。そのため常に目新しさ、ニュースバリューを検討する必要があります。
夏のイベントでは、水中のパフォーマンスで水をかけるという要素が熱中症対策を兼ねた涼しいスポットという切り口で紹介され、取材獲得につながりました。全国的なテレビ番組で紹介いただいた際には、公式ホームページのアクセス数も上昇するため、メディアに取り上げられることは来場者数の増加に貢献していると実感しています」
広報活動において藤田が最も重視しているのは、「正確な情報を届ける」ということ。
「とくに写真などは、受け取られ方によっては誤解を招き、好ましくない方向に進展する可能性もあるため、細心の注意を払っています。生きものをただ見せるだけでなく、その魅力や迫力が伝わるよう努めています」
一方で、華やかに見える水族館の広報業務には、一般的にはあまり知られていない苦労もあります。
「水族館として、生きものの健康と安全が最優先となるため、取材のために何度も同じパフォーマンスを要求することはできません。生きもののためにお断りすることもあります」
生きものを守るために譲れない一線があることを強調する藤田。
「取材スケジュールの調整においては生きものの給餌の時間や清掃時間を避け、さらに体調不良の際には本来の撮影内容を変更し、代案として別の生きものの撮影を提案するなど、生きものの状態に最大限配慮しながら進行する必要があります。
人間のみの取材であれば対象者との対話でスケジュールを組めますが、生きものが関わることが多いため、体調や飼育スケジュールを考慮した細やかな配慮が必要です。この点がこの仕事の大変な側面ですね」
飼育員の夢から気づいた「伝える喜び」。広報へ踏み出した転機の瞬間
藤田は大学卒業後、小学生の頃からの夢であった水族館の飼育員として働き始めました。しかし、働く中である変化が訪れます。
「生きものが本当に好きで、小学生の頃からの夢で水族館に入ったんです。でも働いていく上で生きものを飼育することよりも、生きものの魅力やおもしろさを世間に伝えていく、発信していくことに関心があることに気づきました」
生きものの魅力を発信したいという想いは、藤田自身の原体験から生まれたものでした。
「自分が生きものに興味を持ったきっかけは地元の小さな水族館でした。その水族館には大きな展示はないのですが、飼育員が実際に生きものを触らせてくれたり、解説をしてくれたりして、生きものっておもしろいなって感じたんです。
生きものに興味を持つようになり自分の人生が変わったので、それを今度は自分が多くの方々、とくに子どもたちに生きものの魅力を発信したいと強く思うようになりました」
このような想いがあって水族館で広報への部署異動を希望しましたが、なかなか実現しませんでした。さらに体力面、プライベートを考えて悩んだ末、藤田は環境調査会社の研究職に転職します。しかし、そこで働く中でも、水族館で広報活動をしたいという想いは消えませんでした。
「どうしても小学生の頃から水族館で働くことが夢だったので、諦めきれない気持ちがありました。そんな時に、神戸須磨シーワールドのセールス&マーケティング部門の募集が出ているのを見つけて。挑戦しようと応募し、採用されて今に至ります」
2024年、藤田は神戸須磨シーワールドのマーケティング課の広報として入社。
藤田は入社当初からずっと広報を担当してきましたが、とくに開業準備中、未経験での広報業務は困難の連続でした。
「広報としての経験も知識も何もない状態だったので、不安でした。開業当初には大きなテレビ番組の対応があり、何をどうしたらいいのかもわからなくて苦労しました」
それでも藤田は上司に確認しながら、さらには飼育員としての経験を活かして乗り越えていきます。
「周囲のサポートは心強いものでした。上司は話しやすく、相談しやすい存在でしたね。
これまでの飼育員の経験を活かしつつ、こう見せたら生きものの魅力が伝わるだろうという考えと、飼育側ではこれはおそらく避けたいだろうという配慮が事前にわかっていたので、それに合わせてスケジュールを組んでいきました」
グランドオープンを迎えた日は山のように取材対応があり本当に大変でしたが、その分、多くのことを学んだと言います。
「現在ではテレビ番組など取材の調整は任せていただいています。そこは『もう安心して任せられる』と上司に言ってもらい、すごく嬉しかったですね。開業当初は本当に大変でしたが乗り越えることができたので、それが今の糧になっています」
ありがとうボードとシャチとお客様の記念撮影に込めた1周年の感謝
藤田にとって、入社してから最も印象に残っているのは、2025年6月に開催した開業1周年記念イベントです。企画部会という各部門の若手メンバーで意見を出し合い、イベントを作り上げました。
「1周年という大きなイベントを任せてもらって、プレッシャーも大きかったです。なおかつスパンも短い間で考えて実行まで移さないといけない中ですごく悩みました。キャストだけでなく、お客様にも支えられて1周年を迎えられたという感謝の気持ちを、みんなで分かち合いたい。そんな意見が多く集まりました。
そして、お客様にメッセージを書いていただく『ありがとうボード』を制作しました。さらにシャチとお客様と一緒に記念撮影を行い、観客の方々も巻き込んだ一体感のあるイベントとして実施。この模様は当社のホームページなどで広く公開しました」
記念撮影が終わった後、自然と拍手が起こります。
「その拍手を聞いて『よかったな』と、やりきった感じがしました。一周年のあどけなさと言いますか、ここからどんどん良い方向に進んでいったらいいなと、その写真を見て思いました」
神戸須磨シーワールドの広報として働く藤田は、この仕事の魅力をこう語ります。
「広報は世間に当館のおもしろさや魅力とともに、生きものの魅力を発信する仕事でもあります。世間が何を求めていて、何を打ち出せば気に留めてくれるのか。まだまだ自分も勉強しているところですが、そういった世の中の流れを読み、当館に来ていただけるようアプローチをかけていくところがおもしろいところです」
念願であった生きものの魅力を発信できる立場になった藤田。とくに今後紹介したい生きものについて、目を輝かせて語ります。
「生きものの中で一番タコが好きなんですけど、神戸須磨シーワールドは明石に近いのでマダコを一つの水槽でたくさん飼育しているんです。一つの水槽に20匹から30匹くらい飼育していて、それって本当に珍しい取り組みなんです。実はおもしろいポイントがたくさんある水族館なので、そういったことを広く知ってもらいたいと思います」
昔から親しまれてきた水族館の良さを継承し、長く愛される神戸須磨シーワールドへ
今後の目標について、藤田は自身の原点とも言える思いを語ります。
「私は前身である神戸市立須磨海浜水族園が昔から本当に大好きで、飼育員として水族館に入った時も実は第一志望は須磨海浜水族園でした。須磨海浜水族園は魚の展示方法がおもしろく、紹介パネルなども工夫されていたことで知られており、魚が大好きだった私にとってとくに魅力的でした。
また公園のようにのんびりと館内を見て回れる雰囲気や、お客様との距離が近いあたたかい雰囲気も好きでした。この昔から親しまれてきた良さをしっかりと引き継ぎ、新しい神戸須磨シーワールドでもその魅力を発揮し、多くの方に長く愛され続ける水族館をめざしていきたいですね」
長期的な視野に立った目標を掲げる藤田。その実現に向けて、具体的な取り組みについて語ります。
「生きもののおもしろさがわかるようなイベントをしていきたいですね。また、神戸須磨シーワールドで飼育している生きものの詳しい情報は公式アプリで確認できるのですが、これからはアプリで紹介しきれていない飼育員のこだわりやおもしろさも、お客様に情報発信できたらいいなと思っています」
こうした取り組みを共に進めていく新しい仲間には、「生きものが好きであること」が重要だと言います。
「働く上ではマーケティングの知識が求められますし、フォトショップやイラストレーターなどのツールを使う機会も多いので、そういったスキルがある方が良いと思います。
また、水族館のマーケティングとしては生きものが好きであることが重要です。自分が納得していないと、お客様に伝えるときも十分な発信ができないと思うので、生きものが好きな方が向いていると思いますね」
最後に、この仕事への興味を持っている方々へメッセージを送ります。
「なかなか大きな水族館の広報として働ける機会は少なく、水族館業界では狭き門です。
生きものへの愛情と、その魅力を多くの人に伝えたいという思い。その両立には困難も伴います。しかし、それこそが水族館の広報として働く醍醐味。好きなことを仕事にできる環境だと思いますし、興味を持っている方にはすごくいい職場だと思います。自分の好きなことで働ける、そこに魅力を感じる方はぜひ挑戦してみてほしいですね」
※ 記載内容は2025年12月時点のものです

