異業種を「つなぐ」──ノウハウを掛け合わせるクロスインダストリーの可能性
2024年度、これまでビジネスグループ単位であったDX推進体制を、より現場に近いフロント部門(営業・SE組織)へと移行し、本部DX Officer(部門DXの責任者、以下DXO)を設置。リテール&サービス事業本部でエグゼクティブディレクターを務める近藤も、DXOの一人として新たなミッションを担っています。
「お客様にDXをご提案するためには、まず富士通自らが変革をせねばなりません。それをわれわれの『実践知』として、着実に行動していくことが重要で、そのために組織として何ができるのか。他の組織の優れた点を『あかぱけ』(※1)によって展開し、その支援となることを見出し実行していくことが、私の主な役割だと認識しています」
今年度、とくにフロント部門でのDXO配置が強化された背景には、お客様への価値提供そのものを変革するという強い意志があります。
「まさに全社DXプロジェクト『Fujitsu Transformation(フジトラ)』の一環として、ビジネスを変革していく上で、お客様と接するフロント部門がより主役となっていくべきです。これが今年度の主眼となっています」
近藤が今、最も注力しているのが「クロスインダストリー(業界横断)」の取り組みです。
「単一事業だけではビジネスが成り立たない時代になったという声が聞かれます。たとえば、小売業が従前の事業の枠組みだけに固執していては立ち行かない、ということ。そのためには、お客様同士が事業連携を進める必要があり、われわれがそのために何を提供できるのかを考え、行動に移さねばなりません。
人と人、あるいはノウハウを『つなぐ』こと。これが非常に重要です。そして、われわれはお客様から学び、そこに関係者を巻き込み、共に価値を創造していくことを実践していきたいと考えています」
クロスインダストリーには2つの側面があると近藤は説明します。
「一つは、たとえば『小売業と金融』『航空業とリテール』といった業種の掛け算で、事業としてのクロスです。もう一つは、『培ったノウハウを別業界に導入する』といった、お客様の事業のヒントとなる知見を提供する、ノウハウのクロスです。
しかし、業界が異なれば使用する言語も文化も異なり、そこを『つなぐ』ことには困難が伴います。ですから、言葉を平易にしたり、複雑な仕組みの図をモデル化して単純化したり。どうすれば意図が伝わるかを、Salesとともに戦略を練りながら進めています」
※1あかぱけ・・・相乗り(あ)、掛け算(か)、パクる(ぱ)、KPT(け)の頭文字をとった造語。自部門でアイデアや実践例を閉じず、相互に共有、活用しあうことで、新たな価値を生み出すためのDXマインドセットのことを指す
「楽しむ」が原動力。楽しむことから生まれたアイデアがビジネスを動かす
近藤の原体験は、中学3年生の時に訪れた「つくば万博」にあります。富士通パビリオンで目にした世界初のドーム型3Dシアターの映像に感銘を受け、「コンピューターを使って、驚きや感動を与えたい」と感じたことが、富士通への入社動機となりました。
1993年に入社後、フィールドSEとして百貨店業界を担当。当時をこう振り返ります。
「お客様から実に多くのことを学びました。POSレジやポイントサービス、仕訳の仕組みや会員管理システムなど、さまざまなシステム導入に関わりましたが、当時はお客様と共に業務内容を決定し、ホワイトボードを囲んで議論を重ねるなど、良くも悪くも役割分担が明確ではなく、一体となって課題解決に取り組んでいましたね」
その結果、全国の百貨店ビジネスを推進し、この業界のSIerとして、最大手の地位を確立しました。
「この地位を確立するまでには約10年を要しました。お客様以上に業界動向を深く理解し、語れるかどうかが、非常に重要でした。まず先進的なお客様と共に実績を築き、それを応用していく。そのようなビジネスモデルを意図的に構築していました」
こうした経験を経て、持ち続けている核となる価値観は「楽しめているかどうか」だと断言します。また、好きな言葉は、高杉 晋作の「おもしろきこともなき世をおもしろく~」だと言います。
「結局のところ、物事を興味深く捉えられるかどうか、おもしろくできるかどうかは自身の心構え次第。同じ業務に取り組むにしても、興味を持って楽しむことで、物事への関心がおのずと前向きな方向へ向かい、自然と仕事へ結びつけることに抵抗がなくなると考えています」
この「楽しむ」心からアイデアが生まれ、それが時間をかけて実を結ぶことがあります。
「たとえば、『富裕層の関心事は何か』といった興味を構想段階で資料にまとめていました。それが現在の航空会社に対する『リテールの知見活用』の提案プロジェクトへとつながっています。航空業界では今、『Modern Airline Retailing』という、リテール業界のように多様なサービスや商品を販売していく業界変革が提唱されています。
つまり、航空業界も小売業的な発想を取り入れていく必要があるということ。そこにわれわれのノウハウ、たとえばECサイトと店舗の融合のような仕組み作りの構想を提案しているんです」
この「構想」を具現化していくには、チームの力が必要となります。近藤は「チームの幹部は仕掛ける側になれ」という持論を展開します。
「管理職のポジションに就いた頃、部下の持つ才能は一人ひとり異なり、多角的であるとあらためて認識しました。ある分野に秀でた人材と、別の分野に強みを持つ人材を組み合わせることで、プロジェクトの成功確率が高まるという確信があったんです。
かつて、複数店舗やグループ企業で利用可能なポイントサービスに関する大規模プロジェクトを立て続けに受注した時期がありました。いずれも困難なプロジェクトでしたが、『このお客様の特性には、このメンバー構成が最適だろう』と判断し、体制の調整を願い出て、成功に導くことができました」
想いを形にすることの原点。「見える化」と「想い」がチームを動かした
近藤は全国百貨店向けのSIerとして、最大手としての地位を確立した後、プレイヤーからチームを率いるリーダーを任され、大きなプレッシャーにも直面しました。
「痛感したのは、最終的な責任は自分にあるということ。問題があった時、会社の代表として叱責を受ける。自分が最後の砦であるという強い自覚を持つ必要があって、当初は戸惑いと緊張感を覚えましたね」
そのプレッシャーを乗り越えるために身につけたのが「先読み」の力。
「問題が発生してから対処するのでは後手に回ってしまいます。そうではなく、問題が顕在化する予兆を捉えて先手を打つ。チームの状況を俯瞰することで課題も見えてくるため、事前に対策を講じるなど、先を見越してリスクを回避することを意識するようになりました」
そんな近藤が「最も印象深いプロジェクト」として挙げたのが、1997年の百貨店の新規開店プロジェクトです。
「このプロジェクトはPOSレジ、ポイントサービス、会計システムなど多岐にわたるシステムの導入が必要でした。加えてゴールデンウィーク前にプロジェクトが本格スタートし、本稼働が9月と、実質4カ月に満たない期間しかありませんでした。
しかも、当時はわれわれにはオープン系(UNIX)の技術的知見が不足していました。メンバー全員で書店へ行き技術書を買い求め、懸命に知識を習得しましたね」
お客様の近くにある拠点のプロジェクトルームに十数名が常駐し、プロジェクトマネジメント、業務チーム、パッケージ導入、インフラ構築の全担当者が同じ部屋で開発を進めました。
「インフラ構築と業務チームをつなぐリーダー的な役割を担っていたのですが、当時のパッケージが対象のインフラで稼働実績がなかったため不明点が非常に多く、これを自分一人で抱え込むことはできないと判断しました。
そこで、課題や懸案事項を一覧化し、自分自身で解決できることと、支援を要することを仕分けしたのです。課題を『見える化』し、『チーム全体で解決したいので協力をお願いします』と先輩方やさまざまな部門の関係者にお願いして回りました。すると、先輩方も快く協力してくれ、山積していた課題が次々と解決されていきました。
現在ではプロジェクトマネジメントツールによる『見える化』は一般的ですが、当時はアナログな手法でいかに情報を共有するか、想いを伝えるかに腐心しましたね」
この経験が、近藤の価値観である「想いを形にする(見える化する)」ことの原点につながっていると言います。
「あの時の経験と、今『想いを伝えること』が大事だと感じていることは根底でつながっています。やはり強い想いは人を動かす力になります。役職や会社の方針といった理由だけでは、表面上は従っているように見えても、真の意味で人の心を動かすことはできないのではないでしょうか」
最初のフォロワーになる勇気。富士通が世界を良くする「主役」に
現在、フロント部門のDXOとして本気で変えていくために何が重要か。近藤は「成功体験」の重要性を説きます。
「指示するだけでは、人はなかなか能動的には動きません。それよりも『このような取り組みが、このような成果につながる』という想いを伝え、『成功体験』を少しでも積み重ねていくことが大切だと考えています。
それは、大規模な案件の受注といった成功でなくても構いません。たとえば『このコンセプトをお客様に共感してもらいたい』といった目標でも良いのです。そうした小さな目標達成から得られるプラスの気づきを他のメンバーへ展開するよう働きかけることで、徐々に活動が広がっていく。そして、その活動は社内に限定させないことが重要です」
先日も、近藤がクロスインダストリーの提案をしているある企業を招き、リテールに関する情報提供の勉強会と懇親会を実施しました。
「お客様も業界変革のために小売の知識を求めており、『たいへん刺激になり、次の具体化の参考になりました』と感謝の言葉をいただきました。その言葉を受け、同行したSalesのメンバーたちの士気も高まっていて、それが現場の原動力となっています」
近藤は、自身の活動の先にある未来を見据えています。
「身近な話になりますが、自身の家族、とくに子供たちの将来がより良いものになってほしいという願いが、活動の根底にあります。そのためには、20年、30年と続く未来において、日本や世界をより良い方向へ導いていきたい。その『主役』として、富士通が存在感を発揮してほしいと願っています。そして、その長い道のりの第一歩として、自分がその一助となれればと考えています」
最後に、未来の仲間やパートナーとなる企業に向けて、近藤は「フォロワーシップ」の重要性を語ります。
「若い頃は、自分が中心となって牽引する『リーダーシップ』が重要だと考えていました。しかし、ある動画を見て考えが変わりました。それは広場で1人が踊り出したところ、それに続くフォロワーが現れ、そのフォロワーが仲間を呼び、最終的に多数の人が踊り出すムーブメントが起こったという内容でした。
つまり、最初に変革を起こすリーダーも重要ですが、真に重要なのはその後に続く『フォロワー』の存在。いつまでも自分が主導権を握るべきではないと考えるようになったのは、まさにこの気づきによるものです。
社内には、小規模ながらも新しい試みを始めている若手社員がいて、そうした人材を見出し、自らが最初のフォロワーとして参画し、関連する人材を呼び集める。そうしてムーブメントが数多く生まれれば、組織はより活性化するのではないでしょうか。
そうした将来性のある人材を見出すことも、DXOの重要な役目です。時代の変革には10年を要するかもしれませんが、しかし諦めず、粘り強く継続し、皆で創造的な取り組みを続けていきたいと考えています」
近い将来に向けて、近藤が所属する本部では今、横断的に関連部門と連携しながら、2035年の消費者や小売業がどう変容していくかを構想し、AIとの協働も見据えた新しい顧客体験・従業員体験を創出する、新たなチャレンジを仲間と共にスタートさせています。
世界をより良くする主役となるために。近藤のつなぐ力とムーブメントを信じるフォロワーシップが、富士通の変革を現場から力強く推進していきます。
※ 記載内容は2026年1月時点のものです
