アメフト界のヒーローから一転、大きな喪失感のもと第二のキャリアがスタート
大学でのアメリカンフットボール選手としての成績が認められ、1996年に実業団チーム、富士通フロンティアーズのメンバーとして富士通に入社した森本。
「アメリカンフットボールで大切にしてきたことは、まず、第一に『仲間』ですね。チームスポーツは自分だけが頑張っても上手くいきませんし、チームメイトの活躍は自分が頑張る原動力にもなるんです。
もう1つは『努力』。ウエイトコントロールもフィジカルトレーニングも、努力すれば結果が付いてくるけれども怠ると何も得られない。アメリカンフットボールにおいて日本一になるという目標に近づいていく努力や過程が本当に重要だということを選手生活を終えてから痛感しましたね」
シーズンを通して最も多くのランニングヤードを獲得した選手に与えられるリーディングラッシャーの称号を5年連続獲得するなど、日本を代表するトッププレーヤーとして活躍。そんな輝かしい栄光を持つ森本だが、38歳で現役を引退した後に様子が一変。大きな喪失感を抱き、仕事上の目標を見失ってしまっていたと語ります。
「あまりにも日本一になりたいっていう思いが強すぎたのか、引退してからしばらくは本当に抜け殻のようになってしまいました。あの時のように自分の中に燃え上がる炎のようなものもなくて。日本一をめざしていた頃に代わる仕事の目標をなかなか見出せずにいました」
その後、所属する社内IT部門での仕事に精を出していた森本。そんな中、富士通は「IT企業からDX企業へ」の変革を宣言し、2020年から全社DXプロジェクト「フジトラ(Fujitsu Transformation)」を開始します。
「会社全体もそうですが、自部署においても富士通がどんどん変わっていくのを目の当たりにしました。たとえば、フジトラを推進するCIO兼CDXO補佐(当時)の福田に対し、新しい技術や知見を持った社員が直接新たな提案を行い、議論するなど。
そんな中で、過去の栄光に捉われがちな自分が取り残されていくことをひしひしと感じていました。自分ももっと何かに取り組まなくてはいけないとは思うものの、何をすれば良いかが思いつかず、悶々としていました」
自らつかんだ大学院への挑戦──背中を押したのは子どもの存在だった
悶々とした日々が続いていた森本はある日、大学院派遣の社内公募の案内を目にします。「大学院で富士通の課題解決に挑戦しませんか」という2年コースの院生募集で、応募条件は「DX加速に貢献する意思のある方」、募集枠は1名というものでした。
「大学院に行けば変わることができるかもしれない。しかし、アメフトでの成功体験とは裏腹に、仕事での実績や組織への貢献はこれというものが思いつかない。自分をどうアピールすれば良いのか悩みました」
そんな森本でしたが、自身の子どもとの会話をきっかけに大学院への挑戦を決意します。
「ある日、小学生の子どもにいつものように『勉強しなさい』と言ったところ、『なんで勉強しなきゃいけないの?』って返されまして。それに対し、私はろくな返答もできませんでした。あぁ、なんといえばよかったのかと考えている時に、私の父のことが頭に浮かんだんです。
私の父は家業を手伝うため、大学に行くことができなかったんですが、『どうしても勉強がしたい、大学に行きたい』と思い、社会人となった後に自らの力で大学に通った人でした。そして、そんな私の父からは、『これからはグローバルの時代。世界で活躍できる会社や仕事を選びなさい』と言われていました。
大学院で学ぶデータサイエンスは、まさに世界を舞台に活躍できる技術です。私も父のようにこのチャンスをつかみ、年齢関係なく挑戦する父としての自分の姿、その背中を子どもに見せたい。心が決まりました」
さらに、妻からも「応援する」と背中を押してもらった森本。たった一枠を見事つかみ取り、大学院へと進むことになります。
データと絆──アメフトが研究活動につながった。そしてチームへの感謝
大学院に通い始めた森本。研究テーマを考える中で、日頃の業務で感じていた「リモートワーク環境において、チームとしてのパフォーマンスを上げる」ことの難しさに関心を持ちます。
「今まではみんなで机を囲んで顔を合わせながら業務に取り組んでいたので、その人の人となりもわかりやすかったと思うんですよね。今はリモートワークの時代なので、画面越しでは会っていても、対面では一度も会ったことのない人とも仕事をするようになりました。もちろん、それ自体が悪いわけではないですが、以前に比べ、チームとしての一体感を作ることが難しくなっていると感じています。
働き方やコミュニケーションの仕方は変化していますが、人と人との関わりは絶対なくならないと思うんです。そこで、大学院で学んだデータサイエンスを活用することでリモートワークにおけるチーム作りを支える仕組みは作れないかと考えるようになりました」
森本はテーマを「チームパフォーマンス向上による組織全体の生産性や効率性の向上」に定め、本格的に研究を始めます。
「私は長年アメリカンフットボールをやってきて、1つのチームとして最高のパフォーマンスを発揮するには、強力なリーダーの存在や単純な能力的なものの組み合わせだけではないと感じていました。チームとは、感情を持った人の集合体。チームメンバー同士が互いにどういった印象を持っているかも重要であり、私はそこを研究テーマにしようと思いました」
大学院で新たに学んだデータサイエンスの知識を駆使し、まずは、チームパフォーマンスを向上させるために重要な働きをしている要素は何かについて研究をはじめた森本。研究がある程度形になった頃、社内での中間報告会を行いました。
「福田さんから、『アメリカンフットボールではプレイにデータを活用しているんだよね。研究を自分の得意なフィールドで考えてみたらどうだろう』というアドバイスがありました。ちょうど仮説検証のための実験方法を模索していたころで、福田さんの話を聞いて、自分が所属していた富士通フロンティアーズをフィールドに検証できるのはおもしろいかもしれないと思いました」
その後、富士通フロンティアーズに加え、富士通の女子バスケットボールチームの富士通レッドウエーブにも協力を得ることになった森本。
「実験の結果、互いの印象がチームとしてのパフォーマンスと密接に関係していることが判明しました。私の実験を行っている時に2チームとも日本一になったのですが、こんな素晴らしい環境で実験できたことに感謝しています」
大きな研究成果を得て卒業した森本は、その内容を国際会議(※)でも発表することになります。
※ THE 34th INTERNATIONAL CONFERENCE ON INFORMATION MODELLING AND KNOWLEDGE BASES EJC2024
DX推進の中核で学びをビジネスへ──新たなフィールドへの挑戦、そして感謝
現在、全社DX推進の中核部署で生産性向上などに寄与する業務を担っている森本は、大学院で学んだデータサイエンスを活用したチームビルディングの研究を今も続けています。
「チーム作りを自動化して、もっと活躍できる人材をどんどん表に引っ張り出せるような仕組みを考えています。それが実現できれば、会社全体の生産性は大きく向上すると思うんです」
まだまだ課題は山積みだと言いながらも、前向きに捉えている森本。
「スポーツをフィールドとした検証ではポジティブな実験結果が出ましたが、ビジネスでの検証はこれからです。いま、上司と同僚の協力を得ながら、社内での実験や実践に取り組んでいますが、この研究を最終的にビジネスモデルとして確立するのが、自分の中での新たな目標となっています」
いま、アメリカンフットボール選手の時のように生き生きと挑戦を続けている森本。森本にとって「挑戦」とは何か。
「挑戦とは、いまを生きていると実感できることでしょうか。アメリカンフットボールを引退してしばらくは、自分が現役選手としてカムバックして、日本一になる夢を毎晩のように見ていましたが、不思議なことに大学院での研究が形になり始めたら夢を見なくなったんです。
そして今、次の目標に挑戦していますが、今度はその目標に関連したことが夢に出てくるようになったんです。そんな夢からはっと覚めた時、いいアイデアが浮かぶことも多くて。自分が生きているっていうことを強く実感できるんですよね」
ただ、挑戦は多くの方の支えがあるからこそできるものだと続ける森本。
「ここまで、私を大学院へ送り出してくれた福田さんをはじめとした役員、上司の方々、実験に参加してくれたフロンティアーズのメンバー、そしてとくに、仕事を持ちながらも大学院研修を支えてくれた妻には本当に感謝しています。
これからの挑戦も家族、上司、同僚など、多くの方の支えをいただくと思います。小さい頃から母に『日々感謝』と言われてきましたが、たくさんの方に支えてもらっているいまの状況に本当に感謝しなきゃいけないなとつくづく感じています」
いまも昔も「チーム」への強い想いと愛を持つ森本。新たに手に入れたデータサイエンスを用いて、どんな未来を切り開いていくか楽しみです。
※ 記載内容は2024年12月時点のものです
