プロセスケミストとして医薬品の安定、安価、高品質な原薬の製法確立を目指す
私が所属しているプロセス研究ユニットは、将来高品質な医薬品を安価に、そして安定的に患者さんへ届けることが可能な製法・品質設計を使命としています。具体的には、臨床試験に使用する原薬の供給や、将来の商用生産に向けた製法開発を行っています。その中でも私は開発後期のテーマを担当する部署で、日々、研究をしています。
低分子医薬品の研究の初期段階では、メディシナルケミストと呼ばれる探索合成を行う研究者が化合物の合成を行います。数多くの化合物の中から、有効性、薬物動態、安全性のクライテリアを満たした候補化合物が見いだされたタイミングで、プロセス研究がスタートします。
探索合成段階での化合物の合成方法は複数の候補化合物を合成する中で見いだされたもので、合成量は多くても100 g程度です。数kg~数十kgレベルの製造量が必要となる工業的な製造方法として最適とは限りません。そのため、我々プロセス研のミッションは、プロセスケミストとして、より安価で安定的に高品質な原薬供給を目指すことです。ラボでの製造方法開発研究や製造委託先の管理が中心となりますが、特に商用生産を安定的に実施できるよう、製造工程の堅牢性を高めることが重要です。
研究を進める上で、私が最も最も大切にしているのは「誠実さ」です。例えば、日々の研究開発では実際に使用する患者さんを意識し、妥協することなく高い品質を求めて業務を進めています。また、同僚に業務上の依頼をする際には、相手のスケジュールに無理がないか、依頼内容が明確で分かりやすいものになっているかなど、常に相手の立場に立って考えるようにしています。
特に他部署との連携では、自部署の都合を一方的に押し付けることなく、相手部署の立場で一度内容を吟味してから依頼するように心がけています。内容の理解しやすさはもちろん、重要度やタイムラインについても認識のズレが生じないよう、丁寧なコミュニケーションを心がけています。また、重要な決定については、必ずグループ内での合意を得た上で伝えることを意識しています。
プロセスケミストとして経験を積み、グローバルで貢献できるキャリアを志す
以前は、化学メーカーの医薬品部門で低分子医薬品のプロセス開発に携わっていました。主にフェーズ1からフェーズ2の開発段階のテーマを担当し、製法開発を中心とした業務を行っていました。
その中で特に印象に残っているのは、動物試験用サンプルの合成プロジェクトです。創薬部門から情報を受け取ってから非常に短い期間で、製法のトレースから課題の抽出・改良、そしてサンプル合成までを完遂しなければならないプレッシャーのかかる状況でした。
その時に、心がけたのは、効率的に業務を進めるために検討開始時から様々な分析機器を活用し、細かな現象も見逃さないよう多角的にデータを収集することです。多くのデータを初期段階から取得することで、やり直しや検証実験を最小限に抑え、短期間で必要な製法理解を達成することができました。
他にも、製造キャンペーン中に突如発生した製造トラブルへの対応も、私にとって大きな経験となりました。微量不純物の分析・同定から根本原因を突き止め、それを回避する製法改良を実施することで、プロジェクトスケジュールへの影響を最小限に抑えることができました。
日々の研究を通じて、海外の製造委託先とやり取りする機会も多くあり、そうした経験を重ねる中で、グローバルに活躍できる研究者になりたいという思いが芽生えていきました。医薬品のモノづくりには引き続き関わっていきたいという想いもあったので、グローバル展開に力を入れている当社に入社を決めました。
個人の専門性で課題解決し、協働して研究を前に進める
入社後、特に印象に残っているのは、原薬品質に関わる不純物コントロールを目的とした製法改良に携わった経験です。担当したプロジェクトでは、原薬製造における不純物の除去効率が悪く、その再現性の低さが大きな課題となっていました。
この課題に対して、まず不純物の構造決定から着手し、生成経路の特定、各工程での除去挙動の把握など、地道な分析と検証を重ねていきました。その結果、改良が必要な工程操作を特定し、収率などの品質を維持しながら、除去効率と再現性を高める条件変更を見出すことができました。
課題解決に至るまでには多くの苦労もありましたが、この経験を通じて、業務全体への影響をより広い視野で捉えられるようになりました。例えば、同じく、CMC(Chemistry, Manufacturing and Control)研究を行う分析研究部門と製剤研究部門と協力し、検討開始前の早い段階から製造委託先への影響を考慮して、研究を行う意識が身に付きました。
前職と比べて、当社では防災安全データの取得により早い段階から注力するなど、いくつか異なるアプローチもあります。多くの経験することで、より柔軟な視点で業務に取り組めるようになったと感じています。
また、当社では「研究・CMC・開発から成るR&D本部として密に協力し、創薬研究/新薬開発をスピードアップしていこう」という考えがあります。創薬研究の観点では、メディシナルケミストとプロセスケミストは密接に連携する必要がありますが、当社のメディシナルケミストが所属する化学研究ユニットとプロセス研は同じ研究棟で研究を行っており、日々、気軽に情報交換が行える環境があることは、当社の研究の強みの一つだと感じています。
医薬品開発への情熱と未来への展望
今後は、開発の初期ステージの候補化合物のルート開発や技術開発に挑戦したいと考えています。近年の医薬品開発では、より短期間での開発が求められているため、従来よりも効率的なルート開発やデータ取得が必要となっています。その中で、機械学習などの新しい技術を応用できないかという興味を持って取り組んでいきたいと思います。
中長期的には、原薬のプロセス開発に精通した人材として成長し、プロジェクトをリードしていける存在になりたいと考えています。海外当局への申請につながるプロジェクトの成功にCMCから貢献していきたいと思っています。
プロセス研究の仕事は、華やかな最先端の研究だけでなく、地道な研究も重要な要素です。例えば、高品質な医薬品を安定的に供給できる製造方法を確立するためには、地道に積み上げた多くのデータが必要です。一見地味に見えるかもしれませんが、この作業こそが医薬品開発には欠かせないものなのです。プロセス研究者を志す方には、泥臭さも大切さも理解しながら、医薬品を世の中に送り出すという熱意を大切にしてほしいです。
研究の現場では、目の前の研究に没頭するあまり、最終的に患者さんへ届けるという意識を薄れてしまうこともあります。常に患者さんにとって何がメリットなのかを考えながら、自ら考え、自ら実践するマインドを持って取り組んでいただける方と一緒に働けたらうれしいです。

