200以上の店舗とECを繋ぐ「心臓部」。カインズのDXを支えるデータ基盤
私たちのチームは、カインズの全ビジネスの源泉となる「商品・在庫・価格」のデータ基盤を担っています。実店舗、EC、アプリ、新規事業といったあらゆるチャネルを支える心臓部のような存在です。単なるデータベースの管理ではなく、260以上の店舗とECやアプリなどのチャネルを結ぶ重要な役割を担っています。
具体的には、疎結合で高速なAPI群をMuleSoftやAWSを活用して構築し、運用を徹底的に考慮したバックオフィス機能を設計・開発しています。ビジネスの変化を止めないモダンなアーキテクチャへの刷新を現在進行形で推進しているところです。
私たちのミッションは「価値あるプロダクトをすばやく届け、その価値を継続する」こと。内製主体の開発体制を活かし、ビジネスサイドから新しいアイデアが生まれた瞬間にシステムが即応できる「コンポーザブルなアーキテクチャ」を構築することを目指しています。これによって、カインズのデジタルトランスフォーメーション、つまりDXを高速化・高度化させることが最大のミッションです。
私自身は商品サービスグループのマネジャーとして、アーキテクチャのグランドデザインを描きつつ、チームが技術的挑戦に集中できる環境を整える役割を担っています。特に注力しているのは、事業会社特有のドメイン知識をエンジニアリングに翻訳することです。メンバーが単なる「コードの書き手」に留まらず、ビジネスを牽引する「プロダクトオーナー」として主体的に動けるよう、エンジニアマインドの醸成と育成をリードしています。
チームメンバーは非常に多様です。自社のプロパー社員に加え、国内外のパートナー企業、具体的にはTCSのオンサイト・オフショアメンバーなどが混ざり合う、グローバルな混成部隊なんです。国籍や所属の壁はなく、一つのプロダクトを創る仲間としてフラットに議論ができる活気ある雰囲気があります。
特徴的なのは、チーム内に「スクラム・オブ・スクラム」的な要素がある点です。Salesforce、MuleSoft、eBASEというカインズの商品管理システムなど、各領域をリードする専門家が集まっており、それぞれが自分の領域のリーダーとして責任と裁量を持って動いています。各領域のプロフェッショナルが集結し、それぞれの強みを活かしながら協働する。そんな環境が、私たちのチームの大きな特徴だと言えます。
「保育園のお迎えに間に合う」ユーザーの声が導いた、エンジニアとしての転機
私がカインズに入社したのは2018年のことです。最初はRPA導入を担当し、その後CRM領域としてSalesforceやAmazon Connectなどの連携業務に携わってきました。そして2022年の末に、現在のマネジャーというポジションに就任することになりました。この間、さまざまなプロジェクトを経験してきましたが、私のキャリアにおける大きな転機となったのは、初期のRPAミッションでの出来事です。
当時、私は業務効率化において「人時削減こそが費用対効果のすべて」だと考えていました。つまり、どれだけ作業時間を削減できたか、その数字こそが価値を測る唯一の指標だと思っていたんです。ところがある日、1日わずか15分の業務を自動化したときのことでした。その業務には入出金の関係で15時以降にしか作業できないという制約があり、担当者の方は毎日その時間まで残って処理をしていたのです。自動化が完了した後、その方から「これで保育園のお迎えに間に合うようになりました」という言葉をいただきました。
この言葉を聞いたとき、私の中で何かが大きく変わりました。たった15分という、数字だけで見れば決して大きくない削減時間かもしれません。しかし、その15分が誰かの生活を、人生を変えるきっかけになっていたのです。数字には表れない「精神的なゆとり」を生む価値に、このとき初めて気づきました。事業会社のエンジニアだからこそ味わえる、ユーザーの声を直接聴くことができる環境。そして、自分の仕事が人生に直結するというやりがい。これらを実感した瞬間でした。
こうした経験は他にもありました。月曜日の昼に開催される会議に間に合わせるために、日曜日に出社して準備をしていた業務をRPA化したときには、「これで二連休がとれるようになりました」と喜んでいただきました。また、前日の売上速報を取りまとめて送信する業務を自動化したときには、「早起きする必要がなくなりました」とお礼を言われました。ユーザーのペイン、つまり痛みや困りごとを直接解決し、誰かの人生の時間を生み出せるこれらの経験は、エンジニア冥利に尽きる出来事です。
そして2022年末からは、商品サービスグループのマネジャーとして、数百万SKU、つまり数百万種類もの商品に及ぶ小売業の心臓部をモダナイズするという、極めて難易度が高くインパクトの大きいミッションに挑むことになりました。具体的には、モノリスなCommerceCloud、つまり巨大な一枚岩のシステムからの脱却とヘッドレスコマース化、マーケットプレイス事業の拡大、そしてポケレジという店舗でのセルフスキャン決済を裏側で支える高速なカート計算API群の開発などを推進してきました。現場のユーザーの声を聞くことの大切さを学んだ初期のRPA経験は、こうした大規模プロジェクトのマネジメントにおいても、常に私の判断基準の根底にあり続けています。
「防波堤」となり、デリバリーと技術的挑戦の両立をめざす日々
私が事業部をまとめる上で最も大切にしているのは、「期限のあるデリバリー」と「技術的挑戦・スキル習得」の両立です。エンジニアが最も価値を生めるのは、クリエイティブな思考に時間を使える時だと信じています。そのため、外部からのノイズから開発者を守る「防波堤」になれるよう努めています。浮いた時間で、AIレビューの導入や新しいアーキテクチャのPoC(概念実証)など、期限がある中でも技術者としてワクワクする挑戦ができる環境を用意することを信条としています。
もちろん、この両立は簡単なことではありません。事業部をまとめる立場として、常に難しさを感じるのは、ビジネスサイドが求める「1日でも早く新サービスをリリースしたい」というスピード感と、エンジニアとしての「技術的負債を残さず、正しいアーキテクチャを組みたい」という理想のバランスを取ることです。「1ヶ月リリースが遅れたら、その分立てられたはずの売上を別で取る必要がある」という現場のリアルを受け止めつつ、私はこれからの時代の「丁度いいシステム」を目指すべきだと考えています。
具体的には、3つのポイントを重視しています。1つ目は「MVP(最速の価値提供)」と「2歩目の歩みやすさ」の共存です。2つ目は「いつか捨てること」を前提としたコンポーザブル(疎結合)な構造。そして3つ目は「技術の理想」より「ビジネスのリアル(ROI)」に寄り添うこと。つまり、変化を前提とし、完璧さよりも「ビジネスの機動力」と「明日への拡張性」を両立させた、しなやかなシステムです。これを事業部全体で見据えながら合意形成を進めていくことが一番大事であり、腕の見せ所、そして難しさを感じするところでもあります。
こうした取り組みを続けてきた結果、メンバー一人ひとりが、単に「仕様通りに作る」人から「事業会社のエンジニア」へと変貌を遂げた点に、確かな成長を感じています。AIを活用して自ら要件を整理し、将来のビジネス展開を見据えたアーキテクチャのビジョンを自分なりに描き、提案できるメンバーが確実に増えています。技術を手段として、いかにビジネスを勝たせるかを考え抜く集団へと成長していることを実感しています。
この仕事のやりがいは、私たちの書いたコード一行が、全国200以上の店舗のオペレーションを変え、何百万人ものお客様の購買体験をより良くしていくのをダイレクトに実感できることです。大規模な分散システムや最新のデジタル技術を駆使して、小売業というリアルの巨大な世界を「ハック」していく楽しさは、純粋なWebサービス企業では決して味わえない、この仕事ならではの醍醐味だと思っています。
「地域のプラットフォーム」への進化と、未来の基盤を創る仲間へのメッセージ
事業部として今後挑戦したいことは、「システムの外販化(プロダクト化)」です。カインズ一社に留まらず、私たちが構築したモダンな商品マスタ基盤を、グループ会社や外部企業も利用できる共通プラットフォームへと昇華させたいと考えています。同時に、AIドリブンな事業運営に向けたデータ整備、商品カタログのさらなる進化などを完遂し、真にコンポーザブルなアーキテクチャを完成させることが次の目標です。
私たちが目指すのは、単に「便利な店舗」「便利なECサイト」を作ることではありません。全国260以上の実店舗網を最大限に活かし、カインズのシステムを「地域のプラットフォーム」へと進化させることです。例えば、店舗を起点として1時間以内に商品が届くラストワンマイル配送の基盤などをシステムで実現し、デジタルの力で「くらしDIY」の文化を社会の隅々まで浸透させ、人々がより自分らしく過ごせる社会の土台を築きたいと考えています。
めざす姿としては、「変化を楽しみ、自らアーキテクチャを更新し続ける自律型組織」です。新しい技術が現れたら即座に試し、それがビジネスの価値に繋がるなら、たとえ苦労して作ったレガシーであっても恐れずに捨て去る。常に最先端を走り、技術とビジネスが高い次元で融合したエンジニア集団であり続けたいです。もちろん、レガシーシステムを作成した当時の人たちのリスペクトは忘れません。
私自身のキャリアビジョンとしては、5年後、10年後にカインズを「小売業のIT部門」から、「ITの力で小売り産業全体を牽引するテックカンパニー」へと進化させる中心人物でありたいです。さらに言えば、私たちが血と汗と涙の結晶として創り上げたモダンなシステム基盤を、カインズ社内にとどまらず、外部の企業へ「外販(プロダクト化)」していく事業にも挑戦したいです。SIerではなく、事業会社のエンジニアだからこそ作れるものがあります。豊富な商品に加え、リフォームや取り置きなど多様なサービスを展開するホームセンターだからこそ、商品カテゴリやグループにおける「汎用化」と「専門化」、あるいは「各システム独自に持つもの」の切り分けがシビアに求められます。そうした環境で、システムをオペレーションも含めた「全体」として捉え、テクノロジーで新しいビジネスそのものを創出できるエンジニア兼ビジネスリーダーが私の理想のキャリア像です。「仮想統合的」な考え方をキャリアにも取り入れ、周りから「色んなことをやってるけど、結局担当はなんなの?」と言われるような状態が続くのもアリかもしれませんね(笑)。
今後ジョインしてほしいのは、「自分たちの手で未来の基盤を創りたい」という気概のある方です。カインズのシステムが扱うのは、「食品用ラップ」などの日用品から、「10円のネジ1本」「軽トラサイズの巨大な木材」「医療用ペットフード」「チェーンソー」「トマトの苗」、果てはマーケットプレイスでは「コスプレ用メイド服」まで、まさに「ごった煮」のような膨大な商品群です。この複雑極まりないドメインモデルを整理し、全国に広がる店舗や物流網という「強力なリアルアセット」とデジタルをシームレスに融合させていくプロセスは、純粋なWebサービス企業では決して味わえない面白さがあります。
また、政府備蓄米の動向や中東情勢といったマクロな社会変化が、お客様のニーズを通じてダイレクトにビジネスやシステム要件に直結します。そうした社会のうねりの中で「お客様のために1円でも安く提供する」ためのアーキテクチャ・オペレーションを工夫して実装していくのは、リアルな手触り感があって、知的好奇心が刺激され、本当に面白いです。
さらに今は、まさに「AI過渡期」というまたとないフェーズです。カインズでもAIエージェントを開発プロセスに組み込んだり、生成AIを活用して膨大な商品データの整備を自動化したりと試行錯誤の真っ最中です。既存のやり方に縛られず、「どうAIを使い倒してビジネスと開発を加速させるか」、その正解を自分たちの手で創り上げていける最高に面白いタイミングでもあります。大規模トラフィック、複雑なドメインモデル、分散システムといったハードな課題に対し、チームで知恵を絞り、時にはみんなで泥臭くテクノロジーの力で解き明かしていくことに喜びを感じる方。ぜひ一緒に、日本のIT小売りをけん引し、日常から未来を変えていきましょう。
