AIとデータで変革を。需要予測と数理最適化でサプライチェーンを支えるチーム
私たちのチームは、主にカインズのサプライチェーンを支える「需要予測モデル」の構築とそのモデルの精度向上や、物流コストの最適化を目的とした車建発注、店舗間で偏在している在庫のリバランシングといった「数理最適化」を使ったソリューション開発に取り組んでいます。数理最適化とは、複数の条件や制約の中から最も効率的な解を数学的に導き出す手法のことです。また、ここ最近では現場の業務効率化のために「AIエージェント」を開発し、実業務への導入を進めています。
チームのミッションは、AI・データ活用による発注・在庫管理の高度化です。これまで属人的なExcelでの作業に頼っていた業務を、AIに最適化されたデータ基盤を構築することで、アジャイルなAIエージェント移行へと進めています。そして、単にツールを変えるだけでなく、組織文化の変革そのものを目指しているんです。
私自身は、需要予測アルゴリズムの高度化やデータ基盤、とくにGoogle Cloud等のアーキテクチャ設計をリードしつつ、全社横断的なAI活用プロジェクトにも参画し、現場へのAI展開を推進する役割を担っています。技術的な部分だけでなく、実際の現場でどう使われるかまで考えながら、チーム全体を前に進めていく立場ですね。
需要予測グループは私も含めて現在4名体制です。機械学習、数理最適化などに強みを持つスペシャリストが集まっていて、需要予測と数理最適化を軸に、AIエージェントを使って現場で使える仕組みまで作るチームとして動いています。最初は需要予測モデルを作ってその予測精度を上げることがタスクの中心でしたが、やればやるほど「データ基盤・運用設計・業務理解」が重要だと分かってきました。今は、機械学習、最適化、データエンジニアリング、業務オペレーションの理解を持ち寄って、チームとして価値を出せる形になってきています。
チームの雰囲気についてお話しすると、日々の朝会・夕会や週次定例を通じて、アルゴリズムの検証結果や技術的なディスカッションを活発かつフラットに行う、風通しの良い雰囲気です。朝会は月曜から木曜まで毎朝30分、金曜日は朝会をやらずに夕会をやっています。内容としては進捗共有や課題共有なのですが、最初にアイスブレイクというか雑談をするんです。ただ、チームメンバーはおそらくアイスブレイクが長すぎると思っていると思います。笑
この「風通しの良さ」をつくるためにも、「バグがあった」「検証をミスした」などは私自身も含めて普通にあり得ることなので、責めることはせず発生原因と対策、ユーザーにどのように伝えるかまで含めて次のアクションをどうするかを一緒に考えています。そうすることで「早く共有して早く修正する」という感覚がチーム全体に生まれつつあると思っています。失敗を恐れず、前向きに改善していけるチームであることが、私たちの強みですね。
試行錯誤の連続から信頼へ。需要予測プロジェクト5年目の歩み
カインズに入社したのは2020年2月のことでした。前職から考えるとデータ分析や機械学習は2012年くらいからやっていたのですが、カインズに入った時は、今の需要予測プロジェクトは影も形もなくて、別の仕事をやっていました。そこから状況が大きく動いたのは、2021年11月のことです。需要予測プロジェクトが始まるに当たって、機械学習プロジェクトをやったことがある人間が必要ということで、私がアサインされました。
その時の心境は、今でもよく覚えています。需要予測はあまりやったことがない領域だったので新しいことに挑戦できるというワクワク感と、プロジェクト規模としてもかなり大きなものだったので何とか形にしたいという責任感の両方を感じていました。背景にあったのは、カインズが抱える在庫管理の課題でした。大型店舗だと1店舗あたり約10万から12万SKU(Stock Keeping Unit、在庫管理上の最小単位)という膨大な商品を扱っているのですが、発注点の設定や在庫管理の多くを担当者の経験や手作業のExcel業務に依存していたんです。データの抽出や加工といった作業自体に多大な工数がかかり、本来行うべきデータ分析や業務改善に時間を割けない状態が続いていました。また、人手による一律の管理では精度にも限界があり、過剰在庫や欠品といった在庫の偏在も発生していました。こうした状況を解消するため、属人的なExcel業務から脱却し、AI技術を活用して数百万規模のSKUの需要予測と在庫最適化を自動で行う仕組みを構築することが、私たちのミッションでした。
プロジェクトに参加してからは、PB商品の需要予測モデルの構築や店舗にある商品の発注点コントロールのベースになる店別・単品別の需要予測モデルの構築、それからこれらのモデルを安定的かつ継続的に運用するシステム基盤の構築に取り組んできました。最近では需要予測に生成AIを組み合わせて発注点を計算するAIエージェントの開発や、店舗在庫の偏在を最適化するAIエージェントなどAgentic AIの開発・実装にも取り組んでいます。
需要予測プロジェクトが始まって現在5年目に入っていますが、正直に言うと、最初は予測精度が思ったように上がらず試行錯誤の連続でした。予測モデルの改善は試行錯誤の連続です。良かれと思って試した施策で逆に予測精度が悪化するというのは日常茶飯事でした。私たちはよく、「打席に立つ回数を増やす」という表現を使うのですが、仮説を立てて施策を試して結果を確認する回数を増やすしかありません。業務ユーザとの定例会の中での会話で得たヒントや日頃データを見て感じたことから施策を考えとにかく試す、ということを繰り返していました。
需要予測の精度改善には継続が必要なのですが、実はその継続が難しく一般的に言って需要予測プロジェクトはとても難易度の高いプロジェクトの一つです。ですが、ここまで継続してこられたのは業務ユーザの協力や会社のバックアップがあったからこそです。業務ユーザとの週1回の定例はリリース当初から今でもずっと続けていて、課題とそれに対する施策の検討を行い予測精度の継続的な改善プロセスを回し続けています。
また、得体の知れないモデルが出した需要予測をそのまま素直に使う人はおそらくいないと思います。「この商品の需要予測ってどうしてこの値になっているの?」「欠品もしくは過剰在庫が発生しているが予測は合っている?」などの質問は常にもらいます。モデルがどのように作られどのようなデータを使ってどのような精度向上施策が組み込まれているかを理解した上で、「それなら試しに使ってみようか」となるわけです。だから業務ユーザ向けに機械学習やAIの勉強会を何度もやっていますし、モデルの説明も繰り返し行っています。毎週行っている定例会では予測精度のチェックや精度向上施策の狙いなどをとにかく共有するようにしています。毎週やるのは正直かなり大変ですが、その継続したプロセスこそが業務ユーザの信頼につながっているのかなと感じています。
会社からのバックアップも大きかったです。もちろん成果があったからこそプロジェクトを継続するという意思決定してくれたのだと思いますが、それでも辛抱強く投資し続けてくれたということが一番ありがたかったです。
情報のオープン化とメンバーの得意領域を活かすチームづくり
マネジャーという立場ではありますが、マネジメントという言葉にはあまりピンときていないというのが正直なところです。管理しているという意識があまりないんです。むしろ私がやっているのは、各メンバーがタスクに集中できるように雑務を引き受けたり、追加で受けた案件でメンバーに振れそうもないものは自分で担当したり、業務ユーザに対するフォローをしたりすることです。それが課題なのかもしれませんが、こうしたスタイルで今のところチームは順調に機能しています。
チームをまとめる上で心がけているのは、情報を基本的にオープンにするということです。例えばちょっとしたお願いや確認以外は、タスクの進め方の相談は個別チャットではなくグループ全体のチャットでするようにしています。他の人がやっている仕事の内容もグループ全員が知っている状態にしたいですし、あとでチャットを検索するときにも楽なんです。こうした情報共有の透明性が、チーム全体の成長にもつながっていると感じています。
もうひとつ大事にしているのは、メンバーがモチベーション高く仕事に取り組めるように、本人の得意な領域や興味のあるタスクを担当してもらうようにすることです。そうすることで、メンバーひとりひとりが主体的に動けるようになってきています。
こうした取り組みの成果として、メンバーや組織の成長を実感する場面が増えてきました。新しいAI技術やツールを単に学ぶだけでなく、それらを積極的に利用して自ら手を動かして素早く実証実験、いわゆるPoC(Proof of Concept、概念実証)を行い、実際のシステムに組み込んでいくスピード感が圧倒的に早くなった点に成長を感じます。また業務ユーザとの継続的な対話により課題の理解を深めることができており、現場の課題をテクノロジーでどう解決するか、主体的に考え実行できるチームになってきていると感じます。
チームとして大きな成果を出せたと実感したのは、数理最適化を使った車建発注ソリューションの成果が認められ、社内報奨制度の「CAINZ of the Year」を受賞した時です。この案件は社内で誰も引き受け手がなかったシステム開発の案件だったのですが、話を聞いて「これなら自分たちでできる」と思ったのですぐに取り掛かって、3ヶ月くらいでリリースまで漕ぎ着けました。比較的少ない労力で大きな成果が出せたのが嬉しかったです。
このチームの仕事のやりがいは、カインズのサプライチェーンという、会社の心臓部をテクノロジーの力で根本から変革できるダイナミズムにあります。自分の作った予測モデルやAIエージェントが、数多くの本部メンバーや店舗メンバーの働き方を改善し、結果的にカインズへの利益貢献、つまり在庫の適正化と、お客様への価値提供、つまり欠品を防ぐことに直結している点に大きなやりがいを感じます。テクノロジーで現場の課題を解決し、それが会社全体とお客様に価値を届けられる。それこそが私たちの仕事の醍醐味なんです。
1年後の「業務遂行型エージェント」実現へ。新技術で小売の未来を変える挑戦
現在開発しているAIは、発注点を計算するAIエージェントや店舗在庫の偏在を適正化するエージェントなど「タスク遂行型」のAIエージェントが中心です。これらは特定の業務タスクを自動化するためのものですが、チームとして今後挑戦したいのは、それらを統合してより高度な判断や自動処理を行う「業務遂行型エージェント」へと進化させることです。
具体的には、個別の業務を遂行するタスク遂行型のエージェントを何個か作り、それを今度は部品として繋げて業務プロセス全体を担えるようなエージェントを作っていこうと考えています。個別のエージェント開発期間は2〜3ヶ月くらいなので、それらを繋ぎ合わせることで、1年後にはなんとか形にしたいと思っています。
ただし、業務遂行型エージェントを実現するためには、AI-Readyなデータ基盤の構築が不可欠です。私たちが現在注力しているサプライチェーンの領域だけでなく、人事や店舗ナレッジも含めた全社的なAI-Readyなデータ基盤の構築に挑戦したいと考えています。
このデータ基盤構築で最も大きな障壁となるのは、人間とAIの「理解のギャップ」です。人間がドキュメントやデータを作る場合、当たり前ですが人間が理解しやすいように作って保存してしまいます。ですがそれをAIが理解しやすいか、あるいは参照できるかというと全く違います。どういうドキュメントやデータだったらAIが理解しやすいのか、相手であるAIのことを理解し、AIが解釈しやすいデータや資料を作り、AIが参照できる場所に保存するということが一番大事です。ただそれをいうのは簡単ですが、実行するのはとても難しいことです。でもそこまで突き抜ければカインズはまた違ったステージに行けると私は思っています。
こうした取り組みを通じて、既存のレガシーな業務やExcel作業からメンバーを解放し、人にしかできないクリエイティブな仕事や新しい挑戦に時間を注げる環境を作りたいです。AI活用による「時間の創出」を通じて、個人の成長と企業の進化の好循環を実現し、カインズの成長に貢献したいと考えています。
組織としてめざしているのは、全員が当たり前のようにデータとAIを使いこなし、常に新しい技術を事業価値に変換できる組織です。テクノロジー部門だけでなく、ビジネス部門がシームレスに連携し、変わり続ける環境に最も速く適応できる組織が理想だと思っています。
そのためにも、新しい技術、AIやデータエンジニアリングなどに対する強い好奇心を持ちながらも、現場の泥臭い課題に向き合う熱意を持てる方にジョインしてほしいです。またカインズは小売業なので「買い物が大好きな方」のほうが向いていると思います。自分がお客さんだったらどういう店舗がいいか、どんな買い物体験が理想的か想像できる人のほうが良いアイデアは生まれやすいと思います。技術力だけでなく、小売の現場への愛着と顧客視点を持って、一緒にカインズの未来を作っていける仲間と出会えることを楽しみにしています。
