急変する金融環境に即応すべく約1年で人事制度改革を実施。新時代の人財戦略に向けて
横浜銀行では、2023年にグループ人財戦略を策定。「人づくり」「組織づくり」「環境づくり」を基本テーマとして、人的資本投資の強化に努めてきました。
また、人財戦略と同時に定められたグループ人財ポリシーでは、求める人財について、「地域社会・お客さまへの価値提供に強い誇りと自覚を持つとともに、常に変革マインドを持ち挑戦し続ける人財」と明記しています。
こうした人的資本経営を実現する上で不可欠なのが、「なりたい自分」に向けて挑戦・努力する行員を支援する人事制度です。そこで横浜銀行では、社会および経済環境の変化に対応するべく、2024年7月に人事制度の改定を実施しました。
前の人事制度改定から、わずか3年半。人事制度が改定された背景には、急速な社会環境の変化がありました。
「ジョブ型雇用導入企業の増加や、就業観の多様化、新卒採用における売り手市場の継続、初任給の引上げ、転職市場の活性化、そしてソリューション・カンパニーへの転換に向けて求められるスキルの高度化など、前回の人事制度改定以降、当行を取り巻く状況は目まぐるしく変化しています。
加えて、将来トップマネジメントを担うことが期待される就職氷河期世代の行員が不足しているなど、人員構成の課題もありました。人的資本経営の実現をめざす当行にとって、こうした状況への対応は急務です。スピード感を持って制度改定に取り組む必要がありました。
経営陣の強い危機感も制度改定を後押ししました。2023年4月に私が人財部長に就任した際、頭取から『1年以内に新たな人事制度を実装してほしい』と指示を受け、非常に驚いたのを覚えています。通常、制度改定は数年かけて取り組むものだからです。経営陣の覚悟あってこそ、短期間で制度改定が実現したと思っています」
一方で、横浜銀行内のニーズの高まりも顕著でした。
「前回の人事制度改定でも『脱年次』を掲げていたため、職務・職責に応じたメリハリのある処遇体系の本格運用を望む声が上がっていました。また、若手や中堅行員の中には、定期的な異動により専門性を高められないことを理由に退職するケースもあります。人財の流出を防ぐとともに、即戦力となる優秀な人財をキャリア採用で獲得するためにも、制度改定が急がれました」
人事制度は行員の処遇やキャリアパスに大きく影響を与えます。改定に当たっては、慎重にプロセスを踏む必要がありました。
「『制度が変わります』とただ伝えるだけではなく、人事制度改定のポイントをまとめたコンセプトブックを作成し、全行員へ配布しました。さらに、人事制度改定の3カ月前には経営陣と人財部が一緒に各営業店・本部を巡回し、丁寧にコミュニケーションを重ねながら制度の趣旨や改定のポイントなどについて説明を行いました」
若手の挑戦意欲を支援し、専門性に価値を。新たな人事制度でめざす人財力改革
新人事制度は、脱年功的な運用・実力主義の徹底や、複線型のキャリアパスの実現をめざしています。
「今回の改定は、『従業員一人ひとりの成長意欲・挑戦意欲の向上』『新卒採用および若手層を中心としたリテンションの強化』『専門人財の確保・育成の強化』の3つを目的としています。前の人事制度でめざした、『年功的・属人的ではなく実力主義の人事制度の実現』『職務・職責に応じたメリハリのある処遇体系の実現』『就業観の多様化に対応する複線型のキャリアパスの実現』をさらに推し進めるものです。
主な改定内容は、『資格のフラット化』『仕事基準の給与体系へのシフト』『専門スタイルの導入』の3つです。『資格のフラット化』については、5階層あった資格を統合して3階層にしました。年次によらず早期にトップマネジメントのポストに登用されやすい仕組みにすることで、成長意欲や挑戦意欲をかき立てる狙いがあります。
また、一般担当者層を統合し、課長代理に次ぐ新しい職位として『チーフ』を設けましたが、若手層から職務遂行能力に応じたメリハリのある運用を実現することが狙いです。『資格のフラット化』により年功的な運用から脱却し、実力主義の運用を徹底していきたいと思います。
『仕事基準の給与体系へのシフト』については、課長級以上については、属人的な要素であった資格手当を廃止し、職務や職責に応じて処遇が決まる給与体系としました。ただし、一般担当者層と課長代理級に関しては、職務遂行能力の向上を促進する目的で、あえて資格手当を残したハイブリッド型の給与体系としています。
『専門スタイルの導入』については、ゼネラリストとスペシャリスト双方のキャリア志向に対応するため、複線型のキャリアパスを導入しました。『ゼネラルスタイル』が異動によって幅広い経験を積みながら、マネジメント職など難易度の高い職責をめざす従来型のスタイルであるのに対し、『専門スタイル』は特定分野で専門性を追求するスタイルです。
『専門スタイル』は、市場分野、国際分野など9つの分野が設定されており、分野ごとのスキル要件、経験要件、公的資格要件を満たすことでスペシャリストとして認定されます。上級スペシャリストは支店長や部長と同水準、あるいはそれ以上の処遇を受けることも可能です。
また、原則として認定分野以外への異動がないキャリア保証が特徴の一つではありますが、認定要件を充足していないと判断されれば、認定が取り消されることもあります。『専門スタイル』は、認定されることがゴールではなく、継続的なスキル向上が求められます。マーケットバリューや持続的な企業価値向上への貢献度などを基準とした、非常にハードルの高い制度だと考えています」
「なりたい自分」への道筋。キャリアオーナーシップが導く銀行の来たるべき未来
横浜銀行では、現在もスペシャリストとして活躍している専門人財が少なくありません。専門スタイルの導入には、多様なキャリアパスが実現可能であることを可視化する狙いもありました。
「制度改定以前から、当行では公募制度を通じて政府系金融機関などの金融機関やPEファンド、行政機関、中央省庁のほか、MBA取得のための人財派遣を行ってきました。
また、2023年からは新たにフリーエージェント制度(通称:FA制度)を開始し、『IT・デジタル』『市場・国際』『コンサルティング』『リスク管理』『監査』の5分野において所定の要件を満たしたハイスキル保有者やハイパフォーマーに対し、キャリア実現の機会も提供しています。
実際にこの制度を利用して営業店からIT部門に転属した行員や、中小企業診断士や不動産関連の資格を取得して活躍している行員もいます」
こうした横浜銀行の人事制度の根底にあるのが、キャリアオーナーシップの考え方です。
「当行では、一人ひとりが自らのキャリアを主体的に考え、自律的にキャリアデザインを描き、行動する風土の醸成をめざす『キャリアオーナーシップの浸透』を推進してきました。今回の制度改定ではこの姿勢をより明確化し、現在のポジションでベストを尽くした上で、希望するポストに就くための努力をすることがキャリア実現の前提であることを行員に伝えています。それぞれの『なりたい自分』の実現に向けて、一人ひとりの成長意欲に応えるフィールド・機会を積極的に提供していくつもりです。
そのためには、上司が部下のキャリアデザインを適切に把握し、サポートしていくことが重要です。当行では、上司に対してマネジメントおよびコーチング研修を実施するとともに、月1回程度行う上司と部下の1on1ミーティングなどを通じて部下の挑戦を後押ししています。
また、これと並行して、さまざまなロールモデルを知りたいという行員のニーズに応えるために、talentbookや行内向け資料を活用した情報発信も進めています」
2021年に人事制度が見直されてから約3年半が経過。横浜銀行内ではキャリアオーナーシップへの意識が高まり、自律的なキャリア開発への気運が高まっています。
「前回の人事制度の改定によって、意欲のある行員にとって非常に働きがいのある環境が整ってきていると感じています。たとえば、外部資格取得時の支援金を増額するだけでなく、取得前から受講料や教材費用を補助するなど、自己啓発支援施策を拡充したことで、各種資格試験の取得者が大幅に増加しました。
当行は目に見えるモノを売っている企業ではないため、一人ひとりの知識やスキル、さらには人間力そのものが商品です。伝統的な銀行から脱却しソリューション・カンパニーとなるために、自己啓発支援制度や資格取得支援制度、キャリア・イノベーション支援制度などを通じて、社外でも通用する高いマーケットバリューを備えた人財を育成していきたいと考えています」
人財部が描く人財戦略の未来図
制度改定は始まりにすぎません。横浜銀行の人財戦略の真価が問われるのはこれからです。
「制度はあくまでフレームです。改定してすぐに実力主義が浸透したり専門人財が生まれたりするわけではありません。人財部としては、制度の趣旨にもとづいた運用を徹底していく必要があります。
今回、人事制度とあわせて人財評価体系も再構築しました。最初の1年では、評価者トレーニングに取り組む予定です。行員のモチベーションを高めるためには、納得感のある公正な評価が欠かせません。そのためには、豊富なケーススタディによるトレーニングを通じて、評価者一人ひとりが人財評価体系を正しく理解し、適切に評価できるようにし、新制度を定着させるための土台づくりをしたいと思っています。
また、各行員には高い成長意欲と挑戦意欲を持ち、現在のポジションでベストを尽くしながらさまざまな経験を積むこと、そしてめざすキャリアの実現に向けて自身を磨き続けることが求められます。“横浜銀行”という舞台でキャリア実現ができるよう、各行員には挑戦と努力を続けてほしいと考えています」
これからの組織づくりに必要なのが、新しい仲間です。採用の現場でも、新たな取り組みが始まっています。
「グループ人財ポリシーに明記している通り、私たちは『地域社会・お客さまへの価値提供に強い誇りと自覚を持つとともに、常に変革マインドを持ち挑戦し続ける人財』を求めています。
現在、当行では新卒・キャリア採用を強化しており、新卒採用ではいっそう多様な人財の採用に向け、学業・スポーツに限定しないあらゆる分野で秀でた能力を持つ人財を採用する『Talent+採用』を今回初めて導入しました。エントリーシートではなく自己PR動画を提出してもらい、審査を通過すれば最終面接に進むという画期的な選考フローが特徴です。通常の採用とは異なる、個性的なメンバーが集まりました。
また、アルムナイ採用を含めキャリア採用も年間通じて積極的に行っています。これらの取り組みを通じて、多様な人財がいきいきと活躍できる組織づくりを進めています。
環境が大きく変化している中で転換期を迎える当行にとって、人財戦略の実践を担う人財部には非常に重要な役割が期待されています。ソリューション・カンパニーの実現を先導する意識を持って、変革にチャレンジしていきたいと考えています」
※ 記載内容は2024年7月時点のものです
