長時間働くことが「美徳」という変えるべき企業風土
回転寿司チェーンの銚子丸は、“店舗は劇場、スタッフは劇団員、お客様は観衆”と称して、「銚子丸劇場」というグルメ回転寿司を創り上げ、成長してきました。
しかし、お客様に喜んでいただくための想いは、いつしか“朝早くから夜遅くまで、長時間働くことが美徳”となる企業文化を創り出していました。その結果、労働基準監督署から労働時間が問題視され、指導を受けることになります。
堀地 「当時は長く働けば売上がアップすると信じていましたし、労働時間が減れば売上も減ると考えていたので、社内でも長時間働く人を“働き者"と評価する風土がありました。
しかし、そのことで店長の業務負担は大きくなり、他の仕事も属人化が止まらず、長時間労働でみんなが疲弊していました。せっかく新人が入って来ても、教える側の社員が忙しくて教育まで手が回らず、その結果すぐに辞めてしまう、という状態でした。
このまま離職者が増えれば、残る社員の労働時間はますます増えて負のスパイラルに陥る。そこに劇団員の幸せはまったくないと思ったのです」
そこで2016年に創業者が亡くなった後、その精神を受け継ぎながらも「新生銚子丸」を掲げ、銚子丸はいくつかの施策を打ち出し、中でも特に力を入れて取り組んだのが「働き方改革」でした。
「会社を変えたい」という経営陣の熱意。愚直に取り組んださまざまな施策
社内で様々な議論を行い、銚子丸が進めていく「働き方改革の実現に向けて」取り組んだのは7つの施策でした。
1.経営陣の意識改革 2.本部勤怠管理チームの発足 3.店舗営業時間の短縮 4.繁忙期後の店舗休業日の導入 5.給与体系の改定 6.会議と研修をすべてオンライン化 7.ボトムアップ型ミーティングの導入
堀地 「1つ目の経営陣の意識改革の施策の一環として、まずは“仕事の見える化”、時間の見える化を進めていきました。具体的にはスケジュールアプリを導入して朝に自分の1日の行動予定(業務内容)を入力し、本部スタッフとも共有し業務の終わりに1日の行動を振り返るものです。
経営陣が自分の仕事を隠すことなくみんなに公開することで、働き方改革の本気度を見せていきました。同時に業務効率や時間の使い方の改善を進めていき、徐々に本部社員へも浸透していきました。また社長も1日の行動予定を公開しています」
2つ目の施策である本部勤怠管理チームの発足では、店舗スタッフが予定通りのシフトで働けているか、休日が予定通り取れているか、休憩が規定通りに取れているか、有給休暇は計画通りに取れているかなど、個人ごとの労務管理を毎日繰り返し勤怠チームが確認していきました。
不備があれば現場のスタッフに改善を促していくことで、店舗もしっかりとした労働時間の管理できるようになり、同時に有給休暇取得率も大幅にアップしました。
堀地 「3つ目の施策は、店舗の営業時間を22時閉店から21時閉店に短縮したことでした。さらに、4つ目の施策として、年末年始やゴールデンウィークなどの繁忙期明けは、『劇団員ファミリーホリデー』と称して2日連続の店休日を設けています。こうすることで、気兼ねなく社員が休暇を取れるよう配慮しました。
それまでは店を休むと売上が減ると考え、銚子丸は年中無休でしたが、代わりに週末の集客が増えて影響は少ないものでした。結果、休暇を取ることで社員もリフレッシュできて笑顔が増え、お客様へのサービスも向上するという良い効果を生みました。そして離職率も減ってきたのです」
5つ目の給与体系の改定では、固定時間外手当を70時間相当から45時間相当に減らしても給与の支給総額は変えないことで、基本給の大幅UPを実現し、優秀な新卒が集まる会社になりました。
堀地 「6つ目の施策として2020年から本格化したコロナ禍を機に、すべての研修と会議をオンライン化しました。それにより店長らの時間を奪っていた長距離移動がなくなり、それが店舗の人員不足につながっていたこと、シフトが組みづらかったこと、生産性を下げていたことに気付きましたね。
また、今まで10名限定で開催していた寿司の技術研修もライブ配信に切り替え、一度で50名近い方が参加できています。魚もオンライン買い付けを導入しています」
そして、7つ目の施策であるボトムアップ型店舗ミーティングの導入は、施策の中でもより大きな影響を生み出しました。
ありたい姿への実現に向け、みんなで決める「ボトムアップ型提案」を導入
当初、経営陣が働き方を変えようと言っても、現場からは「口で言うのは簡単ですよね」といった声があがっていました。
そこで堀地やおもてなし部の三浦 正嗣などが実際に店舗に行き、社員やパートたちと一緒になってミーティングに参加し、付箋ワークを通じてコミュニケーションを図りながら、現場における働き方の改善に向けて距離を縮めていったのです。
こうしたことが、7つ目の施策であるボトムアップ型のミーティングにつながります。
三浦 「やはり常務取締役の堀地が店舗のミーティングに参加し、店舗スタッフと正面を向いて現場の意見をしっかりと聞く姿勢をもてたことが良かったと考えています。
例えば『休みが取れない』という意見があると、すぐに本部に持ち帰って『来月に店休日を作ったから』と、あがってきた声にもスピード感のあるフィードバックを繰り返しました。そうやっていくことで信頼関係を現場と築くことができました」
今までのミーティングは、店長をはじめ上の意見が通りやすい面がありましたが、パートも含めてみんなで意見を出すことで、アイデアも多く生み出されたと堀地はいいます。
堀地 「そこで気付いたことはたくさんありました。付箋ワークによって、現場から良いアイデアがたくさん出せたことも画期的でした。そして普段あまり話さない人の方が、とても的を射た意見を書いていて、『この人は普段こんなことを考えていたのか』と驚いたこともありましたね」
ある店舗では、スキルマップシートで個人のスキルを見える化したことで、パートがお寿司の握り方を覚えたり、「この仕事を覚えたい」という声が本人からあがったりと、オールマイティに仕事ができる人が増えていくことで、属人化の解消にも成功しました。
社員がモチベーションを上げ、働きながら幸せになる会社を目指して
経営陣が本気になって社員に寄り添い、現場の意見を尊重したボトムアップ型の施策により、銚子丸の「働き方改革」は大きく前進したと三浦は実感しています。
三浦 「経営陣である堀地が男性育児休暇を率先して取得したことで、男性の育児休暇取得が進みましたし、以前では考えられなかった、店長が土日に休むこともカバーできる体制になっています。経営陣が本気になり旗振り役となったことで、銚子丸は一歩前に進めたと実感しています。
何より劇団員自らが手を挙げ、彼らから『次はこんな仕事を覚えたい』『教わりたい』という声を聞けたのが本当に嬉しかったです。今は社員に“長時間働くことが美徳”の意識はもうありません」
家庭行事を理由に休暇を取りやすくなったことは、社員の家族の喜びにもつながりました。社員同士で子どもが生まれたことや育児休暇の話を職場でする機会が増え、また私生活を大切にする単身者も増えました。
社員からは「今の働く環境は誇れるものだ」といった声があがるなど、銚子丸が目指す“劇団員を幸せにする”という目標に確実に近づいています。
働いている人が幸せであること、そして「親が銚子丸で働いていたから私も働きたい」と言ってもらえる会社になること。そんな親子三代で働きたい会社、そして地元で永く愛される会社を目指して、銚子丸はこれからも改革を進めていきます。

