自分の人生に期待していない無気力な子供が増えているという現状

▲自立支援プログラムで授業の様子

ANOTHER TEACHERプロジェクトは、2015年から東京都教育委員会が行っている自立支援プログラムの一環で、定時制高校などで講演会を実施した小澤が抱いた使命感から生まれました。

それは小澤が登壇した2017年。生徒からの声がきっかけでした。

小澤 「講演会ではサラリーマンの人生での失敗経験を伝えました。こんな失敗恥ずかしいと思うような話ですが、聞いてくれた生徒から『明日から頑張ろうと思えました』『元気をもらえました』という嬉しい感想をいただきました。一方で、『今日の話を聞くまで、自分の人生なんてつまらないものだと思っていました』といった、成功体験がないこと=つまらない人生と思い込み、自身の人生に楽しみを見出せていないと思われる衝撃的な感想文がありました。

生徒たちが、働いている素敵な大人と接する機会が増えれば、人生を前向きに捉える生徒が増えると思い、生徒・学校の先生・働くすべての大人をつなぐことが自分の使命だと感じました」

プロジェクト開始後には、学校への講演会で出会った先生から学校の現状を聞くこともありました。

2019年に学習指導要領が変更され、生徒が自ら課題を設定し、解決に向けた取り組みを自身で行なったり、周囲と共同しながら進める探究学習の時間が導入されました。

探究学習は、担任の先生に一任されているケースが多く『何から手をつければいいのかわからない』という悩みをお持ちでした。また、通常の授業だけでなく、事務処理や部活の対応などによって、労働時間が超過傾向にあり、早急な働き方改革も必要とされる状況でした。

多田 「学校の先生の代わりに、働く大人が“せんせい”になることで、先生が抱える課題解決も自分自身がやりたいことが実現できるのではないかと考えました。しかし、実際は働く大人(=部外者)が当たり前のように学校に出入りできるという仕組みはなく、外部の人財が入り込むのはハードルが高いことがわかりました。

その他にも、SNSの普及によって、発言内容によってはメディアで批判を受ける可能性もあることから、先生と生徒は本音でぶつかり合う関係性を構築しづらい状況にあることがわかりました」

生徒だけでなく、学校の先生も支えることができる──それがANOTHER TEACHERなのです。

生徒と働く大人が当たり前に関われる環境づくり

▲にっぽん総先生化Projectキックオフ

このプロジェクトを思いついた2018年当初は、たくさんの大人を集めて、学校現場に送り出すことで解決すると思っていました。

2018年12月には「日本人全員を“せんせい”にする」ということを決意し、Facebookで「にっぽん総先生化Projectメンバー募集」という投稿をしました。この投稿は、驚くべきことにたくさんの反応・シェアがあり、2019年1月に実施したキックオフイベントでは100名のメンバーが集まりました。

多田 「当時は小澤が思い立ったように投稿してはじまったので、日本人全員を“せんせい”にする道筋が立っておらず、キックオフイベントでは『何がしたいかわからない』『KPIを明確にすべきだ』とご指摘をいただき、大荒れで終わったのは今では笑い話です」

その後、メンバーと議論を重ね2019年10月に「リーマン母校に帰る〜地方高校に1000人のサラリーマンを〜」というタイトルでクラウドファンディングにチャレンジしました。このクラウドファンディングでは、社会人が自身の母校で出張授業をするための、交通費の支援を募りました。

小澤 「“せんせい”をしたい人もいるし、目標金額達成できるだろうと思っていましたが、クラウドファンディング終了まで残り11日のところで、目標金額の達成率は30%を少し越えたところ。この時点で、30%前後だと、達成が極めて厳しくなると聞いていたので、とても焦り、いろいろな方に支援や、シェアのご協力をお願いしました」

その結果、クラウドファンディングは無事に目標金額を達成し、たくさんの“せんせい”に中学校・高等学校で出張授業を実施いただけました。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、リアルでの出張授業ができなくなり、その後はオンライン授業に切り替えて活動を続けていました。

多田 「オンラインで授業をするようになり、『活動自体このままでいいのか?』『学校現場で多数の大人が出張授業をするだけでは、大人側の自己満足で終わるのではないか?』という疑問が浮上しました」

小澤 「その疑問をうまく解消できずに、コアメンバーの15人が次々にプロジェクトから離れていきました。自身のリーダーとしての器の未熟さに悩み、とても辛かったです」


メンバーの離脱からの再始動!長期間の探究学習での生徒の変化

▲ANOTHER TEACHER スペシャル授業の様子

プロジェクトはコアメンバーが離れていった状況でしたが、BSフジから活動を取材したいというオファーがあり、テレビ出演を果たしました。テレビ出演をきっかけに、視聴者の方から「自身の勤める私立高校で、探究学習の授業を受け持ってほしい」という依頼を受けました。

多田 「今までの活動では、単発のイベントの繰り返しで、継続することによって生まれる変化などがわかりにくいものでした。しかし、今回ご依頼をいただいて、長期的に生徒と関わるプログラムをつくり、活動自体も長期プログラムをメインにすることにしました」

このプログラムでは「ANOTHER TEACHER スペシャル授業」として、2021年3月から4カ月間、毎週土曜日に合計50コマの授業を実施しました。授業では「天才を見つけるワークショップ」「意識が変われば世界が変わる」「理論と感情を使いこなす」「クラスの仲間と本気で向かい合うための心構え」など、マインドセットの部分を中心にプログラムを構成しました。

多田 「それぞれの授業は、リアルとオンラインの実施を織り交ぜながら、大学生・大学教授・専業主婦・起業家などさまざまな“せんせい”に登壇いただき、本気で生徒と向き合うことができました。

授業を始めた初期は生徒たちは自分自身の強みに気づいておらず、自己肯定感が高い状態ではありませんでした。また、度重なる緊急事態宣言により、オンライン学習が続き生徒同士の信頼関係も築けていない状態でした。

しかし、プログラムを通して、生徒たちが自分では気づいてない強みを他の生徒に見つけてもらうことで、自己肯定感を取り戻すのと同時に、クラスメイトが自分のことをしっかり見てくれているということに気づくことができたようです」

その結果、「学校生活を楽しむ様子が見られるようになった」、「不登校だった生徒が『自分もクラスメイトが大好きになりました!』と言ってくれたり、第一志望を目指す勇気が出なかった生徒が『思い切って〇〇大学にいきます!』と自信を持って発言してくれたりするようになった」という声が先生方からも届いています。

生徒の変化を感じた学校からは、次年度も継続しての依頼を受けています。

高いハードルを越えてでも、会いたいと思える魅力溢れる“せんせい”集め

▲ANOTHER TEACHERの理念

2018年からの活動を振り返り、改めて「日本人全員を“せんせい”にする」活動を続けていきたいと小澤は語ります。

小澤 「活動を続けていると、『教育にはとても興味がありますが、私なんかに何が教えられるのでしょうか?思いつきません』とご相談を受けることが、よくあります。私たちが目指す“せんせい”は、何かを教えるのではなく、『その人にしか語れない、歩んできた人生や物語を自分の言葉で相手のことを想って伝えること』が、大事な教育のアプローチだと考えています。

“せんせい”になるために必要なのは、教員免許や知識、特別なテクニックではありません。全ての人が先天的に持っているその人にしかない才能(天才性)を自覚し、それを使って実際にさまざまな挑戦(失敗と成功)をして、その人の生き様を伝える人を“せんせい”としています」

これまでの活動の中で、500名以上の“せんせい”に出張授業をしていただきました。出張授業の前には、“せんせい”として教育現場に立つための心構えや準備をお伝えしていましたが、中でも大事にしていたのが“AITAI(相対・会いたい)力”を育むことです。

多田 「AITAI力とは、“相対”と“会いたい”と言う言葉を組み合わせた造語です。“相対”には、自分自身、相手と相対する(向き合う)力、“会いたい”は、ハードルがあったとしても、あの人に会いたいと思わせる魅力を指しています」

現状では、働く大人の“せんせい”が、単発の授業ではなく長期間に渡り学校現場に入るのはたくさんの高いハードルがあります。そこで、高いハードルを越えるためには、そのハードルを越えてでも来てほしいと思ってもらえる“AITAI力を持つせんせい”が必要だと気づきました。

これからは、AITAI力を持っているたくさんの大人を集めるとともに、AITAI力を身につけることができる機会を提供していきます。そこでAITAI力を身につけた大人が、出張授業ではなく、学校外の担任として子どもと本気で関わる・向き合う機会を創出していきます。